シンシア

シンシア -9p-

 そのせいか知らず知らずに癒される香りと『キャン ユー セレブレート』のオルゴールに心と体が踊らされて行く。
 目に止まったステンドグラスやパイプオルガンに好奇心を持ち、誘われ、足を運ばされた。

 目の前に遠近法で可愛い教会の絵が描かれていた。 可奈は、ビックリして立ち止まっていた。
 行き成り後方で ガーと音がして振り向く。

 そこには、サクラダ・ファミリアと水芭蕉を足して二で割ったような未来的な可愛い教会の絵がコンクリートの床に描かれていて、間近で見ようと恐る恐る近付き二メートル程の絵の正面に立った。
 そして食い入るように見ていた。

 コンクリートに描かれた教会の絵が、前後左右高低にゆっくりと動き出し、クラシック風の未来型化粧台に立体化し出した。
 鏡に写る自分、丸みのおびた造り、数々の化粧品。
 座椅子に座り、口紅、マスカラ、ビューラー、パウダーやチークブラシ、パフを手馴れたように使っていった。 自分に陶酔する。

 しかし、床が後ろに動いていた。
 ナイフを内に備えた処刑台に。
 鏡に「綺麗な花には、トゲが似合う。  あれ、言葉違ったっけ。  アーハハッ、後ろ危ないわよ」
 可奈が振り向くと同時に扉が閉まった。

 静かにゆっくりと地中深く下がって行く。
 唖然。 しかし、彼女は、刺されなかった。 なぜならナイフは、紙で出来ていたからだった。
 優雅な棺桶の壁面が下がる。
 幾重にも重なった死人が可奈を見ていた。

 デジタルの数字がカウントダウンされる。
「六分間後に棺桶は、崩壊します」

 機械的アナウンスがされる。
 ギーギー、爪の引っ掻く音が耳にさわる。
「キャー、ア〜ア〜ッ・・・!?」
 可奈が一人 もう誰も居なかった。 孤独感、恐怖感、出来る事は、泣き叫び続けるしかなかった。

『五体満足』で今どきの『他人を見下す若者』 その典型的に合うのが荒波多 慶吾(あらはた けいご) 二十二歳だった。
 殺気を感じ取り、自己防衛の為に五十センチ弱の鉄パイプを持って歩いていた。

 そして慶吾は、ネオンが点滅しているドアの前に立っていた。
『メンタル クリニック』と書いてあった。 『中へ  どうぞ』と字が換わって中に入って行った。

 多種多様な機械があるように見受けられたが、カーテンで全ては、見えなかった。
 仕切られて道を歩いて中央に行った。
 床に五センチ位の除雪車のミニカーが落ちていた。 周りを見る。

「何だ何だ〜、いい機械ばかり多くても使える人がいないじゃ役立ずのスクラップだぜっ。
 ましてや可愛い看護婦さん一人もいないじゃ、病院の肩書きを持つ意味がないよっ、フッ」
そう吐き捨て、除雪車を強く蹴りつけた。
「挨拶一つも無しかよっ。  これじゃ、患者も来ないわっ」
 遠くでミニカーの壊れるカランコロン、カランコロン〜という音と、
「当ったり〜!?」という女性の声がする。

 カーテンや医療機器は、ホログラフィーみたいにスーと一瞬にして消え、ガーという音と共に数百!?数千!?という逆さの除雪車のミニカーが逆ピラミッド型を形成して下りて来た。

 カブト虫風の手に服やジーパンを引っ掛けられる。「おいおいっ、うわっ」
 鉄パイプを振り回して逆ピラミッド型の除雪車のバケモノを、わずかながら壊して入り口側に逃げる。
「俺は、周りの奴らと違うんだ、程度の低いお前らに負ける訳がない。 フッ」
 鼻で笑った瞬間に全てが消え、壁が右回りに床が左回りに

シンシア -10p-

ゆっくりと動き始めた。

 次第に耳の三半規管に異常が起こり、床が凹凸し始める。
「うわっ」 目が疲れ、痛く成り、吐き気を催す。
「口ほどでもないね〜、見えない恐怖は、い・か・が」
見えない悪魔が、高い声と低い声の二重奏で話し掛けてきた。
そして、 強制的に目が閉じられた。
 ボォーボォーボォー。 サラサラザラザラ、ブツブツブツー。
 左右から半分ずつ炎と腐食が起こり、慶吾を急襲した。
「うわっ、何だなんだ!?」
 バリバリバリ、バッシャーン。
 魔物の圧力で窓ごと壁ごと十階の外へ放り投げ出された。

 爆風で外に投げ出された慶吾は、目が元に戻っていてニースリーの十階の窓と壁を見ていた。 (何も壊れてない!?) キツネにつままれた様子だった。

 落ちていく、空に向かって・・・・・・。  宇宙飛行士みたいに中空を浮いていく。
 屋上が見えた。 次第に遠のいていく。 空を向いて止まった。
「あなた凄いね。 飛べるんだ〜・・・・・・でも正直にお話するけど貴方は、間違っている。 人間の重力は、逆だよ。 また私、強い人好きだけど・・・・・・横暴過ぎるのはね〜。 目を覚ましなよ。 まだ、やり直しがきくからさ〜、夢は、叶えるもんだよ、バアバ〜イ」
横に突然 目鼻だちの整った美女が現れて言った。  ほほにチュッとキスをして手を振る。

 「うわっ!?・・・・・・ア~アッ!!」
 急加速で下に落ちて行った。
 そして二階のポテトマッシャーに落ちた。
 バン・バ〜ン、バッシャッ、シ・ャ・ー・ン・・・・・・。
 ニースリーの周りの人達に豪雨と赤い雨が勢いよく降り掛かり襲った。
「うっわ〜っ!?・・・」
 大勢の人が、頭を下げ、身を縮めた。


 二人は、見た目 仲良し姉妹モデル!?とは、裏腹に仲が悪かった。

 明るい 化粧品売り場のブランド品の香水やジュエリーを手に取り、吹き掛けたり、身につけたりして楽しんでいた。

「あら、さすがモテモテモデルねっ、 ゆり やる〜」
 姉の早苗が妹に言った。
「そういうお姉さんこそっ、とてもゴージャスでいい香りがしますわよっ。 ホホホッ」 と妹のゆりが姉の早苗に言った。

 正直言って妹のゆりの方が、可愛く性格が良く人気があった。
 姉は、性根が腐ってしまっていた。
 京宝早苗は、妹のゆりの両肩に左右の手を乗せて笑顔で言った。

「可愛いゆりばかりモテて卑怯よ〜フェロモン放出中って感じ〜」
「お姉さんには、劣るわ・・・・・・」
「黙って人の話を聞きなさい。 私にそのフェロモン頂戴。 貴方には、煩悩をあげるから。  人を簡単に信じちゃ〜ダメよ。 裏切るのもね〜、どうかと・・・・・・!?」

魂一つと美を一つを交換する血判契約を悪魔としていたのだった。
 右腕を伸ばし、カットバンを付けた人差し指でゆりに向かって” COME ON” と早苗がしぐさをした。

 ゆりの顔、服、スカート、腕、手、足に細かい線が入り、ジグソーパズルみたいにワンピースずつ蝶ねように離れ、ヒラヒラと飛んで行った。

 早苗も同じに成っていた。
 四方八方に飛び交い部屋内は、春爛漫といった感じに成っていた。
 新種のフランケンシュタイン風にも見えていた。
 周りの美しさに呆気に取られる二人。

 やがて早苗は、完成した。
 目を見開くゆり、何故ならば目の前には、見慣れた自分の顔があったからだった。
 ふと思い、ゆりも顔を下げ、自分の両手を見た。

(これは、悪夢よね。 悪い夢を見ているのよね!?)
 あまりの突然の事で訳が判らなく成っていた。
 腐った赤黒い肉片が蝶のように凹凸の呼吸を繰り返していた。

シンシア -11p-

 指を指して笑う早苗。
「キャーァァァー」
 前屈みに成って驚愕する。

「貴方は、邪魔なのよ・・・・・・!?」
 ドアが開き六階の二人の部屋に人が入って来た。  ゆり(早苗)が、「キャー、化け物が〜助けて〜」
 指は、ゆりに向かって指していた。
 四人のSWATは、続けざまに部屋に入って来て怪物を見た。

 腐った肉片に姿を変える。  そして、何かつかもうとしている赤や緑の腐った手と、紫色の唇に尖った歯が噛みつこうとしている口のバケモノが、異空間から多く出て来て四人に襲い掛かった。

 ゆり自身は、全身血管や内臓まる見え姿のバケモノだった。
「撃てぇ〜っ」
 反射的に声を出した。
(違うよ!? ゆりよっ、助けてぇ〜)
 しかし、実際は、みんなには、こう聞こえていた。
「ガゥゥゥ、ウガガガァ〜」
 (えっ!?)

 ダダダダッ・・・・・・至近距離で何百ともいえる弾がゆりを襲った。
 前進姿勢ながらも、確実に当てられて後退していた。
 窓を突き破り、ガラスの全面が粉々に成って行き、飛散され、外に押し飛ばされて行った。 手や足を中空でバタつかせる。

 限られた寿命のゆりは、化け物のまま、夢を見ていた。 ジュエリーの光の中に居て下に落ちて行く。
 体の痛さなど全く感じて無かった。
 しかし、急に記憶が蘇る。

「ガゥゥゥ〜、ウガガガガ〜、キャァァァー、た・す・け・て〜!?」
 また二階の透明なポテトマッシャーに落ちた。
 バンッ・・・バッシャ・シャ・シ・ャシャ・シャシゃ・・・・・・ン・・・・・・。
 たった三秒間の中だった。

 フロントガラスが割れたような!?天井の紅いステンドグラスがそこにあった。
 SWAT隊長 千堂 武史等 周りの人達は、二回目の音で上を見て止まった。

 超超スローモーションで赤い血の雫が落ちる。
 超スローモーションで二滴目が落ちる。
 スローモーションで三滴目が落ちた。

 その間 みんな死神に首を絞められたり、瞬時に切断されたり、心臓を刺されたりしていた。
 バ・ッ・シ・ャ・ー・ン、ザッ・ー・・・ザー~・・・・・・。

  紅い天井のステンドグラスが再びみんなを襲い、降り掛かる。
  ビルの周りの少し離れた場所だけ、輪の波紋が広がるようにして悪魔や死神がランダムに住み着き始めた。
  獲物を捕獲してゆく。

  大勢の人々が六階付近で銃の閃光を確認していた。  しかし、実は、腐死人が花火をしていた。
  導火線に火をつける。
  シュー、シュポン。
「ウッホォー、ホホホッ。  火遊びは、程々に、エーヘヘッホ〜ホーッ」
  喜んでいた。

  動転し、頭が完全に整理されていない時に電話が成った。
「もしもし、SWAT隊長の千堂だが。 ナニー、#$%&・・・・・・良く聞こえない、判らない。 もしも〜し、大勢生存者がいるっ!?・・・・・・、中は、危険なウィルスでいっぱいだとメールが来たぞ!?本当なのか!?・・・・・・ナニッ、多くのゾンビで中でいっぱいだっ!?・・・・・・建物は、駄目だ!?・・・・・・壊せ!?街も奪われる!?・・・・・・」

  ドッカーン、ドカーン、ドカカ〜ン。
  ニースリーの渡り廊下が、突然六階から三つ共 続けて下に落ちて来たのだった。
  震度七、八位の地震が来たみたいに地面が大きく揺れた。
「うわーっ、危ない!!全員退避、退避だー。 ビルから離れろーっ!!」
  砂鉄がビルから散って行く。

  SWAT隊の報告により国は、動いた。
  緊急会議の末、国の出した結論は、そして戦略は、小型ミサイル型のナパーム弾をビルに

シンシア -12p-

打ち込み、焼くだけ焼いて被害を最小限に抑え、後にSWATが突入、鎮圧するという考えだった。 特例により、早く終息させようと即座にヘリが飛ばされる。

  その頃ビル内では、早乙女(ヤクザの若頭)と関谷(刑事)が逢っていた。
「よっ」
  早乙女が関谷の上がったお尻を触った。
「うお〜っ。 てっ、てめ〜、気安く触るなー、相変わらずキモイぜっ、お前っ!!」

「また再会したんだ。 まあまあ、少しは、落ち着けよっ、ナッ・・・・・・それにしても、この雰囲気、何か様子が、怪しいと思いませんか・・・・・・!?」
  辺りを見ても気に成るものが、何一つも見当たらなかった。

  エレベーターから代表で調査に行った人達が降りて来た。
  中央近く迄、歩いて来る。
「さっきの騒がしかったのは、六階の渡り廊下が三つ爆破され、下に落ちたからみたいなんだ。 それ以外には、何も異常がなかったよっ!?」
  みんながお互いに目を交わし合う。

  何かを見て感じ察し、一番始めに動いたのは、早乙女だった。
「チェッ、こんな予定じゃなかったのにヨォー。  何もかもメチャクチャだ〜」
  八つ当たりか!? ジュースの販売機を続けて三つ力任せに倒したのだった。

  ガッシャーン。  裏蓋を力任せにこじ開ける。  すると中から、多数の武器や薬が出てきたのだった。

「キサマーこんな所にー」
「オイオイッ、そんな事を言ってる場合じゃないみたいだぜっ。  あれを見ろよっ!?」
  顎で関谷達に指し図をした。

  ホールにポメラニアンやトイプードル、ミニチュアダックスフント、ヨークシャテリアなどがいっぱい歩み出て来ていた。

 続けて三人 目の前に現れた。
  ピンクの桜や赤いバラ、黄色いアサガオの絵の描いてあるエプロンをした男達だった。
「これから料理をしようってか!?・・・・・・せめて正装して白長帽子と料理服を着て出て来いよっ」
  一瞬 関谷と目が合った。
  鋭い眼光と早乙女の言葉により腐死人に変わり、行きなり急襲して来た。

  二階ホールのシーリングライト(天井)や丸い額の絵(壁)や気球(催し物備品)の丸が腐死人の魔口に変わる。
  子犬達も左右に黒焦げた悪魔の腕と手を持ち、前後に四羽の腐った鷹の顔と首を持ち、胴体は、逆さの羽を持つカラスとの複合のバケモノに成った。
  壁や床やエレベーターから腐死人が、止めどなくあふれ出て来る。

「武器を手に取れーッ!!」

  早乙女が大声でみんなに叫んだ。
  強奪戦、生き残りゲームが始まる。
「ワワワワァーッ」
  腐死人に向かって撃ち続ける。 知らないところでエレベーター、壁、階段がシャッフルする。

  バッシャ〜ン、バッシャシャーン、ゴゴゴゴ〜ッ、轟音と共にビルが壊れていく悪夢をみんなが見せ付けられた。
  逃げ惑う人間。 魂・肉・血、全てをむさぼり喰う怪物。  『野生の世界』の番組のスタートだった。  上に向かって生き延びて行く。

「キャー」 一緒に逃げている永作みくが腐死人に腕を掴まえられた。  女の体を引っ張り、
「汚ない手で触るナッ」
  バババババンッ、早乙女が銃で腕を撃ち続け、切り落とした。
「さぁー行こう。 走れっ」
  必死に叫ぶ。  そして関谷達も後に続いた。  交戦する。

迷 彩映 (mei saiei・メイ サイエイ)
作家:MNALI PADORA
シンシア
0
  • 200円
  • 購入

9 / 16

  • 最初のページ
  • 前のページ
  • 次のページ
  • 最後のページ
  • もくじ
  • 購入
  • 設定

    文字サイズ

    フォント