シンシア

シンシア -8p-

もっと素直にねろよっ!? ったく〜、タバコ落っちゃったじゃねーか」
 早乙女武士は、化け物や刑事をまいて白いヤマユリの絵が描かれた床の部屋に来ていた。

 対角線に有るドアを目指して歩いて行く。
 「おっとっとっ、ナニッ」
 中央付近で足に鉄筋の曲がった棒が絡んだ。
 驚いた表情を見せる。
 周りをみて また歩き始めた。

「おっとっと、ナンダー」
 鉄の曲がった棒が二本有った。
 睨んで周りを見た。
「人が折角 くつろいでいるのに気分を害して目を覚ませるなよ」
 強く吐き捨て再び大人のオシャブリに火を点けた。
 辺りを見る。
 白いヤマユリから真っ赤なオニユリに絵が変わる。

 床下が15ゲーム(数字並べゲーム) のように縦横無尽に動き早乙女の下に紅いバラの絵が止まった。
 全てが、オニユリから紅いバラの絵に換わる。
 そしてトゲが早乙女の体を森のように持ち上げた。

 「うっ、何だ、ナンダ〜!?」
 目の前に顔大のパネルボードが。
 「バラのトゲ」 上から下にめくれる。
「トゲ痛いよ」、「目の絵」、に「目がつむった絵」に変わる。
 行き成りトゲが出て来た。
「おっとー」 早乙女が右手でおさえる。

「おいっ、足元に注意しなよっ、すくわれるぞっ」
 軽く微笑んでから、銃で手榴弾を撃った。

 ドッカーン、バラの根元が爆発炎上した。
 下に落ちる早乙女。

 しかし、勢い衰えずトゲが襲い掛かって来た。
「ハッ、ハ〜」
 楽しむようにトゲを打ち続け、ドアの外へ出て右足で止める。
「フッ、もう お前らとのお遊びは、うんざりだ。 うざいんだよっ、バイバ〜イ」
 左手で手榴弾のピンを抜き、怪物目掛けて右手で投げた。
 左手を軽く左右に振り、右目でウィンクしておもむろに扉を閉める。
その後、血相を変えて笑いながら、廊下を必死に走って行ったのだった。  

 落差のある滝壺の下に居るような、視界がゼロ 降水量120%とも言える異常豪雨の中、催し物が行われるみたいに大勢の人々が集まって来ていた。
 ピンライトが上空に向かって当てられる。

陽炎県稲穂市高羽尾のニースリー・デボンが全国放送で映っていた。
 狭い街の中にパトカー、SWAT車、消防車、救急車、マスコミ車 まさに車の異種展示会だった。
 しかし、本当のところは、非常事態の戒厳令が敷かれていた。

 日頃 目にする事のない、選りすぐられたエキスパートのSWATが四人一組で七班に分けられ、三組がデパートに掛けられた渡り廊下に四組がデパート下に配置され、突入の合図を待っていた。

 戒厳令が敷かれたのは、各警察署に届けられた"レッドSOSメール" で関谷刑事を偽った携帯電話からのメールによる一報からだった。

 みんなとはぐれた美人ホステスの三浦可奈は、歩いては、ドアノブを回して戸を開き、歩いては、ドアノブを回して戸を開きという事を繰り返して人を探していた。
 そして、一人また五階に戻って来ていた。

 周りには、誰もいなく静かだった。

シンシア -9p-

 そのせいか知らず知らずに癒される香りと『キャン ユー セレブレート』のオルゴールに心と体が踊らされて行く。
 目に止まったステンドグラスやパイプオルガンに好奇心を持ち、誘われ、足を運ばされた。

 目の前に遠近法で可愛い教会の絵が描かれていた。 可奈は、ビックリして立ち止まっていた。
 行き成り後方で ガーと音がして振り向く。

 そこには、サクラダ・ファミリアと水芭蕉を足して二で割ったような未来的な可愛い教会の絵がコンクリートの床に描かれていて、間近で見ようと恐る恐る近付き二メートル程の絵の正面に立った。
 そして食い入るように見ていた。

 コンクリートに描かれた教会の絵が、前後左右高低にゆっくりと動き出し、クラシック風の未来型化粧台に立体化し出した。
 鏡に写る自分、丸みのおびた造り、数々の化粧品。
 座椅子に座り、口紅、マスカラ、ビューラー、パウダーやチークブラシ、パフを手馴れたように使っていった。 自分に陶酔する。

 しかし、床が後ろに動いていた。
 ナイフを内に備えた処刑台に。
 鏡に「綺麗な花には、トゲが似合う。  あれ、言葉違ったっけ。  アーハハッ、後ろ危ないわよ」
 可奈が振り向くと同時に扉が閉まった。

 静かにゆっくりと地中深く下がって行く。
 唖然。 しかし、彼女は、刺されなかった。 なぜならナイフは、紙で出来ていたからだった。
 優雅な棺桶の壁面が下がる。
 幾重にも重なった死人が可奈を見ていた。

 デジタルの数字がカウントダウンされる。
「六分間後に棺桶は、崩壊します」

 機械的アナウンスがされる。
 ギーギー、爪の引っ掻く音が耳にさわる。
「キャー、ア〜ア〜ッ・・・!?」
 可奈が一人 もう誰も居なかった。 孤独感、恐怖感、出来る事は、泣き叫び続けるしかなかった。

『五体満足』で今どきの『他人を見下す若者』 その典型的に合うのが荒波多 慶吾(あらはた けいご) 二十二歳だった。
 殺気を感じ取り、自己防衛の為に五十センチ弱の鉄パイプを持って歩いていた。

 そして慶吾は、ネオンが点滅しているドアの前に立っていた。
『メンタル クリニック』と書いてあった。 『中へ  どうぞ』と字が換わって中に入って行った。

 多種多様な機械があるように見受けられたが、カーテンで全ては、見えなかった。
 仕切られて道を歩いて中央に行った。
 床に五センチ位の除雪車のミニカーが落ちていた。 周りを見る。

「何だ何だ〜、いい機械ばかり多くても使える人がいないじゃ役立ずのスクラップだぜっ。
 ましてや可愛い看護婦さん一人もいないじゃ、病院の肩書きを持つ意味がないよっ、フッ」
そう吐き捨て、除雪車を強く蹴りつけた。
「挨拶一つも無しかよっ。  これじゃ、患者も来ないわっ」
 遠くでミニカーの壊れるカランコロン、カランコロン〜という音と、
「当ったり〜!?」という女性の声がする。

 カーテンや医療機器は、ホログラフィーみたいにスーと一瞬にして消え、ガーという音と共に数百!?数千!?という逆さの除雪車のミニカーが逆ピラミッド型を形成して下りて来た。

 カブト虫風の手に服やジーパンを引っ掛けられる。「おいおいっ、うわっ」
 鉄パイプを振り回して逆ピラミッド型の除雪車のバケモノを、わずかながら壊して入り口側に逃げる。
「俺は、周りの奴らと違うんだ、程度の低いお前らに負ける訳がない。 フッ」
 鼻で笑った瞬間に全てが消え、壁が右回りに床が左回りに

シンシア -10p-

ゆっくりと動き始めた。

 次第に耳の三半規管に異常が起こり、床が凹凸し始める。
「うわっ」 目が疲れ、痛く成り、吐き気を催す。
「口ほどでもないね〜、見えない恐怖は、い・か・が」
見えない悪魔が、高い声と低い声の二重奏で話し掛けてきた。
そして、 強制的に目が閉じられた。
 ボォーボォーボォー。 サラサラザラザラ、ブツブツブツー。
 左右から半分ずつ炎と腐食が起こり、慶吾を急襲した。
「うわっ、何だなんだ!?」
 バリバリバリ、バッシャーン。
 魔物の圧力で窓ごと壁ごと十階の外へ放り投げ出された。

 爆風で外に投げ出された慶吾は、目が元に戻っていてニースリーの十階の窓と壁を見ていた。 (何も壊れてない!?) キツネにつままれた様子だった。

 落ちていく、空に向かって・・・・・・。  宇宙飛行士みたいに中空を浮いていく。
 屋上が見えた。 次第に遠のいていく。 空を向いて止まった。
「あなた凄いね。 飛べるんだ〜・・・・・・でも正直にお話するけど貴方は、間違っている。 人間の重力は、逆だよ。 また私、強い人好きだけど・・・・・・横暴過ぎるのはね〜。 目を覚ましなよ。 まだ、やり直しがきくからさ〜、夢は、叶えるもんだよ、バアバ〜イ」
横に突然 目鼻だちの整った美女が現れて言った。  ほほにチュッとキスをして手を振る。

 「うわっ!?・・・・・・ア~アッ!!」
 急加速で下に落ちて行った。
 そして二階のポテトマッシャーに落ちた。
 バン・バ〜ン、バッシャッ、シ・ャ・ー・ン・・・・・・。
 ニースリーの周りの人達に豪雨と赤い雨が勢いよく降り掛かり襲った。
「うっわ〜っ!?・・・」
 大勢の人が、頭を下げ、身を縮めた。


 二人は、見た目 仲良し姉妹モデル!?とは、裏腹に仲が悪かった。

 明るい 化粧品売り場のブランド品の香水やジュエリーを手に取り、吹き掛けたり、身につけたりして楽しんでいた。

「あら、さすがモテモテモデルねっ、 ゆり やる〜」
 姉の早苗が妹に言った。
「そういうお姉さんこそっ、とてもゴージャスでいい香りがしますわよっ。 ホホホッ」 と妹のゆりが姉の早苗に言った。

 正直言って妹のゆりの方が、可愛く性格が良く人気があった。
 姉は、性根が腐ってしまっていた。
 京宝早苗は、妹のゆりの両肩に左右の手を乗せて笑顔で言った。

「可愛いゆりばかりモテて卑怯よ〜フェロモン放出中って感じ〜」
「お姉さんには、劣るわ・・・・・・」
「黙って人の話を聞きなさい。 私にそのフェロモン頂戴。 貴方には、煩悩をあげるから。  人を簡単に信じちゃ〜ダメよ。 裏切るのもね〜、どうかと・・・・・・!?」

魂一つと美を一つを交換する血判契約を悪魔としていたのだった。
 右腕を伸ばし、カットバンを付けた人差し指でゆりに向かって” COME ON” と早苗がしぐさをした。

 ゆりの顔、服、スカート、腕、手、足に細かい線が入り、ジグソーパズルみたいにワンピースずつ蝶ねように離れ、ヒラヒラと飛んで行った。

 早苗も同じに成っていた。
 四方八方に飛び交い部屋内は、春爛漫といった感じに成っていた。
 新種のフランケンシュタイン風にも見えていた。
 周りの美しさに呆気に取られる二人。

 やがて早苗は、完成した。
 目を見開くゆり、何故ならば目の前には、見慣れた自分の顔があったからだった。
 ふと思い、ゆりも顔を下げ、自分の両手を見た。

(これは、悪夢よね。 悪い夢を見ているのよね!?)
 あまりの突然の事で訳が判らなく成っていた。
 腐った赤黒い肉片が蝶のように凹凸の呼吸を繰り返していた。

シンシア -11p-

 指を指して笑う早苗。
「キャーァァァー」
 前屈みに成って驚愕する。

「貴方は、邪魔なのよ・・・・・・!?」
 ドアが開き六階の二人の部屋に人が入って来た。  ゆり(早苗)が、「キャー、化け物が〜助けて〜」
 指は、ゆりに向かって指していた。
 四人のSWATは、続けざまに部屋に入って来て怪物を見た。

 腐った肉片に姿を変える。  そして、何かつかもうとしている赤や緑の腐った手と、紫色の唇に尖った歯が噛みつこうとしている口のバケモノが、異空間から多く出て来て四人に襲い掛かった。

 ゆり自身は、全身血管や内臓まる見え姿のバケモノだった。
「撃てぇ〜っ」
 反射的に声を出した。
(違うよ!? ゆりよっ、助けてぇ〜)
 しかし、実際は、みんなには、こう聞こえていた。
「ガゥゥゥ、ウガガガァ〜」
 (えっ!?)

 ダダダダッ・・・・・・至近距離で何百ともいえる弾がゆりを襲った。
 前進姿勢ながらも、確実に当てられて後退していた。
 窓を突き破り、ガラスの全面が粉々に成って行き、飛散され、外に押し飛ばされて行った。 手や足を中空でバタつかせる。

 限られた寿命のゆりは、化け物のまま、夢を見ていた。 ジュエリーの光の中に居て下に落ちて行く。
 体の痛さなど全く感じて無かった。
 しかし、急に記憶が蘇る。

「ガゥゥゥ〜、ウガガガガ〜、キャァァァー、た・す・け・て〜!?」
 また二階の透明なポテトマッシャーに落ちた。
 バンッ・・・バッシャ・シャ・シ・ャシャ・シャシゃ・・・・・・ン・・・・・・。
 たった三秒間の中だった。

 フロントガラスが割れたような!?天井の紅いステンドグラスがそこにあった。
 SWAT隊長 千堂 武史等 周りの人達は、二回目の音で上を見て止まった。

 超超スローモーションで赤い血の雫が落ちる。
 超スローモーションで二滴目が落ちる。
 スローモーションで三滴目が落ちた。

 その間 みんな死神に首を絞められたり、瞬時に切断されたり、心臓を刺されたりしていた。
 バ・ッ・シ・ャ・ー・ン、ザッ・ー・・・ザー~・・・・・・。

  紅い天井のステンドグラスが再びみんなを襲い、降り掛かる。
  ビルの周りの少し離れた場所だけ、輪の波紋が広がるようにして悪魔や死神がランダムに住み着き始めた。
  獲物を捕獲してゆく。

  大勢の人々が六階付近で銃の閃光を確認していた。  しかし、実は、腐死人が花火をしていた。
  導火線に火をつける。
  シュー、シュポン。
「ウッホォー、ホホホッ。  火遊びは、程々に、エーヘヘッホ〜ホーッ」
  喜んでいた。

  動転し、頭が完全に整理されていない時に電話が成った。
「もしもし、SWAT隊長の千堂だが。 ナニー、#$%&・・・・・・良く聞こえない、判らない。 もしも〜し、大勢生存者がいるっ!?・・・・・・、中は、危険なウィルスでいっぱいだとメールが来たぞ!?本当なのか!?・・・・・・ナニッ、多くのゾンビで中でいっぱいだっ!?・・・・・・建物は、駄目だ!?・・・・・・壊せ!?街も奪われる!?・・・・・・」

  ドッカーン、ドカーン、ドカカ〜ン。
  ニースリーの渡り廊下が、突然六階から三つ共 続けて下に落ちて来たのだった。
  震度七、八位の地震が来たみたいに地面が大きく揺れた。
「うわーっ、危ない!!全員退避、退避だー。 ビルから離れろーっ!!」
  砂鉄がビルから散って行く。

  SWAT隊の報告により国は、動いた。
  緊急会議の末、国の出した結論は、そして戦略は、小型ミサイル型のナパーム弾をビルに

迷 彩映 (mei saiei・メイ サイエイ)
作家:MNALI PADORA
シンシア
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