シンシア

シンシア -10p-

ゆっくりと動き始めた。

 次第に耳の三半規管に異常が起こり、床が凹凸し始める。
「うわっ」 目が疲れ、痛く成り、吐き気を催す。
「口ほどでもないね〜、見えない恐怖は、い・か・が」
見えない悪魔が、高い声と低い声の二重奏で話し掛けてきた。
そして、 強制的に目が閉じられた。
 ボォーボォーボォー。 サラサラザラザラ、ブツブツブツー。
 左右から半分ずつ炎と腐食が起こり、慶吾を急襲した。
「うわっ、何だなんだ!?」
 バリバリバリ、バッシャーン。
 魔物の圧力で窓ごと壁ごと十階の外へ放り投げ出された。

 爆風で外に投げ出された慶吾は、目が元に戻っていてニースリーの十階の窓と壁を見ていた。 (何も壊れてない!?) キツネにつままれた様子だった。

 落ちていく、空に向かって・・・・・・。  宇宙飛行士みたいに中空を浮いていく。
 屋上が見えた。 次第に遠のいていく。 空を向いて止まった。
「あなた凄いね。 飛べるんだ〜・・・・・・でも正直にお話するけど貴方は、間違っている。 人間の重力は、逆だよ。 また私、強い人好きだけど・・・・・・横暴過ぎるのはね〜。 目を覚ましなよ。 まだ、やり直しがきくからさ〜、夢は、叶えるもんだよ、バアバ〜イ」
横に突然 目鼻だちの整った美女が現れて言った。  ほほにチュッとキスをして手を振る。

 「うわっ!?・・・・・・ア~アッ!!」
 急加速で下に落ちて行った。
 そして二階のポテトマッシャーに落ちた。
 バン・バ〜ン、バッシャッ、シ・ャ・ー・ン・・・・・・。
 ニースリーの周りの人達に豪雨と赤い雨が勢いよく降り掛かり襲った。
「うっわ〜っ!?・・・」
 大勢の人が、頭を下げ、身を縮めた。


 二人は、見た目 仲良し姉妹モデル!?とは、裏腹に仲が悪かった。

 明るい 化粧品売り場のブランド品の香水やジュエリーを手に取り、吹き掛けたり、身につけたりして楽しんでいた。

「あら、さすがモテモテモデルねっ、 ゆり やる〜」
 姉の早苗が妹に言った。
「そういうお姉さんこそっ、とてもゴージャスでいい香りがしますわよっ。 ホホホッ」 と妹のゆりが姉の早苗に言った。

 正直言って妹のゆりの方が、可愛く性格が良く人気があった。
 姉は、性根が腐ってしまっていた。
 京宝早苗は、妹のゆりの両肩に左右の手を乗せて笑顔で言った。

「可愛いゆりばかりモテて卑怯よ〜フェロモン放出中って感じ〜」
「お姉さんには、劣るわ・・・・・・」
「黙って人の話を聞きなさい。 私にそのフェロモン頂戴。 貴方には、煩悩をあげるから。  人を簡単に信じちゃ〜ダメよ。 裏切るのもね〜、どうかと・・・・・・!?」

魂一つと美を一つを交換する血判契約を悪魔としていたのだった。
 右腕を伸ばし、カットバンを付けた人差し指でゆりに向かって” COME ON” と早苗がしぐさをした。

 ゆりの顔、服、スカート、腕、手、足に細かい線が入り、ジグソーパズルみたいにワンピースずつ蝶ねように離れ、ヒラヒラと飛んで行った。

 早苗も同じに成っていた。
 四方八方に飛び交い部屋内は、春爛漫といった感じに成っていた。
 新種のフランケンシュタイン風にも見えていた。
 周りの美しさに呆気に取られる二人。

 やがて早苗は、完成した。
 目を見開くゆり、何故ならば目の前には、見慣れた自分の顔があったからだった。
 ふと思い、ゆりも顔を下げ、自分の両手を見た。

(これは、悪夢よね。 悪い夢を見ているのよね!?)
 あまりの突然の事で訳が判らなく成っていた。
 腐った赤黒い肉片が蝶のように凹凸の呼吸を繰り返していた。

シンシア -11p-

 指を指して笑う早苗。
「キャーァァァー」
 前屈みに成って驚愕する。

「貴方は、邪魔なのよ・・・・・・!?」
 ドアが開き六階の二人の部屋に人が入って来た。  ゆり(早苗)が、「キャー、化け物が〜助けて〜」
 指は、ゆりに向かって指していた。
 四人のSWATは、続けざまに部屋に入って来て怪物を見た。

 腐った肉片に姿を変える。  そして、何かつかもうとしている赤や緑の腐った手と、紫色の唇に尖った歯が噛みつこうとしている口のバケモノが、異空間から多く出て来て四人に襲い掛かった。

 ゆり自身は、全身血管や内臓まる見え姿のバケモノだった。
「撃てぇ〜っ」
 反射的に声を出した。
(違うよ!? ゆりよっ、助けてぇ〜)
 しかし、実際は、みんなには、こう聞こえていた。
「ガゥゥゥ、ウガガガァ〜」
 (えっ!?)

 ダダダダッ・・・・・・至近距離で何百ともいえる弾がゆりを襲った。
 前進姿勢ながらも、確実に当てられて後退していた。
 窓を突き破り、ガラスの全面が粉々に成って行き、飛散され、外に押し飛ばされて行った。 手や足を中空でバタつかせる。

 限られた寿命のゆりは、化け物のまま、夢を見ていた。 ジュエリーの光の中に居て下に落ちて行く。
 体の痛さなど全く感じて無かった。
 しかし、急に記憶が蘇る。

「ガゥゥゥ〜、ウガガガガ〜、キャァァァー、た・す・け・て〜!?」
 また二階の透明なポテトマッシャーに落ちた。
 バンッ・・・バッシャ・シャ・シ・ャシャ・シャシゃ・・・・・・ン・・・・・・。
 たった三秒間の中だった。

 フロントガラスが割れたような!?天井の紅いステンドグラスがそこにあった。
 SWAT隊長 千堂 武史等 周りの人達は、二回目の音で上を見て止まった。

 超超スローモーションで赤い血の雫が落ちる。
 超スローモーションで二滴目が落ちる。
 スローモーションで三滴目が落ちた。

 その間 みんな死神に首を絞められたり、瞬時に切断されたり、心臓を刺されたりしていた。
 バ・ッ・シ・ャ・ー・ン、ザッ・ー・・・ザー~・・・・・・。

  紅い天井のステンドグラスが再びみんなを襲い、降り掛かる。
  ビルの周りの少し離れた場所だけ、輪の波紋が広がるようにして悪魔や死神がランダムに住み着き始めた。
  獲物を捕獲してゆく。

  大勢の人々が六階付近で銃の閃光を確認していた。  しかし、実は、腐死人が花火をしていた。
  導火線に火をつける。
  シュー、シュポン。
「ウッホォー、ホホホッ。  火遊びは、程々に、エーヘヘッホ〜ホーッ」
  喜んでいた。

  動転し、頭が完全に整理されていない時に電話が成った。
「もしもし、SWAT隊長の千堂だが。 ナニー、#$%&・・・・・・良く聞こえない、判らない。 もしも〜し、大勢生存者がいるっ!?・・・・・・、中は、危険なウィルスでいっぱいだとメールが来たぞ!?本当なのか!?・・・・・・ナニッ、多くのゾンビで中でいっぱいだっ!?・・・・・・建物は、駄目だ!?・・・・・・壊せ!?街も奪われる!?・・・・・・」

  ドッカーン、ドカーン、ドカカ〜ン。
  ニースリーの渡り廊下が、突然六階から三つ共 続けて下に落ちて来たのだった。
  震度七、八位の地震が来たみたいに地面が大きく揺れた。
「うわーっ、危ない!!全員退避、退避だー。 ビルから離れろーっ!!」
  砂鉄がビルから散って行く。

  SWAT隊の報告により国は、動いた。
  緊急会議の末、国の出した結論は、そして戦略は、小型ミサイル型のナパーム弾をビルに

シンシア -12p-

打ち込み、焼くだけ焼いて被害を最小限に抑え、後にSWATが突入、鎮圧するという考えだった。 特例により、早く終息させようと即座にヘリが飛ばされる。

  その頃ビル内では、早乙女(ヤクザの若頭)と関谷(刑事)が逢っていた。
「よっ」
  早乙女が関谷の上がったお尻を触った。
「うお〜っ。 てっ、てめ〜、気安く触るなー、相変わらずキモイぜっ、お前っ!!」

「また再会したんだ。 まあまあ、少しは、落ち着けよっ、ナッ・・・・・・それにしても、この雰囲気、何か様子が、怪しいと思いませんか・・・・・・!?」
  辺りを見ても気に成るものが、何一つも見当たらなかった。

  エレベーターから代表で調査に行った人達が降りて来た。
  中央近く迄、歩いて来る。
「さっきの騒がしかったのは、六階の渡り廊下が三つ爆破され、下に落ちたからみたいなんだ。 それ以外には、何も異常がなかったよっ!?」
  みんながお互いに目を交わし合う。

  何かを見て感じ察し、一番始めに動いたのは、早乙女だった。
「チェッ、こんな予定じゃなかったのにヨォー。  何もかもメチャクチャだ〜」
  八つ当たりか!? ジュースの販売機を続けて三つ力任せに倒したのだった。

  ガッシャーン。  裏蓋を力任せにこじ開ける。  すると中から、多数の武器や薬が出てきたのだった。

「キサマーこんな所にー」
「オイオイッ、そんな事を言ってる場合じゃないみたいだぜっ。  あれを見ろよっ!?」
  顎で関谷達に指し図をした。

  ホールにポメラニアンやトイプードル、ミニチュアダックスフント、ヨークシャテリアなどがいっぱい歩み出て来ていた。

 続けて三人 目の前に現れた。
  ピンクの桜や赤いバラ、黄色いアサガオの絵の描いてあるエプロンをした男達だった。
「これから料理をしようってか!?・・・・・・せめて正装して白長帽子と料理服を着て出て来いよっ」
  一瞬 関谷と目が合った。
  鋭い眼光と早乙女の言葉により腐死人に変わり、行きなり急襲して来た。

  二階ホールのシーリングライト(天井)や丸い額の絵(壁)や気球(催し物備品)の丸が腐死人の魔口に変わる。
  子犬達も左右に黒焦げた悪魔の腕と手を持ち、前後に四羽の腐った鷹の顔と首を持ち、胴体は、逆さの羽を持つカラスとの複合のバケモノに成った。
  壁や床やエレベーターから腐死人が、止めどなくあふれ出て来る。

「武器を手に取れーッ!!」

  早乙女が大声でみんなに叫んだ。
  強奪戦、生き残りゲームが始まる。
「ワワワワァーッ」
  腐死人に向かって撃ち続ける。 知らないところでエレベーター、壁、階段がシャッフルする。

  バッシャ〜ン、バッシャシャーン、ゴゴゴゴ〜ッ、轟音と共にビルが壊れていく悪夢をみんなが見せ付けられた。
  逃げ惑う人間。 魂・肉・血、全てをむさぼり喰う怪物。  『野生の世界』の番組のスタートだった。  上に向かって生き延びて行く。

「キャー」 一緒に逃げている永作みくが腐死人に腕を掴まえられた。  女の体を引っ張り、
「汚ない手で触るナッ」
  バババババンッ、早乙女が銃で腕を撃ち続け、切り落とした。
「さぁー行こう。 走れっ」
  必死に叫ぶ。  そして関谷達も後に続いた。  交戦する。

シンシア -13p-

「お前ら、究極のストーカーかっ!!」
  冗談を言っている余裕が無くなってきていた。 歯を食いしばる。
  五階の他のところでは、腐死人がヘルフライドチキンをむさぼり喰い、赤ビールを飲んでいた。

  呼吸が荒く成ってきていた。
  汗で肌と下着が張り付き、肩で大きく息をする。
  鬼の形相で敵に立ち向かい、ひたすら銃を撃ちまくり、刀で切り、敵から逃れて行く。

「もう駄目っ、動けない!?・・・・・・」
「・・・クソッ・・・・・・」
  ゴクッ、唾を飲む。 (神様!?我等をお助け下さい!?・・・・・・弾・・・もつかな!?・・・)
  七階の他の所では、腐死人が地獄鍋と絶命酒で宴会を開いていた。

  ・・・・・・カシャカシャッ、カシャカシャッ・・・・・・。
「クソッ、開かないっ!?」
「ドケーッ、下がれーっ」
  バンバンバンッ・・・・・・、銃で数発撃ち、ドアを思い切り蹴り破った。
  そして、みんなが一気に外へ出た。
  火薬の臭いが漂う。

  下からの強いピンライトの光が、豪雨と闇を切っていく。 もう、みんなびしょ濡れだった。
「ファック ユー・・・・・・」
  歯を出して食いしばる。  願うように天に向かって神に叫んでいた。
  怒りと絶望感が体外に放出し、周りを威圧する。
  その間にも腐死人は、近付いて来ていた。

  少しの可能性を求めるように闇を、ゆっく〜りと見渡す・・・・・・!? 見渡す・・・!! 見渡し続ける・・・・・・。 
「もう駄目だっ!?・・・・・・」
「・・・私達っ、死・ぬ・の・ネ・ッ。 いや~!!・・・・・・イヤァーあ~アァ~・・・・・・」
 声が豪雨の音で瞬時に消えてゆく。

「黙れっ、だまれっ、ダ・マ・レッ!?・・・・・・シ~!?・・・・・・」
 左人差し指をゆっくりと自分の唇に持っていって当てたのだった。 みんなを納得させるように目で語りかける。
  ふと気が付いた時には、豪雨が小雨に成っていた。
  本能的に目が止まる・・・・・・!?
  一点を見据える・・・・・・!?  じっと暗闇を見つめる。 眼前に雫がし・た・た・り・落・ち・るのが数えられた。

  遠くから行きなり、目の前にヘリが一機、急接近して来た。
  ホバリングし、着地仕掛ける。
「早く乗れっ!!・・・・・・」
  生存者達は、目を丸くした。
  ヘリ操縦のプロとSWAT隊長の千堂と福富 明が乗っていた。
 
  一番始めに女性を乗せたと同時に開かないように止められた屋上のドアが破られ、凄い勢いで腐死人が屋上を侵食し、広がり始めた。
  直ぐにホバリングを高くし、ハシゴを降ろす。
  早乙女、関谷らが下から、千堂、福富が上から急襲して来る悪魔の荒波を撃ち続け、腐死人を倒していく。

  一秒一秒で伝わって来る威圧力。 正義感の強い城之内 猛(たける)が、関谷の肩を叩いた。
「先に行けぇーっ、ワァァァー」
  火炎放射器を放ち回した。
「しっかり、掴まれぇ・・・・・・」
  と千堂。

  空気をも震撼させる恐怖波動、
「ウワッ、ウワー・・・・・・!?」
 大きな声にみんなが下を見た。
  身の危険感にヘリを上げる。
  グッ、グッ、ググググッ、ゴゴゴゴー。  へりが凄く揺れた。
  千堂・福富・早乙女・関谷が直視し、目を見開いた。
  ハシゴにくっ付いていた。
「ナッ、何物だ・・・・・・!?」
「何だ・・・こいつは・・・・・・!?」
「でっ、出たなっ・・・・・・怪物のコスプレヤろー・・・・・・!?」

迷 彩映 (mei saiei・メイ サイエイ)
作家:MNALI PADORA
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