サンタクロースパイ

51.飲み会

たっぷり遊んだ後、本日のメインイベントである呑み会を

するため、居酒屋へ向かった。



しかし、

向かう最中、悩んでいる中年の夫婦を見かけた。



「どうしたんだろ?」



その事に、同僚達は気づいていない。



「どうした?霧河」

「いや、何でもない・・・・・・」



そして、

居酒屋に着き、飲み会が始まった。



「カンパ~~~イ!!!」



しかし、

霧河は相変わらず、酒は飲まず、飲むのは

コーラやメロンソーダやオレンジジュースのような

ソフトドリンクばかりである。



「お前、やっぱ、そこは譲らねぇんだな~」

「ん?あ~、コレ?ごめん!!やっぱ、

どうしても、酒は、僕の口に合わないから飲めないんだよ」



やっぱり、本当の事は言いづらいし、もし、言うと、

同僚達に気を遣わせて、同時に、

かなり空気を重くしてしまうため、

「両親が相手の車の飲酒運転による交通事故で死んだ」という

トラウマがある事は言えない・・・・・・



「でも、霧河、今日は安心したよ」

「ん?何が?」

「いや、お前、俺達の遊びや飲み会の誘いは

断る事がめっちゃ多くて、

〝ひょっとしたら俺達、お前に嫌われてるんじゃないか?〟って

心配してたんだよ。前にお前抜きで呑み会に行った時も、

実は、俺達、そんな話、してたんだけど。だけど、

ゲーセンにしろ、パチンコにしろ、誘いに乗らない理由が

〝俺達が嫌われてるから〟じゃなくて良かったよ。ちゃんとした

理由があったんだな!!まぁ、さっき言ってたあの話を聞くと、

多分、居酒屋が苦手なのも、同じような理由だろうけど・・・」

「ん~・・・まぁ・・・そうだけど・・・」



「やっぱりな。でも、悪かったな。苦手なのに、何度も

付き合わせようとして・・・実際、今日はもう、

無理やり連れてきちまったし」

「あ~、いや~、僕の方こそ、いつも誘いを断ってばかりで

ごめんね!!それに、いつもは断ってるけど、今日は皆と遊んで

みて、凄く楽しかったし、今日の事は全部、良い思い出に

なったよ!!それに、ゲーセンも居酒屋も、確かに騒がしいけど、皆と一緒に楽しめば、意外と気にならなかったし!!!」

「そっか!!なら良かった!!!」

「うん!!!」

52.興奮、感動、刺激のある人生

「あ~、そういえば・・・」

「何?」



「話、変わるけど、この会社の〝Excitement Story〟って、

どういう意味か知ってるか?」

「え~っと、〝Excitement〟は〝興奮〟、あるいは、〝感動〟あるいは、〝刺激的な〟とか、たくさん意味があるから・・・

〝そういう物語〟って事かな?」

「そうだよ。俺達も、これから、俺達自身の人生の中で、

〝興奮〟〝感動〟〝刺激〟それら全てがある最高の物語

〝Excitement Story〟を

創っていこうぜ!!!」



「何だよそれ!(笑)てか、欲張り過ぎ!!

(笑)てか、クサ過ぎ!!そのセリフ!!(笑)」

「あ~、そういや、そうだな!!(笑)」



皆、一斉に笑い・・・・・・



「アッハッハッハッハッ!!!」



話しながら、霧河は思った。



(そうか~。友情って、こんな良いモンだったんだな・・・もし、今もまだ、父さんと母さんがいたら、コイツらに会わせてやりたいし、自慢してやりたい・・・でも、それは、どうやっても、

叶わない願いなんだよな・・・)



霧河は、寂しそうな顔をした。



「ん?どうした?霧河」

「ん~ん~!!何でもない!!!」

「そっか」



(ほ~ら!!また心配してくれた!!本当に良いヤツらだよ!!!コイツらは!!!)



「よし、じゃあ、いっぱい遊んだし、いっぱい食ったし、いっぱい飲んだし、いっぱい喋ったし、今日は、そろそろ帰りますか!!!」

「うん!!!今日はめっちゃ楽しかったな!!!」と一同、

声を揃える。



「じゃあ、解散!!!それでは、良いお年を!!!」

「良いお年を!!!」

53.また、あの夫婦が!!!

その後、家に帰る最中、霧河は、

また考え事をしていた。



「にしても、俺は、自分でも気づかないうちに、こんな良いモン

手に入れてたなんてな~」と、いつも、どこか影のある霧河が、

いつになく明るく笑っている。



「〝興奮〟〝感動〟〝刺激〟それら全てがある最高の物語か~

俺がクリスマスにいつもやってる事は、

俺からプレゼントをもらった子供達にとって、

そんな〝Excitement Story〟になってるのかな?もし、

本当にそうだったら凄く嬉しいんだけど。

そんな都合の良い事があるかな?(笑)」



帰ろうとする最中、また、さっき見た、悩んでいる中年の夫婦を

見た。



(ア、アレ?また?)



気になるので、二人の跡をつけて、二人が

帰って、その二人の自宅の庭で、座って缶コーヒーを飲みながら

話し合っているところを物陰から覗いて、聞いた。



すると、

二人の話を聞くと、どうやら二人は、

同じ会社で知り合い、結婚し、

同じ会社で働いていたそうだが、半年前に

リストラさせられたという。



それに、

二人とも、特別な才能もなく、色々と冴えないのだそうだ。



そして、二人は現在、

〝中卒〟という低学歴や不景気などのせいもあって再就職も

出来ず、今までに得た財産ももうすぐ尽きてしまうらしい。



「一体、どうすれば?」と泣きながら

言っている。だが、それを見て、霧河は、

「あ、そうだ!」と、閃いた。

54.人生を救うプレゼント

霧河にとって、休日という事になっている

元日に、クリスマスが終わって数日経った後だが、クリスマスに

着ているサンタクロースの服を着て、その家に、いつもの

〝ピッキング〟で侵入する事にした。



それから、時間が経ち・・・・・・



2011年1月1日(土)。年が明けたその日の深夜、霧河は、

その家にやって来た。



「う~ん・・・深夜とはいえ、元日だし、

相手は大の大人だ。起きてなきゃ良いけど」



〝ガチャ〟



入ってみると・・・・・・



「おっ!良かった!!大丈夫だな!!」



リビングには誰もおらず、至って静かだった。なので、そこで、

その夫婦が寝ている事が分かった。寝室へ向かい、枕元に、

あるプレゼントを置いた。そして、帰った。今回も、

ちゃんとヘマをせず、相手を起こさず、プレゼントを置き、

その家を出た。



「フ~ッ!!コレで、あの夫婦、幸せになれると良いな!!」と

言って去った。



翌朝、その夫婦の二人が枕元を見てみると、

とても大きな箱があった。



「ん?何だコレ?」



箱を開けてみると、その中には、

「読者の才能を発掘するための本」が3冊、

「社会心理学マニュアル」が4冊

「事業をする起業マニュアル」が5冊、

「接客の心理学マニュアル」が3冊、

計15冊の本、そして、「1000万円のお金が入っているケース」と、

「手のひらサイズほどの招き猫の置き物」と、

「手紙」が入っている。



手紙を読んでみると、

「〝拝啓、名前も知らないあなた〟、

おはようございます。そして、あけましておめでとうございます。私は、普段、イタリアに住んでいますが、何度も日本に

やって来た事があり、日本が大好きになり、日本の文化や日本語を勉強し、日本語を自由に話せるようになったサンタクロースです。イタリアのサンタクロースは、毎年、冬、

年末から1月6日まで活動しています。今、

これらのプレゼントを手に取り、この手紙を読んでいるあなたは、きっと、仕事やお金の事で、さぞ悩んでいるでしょう。ですが、

この1000万円と、色々なマニュアルと、招き猫があれば大丈夫。招き猫は神社にいる猫であり、キリスト教の猫ではありませんが、

私は、どの宗教も否定しないし、招き猫は、とても可愛いと

思っています。このとても可愛い招き猫をリビングかどこかに

置いて、色々なマニュアルを読んで、1000万円を利用して、

何か自分に合う仕事を始めて、

毎日、招き猫に生活を支えてもらいながら、癒されながら、

励まされながら、人生を頑張ってください。

これらは、私からのクリスマスプレゼントであり、お年玉です。

〝サンタクロースより〟」と、書いてある。

パソコンで書いてあるが。



すると、その夫婦の夫が

「何だこりゃ?めちゃくちゃ変な話だな。サンタクロースがもし、本当にいたとしても、普通、サンタクロースがこんな事、

するか・・・?しかも、この手紙、どう見ても、

パソコンで書いてあるだろ?けど、イタズラだとしたら、

こんなに色々置いてあるのはおかしいな~。お札も、

ちゃんと透かしがあるから、ニセ札じゃなさそうだし」と言った。



だが、隣にいた妻は、

「そうね~・・・でも、良いじゃない!!

良く分かんないし、怪しいお金とプレゼントだけど、もう、

私達には、全然余裕がないんだから!!!」と言う。



「う~ん・・・それもそうだな。藁にもすがる思いで、乗っかってみるか」

「うん!!ていうか、こんなの、藁どころじゃないぐらい頼もしいわよ!!!」

「そうかもな!!!」



「ねぇ、私達、つい昨日まで、明日からどう生きていけば良いかすら分かんなかったけど、元日の今日、こんなに良い事があったから、とっても良い1年になりそうね!!!」

「・・・そ・・・それは・・・どうか分からないけど・・・・・・」



そう、霧河は、実は、株や他の会社達に関する知識も豊富で、

株取引が上手く、普段は、全く使わないだけで、株取引で、

何千万円もの大金をしょっちゅう儲けている。



しかし、あまり、

自分が大金持ちだという事や、株取引が得意だという事を

たくさんの人達に知られてしまったら、大変な事になるので、

それは、全く他人に話さない。



しかし、そうやって、

株によって稼いだ、とても大きな財産を、あの夫婦に渡したのだ。霧河があの手紙に書いた、「差出人が元々は、イタリアにいて、

日本の文化や日本語を勉強した」というのは、もちろん嘘だが、

〝イタリアのサンタクロースが毎年、1月6日まで活動している〟というのは、実際に、イタリアで伝えられている説だ。



霧河は、少しでも、〝プレゼントはサンタクロースが渡している〟と、信じてもらうために、その説を利用したのだ。

もし、ネットで検索されても、

(これは本当にサンタさんがやってるんだ)と思ってもらうために。

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