ガンプラの日

 両手の指で頭をガシガシとかきむしった伊達は、怒鳴るように返事した。「分かった。クソガキめ、ウ~~~、許す」伊達には、沢富の真意が、よくわからなかったが、とにかく、許すことにした。「昼メシは、僕のおごりです。今夜は、パ~~~と行きましょう。もちろん、僕のおごりで」伊達は、ちょっと貸しを作ったようで、機嫌がよくなった。「そうか。まあ、サワが、そういうのなら、パ~~~と行くか」

 

自白

 

 家の中は、静まりかえっていた。アンナは、死にたい気持ちで体を起こすこともできず、昼食も喉を通らず、午前中から寝床に横たわっていた。午後5時を過ぎても亜紀は戻ってこなかった。アキからも、誘拐犯らしき人物からも、電話はなかった。さやかの不安は、ますます大きくなっていった。もし、このまま帰ってこなかったら、単なる家出ではないかもしれないと思えた。自殺していたらと思うと、もはや、じっとしていられなくなった。二人の刑事に電話し、今すぐにでも捜索願を出してもらおうかとも思ったが、やはり、必ず帰ってくる、と刑事が言ったことを信じ、9時まで待つことにした。

 

 ピースもスパイダーも朝からアキちゃんが姿を現さないことに戸惑いを見せていた。散歩にも行けず、家の中でじっとしていたスパイダーはイライラが募り限界が来ていた。「ちょっと、ピースさん、僕の散歩はどうなったんだろうね。アキちゃんは、いないし、ママは、寝込んでいるし、動物に冷たいチンチクリンは、タクちゃんにつきっきりだし、僕のことなんか、眼中にないみたいだ。ピースさんが、僕を散歩に連れて行ってくれないか。退屈で、死にそうだ」

 朝からずっと亜紀ちゃんにかまってもらえないのは、ピースもスパイダーも初めての経験で、これからずっと、亜紀ちゃんにかまってもらえなくなったらどうしようと不安になっていた。「アキちゃん、どこに行ったのかしら。こんなこと、初めてじゃない。こうなったら、黙って、散歩に行こうかしら。誰も、かまってくれないんだもの。しょうがないよね。スパイダー、ついておいで」

 

 ピースとスパイダーは、こっそりリビングのベランダから庭に出て行った。拓実を抱っこしてソファーに腰かけていたさやかは、そのことには気づかなかった。ピースとスパイダーが、通りに出ると公園の方角からカ~~カ~~とカラスの呼び声が響いてきた。風来坊の呼ぶ声だと気づいたピースとスパイダーは、公園に駆けて行った。スパイダーは、風来坊と話す気は毛頭なく、思いっきり元気よく公園を駆け回った。

 

後からちょこまかと駆けてきたピースは、ベンチにピョンと飛び乗り、顔を持ち上げ風来坊に声をかけた。「こんにちは、お元気でしたか?日が落ちるのが、早くなりましたね」ベンチ横の楠に止まっていた風来坊は、ベンチにフワッと飛び降りるとピースに返事した。「相変らず元気だよ。ところで、なんだね、今日は、祭日だというのに、アキちゃん見ないね。病気でもして、寝込んでいるのかい?」

ピースは、お座りしてゆっくり話し始めた。「それが、大変なの。アキちゃんが、神隠しにあって。朝から、消えちまったの。今だ、姿が見えないのよ。風来坊さんは、アキちゃん見なかった?」神隠しと聞いて、首を傾げた風来坊は、びっくりしてピョンとジャンプした。「神隠しかい。これは、大変なことじゃないか。一刻も早く、探し出さないと」ピースも大きくうなずき、答えた。「そうなんだけど、猫と犬じゃ、手も足も出ないのよ。カラスさんたちで、探してくれない。空からだったら、探し出せるんじゃないかしら」

 

 パタパタと羽を鳴らして、即座に答えた。「分かった。すぐに仲間に知らせよう、と言っても、アキちゃんの服装が分からなくっちゃ、探しようがないな~~。どんな服装してるんだい?」ピースは、困ってしまった。「そがね~~、朝からいないから、まったくわかんないのよ。とにかく、一人ぼっちで、寂しそうにしている女の子がいたら、教えてよ。もしかすると、その子かもしれないし」

 

 風来坊は、とりあえず、糸島市と福岡市の仲間に知らせることにした。「分かった。仲間に知らせよう。一人ぼっちで、寂しそうにしている女の子だな。任せてくれ」風来坊は、そういうと、パタパタと天高く飛び上がって行った。スパイダーは、駆け回って気分がすっきりしたのか、ハ~ハ~と息を切らせて、笑顔でベンチにやってきた。「やっと、スッキリした。やっぱ、運動第一だよ。そう、風来坊は、どこに行ったんだ?からかってやろうと思ったのに」

あきれた顔のピースは、スパイダーに皮肉を言った。「アキちゃんが、神隠しにあったのに、よくも、のんきでいられるわね。アキちゃんが、このまま、戻ってこなかったら、私たち、捨てられるかもよ」ちょっと気まず顔になったスパイダーは、急にマジな顔つきになって返事した。「何を言うんだ。僕だって、心配してるさ。僕も、このあたりを探してくるよ。アキちゃんの匂いは、1キロ離れていても、分かるんだから」スパイダーは、一目散に大通りにかけて行った。

 

羽田発福岡行ジャンボ機は、北九州市の上空を、静かに飛行していた。乗客たちは、眼下に輝くネオンに歓喜の声を上げていた。窓際に腰かけていた亜紀も光り輝く市街の夜景に満面の笑みを浮かべていた。「おにいちゃん、宝石が輝いているみたい。すっごく、きれい」鳥羽は、そうだね、と元気のない返事をした。亜紀は、急に元気をなくした鳥羽が気になった。「おにいちゃん、疲れたの、元気ないね。アキバ、楽しかったね」福岡空港に近づくにつれて、鳥羽はますます気が重くなってきた。「そうだね、また、機会があったら、アキバに行きたいね」

 

亜紀は、アキバUDX 、ラジオ会館、アニメセンター、ガンダムカフェでの楽しい一日を思い出していた。「キャラメル味のガンプラ焼き、おいしかったね。天神(てんじん)にも、ガンダムカフェ、できたらいいのに。AKB48Tシャツとタオル、ママ気にいってくれるかな~。ママを残して、アキバにいったりして、悪かったような気もするね。でも、お土産、買ってきたからいいよね。今度は、ママとタクミとさやかお姉ちゃんたちと、一緒に行こうね」 

春日信彦
作家:春日信彦
ガンプラの日
0
  • 0円
  • ダウンロード

30 / 43

  • 最初のページ
  • 前のページ
  • 次のページ
  • 最後のページ
  • もくじ
  • ダウンロード
  • 設定

    文字サイズ

    フォント