ガンプラの日

沢富は、ニヤッと笑顔を作って返事した。「アキちゃんは、友達と遊びに行ったに違いありません。きっと、明るい笑顔で戻ってきます。僕を信じてください」伊達は、信じてはいたが、そう断言できる根拠をより具体的に教えてほしかった。「信じるさ。サワが言うことは、大体、当たっているからな。疑うわけじゃないが、もう少、俺にもわかるように話してくれないか。別に、隠さなくてもいいじゃないか、な~~サワ」

 

 沢富は、自分の直感を具体的な話にするためにさっきからずっと考えをまとめていた。「いや、隠すつもりはありません。形見のガンプラを手に取った時、ガンプラで遊んでいるアキちゃんと幼児の姿が脳裏に映し出されたんです。その時、ビビッと行き先が閃いたんです。きっと、あそこに違いないと」伊達は、イラッと来た。「だから、聞いてるんじゃないか。あそこじゃわからん。アキちゃんは、誰とどこに遊びに行ってるんだ。じらすなよ。どこなんだ?」

 

 沢富は、マジな顔になって答えた。「クイズ、今日は、何の日でしょうか?」伊達は、即座に答えた。「勤労感謝の日だ。俺を、バカにしてんな。それがどうした」沢富は、一度うなずき話を続けた。「その通り、正解です。そのほかに、今日はガンプラの日でもあるんです」伊達は、からかっていると思い、ムカついた。「おい、ガンプラの日なんて、聞いたことないぞ。そんな日、いつからできたんだ?ガンプラファンが、勝手に作ったんだろ」

沢富は、苦笑いをして答えた。「まあ、そういうことなんですが、今日はアキバでやっているガンプラエキスポの最終日なんです。だから、ガンプラの日、って言ったんです」伊達は、ますます意味が分からなくなり、カチンと来てしまった。「いったい、そのガンプラとアキちゃんの行き先とどういう関係がるんだ。まさか、アキバに行ってるとでも言うんじゃないだろうな」

 

 沢富は、助手席の伊達をチラッと見て答えた。「はい、そのまさかです。きっと、誰かと一緒に行っているはずです」伊達は、あまりにも信じられない話に腰を抜かしてしまった。「おい、アキバは、東京だぞ。いくらなんでも、小学生たちで、アキバに行くか?そうは思えんがな~~。今回ばかりは、サワの予想は、ハズレだな」予想を否定された沢富だったが、平静さを保ち、ドヤ顔になって答えた。

 

 「いいえ、予想は、アタリです。見ていてください。きっと、友達と一緒に帰ってきます。でも、その友達は、高校生じゃないかと思っています。ほら、同居の鳥羽という高校生が、昨日からいなかったでしょ。僕は、そのことに、ピンときたんです。きっと、その高校生と一緒に、アキバに行ったのです。間違いありません」伊達は、そういわれてみると、そのようにも思えてきた。「ホ~~、もしかすると、サワの予想が当たっているかもな」

 伊達は、話を続けた。「ということは、その鳥羽という高校生は、ガンプラファンで、最初は、一人で行こうと思ったが、アキバ観光を兼ねて、アキちゃんをガンプラエキスポに連れて行ったということだな」沢富は、ほんの少し首をかしげた。黄色から赤に変わった信号機に気づき、ブレーキをグイッと踏み込んだ。「僕も、最初は、そうじゃないかと思ったんです。でも、どうも、そうじゃないような気もするんです」

 

 伊達は、その理由を聞きたくなった。「それじゃ、逆に、アキちゃんが、鳥羽をアキバに誘ったというのか?」沢富は、ウ~~、とうなり、返事した。「思うに、鳥羽は、アキちゃんの持ってるガンプラが、弟の形見だと知らされていたんです。今日がガンプラエキスポの最終日なんですが、アキちゃんは、ガンプラエキスポ最終日のことを鳥羽に話したんじゃないかと思うのです。それを聞いた鳥羽は、アキちゃんの思いを叶えるために、アキバに連れて行ったんじゃないかと」

 

 伊達は、ホ~~とうなり、うなずいた。「なるほど、鳥羽は、ガンプラファンでもないのに、自分もガンプラファンであるかのように言って、アキちゃんをガンプラエキスポに誘ったということか。でも、黙って、行くことは、なかったんじゃないか。もう高校生なんだから、ちゃんと承諾をもらうべきじゃなかったのか。黙って出かければ、大騒ぎになることぐらいわかるだろ。間抜けな高校生だな~。今どきの高校生って、こんなもんか」

 沢富は、黙って出かけたことがどうも納得がいかなかった。伊達が言うように、黙って出かければ大騒ぎになることはわかりきっている。それにもかかわらず、なぜ、黙って出かけたのか?鳥羽という高校生は、数学の天才と聞いている。間抜けなはずがない、何か、考えがあったに違いない。「先輩、トバは、数学の天才です。間抜けじゃありませんよ。計算づくの行動ですよ。きっと、何か、考えがあって、黙って出て行ったんだと思います」

 

 伊達は、まったく納得がいかなかった。どんな考えがあるにしろ、ちょっとしたアキバへの外出なのに、そんなことも確認できず、もし、全国に捜索願を出していたなら、警察は笑いものになっている。その鳥羽という奴は、警察に恨みでもあるんじゃないかと思えてきた。「つまり、警察に捜索願を出させて、間抜けな警察、ザマ~ミロ、ってか。俺たちを笑いものにしようってことか?不定奴だ、イタズラにも、ほどがある。戻ってきたら、とっちめてやる」

 

 沢富は、小さく顔を振った。「そう考えられるかもしれません。中学生や高校生たちの警察や大人たちに対する理由なき反抗です。でも、トバ君に、普通の高校生とは何か違うものを感じるのです。よくわからないのですが、トバとアキちゃんには、なにかぼんやりとした同じような影が見えるんです。何かが共通しているような気がして。類(るい)をもって集まる、っていうじゃないですか」

 

春日信彦
作家:春日信彦
ガンプラの日
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