ライバル

さやかは、おばちゃんと言われ、グサッと来たが、アンナの妹と言われたことで、ちょっとは許す気になった。「まあ、そんなところかな。私は、好き嫌いが激しかったから、背が伸びなかったみたいね。それに比べ、アンナは、好き嫌いがなくて、スポーツ大好き少女だったから、スクスクと大きくなったみたい。それと、おばちゃんじゃなく、これからは、さやかさんって、呼んでね」

 

秀樹は、二人を見比べ、ますます二人に興味がわいてきた。「さやかさんは、まだ学生ですか?高校生?それとも大学生?」学生と言われたさやかは、気絶しそうなほどうれしくなった。「あら、そんなに若く見える。大学を卒業したばかりよ」さやかは、うれしさのあまり、つい大学卒と嘘をついてしまった。間髪いれず、秀樹はどこの大学か尋ねた。「大学は、どちらですか?僕のママは、ケンブリッジ大学です」

 

さやかは、いやみな少年だと内心思ったが、ここで答えなければ、変なうわさを立てられると思いアンナと打ち合わせた大学名を告げた。「まあ、秀樹君のお母様のような名門大学じゃないけど、お嬢様が多い中洲産業大学よ。偏差値は低いけど、芸能人は結構出てるのよ」確かにこの大学は、多くのお笑い芸能人を輩出していたが、オバカ大学でも有名だった。そのことを知っていた秀樹は、ますます亜紀の家族に興味がわいた。

秀樹は、姉であるアンナも同じ大学ではないかと推測し、さらに質問した。「もしかして、アンナお母様もさやかさんと同じ大学ですか?この前の冗談、バリ受けでしたよ」さやかは、ここまで話が進んでは、あとには引けなくなってしまった。「そうなの。アンナも私も芸能コースで、姉妹で漫才師になろうと頑張っていたの。でも、芸能界は、そんなに甘くないのね。まったく、パッとしなくて」

 

秀樹は、漫才師と聞いてアンナの冗談に納得した。「あんなドアホな冗談が言える方って、只者じゃないと思っていました。ヤッパ、漫才師は違いますね。これからも、チョ~ドアホな冗談を聞かせてください」亜紀は初めて聞く大学の話に面食らった。亜紀がさやかの顔をまじまじと見ていると、嘘がばれてはいけないと先手を打って亜紀に声をかけた。「亜紀、二人の漫才、おもろいよね~」ニコッと笑顔を作ったさやかは、亜紀にウインクをした。

 

漫才師は、アンナの中卒をごまかすために思いついた嘘だと亜紀は即座に気づいた。漫才師はさやかの名案だと思い、亜紀もうなずき笑顔で答えた。「そうなのよ。二人の漫才は最高。きっと、いつか、ブレイクすると思う。ママ、さやか、頑張って」マジに答えた亜紀を見ていた秀樹は、漫才師は本当だと信じ込んだ。「そうか、そんなに、おもろいのか。ぜひ、文化祭で漫才を披露してください。全校生徒、喜ぶと思います」

秀樹の追い討ちに、さやかの顔は引きつってしまった。漫才は、あくまでも中卒をごまかすためのもので、人前で漫才を披露すれば、嘘がばれてしまうと思った。でも、ここで人前では無理と言ってしまえば、それこそ、漫才師は嘘だと白状するようなものだと思い、腹をくくって、承知することにした。「そうよね、アンナ、漫才を披露する絶好のチャンスじゃない。やりましょう。文化祭って、いつあるの?」

 

秀樹は、即座に答えた。「9月11日です。是非、お願いします。コンビ名は、ノッポとチビってのは、どうですか?きっと、バカ受けですよ。ボケのノッポにツッコミのチビ、楽しみだな~」アンナは、突然顔色が青くなった。嘘もここまで来ると罪になるように思えて、さやかの名案が恨めしくなった。亜紀も漫才師は嘘だと思っていたから、いったいこの先どうなるのだろうと顔をしかめてしまった。

 

さやかは、腹をくくっていた。亜紀に惨めな思いをさせないためには、背水の陣でやるしかないと思った。「秀樹君、最高の漫才を見せてやるわね。アンナ、取って置きのネタをやってあげましょうよ」それを聞いたアンナは、愕然としてしまったが、すべては亜紀のためと思い、アンナも清水の舞台から飛び降りる気持で返事した。「よっしゃ、やったるで~。笑いすぎて死なんときや。おもろい漫才、ぶちかましたる」ガッツポーズを作り、両膝を広げて、股まで開いて見せた。

亜紀は、二人のやり取りに開いた口がふさがらなかった。中卒をごまかすためとはいえ、本当に漫才ができるのだろうかと不安になった。でも、アンナとさやかの息の合った受け答えを聞いていると、漫才ができそうな気になってきた。亜紀は、アンナのおどけた一面を垣間見られて、アンナとの距離が少し近づいたようで、うれしくなった。亜紀も、野となれ山となれ、の心境になり、二人にエールを送った。「頑張れ、ノッポとチビ」

 

                ライバル

 

 ピンポ~ンと玄関のチャイムが鳴った。アンナが小走りでかけていくと小太りのヒフミンがシャムネコがプリントされたトレーナー姿で玄関前に突っ立っていた。「こんにちは。亜紀ちゃんいますか?」ヒフミンは、近所に住む亜紀より一つ年上の男子で、将棋が大好きな坊やだった。ヒフミンは、ネコが大好きで、ピースに会いたくて時々遊びに来るのだった。ちょっと薄汚い服装のヒフミンを見たとき、ビビッと不吉な予感が起きた。

 

貧乏人を小ばかにする金持ちの秀樹と同席させるとひと悶着起きるのではないかと直感したアンナは、やんわりと笑顔でヒフミンを追い返すことにした。「今、ちょっとお客さんなの。ごめんね~ヒフミン」そのとき、アンナの後ろから亜紀の声が飛び出した。「ヒフミン、いらっしゃい。あがって、クラスのお友達もいるの。さあ」亜紀は、ヒフミンの右手をつかみ、引っ張りあげた。亜紀の歓迎を受けたヒフミンは、アンナの顔色をうかがった。

 

春日信彦
作家:春日信彦
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