サンタの伝言

ひろ子は、眉間にしわを寄せ、しばらく黙り込んだ。亜紀ちゃんは、ちょっと頭がおかしいのではないかと思った。確かにカラスと話ができるかもしれないが、サンタのプレゼントというのは、妄想から生まれたお話ではないかと思った。ひろ子は、信じていいものか迷った。ここで疑って、亜紀ちゃんを怒らせてしまったら、これ以上何もしゃべらなくなるような不安がよぎった。

 

「白いカラスさん、ってアメリカにいるカラスさんとお友達なの?」亜紀は、目じりを下げて、小さな声で話した。「よくわかんない、白いカラスさんが、そう言ってただけだから。白いカラスは、風来坊といってね、江戸からやってきたんだって」ひろ子は、頭はいいかもしれないが、妄想癖のある子だと思った。亜紀を傷つけてはいけないと思い、もう少し話をすることにした。

 

「それじゃ、もしもよ、大統領が、世界中の子供たちにプレゼントをするって言ったら、本当に、カラスはみんなが喜ぶプレゼントになるの?」亜紀は、即座に答えた。「当然よ。風来坊は、いつも胸を張って、えらそうにしているけど、嘘は言わないわ。亜紀は、信じてるもん」ひろ子は、もう少し妄想に付き合うことにした。ここまで、カラスの言っていることを信じているなら、実行してみることにした。

「亜紀ちゃん、風来坊さんを連れて、アメリカに行ってみようか。風来坊さんに、大統領の言葉をホワイトハウスのカラスさんたちに伝えてもらいましょうよ。それは、できるよね」亜紀は、しばらく考えて、返事した。「風来坊に聞いてみないと、わかんない」ひろ子もムキになってきた。「それじゃ、風来坊さんに聞いてみてよ。お願い」亜紀は、北向きの窓から公園を覗いた。「それじゃ、ちょっと、待ってて、公園に行ってみる」

 

亜紀は、お店のドアを勢いよく押し開け、かけて行った。10分ほどすると、亜紀は、息を切らせて戻ってきた。「お待たせ、お姉さん、オーケー。風来坊がついてきてくれるんだって。本当に、大統領が世界中の子供たちにプレゼントをすれば、カラスはみんなが喜ぶプレゼントに変身するんだってよ。アメリカにレッツゴー」ひろ子は、とんでもない展開になってしまったと思った。亜紀ちゃんは、アメリカ旅行をしたくて、こんな作り話をしているのではないか、とふとひろ子は思った。

 

ひろ子は、自分の浅はかさを反省した。亜紀の夢を壊さないようにひとまず退散することにした。「分かったわ。とにかく、大統領にこの話をしてみるわね。もし、大統領から、オーケーがもらえたら、アメリカに行きましょう」まさかこんな展開になるとは予想していなかったひろ子は、沢富刑事に相談することにした。早速、ひろ子は、沢富刑事に電話した。

おバカな刑事

 

 ひろ子は、土曜の午後7時に、伊達刑事のマンションで亜紀の話をすることになった。伊達刑事の左横にナオ子、沢富刑事の右横にひろ子が、テーブルを囲んでいた。三人は、ひろ子の話が始まるのをじっと固唾を呑んで待っていた。ひろ子は、大きく深呼吸して、口火を切った。「先日、亜紀ちゃんに会ってきました。亜紀ちゃんは、確かにカラスとお話ができるようです。でも、ちょっと、話が妄想的で、上手に話せないかもしれませんが、とにかく、亜紀ちゃんの言ったことをお話します」

 

 三人は、小さくうなずいた。「亜紀ちゃんには、白いカラスのお友達がいます。その白いカラスは、風来坊と言うそうです。亜紀ちゃんは、風来坊とお話しをして、ホワイトハウスのカラスのことを知ったと思われます。風来坊が、亜紀ちゃんに言った内容は、ホワイトハウスのカラスは、サンタのプレゼントだそうです。そして、それらのカラスは、大統領が世界中の子供たちにプレゼントをあげれば、みんなが喜ぶプレゼントに変身するそうです。つまり、大統領が、世界中の子供たちにプレゼントをあげれば、カラステロは、解決すると言うことです」

 

 三人は、きょとんとして、まったく言葉が出なかった。三人は、黙っていたが、沢富刑事が、質問した。「亜紀ちゃんは、普通の子供ですか?妄想癖のある子供じゃありませんか?」ひろ子は、何と言って返事していいか、困惑したが、素直な気持を述べた。「私も、最初は、子供の妄想だと思いました。でも、話をするにしたがって、亜紀ちゃんを疑えなくなってしまいました。亜紀ちゃんは、白いカラスを信じているみたいです。だから、純粋な目で、私を見つめるのです。そんな眼を見ていると、作り話はやめなさい、とはいえなくなりました」

三人は、目じりを下げて小さくうなずいた。しばらく沈黙が続き、伊達刑事は、少し冷めたお茶をすすった。伊達刑事は、静かに話し始めた。「ウム~~、何と言っていいか、妄想と言えばそれで片付くんだが、どうも後味が悪い。馬鹿なことをするようだが、この話を警察庁長官に話してみてはどうだろうか?」沢富刑事は、顔を引きつらせてしまった。「先輩、それは、ちょっと、刑事たるものが、子供の妄想を信じたとなると、今後の出世にひびくと思います。やめておいたほうがいいんじゃ」

 

 ナオ子も同感だった。「あなた、それだけはやめてください。出世どころか、刑事をクビになってしまいますよ。お願いですから、冷静になって、あなた」ひろ子もナオ子と同じだった。「今の話は、亜紀ちゃんの言ったことをそのまま、伝えたに過ぎません。子供の妄想を傷つけるのは、忍びないですが、だからといって、子供の妄想にそこまで付き合う必要はないと思います。こちらも、大統領に相談したところ、プレゼントは無理だった、と嘘を言えばいいと思います」

 

 目をつぶり腕組みをした伊達刑事は、静かに考え込んだ。三人は、伊達刑事をじっと見つめていた。大きく目を見開いた伊達刑事は、ニコッと笑顔を作って、低い声で話し始めた。「腹を決めた。俺は、刑事を辞める」ナオ子のヒャ~~~と言う悲鳴が部屋中に響き渡った。「あなた、なにを言っているか、分かっているの?冗談は、やめてください」沢富刑事も興奮して話し始めた。

春日信彦
作家:春日信彦
サンタの伝言
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