サンタの伝言

三人は、目じりを下げて小さくうなずいた。しばらく沈黙が続き、伊達刑事は、少し冷めたお茶をすすった。伊達刑事は、静かに話し始めた。「ウム~~、何と言っていいか、妄想と言えばそれで片付くんだが、どうも後味が悪い。馬鹿なことをするようだが、この話を警察庁長官に話してみてはどうだろうか?」沢富刑事は、顔を引きつらせてしまった。「先輩、それは、ちょっと、刑事たるものが、子供の妄想を信じたとなると、今後の出世にひびくと思います。やめておいたほうがいいんじゃ」

 

 ナオ子も同感だった。「あなた、それだけはやめてください。出世どころか、刑事をクビになってしまいますよ。お願いですから、冷静になって、あなた」ひろ子もナオ子と同じだった。「今の話は、亜紀ちゃんの言ったことをそのまま、伝えたに過ぎません。子供の妄想を傷つけるのは、忍びないですが、だからといって、子供の妄想にそこまで付き合う必要はないと思います。こちらも、大統領に相談したところ、プレゼントは無理だった、と嘘を言えばいいと思います」

 

 目をつぶり腕組みをした伊達刑事は、静かに考え込んだ。三人は、伊達刑事をじっと見つめていた。大きく目を見開いた伊達刑事は、ニコッと笑顔を作って、低い声で話し始めた。「腹を決めた。俺は、刑事を辞める」ナオ子のヒャ~~~と言う悲鳴が部屋中に響き渡った。「あなた、なにを言っているか、分かっているの?冗談は、やめてください」沢富刑事も興奮して話し始めた。

「ちょっと、冗談がきついですよ。こんな話、この辺でやめましょう。亜紀ちゃんには、ひろ子さんから、上手に話してもらえばいいじゃなですか。だいの大人が、子供の妄想に踊らされるなんて、ばかげています、そうでしょ、ひろ子さん」ひろ子は沢富刑事に大きくうなずいた。「そうですとも、こんな話をした私もバカでしいた。子供の妄想を真に受けるなんて。妄想の話は、お仕舞いにしましょう」

 

 伊達刑事は、目を吊り上げ、さっと立ち上がった。そして、沢富刑事の前に立つとストンと腰を落とし土下座した。「頼む、お前から、警察庁長官に話してくれ。全責任は、俺が取る。俺は、亜紀ちゃんを信じる。頼む、この通りだ」三人は、気でもふれたのかと開いた口がふさがらなかった。沢富刑事は、指を震わせながら、伊達刑事の左肩に指先を当てた。「先輩、分かりました。頭を上げてください。僕も、やるだけのことは、やってみます」

 

 頭を上げた伊達刑事の目から、涙が零れ落ちていた。「すまんな~、馬鹿な上司を持って。一生に一度のお願いだ。お前には、決して迷惑はかけん」伊達刑事は、立ち上がり、自分の席に戻った。ナオ子は、不安げな顔で沢富刑事に尋ねた。「そんなことして大丈夫なの。沢富さんのお父様にご迷惑がかかるんじゃないの?」沢富刑事は、笑顔で答えた。「僕も腹をくくりました。先輩がやめるときは、僕もやめます」

 伊達刑事の顔が引きつった。「おい、お前は関係ない。全責任は、俺が取る。やめるのは、俺だけでいい。馬鹿なことは言うな」沢富刑事は、平然と言い放った。「いいじゃありませんか。子供を信じて、刑事を辞めたって。子供を信じられないようでは、刑事は失格ですよ。オヤジには、そのことは伝えます。オヤジも分かってくれるはずです。亜紀ちゃんを、みんなで信じましょう」ナオ子とひろ子は、見詰め合うと、小さくうなずいた。

 

 沢富刑事は、父親である警察庁長官に亜紀ちゃんのことと刑事としての今後のことを話した。刑事をやめると聞かされた父親も腹をくくり、総理にすべてを話した。総理は、カラスを除去する交換条件として、大統領が世界中の子供たちにプレゼントをすること、と聞いて、ちょっと、ひらめいた。世界中の子供たちにプレゼントをあげる、と大統領が世界に宣言したならば、天才がいたずらをやめるのではないかと。たとえ、少女とカラスとの交渉がうまくいかなくて、カラスが除去できなかったとしても、賞賛を浴びることになるのではないかと。

 

 総理は、早速、米国務大臣に、カラスと会話できる少女が日本に一人いること、また、カラスを除去するために、世界中の子供たちにプレゼントをしてほしいことを伝えた。返事は、即座に帰ってきた。了解とのことだった。また、大統領専用機で少女を迎えに行くとのことだった。そして、カラスと話ができる少女のニュースは、瞬く間に、世界中に広まった。亜紀は、伊達刑事が付き添いアメリカに行くことになった。 

 

平和のプレゼント

 

 12月23日の午後5時、亜紀と風来坊と伊達刑事は、DC警察の護衛を受け、リンカーンでワシントン記念塔に到着した。そして、即座に、大統領は、世界中のメディアを使って、子供たちにプレゼントを贈る約束を発表した。そのことを確認した亜紀は、風来坊にそのことを伝えた。風来坊は、うなずくと、カラスが群がるホワイトハウスに向かって、飛んでいった。

 

20分ほどすると、風来坊は戻ってきた。そして、風来坊は、24日の午前零時、ホワイトハウスに群がるカラスたちは一斉に飛び立つ、と亜紀に伝えた。亜紀は、そのことを伊達刑事に伝え、伊達刑事は、通訳に伝え、通訳は、大統領補佐官に伝え、大統領補佐官は、大統領に伝えた。そして、大統領は、世界中のメディアに、そのことを伝えた。世界中の人々は、午前零時に本当にカラスが飛び立つのか確かめようと、じっとテレビ、PC,携帯電話を見つめていた。

 

亜紀は、カラスと会話ができる少女と言うことで、一躍、時の人となった。午前零時まで、まだ時間があるため、亜紀と風来坊と伊達刑事は、SNT24テレビ局で待機することになった。二人と白いカラスは、世界中のテレビに映し出された。そこには、世界的に有名な鳥類学者、ジョンが招待されていた。ニュースキャスターのマイケルは、亜紀に質問した。「ホワイトハウスのカラスたちは、大統領にどんな要望をしたのですか?」

春日信彦
作家:春日信彦
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