サンタの伝言

平和のプレゼント

 

 12月23日の午後5時、亜紀と風来坊と伊達刑事は、DC警察の護衛を受け、リンカーンでワシントン記念塔に到着した。そして、即座に、大統領は、世界中のメディアを使って、子供たちにプレゼントを贈る約束を発表した。そのことを確認した亜紀は、風来坊にそのことを伝えた。風来坊は、うなずくと、カラスが群がるホワイトハウスに向かって、飛んでいった。

 

20分ほどすると、風来坊は戻ってきた。そして、風来坊は、24日の午前零時、ホワイトハウスに群がるカラスたちは一斉に飛び立つ、と亜紀に伝えた。亜紀は、そのことを伊達刑事に伝え、伊達刑事は、通訳に伝え、通訳は、大統領補佐官に伝え、大統領補佐官は、大統領に伝えた。そして、大統領は、世界中のメディアに、そのことを伝えた。世界中の人々は、午前零時に本当にカラスが飛び立つのか確かめようと、じっとテレビ、PC,携帯電話を見つめていた。

 

亜紀は、カラスと会話ができる少女と言うことで、一躍、時の人となった。午前零時まで、まだ時間があるため、亜紀と風来坊と伊達刑事は、SNT24テレビ局で待機することになった。二人と白いカラスは、世界中のテレビに映し出された。そこには、世界的に有名な鳥類学者、ジョンが招待されていた。ニュースキャスターのマイケルは、亜紀に質問した。「ホワイトハウスのカラスたちは、大統領にどんな要望をしたのですか?」

亜紀は、少し緊張していたが、小さな笑顔を作って、風来坊から聞いたことを話した。「風来坊から聞いたんですが、カラスたちは、サンタのプレゼントだそうです。世界中の子供たちに“平和のプレゼント”をしてくれるならば、カラスたちは、みんなが喜ぶプレゼントになって、飛び立つそうです。世界中の子供たちとは、先進国の豊かな子供たちはもちろん、シリア、アフガニスタン、スーダン、イスラエル、北朝鮮、中国、インド、ネパール、日本などの孤児や貧しい子供たちです。それと、戦争から逃れている難民の子供たちです」

 

世界中の人々は、亜紀のコメントに愕然とした。彼らは、プレゼントをおもちゃとかお菓子だと思っていた。ところが、サンタが要望したのは、物ではなく、愛だった。マイケルは、ジョンの意見を聞いた。「ジョンさん、サンタの要望は、聞き入れられるでしょうか?サンタが要望してきたプレゼントを大統領はお金だと勘違いしていると思われますが、この点はいかがでしょう」

 

ジョンは、右手の中指でほんの少しメガネを押し上げ、答えた。「大統領は、分かっています。おもちゃやお菓子をプレゼントすると同時に、子供たちが元気に暮らせるように、無駄な武器を拾い集めてくれることでしょう」疑いの眼差しをしたマイケルは、時間を気にしながら、視聴者の気持を代弁するように、質問した。「もう少しで、零時です。亜紀ちゃん、サンタは、約束をまもってくれるでしょうか?」

亜紀は、イラッとした顔で返事した。「サンタさんが、約束を破ることは、決してありません」少し怒ったような顔をした亜紀に伊達刑事は、顔をキョロキョロさせた。すかさず、マイケルは、大人の意見を言わせようと、伊達刑事に質問した。「刑事さんも、サンタは、約束を守ると思われますか?」伊達刑事は、何と答えて言いか困惑した。まさか、だいの大人がサンタを信じているとは言えず、かといって、信じていないともいえず、顔が真っ赤になった。

 

腹をくくっていた伊達刑事は、破れかぶれで、怒鳴るような大きな声で、返事した。「はい、亜紀ちゃんが言うんだから、間違いありません」亜紀は、笑顔を作り、左横の伊達刑事を見上げた。スタジオ内が、ド~~とどよめいた。テレビを見ている世界中の人たちも、感嘆の声を上げた。世界中の人々は、刑事を馬鹿にするどころか、尊敬の眼差しで見つめた。もはや、伊達刑事は、世界的ヒーローになってしまった。

 

午前零時は、すぐそこに迫ってきた。マイケルは、カウントを始めた。9・8・7・6・5・4・3・2・1テレビの画面にホワイトハウスがクローズアップされた。10,000羽以上の黒いカラスたちは、いっせいに羽ばたき始めた。そのときだった、黒いはずのカラスは、赤、オレンジ、黄色、緑、水色、青、紫、の光輝く色のカラスとなり、夜空に舞い上がった。そのとき、光り輝く真っ白い小雪が夜空にきらめき、サンタの歌声が世界中に響き渡った。

真っ赤なお鼻の トナカイさんは いつもみんなの わらいもの 

でもその年の クリスマスの日 サンタのおじさんは いいました 

暗い夜道は ぴかぴかの お前の鼻が 役に立つのさ 

いつも泣いてた トナカイさんは 今宵こそはと よろこびました

 

世界中に散らばるテロの傭兵たちは、奇跡に驚き、手に持っていた武器を落としてしまった。たった一人でバカを演じた伊達刑事は、亜紀ちゃんをおんぶして夜空を眺めていた。子供がいない彼は、そっと心の底でつぶやいた。亜紀ちゃんが、自分の子供だったらな~。彼は、亜紀に声をかけた。「亜紀ちゃん、ありがとう」亜紀は、あったかい背中で夢を見ていた。亜紀にとって、生まれてはじめてのおんぶだった。

春日信彦
作家:春日信彦
サンタの伝言
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