サンタの伝言

突然、アンナの大きな声が響いた。「ア~、いけない、迎えに行かなくっちゃ。ひろ子さん、亜紀を駅に迎えに行ってきます。ちょっと、待っていてください」アンナは、彼女の茶碗にほうじ茶を注ぎ、あわてて飛び出していった。南側のガレージから、勢いよくシルバーのベンツが飛び出していった。このとき、亜紀ちゃんが地下鉄で学校に通っていることに気づいた。10分もするとベンツは戻ってきた。

 

亜紀は、自分の部屋で着替えを済ませて、店内で首を長くして待っていたひろ子のところにやってきた。亜紀は、礼儀正しく、お辞儀をして挨拶した。「こんにちは。亜紀です」アンナは、亜紀をひろ子の正面に腰掛けさせた。ひろ子も丁寧に挨拶した。「はじめまして、口森ひろ子です。こちらこそよろしく」アンナは、早速、ひろ子がカラオケ女王であることを教えた。「亜紀、ほら、この前、テレビで見たカラオケ女王さん。憶えているでしょ。サインもらっちゃった」

 

亜紀は、タクシーの運転手がカラスについて聞きたいことがあると車の中で聞かされ、いったいどんなことかと不安な気持になっていた。「憶えています、福岡県大会で優勝された方ですね。本当にお上手ですね」亜紀は、カラオケ女王がカラスとどんな関係があるのだろうと首をかしげた。ひろ子は、早速、カラスの話をすることにした。「ぶしつけでごめんね。一刻を争うことだから、許してね。亜紀ちゃんは、カラスが好きで、よく、カラスとお話しするんだってね。カラスの気持が分かるの?」

突然の質問に目を丸くした亜紀だったが、動物との会話について平然とした顔で説明した。「亜紀は、動物とお話しするのが好きなの。猫、犬、カラス、ハト、すずめ、ウサギ、ヘビ、いろんな動物とお話しするの。白いカラスは、親友なのよ」ひろ子は、もしかすると、特殊な能力を持っている子じゃないかと直感した。「カラスとお話できるってことは分かったわ。亜紀ちゃんも、知ってるよね。カラステロのこと」

 

亜紀は、ハイと元気よく返事した。「でも、ちょっとちがうよ。あれは、カラステロじゃなくて、サンタのプレゼント。白いカラスがそう言っていたの」ひろ子は、ちょっと頭が混乱した。カラスを追い払えるかどうか尋ねようかと思っていた矢先に、カラスは、サンタのプレゼントといわれては、何と言って、話を進めればいいか分からなくなった。でも、アメリカは、カラスの大群に困っているわけだから、ここで引き下がるわけには行かなかった。

 

「あのカラスは、サンタのプレゼント?でも、アメリカは、とっても困っているみたいよ。どうして、カラスの大群が、サンタのプレゼントなの?」亜紀は、一度首をかしげて、返事した。「よくわかんない。でも、白いカラスさんが言うには、サンタのプレゼントだって。大統領が、世界中の子供たちにプレゼントをあげたら、カラスは、みんなが喜ぶプレゼントに変わるんだってよ」

 

ひろ子は、眉間にしわを寄せ、しばらく黙り込んだ。亜紀ちゃんは、ちょっと頭がおかしいのではないかと思った。確かにカラスと話ができるかもしれないが、サンタのプレゼントというのは、妄想から生まれたお話ではないかと思った。ひろ子は、信じていいものか迷った。ここで疑って、亜紀ちゃんを怒らせてしまったら、これ以上何もしゃべらなくなるような不安がよぎった。

 

「白いカラスさん、ってアメリカにいるカラスさんとお友達なの?」亜紀は、目じりを下げて、小さな声で話した。「よくわかんない、白いカラスさんが、そう言ってただけだから。白いカラスは、風来坊といってね、江戸からやってきたんだって」ひろ子は、頭はいいかもしれないが、妄想癖のある子だと思った。亜紀を傷つけてはいけないと思い、もう少し話をすることにした。

 

「それじゃ、もしもよ、大統領が、世界中の子供たちにプレゼントをするって言ったら、本当に、カラスはみんなが喜ぶプレゼントになるの?」亜紀は、即座に答えた。「当然よ。風来坊は、いつも胸を張って、えらそうにしているけど、嘘は言わないわ。亜紀は、信じてるもん」ひろ子は、もう少し妄想に付き合うことにした。ここまで、カラスの言っていることを信じているなら、実行してみることにした。

「亜紀ちゃん、風来坊さんを連れて、アメリカに行ってみようか。風来坊さんに、大統領の言葉をホワイトハウスのカラスさんたちに伝えてもらいましょうよ。それは、できるよね」亜紀は、しばらく考えて、返事した。「風来坊に聞いてみないと、わかんない」ひろ子もムキになってきた。「それじゃ、風来坊さんに聞いてみてよ。お願い」亜紀は、北向きの窓から公園を覗いた。「それじゃ、ちょっと、待ってて、公園に行ってみる」

 

亜紀は、お店のドアを勢いよく押し開け、かけて行った。10分ほどすると、亜紀は、息を切らせて戻ってきた。「お待たせ、お姉さん、オーケー。風来坊がついてきてくれるんだって。本当に、大統領が世界中の子供たちにプレゼントをすれば、カラスはみんなが喜ぶプレゼントに変身するんだってよ。アメリカにレッツゴー」ひろ子は、とんでもない展開になってしまったと思った。亜紀ちゃんは、アメリカ旅行をしたくて、こんな作り話をしているのではないか、とふとひろ子は思った。

 

ひろ子は、自分の浅はかさを反省した。亜紀の夢を壊さないようにひとまず退散することにした。「分かったわ。とにかく、大統領にこの話をしてみるわね。もし、大統領から、オーケーがもらえたら、アメリカに行きましょう」まさかこんな展開になるとは予想していなかったひろ子は、沢富刑事に相談することにした。早速、ひろ子は、沢富刑事に電話した。

春日信彦
作家:春日信彦
サンタの伝言
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