サンタの伝言

アンナは、自宅前に到着すると声をかけた。「ここでいいです。あそこの駐車場に入ってください」運転手は、甘党茶屋駐車場と表示された、お店の向かい側にある駐車場に車を入れた。アンナは、運転手を甘党茶屋に案内し、即座に着替えをして、ぜんざいの準備に取り掛かった。運転手は、カラスと話ができるという亜紀ちゃんに会えると思うと、ワクワクして、落ち着かなかった。

 

テーブルでキョロキョロしている運転手に、営業用の笑顔を作ったアンナは、ぜんざいを彼女の前にそっといた。「どうぞ、寒い日は、ぜんざいですよ。とっても体があったまります」運転手は、甘いものに目がなく、手当たりしだい食べる癖があり、太り始めた体が気になり、ダイエット中だった。しかし、せっかく作ってくれたぜんざいを断るわけに行かず、笑顔で食べることにした。「あ~~、いい香り。ぜんざい、大好きなんです。いただきま~す」

 

笑顔で食べてくれた運転手を見てほっとしたアンナは、早速サインをお願いすることにした。奥の厨房に準備していた色紙を取りにかけて行くと、すぐにかけ戻ってきた。「運転手さん、サインお願いしてもよろしいですか。食べてからでいいですから」運転手は、うなずき、おいしそうにぜんざいをすすり、モグモグと口を動かし白玉団子を食べた。食べ終えた運転手は、色紙を手に取り、口森ひろ子、と草書でスラスラと書いた。

 

色紙を受け取ったアンナは、まじまじと見つめ、大きくうなずき笑顔を作って、ありがとう、と言って頭を下げた。「ひろ子さん、得意な歌にどんなのがあるんですか?」カラオケ女王は、小さな笑顔を作り、答えた。「坂本冬美さんの夜桜お七、テレサ・テンさんの別れの予感、演歌は、何でも歌います。でも、演歌以外も歌えるんですよ。松任谷由美さんの歌とかも」

 

アンナは、演歌以外も歌えると聞いて、ぜひ、今、この場で聞きたくなった。「松任谷由美さんの歌も歌えるんですか。できれば、今ここで、松任谷由美さんの歌を何か歌っていただけませんか。お願いします」カラオケ女王は、ちょっと首をかしげ、パッと目を輝かせて、返事した。「それでは、恋人がサンタクロース、アカペラに挑戦してみます」カラオケ女王は、席を立つと、フロアの中央に立って、お辞儀をした。

 

昔となりのおしゃれなおねえさんは クリスマスの日 私に云った 今夜 8時になれば サンタが家にやって来る ちがうよ それは絵本だけのおはなし そういうわたしに ウィンクして でもね 大人になれば あなたもわかる そのうちに 恋人がサンタクロース 本当はサンタクロース つむじ風~~、

突然、アンナの大きな声が響いた。「ア~、いけない、迎えに行かなくっちゃ。ひろ子さん、亜紀を駅に迎えに行ってきます。ちょっと、待っていてください」アンナは、彼女の茶碗にほうじ茶を注ぎ、あわてて飛び出していった。南側のガレージから、勢いよくシルバーのベンツが飛び出していった。このとき、亜紀ちゃんが地下鉄で学校に通っていることに気づいた。10分もするとベンツは戻ってきた。

 

亜紀は、自分の部屋で着替えを済ませて、店内で首を長くして待っていたひろ子のところにやってきた。亜紀は、礼儀正しく、お辞儀をして挨拶した。「こんにちは。亜紀です」アンナは、亜紀をひろ子の正面に腰掛けさせた。ひろ子も丁寧に挨拶した。「はじめまして、口森ひろ子です。こちらこそよろしく」アンナは、早速、ひろ子がカラオケ女王であることを教えた。「亜紀、ほら、この前、テレビで見たカラオケ女王さん。憶えているでしょ。サインもらっちゃった」

 

亜紀は、タクシーの運転手がカラスについて聞きたいことがあると車の中で聞かされ、いったいどんなことかと不安な気持になっていた。「憶えています、福岡県大会で優勝された方ですね。本当にお上手ですね」亜紀は、カラオケ女王がカラスとどんな関係があるのだろうと首をかしげた。ひろ子は、早速、カラスの話をすることにした。「ぶしつけでごめんね。一刻を争うことだから、許してね。亜紀ちゃんは、カラスが好きで、よく、カラスとお話しするんだってね。カラスの気持が分かるの?」

突然の質問に目を丸くした亜紀だったが、動物との会話について平然とした顔で説明した。「亜紀は、動物とお話しするのが好きなの。猫、犬、カラス、ハト、すずめ、ウサギ、ヘビ、いろんな動物とお話しするの。白いカラスは、親友なのよ」ひろ子は、もしかすると、特殊な能力を持っている子じゃないかと直感した。「カラスとお話できるってことは分かったわ。亜紀ちゃんも、知ってるよね。カラステロのこと」

 

亜紀は、ハイと元気よく返事した。「でも、ちょっとちがうよ。あれは、カラステロじゃなくて、サンタのプレゼント。白いカラスがそう言っていたの」ひろ子は、ちょっと頭が混乱した。カラスを追い払えるかどうか尋ねようかと思っていた矢先に、カラスは、サンタのプレゼントといわれては、何と言って、話を進めればいいか分からなくなった。でも、アメリカは、カラスの大群に困っているわけだから、ここで引き下がるわけには行かなかった。

 

「あのカラスは、サンタのプレゼント?でも、アメリカは、とっても困っているみたいよ。どうして、カラスの大群が、サンタのプレゼントなの?」亜紀は、一度首をかしげて、返事した。「よくわかんない。でも、白いカラスさんが言うには、サンタのプレゼントだって。大統領が、世界中の子供たちにプレゼントをあげたら、カラスは、みんなが喜ぶプレゼントに変わるんだってよ」

 

春日信彦
作家:春日信彦
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