サンタの伝言

アンナは、彼女の歌唱力ならきっと歌手になれると思った。「それは違うと思うわ。演歌歌手は、顔じゃないわ、歌唱力よ。私だったら、スカウトするわ。芸能界って、見る目がないのね」運転手は、うれしくなったが、もうこの年では、歌手になれないと思った。「ありがとうございます。もう、トシですから、趣味で楽しみたいと思っています」悲観的な運転手に、アンナは、気合を入れた。

 

「トシって、アイドル歌手じゃあるまいし、演歌歌手は、トシもルックスも関係ないでしょ、歌唱力とハートです。そんなに簡単にあきらめず、チャレンジしなさいよ。日本一になって、プロ歌手になってください。あなたなら、できます」運転手は、歌手になりたいと言う気持をとっくの昔に捨てていたが、顔を真っ赤にして応援してくれるファンの言葉を聞いていると、昔の情熱がよみがえった。

 

「本当に、ありがとうございます。とにかく、全国大会は、自分の力を出し切ります。ところで、話は変わりますが、カラステロのこと、ご存知ですか?」アンナは、突然の話題転換に面食らったが、世界中の誰しも知っている話題に当然のごとく返事した。「知ってますとも、いったい、誰のいたずらかしら?」運転手は、さっそく、聞き込みを開始することにした。

「カラスを除去すると100万ドルの報奨金が出るそうなんですが、鳥類学者でも、警察でも、軍隊でも、除去できないそうです。思うんですが、大人では、カラスを除去できないと思うんです」アンナは、大人では、と言ったことに疑問を感じた。「大人では、できないと言うことは、子供だったら、できると言うことですか?」運転手は、もう少し具体的に話すことにした。

 

「あくまでも、推測ですが、カラスを呼び寄せることができる機械を発明した天才が、ホワイトハウスにカラスを集めていると思うんです。きっと、これは、テロじゃなくて、いたずらだと思うんですよ。有名な鳥類学者が除去できないと言うことは、このような機械は、発明した天才しか持っていないということです。と言うことは、カラスを除去できるのは、この機会を発明した天才だけと言うことになります」

 

アンナの頭は、キリキリ痛み始めた。単細胞のアンナの頭は、回りくどい話に拒絶反応を示すのだった。「もっと、簡単に話してくれませんか?」運転手は、単刀直入に分かりやすく話すことにした。「回りくどい話をしてすみません。つまり、カラスを除去できる大人は世界中にたった一人、その人は、カラスを呼び寄せることができる機械を発明した天才です」

アンナは、運転手の言いたいことを察した。つまり、その天才を探し出して、いたずらをやめさせればいいのだと。「つまり、その天才を探せばいい、ということですね」運転手は、その天才を探し出せたとしても、いたずらをやめないような気がしていた。「確かに、おっしゃるとおりですが、その天才は、いたずらをやめないでしょう。そこで、カラスを追い払うには、カラスにお願いする以外ないということです」

 

アンナは、中卒でかなり頭が悪いと思っていたが、この運転手は、自分よりもっとバカじゃないかと思った。自分よりバカがいたと思い、からかってやった。「カラスにお願いするっておっしゃいますが、いったい誰がお願いするんですか?カラス語が話せる人間がいるんですか?」運転手は、待ってましたとばかり、即座に返事した。「そこなんです。お客さんは、聞いたことはありませんか?動物と話ができる人がいるって」

 

ネコと話している亜紀の姿が、アンナの頭にポッと浮かび上がった。「まあ、いるにはいるでしょう。ウチの子もネコと話しますから」運転手は、赤信号に気づき、急ブレーキをかけた。車が止まると即座に話を続けた。「そうでしょ。動物と話ができる子供がいるんですよ。お宅のお子さんは、カラスは、好きですか?」アンナは、カラスと聞いて、忌々しい白いカラスを思い出した。

「私は、カラスが大嫌いです。公園にいるカラスが、私を見つめて、アホ~アホ~、って鳴くんですよ。いつか、撃ち落してやろうと思っているんです。でも、亜紀は、カラスが好きみたいです。どこが、かわいいのか?」運転手は、信号機が青に変わると、ゆっくりアクセルを踏み込んだ。「え、カラスが好きなんですか?お宅のお子さん、カラスとお話とかされますか?」忌々しい白いカラスの話題はしたくなかったが、カラスと楽しそうに話す亜紀のことを話すことにした。

 

「他人には言わないでくださいよ。亜紀は、カラスと楽しそうに話をするんです。とにかく、気味が悪くって、今日も、そのことで、先生に相談したところなんです」運転手は、犬も歩けば棒にあたる、とはこのことだと思った。「お客さん、ぜひ、亜紀ちゃんに会わせていただけませんか。お願いします」アンナは、そのついでにサインをもらうことにした。「それは、かまいませんけど。お願いなんですが、サインをいただけますか?」

 

運転手は、大喜びで返事した。「私のようなものでよかったら、何枚でも」アンナは、甘党茶屋でぜんざいをご馳走することにした。「ちょっと、公園の茶店で休憩なさってください。亜紀は、2時半ごろ帰ってきますから、それまで、ごゆっくりなさってください」タクシーは、産の宮交差点を左折し、3分ほど南に走って井田の交差点を右折した。右手に見える前原東中学校を通過したタクシーは、すぐに左折した。

 

春日信彦
作家:春日信彦
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