サンタの伝言

「カラスを除去すると100万ドルの報奨金が出るそうなんですが、鳥類学者でも、警察でも、軍隊でも、除去できないそうです。思うんですが、大人では、カラスを除去できないと思うんです」アンナは、大人では、と言ったことに疑問を感じた。「大人では、できないと言うことは、子供だったら、できると言うことですか?」運転手は、もう少し具体的に話すことにした。

 

「あくまでも、推測ですが、カラスを呼び寄せることができる機械を発明した天才が、ホワイトハウスにカラスを集めていると思うんです。きっと、これは、テロじゃなくて、いたずらだと思うんですよ。有名な鳥類学者が除去できないと言うことは、このような機械は、発明した天才しか持っていないということです。と言うことは、カラスを除去できるのは、この機会を発明した天才だけと言うことになります」

 

アンナの頭は、キリキリ痛み始めた。単細胞のアンナの頭は、回りくどい話に拒絶反応を示すのだった。「もっと、簡単に話してくれませんか?」運転手は、単刀直入に分かりやすく話すことにした。「回りくどい話をしてすみません。つまり、カラスを除去できる大人は世界中にたった一人、その人は、カラスを呼び寄せることができる機械を発明した天才です」

アンナは、運転手の言いたいことを察した。つまり、その天才を探し出して、いたずらをやめさせればいいのだと。「つまり、その天才を探せばいい、ということですね」運転手は、その天才を探し出せたとしても、いたずらをやめないような気がしていた。「確かに、おっしゃるとおりですが、その天才は、いたずらをやめないでしょう。そこで、カラスを追い払うには、カラスにお願いする以外ないということです」

 

アンナは、中卒でかなり頭が悪いと思っていたが、この運転手は、自分よりもっとバカじゃないかと思った。自分よりバカがいたと思い、からかってやった。「カラスにお願いするっておっしゃいますが、いったい誰がお願いするんですか?カラス語が話せる人間がいるんですか?」運転手は、待ってましたとばかり、即座に返事した。「そこなんです。お客さんは、聞いたことはありませんか?動物と話ができる人がいるって」

 

ネコと話している亜紀の姿が、アンナの頭にポッと浮かび上がった。「まあ、いるにはいるでしょう。ウチの子もネコと話しますから」運転手は、赤信号に気づき、急ブレーキをかけた。車が止まると即座に話を続けた。「そうでしょ。動物と話ができる子供がいるんですよ。お宅のお子さんは、カラスは、好きですか?」アンナは、カラスと聞いて、忌々しい白いカラスを思い出した。

「私は、カラスが大嫌いです。公園にいるカラスが、私を見つめて、アホ~アホ~、って鳴くんですよ。いつか、撃ち落してやろうと思っているんです。でも、亜紀は、カラスが好きみたいです。どこが、かわいいのか?」運転手は、信号機が青に変わると、ゆっくりアクセルを踏み込んだ。「え、カラスが好きなんですか?お宅のお子さん、カラスとお話とかされますか?」忌々しい白いカラスの話題はしたくなかったが、カラスと楽しそうに話す亜紀のことを話すことにした。

 

「他人には言わないでくださいよ。亜紀は、カラスと楽しそうに話をするんです。とにかく、気味が悪くって、今日も、そのことで、先生に相談したところなんです」運転手は、犬も歩けば棒にあたる、とはこのことだと思った。「お客さん、ぜひ、亜紀ちゃんに会わせていただけませんか。お願いします」アンナは、そのついでにサインをもらうことにした。「それは、かまいませんけど。お願いなんですが、サインをいただけますか?」

 

運転手は、大喜びで返事した。「私のようなものでよかったら、何枚でも」アンナは、甘党茶屋でぜんざいをご馳走することにした。「ちょっと、公園の茶店で休憩なさってください。亜紀は、2時半ごろ帰ってきますから、それまで、ごゆっくりなさってください」タクシーは、産の宮交差点を左折し、3分ほど南に走って井田の交差点を右折した。右手に見える前原東中学校を通過したタクシーは、すぐに左折した。

 

アンナは、自宅前に到着すると声をかけた。「ここでいいです。あそこの駐車場に入ってください」運転手は、甘党茶屋駐車場と表示された、お店の向かい側にある駐車場に車を入れた。アンナは、運転手を甘党茶屋に案内し、即座に着替えをして、ぜんざいの準備に取り掛かった。運転手は、カラスと話ができるという亜紀ちゃんに会えると思うと、ワクワクして、落ち着かなかった。

 

テーブルでキョロキョロしている運転手に、営業用の笑顔を作ったアンナは、ぜんざいを彼女の前にそっといた。「どうぞ、寒い日は、ぜんざいですよ。とっても体があったまります」運転手は、甘いものに目がなく、手当たりしだい食べる癖があり、太り始めた体が気になり、ダイエット中だった。しかし、せっかく作ってくれたぜんざいを断るわけに行かず、笑顔で食べることにした。「あ~~、いい香り。ぜんざい、大好きなんです。いただきま~す」

 

笑顔で食べてくれた運転手を見てほっとしたアンナは、早速サインをお願いすることにした。奥の厨房に準備していた色紙を取りにかけて行くと、すぐにかけ戻ってきた。「運転手さん、サインお願いしてもよろしいですか。食べてからでいいですから」運転手は、うなずき、おいしそうにぜんざいをすすり、モグモグと口を動かし白玉団子を食べた。食べ終えた運転手は、色紙を手に取り、口森ひろ子、と草書でスラスラと書いた。

 

春日信彦
作家:春日信彦
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