サンタの伝言

カラオケ大会でトロフィーを手にした彼女の笑顔が脳裏にパッと浮かび上がった。アンナは、甲高い声でたずねた。「運転手さん、もしかして、カラオケ大会で優秀された方じゃないですか?」運転手は、ルームミラーに向かってちょっとうなずき、明るい声で返事した。「はい、カラオケ福岡県大会で優勝いたしました。憶えていただいていたなんて、うれしいです。来年1月に、全国大会に出場します」

 

アンナは、カラオケ女王に出会えて、有頂天になってしまった。「頑張ってください。日本一になれるといいですね」運転手は、元気よく返事した。「ありがとうございます。日本一目指して、頑張ります」アンナは、サインをしてもらおうかと思ったが、自宅についてお願いすることにした。「優勝されたときの歌は、石川さゆりさんの津軽海峡・冬景色、でしたよね、私も大好きなんです。全国大会では、なにを歌われるのですか?」

 

運転手は、笑顔で答えた。「森昌子さんの越冬つばめ、です」アンナは、越冬つばめも自分の好きな歌で、ますます、ファンになってしまった。「ぜひ、日本一になって、歌手デビューしてください」運転手は、こんなにも応援してくれる人がいるとは、意外だった。「お恥ずかしいんですが、若いころは、歌手になれると思っていたんです。でも、スカウトされなかったんです。やはり、ルックスですよね」

アンナは、彼女の歌唱力ならきっと歌手になれると思った。「それは違うと思うわ。演歌歌手は、顔じゃないわ、歌唱力よ。私だったら、スカウトするわ。芸能界って、見る目がないのね」運転手は、うれしくなったが、もうこの年では、歌手になれないと思った。「ありがとうございます。もう、トシですから、趣味で楽しみたいと思っています」悲観的な運転手に、アンナは、気合を入れた。

 

「トシって、アイドル歌手じゃあるまいし、演歌歌手は、トシもルックスも関係ないでしょ、歌唱力とハートです。そんなに簡単にあきらめず、チャレンジしなさいよ。日本一になって、プロ歌手になってください。あなたなら、できます」運転手は、歌手になりたいと言う気持をとっくの昔に捨てていたが、顔を真っ赤にして応援してくれるファンの言葉を聞いていると、昔の情熱がよみがえった。

 

「本当に、ありがとうございます。とにかく、全国大会は、自分の力を出し切ります。ところで、話は変わりますが、カラステロのこと、ご存知ですか?」アンナは、突然の話題転換に面食らったが、世界中の誰しも知っている話題に当然のごとく返事した。「知ってますとも、いったい、誰のいたずらかしら?」運転手は、さっそく、聞き込みを開始することにした。

「カラスを除去すると100万ドルの報奨金が出るそうなんですが、鳥類学者でも、警察でも、軍隊でも、除去できないそうです。思うんですが、大人では、カラスを除去できないと思うんです」アンナは、大人では、と言ったことに疑問を感じた。「大人では、できないと言うことは、子供だったら、できると言うことですか?」運転手は、もう少し具体的に話すことにした。

 

「あくまでも、推測ですが、カラスを呼び寄せることができる機械を発明した天才が、ホワイトハウスにカラスを集めていると思うんです。きっと、これは、テロじゃなくて、いたずらだと思うんですよ。有名な鳥類学者が除去できないと言うことは、このような機械は、発明した天才しか持っていないということです。と言うことは、カラスを除去できるのは、この機会を発明した天才だけと言うことになります」

 

アンナの頭は、キリキリ痛み始めた。単細胞のアンナの頭は、回りくどい話に拒絶反応を示すのだった。「もっと、簡単に話してくれませんか?」運転手は、単刀直入に分かりやすく話すことにした。「回りくどい話をしてすみません。つまり、カラスを除去できる大人は世界中にたった一人、その人は、カラスを呼び寄せることができる機械を発明した天才です」

アンナは、運転手の言いたいことを察した。つまり、その天才を探し出して、いたずらをやめさせればいいのだと。「つまり、その天才を探せばいい、ということですね」運転手は、その天才を探し出せたとしても、いたずらをやめないような気がしていた。「確かに、おっしゃるとおりですが、その天才は、いたずらをやめないでしょう。そこで、カラスを追い払うには、カラスにお願いする以外ないということです」

 

アンナは、中卒でかなり頭が悪いと思っていたが、この運転手は、自分よりもっとバカじゃないかと思った。自分よりバカがいたと思い、からかってやった。「カラスにお願いするっておっしゃいますが、いったい誰がお願いするんですか?カラス語が話せる人間がいるんですか?」運転手は、待ってましたとばかり、即座に返事した。「そこなんです。お客さんは、聞いたことはありませんか?動物と話ができる人がいるって」

 

ネコと話している亜紀の姿が、アンナの頭にポッと浮かび上がった。「まあ、いるにはいるでしょう。ウチの子もネコと話しますから」運転手は、赤信号に気づき、急ブレーキをかけた。車が止まると即座に話を続けた。「そうでしょ。動物と話ができる子供がいるんですよ。お宅のお子さんは、カラスは、好きですか?」アンナは、カラスと聞いて、忌々しい白いカラスを思い出した。

春日信彦
作家:春日信彦
サンタの伝言
0
  • 0円
  • ダウンロード

18 / 36

  • 最初のページ
  • 前のページ
  • 次のページ
  • 最後のページ
  • もくじ
  • ダウンロード
  • 設定

    文字サイズ

    フォント