知らぬが仏

風来坊は、ブルブルと顔を左右に激しく振り、甲高い声で話し始めた。「福岡は、ダメだ。そんなことをすれば、東京の放射能汚染が明るみに出て、東京は大パニックだ。東京に大地震が起きたときよりも、大惨事だ。東北、関東から九州への民族大移動が起きたらどうなる。こうなれば、日本の文化も産業も、崩壊だ」あまりにも大胆な発言に亜紀は、度肝を抜かれたが、近い将来、東京の放射能汚染がばれて、東京に大パニックが起きるように思えた。

 

ピースも風来坊の言っていることがなんとなく分かるような気がした。放射能汚染をくい止めることができなければ、嘘を突き通すほうが、日本のためのように思えた。「きっと、政府はあきらめているのね。世界中から集まってくる人たちに、放射性物質をたくさん吸い込んでもらって、世界中を放射能で汚染するつもりなのよ。みんなでガンになれば、怖くない、ってやつよ。人間は、やっぱ、バカってこと」

 

風来坊は翼をパタパタさせて、ピースに笑顔を向けた。「人間は、放射能で死んでしまえ。でも、九州には、放射能を持ってくるんじゃないぞ。最近、九州の人口が増えているが、困ったものだ。こうなったら、九州を日本から分離して、アメリカ合衆国の州に加えてもらわねば。アホな日本政府はほっといて、九州独立じゃ」亜紀は、風来坊の意見は、現実離れしていると思ったが、そのように思っている人間もいるんじゃないかと思った。

さらに、風来坊は、ドヤ顔で話を続けた。「やっぱ、東京がヤバイと思ったのか、核研究施設をT大から、九州のQ大に移すつもりじゃ。CIAは、何をやるにも、すばい。極秘に、Q大とF大にかなりの資金が流れているみたいじゃ。ということは、今後は、Q大とF大が、CIAの拠点となるということじゃ。とにもかくにも、一刻も早く、九州をアメリカの州にしてもらいたいものじゃ。本州の放射能汚染は、時間の問題だからな。みんなも、そう思わんかの~」

 

スパイダーが、ワン、と大きな声を上げた。「こら、そんなでたらめなうわさをグダグダしゃべるんじゃね~。確かに、東北、関東は、汚染されているが、政府は、問題ないと言ってるじゃないか。政府を信じればいいんだ。信じれば、救われるんだ。日本は、腐っても、汚染されても、日本だ。アメリカになんかと一緒にされては、たまったもんじゃない。アメリカの州になったら、野蛮なアメリカの犬が乗り込んでくるんだぞ。アメリカの州になるなんて、ごめんこうむる」

 

風来坊は、アホな犬がほざいていると心であざ笑った。「まあ、野蛮な犬がやってくるぐらいはいいが、浮浪者がやってくるのはごめんこうむりたい。日本でも、アメリカのように浮浪者が急増している。俺たちの食い物まで、やつらに取られるしまつだ。いったい、日本の福祉はどうなっとるんじゃ。人間が、カラスのエサまで食うようになっちゃ、世も末じゃ。しかも、公園で気持ちよさそうに寝ているやつがいたから、起こしてやろうと、突っついてやったら、死んでやんの。人間の肉はまずいが、腹がすいていたから、少々、食ってやった」

 

ピースは、カラスは下品極まりないと軽蔑の眼差しを向けた。一方、最近の日本は、貧乏になったと痛感していた。捨て猫や捨て犬が氾濫し、保健所の保管所も満杯で、もはや、捨てられたペットを捕獲しなくなっていた。まだ、自分を含め捨てられずにいるペットたちは、幸せだと思った。「そうね、エサをもらえる私たちは、幸せ者ね。やさしい、亜紀ちゃんのおかげだわ。それにしても、人工知能と言う得たいの知れないものができたおかげで、ロボペットが増えて、気味が悪いわ。このままだと、生きたペットは、みんな抹殺されちゃうんじゃないかしら。恐ろしいわ」

 

亜紀は、すかさずピースたちを安心させようと言葉を投げかけた。「みんな、安心して。亜紀は、みんなを守って見せる。人間って、本当にバカよ。多くのペットを抹殺するなんて。さらに、ロボペットまで作るなんて。きっと、バチが当たるに決まってる」ワン、ワン、とスパイダーがほえた。「俺は、見たんだ。金持ちの犬は、最高級の牛肉を食べさせてもらっているんだ。犬に牛肉を食わせるだけの金があるんだったら、死にかけている浮浪者に牛肉をめぐんでやればいいんだ。まったく、人間とやらは、頭が変なんじゃないか」

 

風来坊が声たからかに話し始めた。「もはや、日本はおしまいだ。きっぱりと、アホな日本を捨てて、九州をアメリカの州にしてもらうことだ。カラスにとっては、政府はどこでもいいんじゃ。アメリカであろうが、日本であろうが。犬も猫も、きっと、アメリカのほうが幸せに暮らせるに決まっている。みんな、CIAに協力しようじゃないか。亜紀ちゃん、将来、CIAになるといい」

スパイダーが即座に喧嘩を売った。「おい、カラスは、いつから日本の敵になった。風来坊は、CIAのスパイなのか。まったく、けしからん。お前なんか、食っちまうぞ。覚悟しろ」飛びかかろうとしたスパイダーを亜紀は取り押さえた。「コラ、ダメ、冷静になるのよ。風来坊が、言っていることも一理あるわ。亜紀は、将来、アメリカ空軍のパイロットになるつもり。そして、日本とアメリカを守ってあげる。みんなもよ」

 

スパイダーは、亜紀をじっと見上げ、うなずいた。「亜紀ちゃんが、そういうのだったら、しょうがない。この際、風来坊の意見を認めてやる。亜紀ちゃんが、パイロットか、かっこいいだろうな~」風来坊は、大きくうなずき、またもやドヤ顔で話し始めた。「九州の空軍は、日本最強じゃないか。アメリカの州になれば、世界最強になる。亜紀ちゃん、立派なパイロットになって、九州を守ってくれ。応援するからな」

 

亜紀は、大きくうなずきドヤ顔になったが、すぐに悲しそうな表情に変わった。「でも、やっぱ、放射能汚染が心配ね。このままだと、九州も汚染されるわね。どうにかならないのかしら?」ここぞとばかりに風来坊は、声を張り上げた。「そう思うだろ~、みんなも。九州が汚染されないためには、九州を移動させる以外ないな。まあ、これは、できっこないんだが」

春日信彦
作家:春日信彦
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