知らぬが仏

うわさ

 

世界各国をまたにかけて飛び回る渡り鳥の仲間たちからいろんな情報を手に入れている地獄耳の風来坊は、大きな黒目をギョロギョロさせて、みんなに問いかけるように話し始めた。「ところで、東京オリンピックのうわさを知ってるか?東京オリンピックをボイコットする国が増えているそうだ。このままじゃ、もしかすると、東京オリンピックは、おじゃんになるかも知れんぞ」

 

亜紀もそんなうわさを耳にしたことがあった。「そうなのよ、いったいどうなるのかしら。利根川も、東京湾も、ダムも、地下水も、大気も、東京はすでに放射性物質に汚染されているみたいね。毎日、福島原発から、放射性物質が海や地下水に流れ込んでいるらしいわ。だから、これから、ますます、東京は汚染されるはずだわ。でも、政府は、そのことをニュースで報道しないのよ。なぜかしら。一刻も早く、みんなに教えてあげないと、大変なことになるのに。そんな東京でオリンピックを開催するなんて、無茶苦茶よ」

 

スパイダーも亜紀の意見に同感だった。「人間は、犬よりバカだ。犬たちも、東北、関東から逃げ出しているというのに」ピースが、不安げな顔で話し始めた。「オリンピックは、東京以外にできないのかしら?もう、ておくれかしら」亜紀が、うなずきながら同感するように話し始めた。「そうね、福岡がいいんじゃない。ヤフードームもあるし。熊本、大分、佐賀などの競技場も使えば、どうにかなるんじゃない。政府は、のんきなものね。世界各国は、日本は放射能汚染国だとはっきり公言しているのに、何にも気にならないのかしら。信じらんない」

風来坊は、ブルブルと顔を左右に激しく振り、甲高い声で話し始めた。「福岡は、ダメだ。そんなことをすれば、東京の放射能汚染が明るみに出て、東京は大パニックだ。東京に大地震が起きたときよりも、大惨事だ。東北、関東から九州への民族大移動が起きたらどうなる。こうなれば、日本の文化も産業も、崩壊だ」あまりにも大胆な発言に亜紀は、度肝を抜かれたが、近い将来、東京の放射能汚染がばれて、東京に大パニックが起きるように思えた。

 

ピースも風来坊の言っていることがなんとなく分かるような気がした。放射能汚染をくい止めることができなければ、嘘を突き通すほうが、日本のためのように思えた。「きっと、政府はあきらめているのね。世界中から集まってくる人たちに、放射性物質をたくさん吸い込んでもらって、世界中を放射能で汚染するつもりなのよ。みんなでガンになれば、怖くない、ってやつよ。人間は、やっぱ、バカってこと」

 

風来坊は翼をパタパタさせて、ピースに笑顔を向けた。「人間は、放射能で死んでしまえ。でも、九州には、放射能を持ってくるんじゃないぞ。最近、九州の人口が増えているが、困ったものだ。こうなったら、九州を日本から分離して、アメリカ合衆国の州に加えてもらわねば。アホな日本政府はほっといて、九州独立じゃ」亜紀は、風来坊の意見は、現実離れしていると思ったが、そのように思っている人間もいるんじゃないかと思った。

さらに、風来坊は、ドヤ顔で話を続けた。「やっぱ、東京がヤバイと思ったのか、核研究施設をT大から、九州のQ大に移すつもりじゃ。CIAは、何をやるにも、すばい。極秘に、Q大とF大にかなりの資金が流れているみたいじゃ。ということは、今後は、Q大とF大が、CIAの拠点となるということじゃ。とにもかくにも、一刻も早く、九州をアメリカの州にしてもらいたいものじゃ。本州の放射能汚染は、時間の問題だからな。みんなも、そう思わんかの~」

 

スパイダーが、ワン、と大きな声を上げた。「こら、そんなでたらめなうわさをグダグダしゃべるんじゃね~。確かに、東北、関東は、汚染されているが、政府は、問題ないと言ってるじゃないか。政府を信じればいいんだ。信じれば、救われるんだ。日本は、腐っても、汚染されても、日本だ。アメリカになんかと一緒にされては、たまったもんじゃない。アメリカの州になったら、野蛮なアメリカの犬が乗り込んでくるんだぞ。アメリカの州になるなんて、ごめんこうむる」

 

風来坊は、アホな犬がほざいていると心であざ笑った。「まあ、野蛮な犬がやってくるぐらいはいいが、浮浪者がやってくるのはごめんこうむりたい。日本でも、アメリカのように浮浪者が急増している。俺たちの食い物まで、やつらに取られるしまつだ。いったい、日本の福祉はどうなっとるんじゃ。人間が、カラスのエサまで食うようになっちゃ、世も末じゃ。しかも、公園で気持ちよさそうに寝ているやつがいたから、起こしてやろうと、突っついてやったら、死んでやんの。人間の肉はまずいが、腹がすいていたから、少々、食ってやった」

 

ピースは、カラスは下品極まりないと軽蔑の眼差しを向けた。一方、最近の日本は、貧乏になったと痛感していた。捨て猫や捨て犬が氾濫し、保健所の保管所も満杯で、もはや、捨てられたペットを捕獲しなくなっていた。まだ、自分を含め捨てられずにいるペットたちは、幸せだと思った。「そうね、エサをもらえる私たちは、幸せ者ね。やさしい、亜紀ちゃんのおかげだわ。それにしても、人工知能と言う得たいの知れないものができたおかげで、ロボペットが増えて、気味が悪いわ。このままだと、生きたペットは、みんな抹殺されちゃうんじゃないかしら。恐ろしいわ」

 

亜紀は、すかさずピースたちを安心させようと言葉を投げかけた。「みんな、安心して。亜紀は、みんなを守って見せる。人間って、本当にバカよ。多くのペットを抹殺するなんて。さらに、ロボペットまで作るなんて。きっと、バチが当たるに決まってる」ワン、ワン、とスパイダーがほえた。「俺は、見たんだ。金持ちの犬は、最高級の牛肉を食べさせてもらっているんだ。犬に牛肉を食わせるだけの金があるんだったら、死にかけている浮浪者に牛肉をめぐんでやればいいんだ。まったく、人間とやらは、頭が変なんじゃないか」

 

風来坊が声たからかに話し始めた。「もはや、日本はおしまいだ。きっぱりと、アホな日本を捨てて、九州をアメリカの州にしてもらうことだ。カラスにとっては、政府はどこでもいいんじゃ。アメリカであろうが、日本であろうが。犬も猫も、きっと、アメリカのほうが幸せに暮らせるに決まっている。みんな、CIAに協力しようじゃないか。亜紀ちゃん、将来、CIAになるといい」

春日信彦
作家:春日信彦
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