知らぬが仏

ピースは、カラスは下品極まりないと軽蔑の眼差しを向けた。一方、最近の日本は、貧乏になったと痛感していた。捨て猫や捨て犬が氾濫し、保健所の保管所も満杯で、もはや、捨てられたペットを捕獲しなくなっていた。まだ、自分を含め捨てられずにいるペットたちは、幸せだと思った。「そうね、エサをもらえる私たちは、幸せ者ね。やさしい、亜紀ちゃんのおかげだわ。それにしても、人工知能と言う得たいの知れないものができたおかげで、ロボペットが増えて、気味が悪いわ。このままだと、生きたペットは、みんな抹殺されちゃうんじゃないかしら。恐ろしいわ」

 

亜紀は、すかさずピースたちを安心させようと言葉を投げかけた。「みんな、安心して。亜紀は、みんなを守って見せる。人間って、本当にバカよ。多くのペットを抹殺するなんて。さらに、ロボペットまで作るなんて。きっと、バチが当たるに決まってる」ワン、ワン、とスパイダーがほえた。「俺は、見たんだ。金持ちの犬は、最高級の牛肉を食べさせてもらっているんだ。犬に牛肉を食わせるだけの金があるんだったら、死にかけている浮浪者に牛肉をめぐんでやればいいんだ。まったく、人間とやらは、頭が変なんじゃないか」

 

風来坊が声たからかに話し始めた。「もはや、日本はおしまいだ。きっぱりと、アホな日本を捨てて、九州をアメリカの州にしてもらうことだ。カラスにとっては、政府はどこでもいいんじゃ。アメリカであろうが、日本であろうが。犬も猫も、きっと、アメリカのほうが幸せに暮らせるに決まっている。みんな、CIAに協力しようじゃないか。亜紀ちゃん、将来、CIAになるといい」

スパイダーが即座に喧嘩を売った。「おい、カラスは、いつから日本の敵になった。風来坊は、CIAのスパイなのか。まったく、けしからん。お前なんか、食っちまうぞ。覚悟しろ」飛びかかろうとしたスパイダーを亜紀は取り押さえた。「コラ、ダメ、冷静になるのよ。風来坊が、言っていることも一理あるわ。亜紀は、将来、アメリカ空軍のパイロットになるつもり。そして、日本とアメリカを守ってあげる。みんなもよ」

 

スパイダーは、亜紀をじっと見上げ、うなずいた。「亜紀ちゃんが、そういうのだったら、しょうがない。この際、風来坊の意見を認めてやる。亜紀ちゃんが、パイロットか、かっこいいだろうな~」風来坊は、大きくうなずき、またもやドヤ顔で話し始めた。「九州の空軍は、日本最強じゃないか。アメリカの州になれば、世界最強になる。亜紀ちゃん、立派なパイロットになって、九州を守ってくれ。応援するからな」

 

亜紀は、大きくうなずきドヤ顔になったが、すぐに悲しそうな表情に変わった。「でも、やっぱ、放射能汚染が心配ね。このままだと、九州も汚染されるわね。どうにかならないのかしら?」ここぞとばかりに風来坊は、声を張り上げた。「そう思うだろ~、みんなも。九州が汚染されないためには、九州を移動させる以外ないな。まあ、これは、できっこないんだが」

それを聞いていたピースは、また、アホなことを言ってると思い、ニャ~ニャ~と小さな声で笑い、解決策を話した。「だから、今後、東北と関東の農産物や海産物を九州に持ち込まないことよ。九州に必要な農産物と海産物は、すべてアメリカから輸入すればいいのよ。簡単なことじゃない」ピースは、アメリカから輸入される農産物の多くは、遺伝子組み換えであることをよく知らなかった。

 

亜紀が、あきれた顔で話し始めた。「動物は、気楽なものね。人間の付き合いって、そう簡単なものじゃないのよ。やっぱ、農業や漁業で働いている人たちのためにも、九州には、東北と関東の生産物も仕入れなければならない、お付き合いってものがあるのよ。そんな、動物の浅知恵では、解決できるものじゃないの。でも、関東と東北の農産物と海産物は、汚染されているわけでしょ。いずれ、汚染された野菜や魚は、誰も買わなくなるわね。このままじゃ、関東と東北の農業や漁業をやっている人たちは、どうなるのかしら。かわいそうになってきた」

 

風来坊が、名案が浮かんだといわんばかりのドヤ顔で話し始めた。「アホな人間に代わって、知恵を授けてあげよう。九州の南に人工島を作るんじゃ。そして、その人工島に、東北、関東の人たちを移住させるんじゃ。明暗じゃろ」ピースは、一瞬微笑んだ。「あら、たまには、気の利いたことを言うじゃない。それは名案よ、亜紀ちゃんは、どう思う?」亜紀は、確かに名案だと思ったが、人工島なんて、そう簡単にできっこないと思った。

「まあ、カラスにしては、まあ、まあ、の意見だわ。でも、人工島なんて、そう簡単にできるものじゃないのよ。実現可能な意見じゃないと、人間の世界ではバカにされるだけよ」風来坊は、ムカついた表情で、亜紀をにらみつけた。腕組みをした風来坊は、だみ声で尋ねた。「それじゃ、亜紀ちゃんの名案を言ってみなよ、さあ、さあ。言ってみなよ。人間とやらの名案を聞いてやるからさ」

 

急に振られた亜紀は、一瞬固まってしまったが、以前から思っていた考えを話すことにした。「原発の放射の汚染は、永遠に続くはずね。だから、このままでは、東北と関東の人たちは、いずれ、内部被曝するの。彼らを救うには、東北と関東を捨てさせて、北海道と京都より西側の近畿、中国、四国、九州、沖縄、に移民させるのが一番いいと思う。首都も東京から福岡に移せば良いと思う。これだったら、実現可能と思うの。これでも、パニックになるような気がするけど」

 

風来坊は、いまひとつ納得がいかない顔で話し始めた。「まあ、それが妥当な線かも知れんな。カラスは国会議員じゃないし、官僚でもない。まあ、人間は、カラスがどんなにいいアドバイスをしたとしても、聞き入れるような動物じゃない。人間が蒔いた種は、人間の手で刈り取ってもらわんとな。カラスは、人間に頼らなくても生きていけるけど、猫と犬は、人間と一緒にガンになる以外ないようだな。かわいそうな動物じゃの~」

 

春日信彦
作家:春日信彦
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