シニアの青春

リンダのラインはほとんどまっすぐで、バーディーは確実であったが、社長と部長の視線に入るように何度も腰を下ろし、ほんの少し股を開いては股間を見せた。社長と部長は、リンダが二人の前で腰を下ろすと、無意識にかがみ込み、じっと股間を覗きこんだ。リンダは、よだれを垂らしたハイエナのような二人の顔を横目で覗くと、いとも簡単に2ヤードのバーディーパットをカップインさせた。社長と部長は、突然、笑顔を作ると大きな拍手を送った。

 

352ヤード、パー4の2番ミドルホールもほとんどストレートでリンダと社長にとっては、バーディーホールであった。1番ホールでバーディーを取ったリンダがビッグドライブをかっ飛ばすと、社長も負けじと渾身の力でドライバーを振った。部長は慎重に低いボールでフェアウェーを捉えた。志保は、40歳を過ぎて飛距離は落ちたもののドローボールで220ヤードほど飛距離を出した。部長は、緊張し始めたのかダフリが出始めた。5番アイアンをダフリ、寄せもトップしていつものトリプルを叩いた。

 

社長とリンダは、確実にバーディーを取り、順調な滑り出しに満足していた。志保も寄せワンでパーを拾い、まずまずの滑り出しにほっとした。部長は、いつものスコアで別に気にもしてない様子であった。489ヤード、パー5の3番ロングホールは、鬼門となるホールで、部長はここで大たたきしていた。社長もこのホールを苦手としていて、たまにダボを叩いていた。第二打から右ドッグレッグになっていて、ちょっと方向が狂うとOBになる危険なレイアウトとなっていた。

第一打がキーとなるホールのため、社長とリンダは、アイアンでティーショットした。志保は、5番ウッドで手堅くフェアウェーをキープした。部長も5番ウッドでティーショットしたが、左のラフに打ち込んでしまった。乱れ始めた部長を気遣い、社長は部長の第二打地点に同行した。少し深いラフからは飛距離が出ないと判断した社長は、9番アイアンでフェアウェーに出すようにアドバイスした。どうにかラフから脱出できた部長は、5番ウッドで第3打を打った。

 

部長は、いつものいやな流れになり、愚痴をこぼし始めた。「社長、またやってしまいましたよ。この調子じゃ、100は切れそうにありませんね」部長は、苦虫をつぶしたような顔で社長を見つめた。社長は、考え込んだ顔つきで答えた。「まあ、そう、気にするな。俺も、アイアンがいまひとつだ」社長は、3番アイアンでのティーショットで、リンダより20ヤードも遅れをとっていた。

 

部長は、怪訝な顔で訊ねた。「社長、どこがいまひとつですか。ティーショットは、あんなに飛んでいるじゃないですか。会心のあたりじゃないですか」社長は、腕組みをして、部長に話しても通じないと思ったが、一応話すことにした。「植木には分かるまいが、ティーショットは、芯をはずしていた。どうにか200ヤード飛んだのは、クラブのおかげだ。最近、アイアンの調子がよくない。困ったもんだ」社長は、あたりがくるった原因を自覚していた。50歳を過ぎてから関節が硬くなり、肩が思うように回らなくなっていた。

部長は、まったく理解できず、おべんちゃらを言った。「社長、私からすれば、うらやましいショットです。社長の思い過ごしじゃないですか。パーにバーディー、好調じゃないですか。この調子で行けば、70が切れるんじゃないですか。今日こそは、リンダに勝てるんじゃないですか」部長は、作った笑顔でお世辞を言った。おだてられた社長は、芯をはずしたのは自分の勘違いかもしれないと、ふと思い、リンダの股間から見えたピンクのショーツを思い出してしまった。「そうか、俺の勘違いだな。よし、今日は70をきるぞ。植木も、100をきろよ」つい時間を忘れていた二人は、社長の第二打地点にかけて行った。

 

社長は、5番ウッドで右の林越えに成功し、気をよくして、カートに戻った。リンダと社長は3オン、志保は4オン、部長は5オン、どうにか無事にグリーンに載せた部長は、大きく深呼吸をしてロングパットを寄せた。社長とリンダはパー、志保はボギー、部長はダボと鬼門をどうにか潜り抜けることができた。145ヤード、パー3の4番ホールは谷越えのショートホールで、部長は、何度もトップしては、ティーショットでボールを谷に落としていた。

 

「いやな、ホールですね。どうして谷越えになんかにするんですかね。嫌がらせとしか思えません。ゴルフはこれだから嫌いなんです」部長は、ぶつぶつ言いながら5番アイアンを手にしてアドレスに入った。硬くなった部長は、肩を十分にまわさず、相変わらず早打ちをしてしまった。若干ダフリ気味だったが、運よく谷を越えることはできた。社長とリンダはグリーンを捉え、志保は、バンカーにつかまってしまった。

志保にとっては、バンカーは問題なかった。むしろ得意であった。一発で低く出たボールは、ゆっくり転がり、ピン1ヤード手前で止まった。部長は、どうにか3オンできてほっとした。社長とリンダはパー、志保はボギー、部長はダボで、大たたきせずに済んだ部長は、胸をそっとなでおろした。やや左ドッグレッグの372ヤード、パー4の5番ホールは、社長とリンダにとってバーディーホールで、社長は気合を入れてドライバーを振りぬいた。

 

大きな声を上げた社長は、跪いてしまった。めったに引っ掛けることのない社長が、気合を入れすぎたのか、フックがかかりそこなったのか、林の中に打ち込んでしまった。暫定球を宣言し、泣きそうな顔で再度ティーショットをした。カートに乗り込むとうなだれてしまった社長に部長が声をかけた。「社長、きっと見つかりますよ。私が探せばきっと見つかります。任せてください」社長は、たとえあったとしても、パーであがれないと思い、地獄に落ちたかのように青くなっていた。

 

5分探しても結局、社長のボールは見つからなかった。暫定球をしぶしぶ打って4オンできたが、結果はダボで60台の目標が消え始めていた。セカンドを9番アイアンでピン右3ヤードにナイスオンしたリンダは、見事バーディーを取った。429ヤード、パー4の6番ホールは、打ちおろしで、リンダは300ヤードほど飛距離を出していた。社長も260ヤードほど出るので、打ち上げのセカンドしだいでは、バーディーが狙えるホールだった。

春日信彦
作家:春日信彦
シニアの青春
0
  • 0円
  • ダウンロード

5 / 26

  • 最初のページ
  • 前のページ
  • 次のページ
  • 最後のページ
  • もくじ
  • ダウンロード
  • 設定

    文字サイズ

    フォント