シニアの青春

うつむいていたリンダであったが、目を輝かせた社長に拍手を送った。「頑張ってください。私も応援します。私は、教師になろうと思っています。プロにはなれなくても、子供たちに教えることはできそうです。ジュニアの育成に頑張ってみます」社長は、リンダの夢に頷いた。「そうですか。先生にね。それもいいことです。人それぞれ個性があります。リンダさん、先生になって、世界に羽ばたくゴルファーを育成してください」

 

浮かない表情の志保に気付いた社長は、志保のドローボールを褒めることにした。「志保さんのドローは、飛距離が出てますね。いつごろから手打ちをされているのですか?」志保は、突然の質問に戸惑ったが、手打ちのドローは自慢だった。「あら、社長、そんなに飛距離が出てますか?40歳のころから手打ちを始めましたの。シャフトがいいので飛距離が出てるんだわ。最近のシャフトは、よくしなるじゃないですか。トップでしなりを作り、一気に振り下ろすと、しなりの戻りでパンチが効くみたいです」社長は、腕を組み、頷いていた。

 

「なるほど、確かにシャフトは進化しています。私のシャフトも優れものです。7番アイアンで170ヤードも飛ぶんです。シャフトが飛距離を出すんですね。年をとってもこのような飛距離を出してくれるシャフトがあれば、十分若い者と戦えます。今日もシャフトにかなり助けられています。シャフトに合ったスイングをすれば、まだまだ、いいスコアが出そうです。やる気が出てきました」社長は、シャフトのおかげで飛距離が伸びたことに感謝していた。

バック9

 

四人は、パターの練習を5分ほどやると、10番ホールに向かった。478ヤード、パー5、10番ホールは、緩やかなうちおろしで、リンダはツーオン狙いのホールだった。部長はティーショットをチョロしてさらに第三打を右のバンカーに打ち込んでしまった。やっと、5オンしたしたものの3パットでトリプルを叩いてしまった。リンダは、セカンドを3番アイアンで見事ツーオンに成功した。社長と志保は、着実にパーオンした。リンダは、バーディー、志保と社長は、パー。

 

396ヤード、パー4、11番ミドルホールは、打ちおろしで飛距離が稼げるホールだったが、またも、部長は緊張したのか、テンプラを打ってしまった。リズムを失った部長を気遣い、社長はセカンド地点でアドバイスをすることにした。「植木、落ち着け、いつもの早打ちが出てるぞ。肩を顎まで回して、切り返せ。ダウンスイングは左脚からだ。いいな」部長は、大きく頷き、アドレスに入った。

 

落ち着きを取り戻した部長は、右足体重で見事なドローボールを打った。「おい、ドローじゃないか。今日イチのショットだ。この調子だ」部長は、初めて打ったドローに目を大きくして笑顔を作った。「どうやって打ったのですか?自分でも分かりません。初めてです。こんな見事なドロー」部長は、自分のドローを褒めてしまった。社長は、噴出しそうだったが、部長の肩をポンと叩き、励ましの言葉をつけ加えた。「やればできると言うことだ。インサイドからヘッドが入ればドローになる。今の要領を忘れるな」部長は、褒められたが、どうやって打ったかまったく憶えていなかった。

部長は、3オンだったが、見事、得意のピン右4ヤードのパーパットを沈めた。志保は、3オン2パットのボギー。社長とリンダは、パー。326ヤード、パー4、12番ミドルホールは、部長でもパーオンできる打ちおろしのホール。部長は、気をよくし落ち着いて220ヤードのナイスショット。残り100ヤードほどを9番アイアンで見事パーオンした。全員パーパーパットを沈めたが、リンダは、バーディーパットを外したことに落ち込んでしまった。

 

肩を落としたリンダを励まそうと部長は、リンダに声をかけた。「リンダさん、パターをまっすぐ引こうとして、手が硬くなっていませんか?僕は、まっすぐ引かないんです。少し上に引き上げて、斜め上からこつんと叩くんです。参考になりますか?」リンダは、ポカンとしていた。「え、まっすぐ横に引かずに斜め上に引き上げて、そして、上から打つんですね。そんなうち方、初めて聞きました。私たち、みんな、真横に引いてまっすぐ打っています。試してみます」リンダは、初めての打ち方に興奮していた。

 

147ヤード、パー3、13番ショートホール池越えの打ちおろしのため、クラブ選択と距離感が難しい。部長は、池を避けるように最も短い距離を狙って、右サイドのバンカーを目標に打っていた。志保もバンカー目がけて8番アイアンを軽く振った。いつものようにバンカー手前にボールは落下した。部長も8番アイアンでバンカー目がけて打ったが、フックがかかり、もう少しで池ポチャになるところだった。リンダと社長は、9番アイアンで見事パーオン。

 

ピン左5ヤードのリンダのラインは、ややスライスラインであったが、部長から先程聞いた上に引いて上から叩くやり方を試してみた。ほんの少しカップを舐めて右に外したが、楽にパットできたことに驚いた。「植木さん、楽に打てました。手も震えませんでした。これから、このうち方をやってみます」部長は、リンダの笑顔を見てなんだか嬉しくなった。「お役に立ちましたか。よかった」リンダは、新しい自分を見つけたような気分になり、ボールを拾い上げるとガッツポーズをとった。リンダと社長はパー。部長と志保は、ボギー。

 

347ヤード、パー414番ミドルホールは、打ち上げのため、セカンドで左脚上がりのライで部長は、よくダフッていた。部長は、残り170ヤードほどあったが、ダフッてはいけないと思い、9番アイアンで楽に振った。セカンドはダフらなかったが、第三打をダフッてしまった。4オン、2パットでいつものようにダボ。志保もここの左脚上がりのライが苦手で、残り160ヤードほどあったが、9番アイアンで刻んだ。志保は無事3オンした。リンダと社長はパー。志保はボギー。部長はダボ。

 

部長は、緊張すると簡単なアプローチでダフッていた。なぜか右肩を下げる癖があり、なかなかこの癖が治らなかった。「植木、また右肩が落ちてるぞ。両足をそろえてやわらかく膝を動かして肩と腕を一体化させて打て」社長は、部長の前でアプローチの打ち方をやって見せた。部長は、社長のまねをして、膝を使ってゆっくり振ってみた。「そうだ、あせらず、膝をやわらかく使って打てばいい」部長は、もう一度アプローチの練習をして、頷いた。

春日信彦
作家:春日信彦
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