シニアの青春

407ヤード、パー415番ミドルホールは、打ちおろしでフェアウェーが広く意外と気楽に打てるホールになっている。多少左右に曲がってもOBになりにくいので部長も思い切って打っていた。リンダは、豪快な300ヤードのビッグドライブを放った。社長は、いつもは堅実にフェードを打っていたが、今回は、志保の真似をしてドローを打つことにした。ダウンスイングで正面を向いたとき、左半身を止めてヘッドを走らせるのがコツだった。

 

テークバックでは、左足かかとをほんの少しあげ、スピードをつけてしっかり肩を回し、一気にダウンスイングに入った。インパクトからフォロースルーにかけて腰も肩も回転させず、クラブヘッドだけを走らせた。見事ドローがかかったボールは、30ヤードほどのランが出て、270ヤードほどの地点まで到達した。社長は、こんなに飛距離の出た手打ちに驚いた。「やってみるものだな~」社長は、思わずつぶやいた。

 

拍手を送った志保が、思わず声をかけた。「社長、最高の手打ちですわ。私よりはるかに左腰と左肩にブレーキが効いて、ヘッドが走っていました。さすが、社長です」社長は、時々、アコーディアの練習場でこっそり、手打ちを練習していた。50を過ぎ飛距離が落ちてきたのを実感し、飛距離の出るドローボールを打つ練習をしていた。手打ちの打ち方は知っていたのだが、左に引っ掛けるのが怖くて、なかなか、コースでは打てなかった。

 

今の手打ちの成功を実感し、これからはティーショットでは、手打ちのドローを打ってみることにした。うまく打てるようになれば、アイアンでも試すことにした。部長も多少スライスしたが、フェアウェーをキープした。社長は、セカンドでも手打ちをやってみることにした。グリーンまで残り130ヤードを9番アイアンでボールだけ打つ感じでシャープに振ってみた。ライがよかったのか、ジャストミートしてグリーンで止まった。

 

社長は、練習すれば、アイアンも手打ちができそうな気持ちになった。いつもは、左手を回転させないフェードでグリーンを狙っていたが、手打ちでもグリーンでボールが止まることが分かり、しばらく使い分けてみることにした。グリーンに上がった社長に志保が声をかけた。「アイアンでの手打ちも切れがあって最高でした。今日は、いいスコアが出そうですね」社長は、頷いただけだったが、手打ちの成功に心で笑顔を作っていた。社長とリンダは、パー、志保はボギー、部長はまたもや寄せをダフリ、ダボ。

 

549ヤード、パー516番ロングホールは、左ドッグレッグでセカンドが山越えと言う最もミスしやすいホールとなっていた。部長は、8とか9を叩いていた。部長の最もにがてとするホールだった。社長もリンダも飛距離を考えて、アイアンでティーショットしていた。だが今回は、社長は手打ちのドローを試してみることにした。かなり難しいショットであったが、勇気を出してチャレンジすることにした。OBを出せば、スコアが悪くなるが、手打ちの上達には失敗も必要だと考えた。

リンダは、ティーショットを5アイアンでセカンドが打ちやすい右サイドに打った。社長は、手打ちのイメージをして、クローズスタンスでフックを打つことにした。一気に振り下ろしたクラブは、ジャストミートしたが、フックがかかりすぎて、左の林に打ち込んでしまった。ボールを眺めていた部長が、ア~と悲鳴を上げた。リンダと志保は、呆然とボールの行方を眺めていた。社長は、頷き、失敗をじっと受け止めた。

 

打ち直すと気持ちを切り替えセカンドに向かった。危険なフックは博打のようなものであったが、手打ちをする限り、ミスを恐れては進歩がないと自分に言い聞かせていた。リンダは、セカンドも5アイアンで林越えを避けた。社長と部長は5オン、志保は4オン、リンダはパーオン。社長のチャレンジに触発されたのか、リンダは8ヤードのフックラインのバーディーパットを強めに打った。見事、カップの縁に当てカップインさせた。リンダも博打のようなパットだったが、偶然カップインしたことに、自然に笑顔がこぼれた。

 

社長と部長はダボ。志保はボギー。リンダはバーディー。部長は大たたきせずにすんだことでほっとしていた。163ヤード、パー3のショートホールは、打ちおろしでミスの少ないホールだった。リンダは、7番で少しシャット気味に低めのボールを打った。志保は、6番アイアンでフルスイングした。社長は、7番アイアンでいつものフェードを打った。部長は、5番ウッドでゆっくり振ったが、右のバンカーに打ち込んでしまった。

部長は、このバンカーで3回も打ったことがあり、バンカーに入ったのを確認して青くなってしまった。部長のバンカーは、右手で叩こうと力んでしまって、いつもダフっていた。社長は、バンカーの打ち方をアドバイスすることにした。部長より先にバンカーに行くと、縁から30センチほどにある目玉のボールをじっと見つめていた。後からやって来た部長は、目玉のボールを見て悲鳴を上げた。

 

「ウヘ~、一生出ませんよ。社長、どうしましょ」社長もこれは大変なことになったと腕組みをした。社長は、フェースをシャットにして打ち込ませることにした。「いいか、フェースをかぶせて、思いっきり上からたたけ。すくい上げるなよ。ボール目がけて上から叩くだけだ。ドス~ンとぶち込め」部長は、一度フェースを社長に見せ、社長が頷くと、思いっきりボールめがけて真上から打ち込んだ。ドスンと音がすると、飛び出したボールは、バンカーの縁から20センチほどに止まった。

 

部長は、歓声を上げた。「社長、やりました。一発で出ましたよ」バンカーから飛び出してきた部長は、社長に抱きついた。「おい、やることがあるだろ~」部長は、われに帰りレーキを手に取ると砂をきれいにならした。3オンできた部長は、ダボで胸をなでおろした。リンダと社長はパー。志保はボギー。347ヤード、パー4の最終ホールにやって来た部長は、やっと地獄から解放されるようで、空元気を出した。「よし、このホールはパーを取るぞ」部長は、素振りを始めた。

春日信彦
作家:春日信彦
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