部長は、このバンカーで3回も打ったことがあり、バンカーに入ったのを確認して青くなってしまった。部長のバンカーは、右手で叩こうと力んでしまって、いつもダフっていた。社長は、バンカーの打ち方をアドバイスすることにした。部長より先にバンカーに行くと、縁から30センチほどにある目玉のボールをじっと見つめていた。後からやって来た部長は、目玉のボールを見て悲鳴を上げた。

「ウヘ～、一生出ませんよ。社長、どうしましょ」社長もこれは大変なことになったと腕組みをした。社長は、フェースをシャットにして打ち込ませることにした。「いいか、フェースをかぶせて、思いっきり上からたたけ。すくい上げるなよ。ボール目がけて上から叩くだけだ。ドス～ンとぶち込め」部長は、一度フェースを社長に見せ、社長が頷くと、思いっきりボールめがけて真上から打ち込んだ。ドスンと音がすると、飛び出したボールは、バンカーの縁から20センチほどに止まった。

部長は、歓声を上げた。「社長、やりました。一発で出ましたよ」バンカーから飛び出してきた部長は、社長に抱きついた。「おい、やることがあるだろ～」部長は、われに帰りレーキを手に取ると砂をきれいにならした。3オンできた部長は、ダボで胸をなでおろした。リンダと社長はパー。志保はボギー。347ヤード、パー4の最終ホールにやって来た部長は、やっと地獄から解放されるようで、空元気を出した。「よし、このホールはパーを取るぞ」部長は、素振りを始めた。

部長は、今日イチのショットをしようとアドレスに入った。部長は、社長の手打ちを真似ることにしていた。ドローを打って230ヤード飛ばす気持ちでテークバックに入ると、一気に振り下ろし右足体重で左腰をとめて、右方向に振りぬいた。うまく左ひじが折れて、ヘッドがビュンと走った。右に向かったボールは、フックがかかり左に戻ってきた。社長の打ち方とは違っていたが、インサイドアウトにハードヒットできたため、飛距離が出ていた。

リンダが部長の初めての男らしいフックボールに歓声を上げた。リンダは、部長は非力で筋力のない男性と思っていたからだ。「ヒヤ～、植木さん、かなり飛んでますよ。すごいじゃないですか、さすが男ですね。力ありますね」部長も自分の初めて打ったフックボールに驚いていた。バシッと言う力強い手ごたえは、初めてであった。社長も驚いて声をかけた。「植木、結構、力あるんだな～。今日イチじゃないか」腕組みをすると大きく頷いた。志保も拍手を送った。「植木さん、やっぱり、男ですね。惚れ惚れするフックでした」部長は、みんなに褒められ、照れ笑いをしてさっさと歩き出した。

部長は、まぐれのフックであったが、子供のようにはしゃいでセカンド地点にかけて行った。グリーンまで残り110ヤードほどを9番で打つと、フックのかかったボールはグリーンを勢いよく転がり、グリーン奥のバンカーに落ちてしまった。今度は目玉ではなかったが、またもやダフッてしまい2回でやっとバンカーを脱出できた。リンダと社長と志保はパー。部長はダボ。ホールアウトした四人は、笑顔でレストランに向かった。