シニアの青春

バック9

 

四人は、パターの練習を5分ほどやると、10番ホールに向かった。478ヤード、パー5、10番ホールは、緩やかなうちおろしで、リンダはツーオン狙いのホールだった。部長はティーショットをチョロしてさらに第三打を右のバンカーに打ち込んでしまった。やっと、5オンしたしたものの3パットでトリプルを叩いてしまった。リンダは、セカンドを3番アイアンで見事ツーオンに成功した。社長と志保は、着実にパーオンした。リンダは、バーディー、志保と社長は、パー。

 

396ヤード、パー4、11番ミドルホールは、打ちおろしで飛距離が稼げるホールだったが、またも、部長は緊張したのか、テンプラを打ってしまった。リズムを失った部長を気遣い、社長はセカンド地点でアドバイスをすることにした。「植木、落ち着け、いつもの早打ちが出てるぞ。肩を顎まで回して、切り返せ。ダウンスイングは左脚からだ。いいな」部長は、大きく頷き、アドレスに入った。

 

落ち着きを取り戻した部長は、右足体重で見事なドローボールを打った。「おい、ドローじゃないか。今日イチのショットだ。この調子だ」部長は、初めて打ったドローに目を大きくして笑顔を作った。「どうやって打ったのですか?自分でも分かりません。初めてです。こんな見事なドロー」部長は、自分のドローを褒めてしまった。社長は、噴出しそうだったが、部長の肩をポンと叩き、励ましの言葉をつけ加えた。「やればできると言うことだ。インサイドからヘッドが入ればドローになる。今の要領を忘れるな」部長は、褒められたが、どうやって打ったかまったく憶えていなかった。

部長は、3オンだったが、見事、得意のピン右4ヤードのパーパットを沈めた。志保は、3オン2パットのボギー。社長とリンダは、パー。326ヤード、パー4、12番ミドルホールは、部長でもパーオンできる打ちおろしのホール。部長は、気をよくし落ち着いて220ヤードのナイスショット。残り100ヤードほどを9番アイアンで見事パーオンした。全員パーパーパットを沈めたが、リンダは、バーディーパットを外したことに落ち込んでしまった。

 

肩を落としたリンダを励まそうと部長は、リンダに声をかけた。「リンダさん、パターをまっすぐ引こうとして、手が硬くなっていませんか?僕は、まっすぐ引かないんです。少し上に引き上げて、斜め上からこつんと叩くんです。参考になりますか?」リンダは、ポカンとしていた。「え、まっすぐ横に引かずに斜め上に引き上げて、そして、上から打つんですね。そんなうち方、初めて聞きました。私たち、みんな、真横に引いてまっすぐ打っています。試してみます」リンダは、初めての打ち方に興奮していた。

 

147ヤード、パー3、13番ショートホール池越えの打ちおろしのため、クラブ選択と距離感が難しい。部長は、池を避けるように最も短い距離を狙って、右サイドのバンカーを目標に打っていた。志保もバンカー目がけて8番アイアンを軽く振った。いつものようにバンカー手前にボールは落下した。部長も8番アイアンでバンカー目がけて打ったが、フックがかかり、もう少しで池ポチャになるところだった。リンダと社長は、9番アイアンで見事パーオン。

 

ピン左5ヤードのリンダのラインは、ややスライスラインであったが、部長から先程聞いた上に引いて上から叩くやり方を試してみた。ほんの少しカップを舐めて右に外したが、楽にパットできたことに驚いた。「植木さん、楽に打てました。手も震えませんでした。これから、このうち方をやってみます」部長は、リンダの笑顔を見てなんだか嬉しくなった。「お役に立ちましたか。よかった」リンダは、新しい自分を見つけたような気分になり、ボールを拾い上げるとガッツポーズをとった。リンダと社長はパー。部長と志保は、ボギー。

 

347ヤード、パー414番ミドルホールは、打ち上げのため、セカンドで左脚上がりのライで部長は、よくダフッていた。部長は、残り170ヤードほどあったが、ダフッてはいけないと思い、9番アイアンで楽に振った。セカンドはダフらなかったが、第三打をダフッてしまった。4オン、2パットでいつものようにダボ。志保もここの左脚上がりのライが苦手で、残り160ヤードほどあったが、9番アイアンで刻んだ。志保は無事3オンした。リンダと社長はパー。志保はボギー。部長はダボ。

 

部長は、緊張すると簡単なアプローチでダフッていた。なぜか右肩を下げる癖があり、なかなかこの癖が治らなかった。「植木、また右肩が落ちてるぞ。両足をそろえてやわらかく膝を動かして肩と腕を一体化させて打て」社長は、部長の前でアプローチの打ち方をやって見せた。部長は、社長のまねをして、膝を使ってゆっくり振ってみた。「そうだ、あせらず、膝をやわらかく使って打てばいい」部長は、もう一度アプローチの練習をして、頷いた。

407ヤード、パー415番ミドルホールは、打ちおろしでフェアウェーが広く意外と気楽に打てるホールになっている。多少左右に曲がってもOBになりにくいので部長も思い切って打っていた。リンダは、豪快な300ヤードのビッグドライブを放った。社長は、いつもは堅実にフェードを打っていたが、今回は、志保の真似をしてドローを打つことにした。ダウンスイングで正面を向いたとき、左半身を止めてヘッドを走らせるのがコツだった。

 

テークバックでは、左足かかとをほんの少しあげ、スピードをつけてしっかり肩を回し、一気にダウンスイングに入った。インパクトからフォロースルーにかけて腰も肩も回転させず、クラブヘッドだけを走らせた。見事ドローがかかったボールは、30ヤードほどのランが出て、270ヤードほどの地点まで到達した。社長は、こんなに飛距離の出た手打ちに驚いた。「やってみるものだな~」社長は、思わずつぶやいた。

 

拍手を送った志保が、思わず声をかけた。「社長、最高の手打ちですわ。私よりはるかに左腰と左肩にブレーキが効いて、ヘッドが走っていました。さすが、社長です」社長は、時々、アコーディアの練習場でこっそり、手打ちを練習していた。50を過ぎ飛距離が落ちてきたのを実感し、飛距離の出るドローボールを打つ練習をしていた。手打ちの打ち方は知っていたのだが、左に引っ掛けるのが怖くて、なかなか、コースでは打てなかった。

 

春日信彦
作家:春日信彦
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