シニアの青春

心配そうな表情になった志保は、励ましの言葉を述べた。「いや~、社長は、お若いですわ。まだまだ、これからじゃないですか。ゴルフに年は関係ありません。多少飛距離が落ちても、アイアンの技術でスコアは維持できます。社長の足腰は、まだ、30代じゃないですか。日本アマ目指して、頑張ってください」志保は、リンダを励ましてくれたお返しに、目いっぱいのおべんちゃらを述べた。

 

社長は、30代の足腰と褒められ、その気になってしまった。「そう思われますか。最近、左脚が衰えて、左腰の切れが悪くなったように思っていました。年はとっても、日々精進すれば、飛距離が落ちても、アイアンで勝負できますかね。日本アマか。ゴルファーの夢ですよ」社長は、20代のころ日本アマに出場するのが夢だった。惜しいところで、出場できなかったが、心の底では、今でも出場したいと思っていた。

 

部長は、このときを逃してはならずと、即座におべんちゃらを述べた。「社長なら、やれます。日本アマ目指して頑張ってください。社長のスイングは最高です。私も応援します」部長は、笑顔を作り、志保に同意を求めるように頷いた。志保も大きく頷いた。社長は、脚の衰えを気にしていたが、志保と部長におだてられると、本気になってしまった。「そうか、植木もそう思うか。よし、日本アマ目指して、一から鍛えなおすか。足腰しだいでは、夢じゃない。よし」社長の目は、輝いていた。

 

うつむいていたリンダであったが、目を輝かせた社長に拍手を送った。「頑張ってください。私も応援します。私は、教師になろうと思っています。プロにはなれなくても、子供たちに教えることはできそうです。ジュニアの育成に頑張ってみます」社長は、リンダの夢に頷いた。「そうですか。先生にね。それもいいことです。人それぞれ個性があります。リンダさん、先生になって、世界に羽ばたくゴルファーを育成してください」

 

浮かない表情の志保に気付いた社長は、志保のドローボールを褒めることにした。「志保さんのドローは、飛距離が出てますね。いつごろから手打ちをされているのですか?」志保は、突然の質問に戸惑ったが、手打ちのドローは自慢だった。「あら、社長、そんなに飛距離が出てますか?40歳のころから手打ちを始めましたの。シャフトがいいので飛距離が出てるんだわ。最近のシャフトは、よくしなるじゃないですか。トップでしなりを作り、一気に振り下ろすと、しなりの戻りでパンチが効くみたいです」社長は、腕を組み、頷いていた。

 

「なるほど、確かにシャフトは進化しています。私のシャフトも優れものです。7番アイアンで170ヤードも飛ぶんです。シャフトが飛距離を出すんですね。年をとってもこのような飛距離を出してくれるシャフトがあれば、十分若い者と戦えます。今日もシャフトにかなり助けられています。シャフトに合ったスイングをすれば、まだまだ、いいスコアが出そうです。やる気が出てきました」社長は、シャフトのおかげで飛距離が伸びたことに感謝していた。

バック9

 

四人は、パターの練習を5分ほどやると、10番ホールに向かった。478ヤード、パー5、10番ホールは、緩やかなうちおろしで、リンダはツーオン狙いのホールだった。部長はティーショットをチョロしてさらに第三打を右のバンカーに打ち込んでしまった。やっと、5オンしたしたものの3パットでトリプルを叩いてしまった。リンダは、セカンドを3番アイアンで見事ツーオンに成功した。社長と志保は、着実にパーオンした。リンダは、バーディー、志保と社長は、パー。

 

396ヤード、パー4、11番ミドルホールは、打ちおろしで飛距離が稼げるホールだったが、またも、部長は緊張したのか、テンプラを打ってしまった。リズムを失った部長を気遣い、社長はセカンド地点でアドバイスをすることにした。「植木、落ち着け、いつもの早打ちが出てるぞ。肩を顎まで回して、切り返せ。ダウンスイングは左脚からだ。いいな」部長は、大きく頷き、アドレスに入った。

 

落ち着きを取り戻した部長は、右足体重で見事なドローボールを打った。「おい、ドローじゃないか。今日イチのショットだ。この調子だ」部長は、初めて打ったドローに目を大きくして笑顔を作った。「どうやって打ったのですか?自分でも分かりません。初めてです。こんな見事なドロー」部長は、自分のドローを褒めてしまった。社長は、噴出しそうだったが、部長の肩をポンと叩き、励ましの言葉をつけ加えた。「やればできると言うことだ。インサイドからヘッドが入ればドローになる。今の要領を忘れるな」部長は、褒められたが、どうやって打ったかまったく憶えていなかった。

部長は、3オンだったが、見事、得意のピン右4ヤードのパーパットを沈めた。志保は、3オン2パットのボギー。社長とリンダは、パー。326ヤード、パー4、12番ミドルホールは、部長でもパーオンできる打ちおろしのホール。部長は、気をよくし落ち着いて220ヤードのナイスショット。残り100ヤードほどを9番アイアンで見事パーオンした。全員パーパーパットを沈めたが、リンダは、バーディーパットを外したことに落ち込んでしまった。

 

肩を落としたリンダを励まそうと部長は、リンダに声をかけた。「リンダさん、パターをまっすぐ引こうとして、手が硬くなっていませんか?僕は、まっすぐ引かないんです。少し上に引き上げて、斜め上からこつんと叩くんです。参考になりますか?」リンダは、ポカンとしていた。「え、まっすぐ横に引かずに斜め上に引き上げて、そして、上から打つんですね。そんなうち方、初めて聞きました。私たち、みんな、真横に引いてまっすぐ打っています。試してみます」リンダは、初めての打ち方に興奮していた。

 

147ヤード、パー3、13番ショートホール池越えの打ちおろしのため、クラブ選択と距離感が難しい。部長は、池を避けるように最も短い距離を狙って、右サイドのバンカーを目標に打っていた。志保もバンカー目がけて8番アイアンを軽く振った。いつものようにバンカー手前にボールは落下した。部長も8番アイアンでバンカー目がけて打ったが、フックがかかり、もう少しで池ポチャになるところだった。リンダと社長は、9番アイアンで見事パーオン。

 

春日信彦
作家:春日信彦
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