記憶の森 第一部

9・謎のジョーカー2

ジョーカーはいつも話し終えるとそそくさと
独りで行ってしまうのだ。
普段は樹の上で一人で過ごしているようだった。
彼が自分から喋る時以外は、
皆遠慮して彼に話し掛けることはなかった。
みんなが彼に近づきがたい雰囲気を感じていたのも
事実だ。

話している時の変わり身が面白く、
身振り手振りで話す姿が皆の気を惹き付けた。

そして思わぬ物知りで、
世界中を見てきたような話しをして
周りを驚かせたこともあった。

そんな時ある者がジョーカーを「お前は嘘つきだ。」
と言ったことがあって、
そうしたら彼は顔を真っ赤にして
「人を嘘つき呼ばわりする奴は死ね!」
と子供のような声で絶叫したことがあって、
皆をビックリさせたことがあった。
毒を吐くことがあっても慇懃無礼で、
のらりくらり交わしてしまうような彼が
そんな風に怒った所を誰も見たことが無かったからだ。

ジョーカーは罵った者の上をパタパタ飛びながら、
「お前死ね!死ね!死ね!」と叫んで
「あー、すっきりした。」
と言い捨てて飛び去っていった。
余りに素早かったのでジョーカーに罵られた者は
何も言い返すことができなかった。


10・閃光

それから何日かして、
例の金色に輝く木の実の傍には見張りが立ち、
その周りでみな思い思いのことをしていた。
カイはやはりその実がお気に入りのようで、
よくその実を眺めていた。

そんな時その実がいつにも増して光り出した。
(!!)皆ギョッとしてその実を見た。
パァーンと音がしてその実は弾け飛んだようだった。
鋭い閃光に目がくらんだ。
その実の中から何かがもの凄いスピードで飛び出て、
樹の根元へと飛んでいった。
まるで樹の根元で爆発が起きたようだった。
目がチカチカし、それがやっと治ってきた時、
あたりはいつもより暗かった。
皆何が起きたか確かめようとしていた。

木の実は無残に真っ二つに割れていた。
そして、樹の根元にも異変があった。
樹の根元にはその樹の魂とも言える
丸い大きな球があるのだが、
それに大きな亀裂が走っていた。
そして、木の実の前でカイが意識を失って倒れていた。

「大変だ!」
みんながカイの周りに集まって気を取り直させようとした。
「やっぱり意識が戻らない。」
リクは眠っているように思えた。
そしてそのことを長老に伝えに行った。

長老は慌てて駆けつけた。
「これは何ということだ!」
長老は力が抜けたようにその場にひざまずいた。
「カイが・・・!それにこれではこの樹は枯れてしまう。」
長老は皆の宿り木として、この樹を心の拠り所にしていた。
周りの者達もなす術もなく立ち尽くしていた。
リクは泣きながらカイの名前を何度も絶叫していた。
長老は嘆き悲しんでいた。
そしてカイを見て涙を流した。

カイはそれから何日経っても目を覚まさなかった。
長老は寝込んでしまった。
周りの者達も二人の心配をして、
重苦しい雰囲気が周りを包み込んでいた。


11・希望

それからしばらく後
長老は意を決してルシファーを呼んだ。
思いつめた表情だ。

「お前に頼みたいことがある。」
「この世界はもうもたないかもしれない。
 あの樹が枯れてしまえば、わし達は心の糧を失ってしまう。」
「わし達は自分の力でこの世界から出て行くこともできない。」
 昔聞いたことがある。
 本当に心の通じる者を呼べば
 別の世界へ繋がる扉を開くことができると。」
「別の世界から呼ぶ?」ルシファーは聞いた。
「世の人々の生きる明るい世界だ。」
「でも、僕には知り合いは誰もいません。」
「お前、前にその首飾りをくれた人のことを話していただろう?」
 その人を探してみたらどうだ?
 わしには、もう呼びたい者を思い出すこともできないのだ。」

ルシファーの心の中で何か光りが見えた気がした。
そんなこと無理だとどこかで決め付けて諦めていたからだ。

「でも、できるかどうか・・・。」
「でもじゃ、このまま悲嘆に暮れているよりはいいだろうて?
 それに意識を失ったままのカイを捜しに行きたいんじゃ。
 たぶん、あやつの本体はあの不思議な実とともに
 世界をさまよっているのではないかと思う。
 あの樹の精霊とともに。」

ルシファーは首飾りを見つめた。
そして手に取って胸に押し当てた。



12・出現

ルシファーは長老に促されるままに
樹の根元に立ち、
首飾りを胸に当てて祈りだした。

しばらくすると天の方が明るくなり、
それが丸い穴のようになった。
光りの渦がドロドロと円を描いている。
「ああ、何かが来る!」長老が叫んだ。
ルシファーもドキドキしながらそちらを見つめた。

誰かがするするとゆっくり降りてきた。
見るとごく普通の青年のようだ。
「お前、あの者を知っているか?」
「いや、僕には心当たりが無いです。」
彼等は余りにも簡単にその者が姿を現したのを見て、
何と声を掛けてよいか戸惑った。

その普通の青年はいきなりで驚いたらしく
「ねえ、ここって一体どこなの?」
と周りを見渡してキョロキョロしていた。
その青年はチェックのシャツの下に紺色のズボンを履いていた。
それから青年は彼等の脇に降りてきて、
「こんばんわ。」と挨拶してきた。
彼は何の気兼ねもないようだった。

「急に呼び出したりしてすまなかった。驚いただろう?
 はじめまして。僕ルシファーっていうんだ。」
ルシファーは手を差し出した。
青年も手を出し、二人は握手をした。
(あったかいな。人間の手って・・・)
「何だか夢の中みたいな所だね。俺のこと知ってるの?
 俺、マサヒコって言うんだ。よろしく、ルシファー。」
「何で俺を呼んだの?」
マサヒコは不思議そうに聞いた。
「驚くだろうけど、君は昔の僕の恩人と縁のある人だと思うんだ。」
ルシファーはそう説明した。
「へえー、心当たり無いよ。
 ねえ、ルシファーって君、堕天使なの?」
「え?僕はそんなんじゃないよ。
 行く場所が無くて空を漂っていたら、
 気がついたらそう呼ばれてたんだ。
 僕にはハッキリとした記憶が無くてね・・・。」
「へえ、お前男なのにキレイだな。」
と唐突にマサヒコが言ったので、
「いや・・・。」と言って
ルシファーは困って照れた。

長老は二人のやりとりを眺めていたが、
しびれを切らしたようにマサヒコに話し掛けた。
「遠い所までよく来たな。
 わしはここの番人みたいなもんでな。
 なに、名前なんぞ無い。
 皆に長老と呼ばれておる。よろしく頼む。」
そして二人は握手を交わした。
マサヒコは戸惑いながら聞いた。
「頼むって何か事情があるんですか?」
「ああ。」と長老は言った。
「皆ここに閉じこもってから時間が長くてな。
 出るに出られなくなったのじゃ。
 それで思い切って外の住人のお前さんに頼んでみることにした。
 すまんが頼まれてくれんかのう?」
「え、俺?」マサヒコにはとても意外だった。
「何、心配には及ばんよ。
 お前さん、元の世界で眠っておるのだろう。
 また扉を開けたらすぐ帰れるでな。
 わし等が責任を持って送り届けるから。」
と長老は言い、
「確かに、俺さっきまで寝ていたと思ったんだけど・・・。」
とマサヒコは言った。


haru
作家:haru
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