記憶の森 第一部

10・閃光

それから何日かして、
例の金色に輝く木の実の傍には見張りが立ち、
その周りでみな思い思いのことをしていた。
カイはやはりその実がお気に入りのようで、
よくその実を眺めていた。

そんな時その実がいつにも増して光り出した。
(!!)皆ギョッとしてその実を見た。
パァーンと音がしてその実は弾け飛んだようだった。
鋭い閃光に目がくらんだ。
その実の中から何かがもの凄いスピードで飛び出て、
樹の根元へと飛んでいった。
まるで樹の根元で爆発が起きたようだった。
目がチカチカし、それがやっと治ってきた時、
あたりはいつもより暗かった。
皆何が起きたか確かめようとしていた。

木の実は無残に真っ二つに割れていた。
そして、樹の根元にも異変があった。
樹の根元にはその樹の魂とも言える
丸い大きな球があるのだが、
それに大きな亀裂が走っていた。
そして、木の実の前でカイが意識を失って倒れていた。

「大変だ!」
みんながカイの周りに集まって気を取り直させようとした。
「やっぱり意識が戻らない。」
リクは眠っているように思えた。
そしてそのことを長老に伝えに行った。

長老は慌てて駆けつけた。
「これは何ということだ!」
長老は力が抜けたようにその場にひざまずいた。
「カイが・・・!それにこれではこの樹は枯れてしまう。」
長老は皆の宿り木として、この樹を心の拠り所にしていた。
周りの者達もなす術もなく立ち尽くしていた。
リクは泣きながらカイの名前を何度も絶叫していた。
長老は嘆き悲しんでいた。
そしてカイを見て涙を流した。

カイはそれから何日経っても目を覚まさなかった。
長老は寝込んでしまった。
周りの者達も二人の心配をして、
重苦しい雰囲気が周りを包み込んでいた。


11・希望

それからしばらく後
長老は意を決してルシファーを呼んだ。
思いつめた表情だ。

「お前に頼みたいことがある。」
「この世界はもうもたないかもしれない。
 あの樹が枯れてしまえば、わし達は心の糧を失ってしまう。」
「わし達は自分の力でこの世界から出て行くこともできない。」
 昔聞いたことがある。
 本当に心の通じる者を呼べば
 別の世界へ繋がる扉を開くことができると。」
「別の世界から呼ぶ?」ルシファーは聞いた。
「世の人々の生きる明るい世界だ。」
「でも、僕には知り合いは誰もいません。」
「お前、前にその首飾りをくれた人のことを話していただろう?」
 その人を探してみたらどうだ?
 わしには、もう呼びたい者を思い出すこともできないのだ。」

ルシファーの心の中で何か光りが見えた気がした。
そんなこと無理だとどこかで決め付けて諦めていたからだ。

「でも、できるかどうか・・・。」
「でもじゃ、このまま悲嘆に暮れているよりはいいだろうて?
 それに意識を失ったままのカイを捜しに行きたいんじゃ。
 たぶん、あやつの本体はあの不思議な実とともに
 世界をさまよっているのではないかと思う。
 あの樹の精霊とともに。」

ルシファーは首飾りを見つめた。
そして手に取って胸に押し当てた。



12・出現

ルシファーは長老に促されるままに
樹の根元に立ち、
首飾りを胸に当てて祈りだした。

しばらくすると天の方が明るくなり、
それが丸い穴のようになった。
光りの渦がドロドロと円を描いている。
「ああ、何かが来る!」長老が叫んだ。
ルシファーもドキドキしながらそちらを見つめた。

誰かがするするとゆっくり降りてきた。
見るとごく普通の青年のようだ。
「お前、あの者を知っているか?」
「いや、僕には心当たりが無いです。」
彼等は余りにも簡単にその者が姿を現したのを見て、
何と声を掛けてよいか戸惑った。

その普通の青年はいきなりで驚いたらしく
「ねえ、ここって一体どこなの?」
と周りを見渡してキョロキョロしていた。
その青年はチェックのシャツの下に紺色のズボンを履いていた。
それから青年は彼等の脇に降りてきて、
「こんばんわ。」と挨拶してきた。
彼は何の気兼ねもないようだった。

「急に呼び出したりしてすまなかった。驚いただろう?
 はじめまして。僕ルシファーっていうんだ。」
ルシファーは手を差し出した。
青年も手を出し、二人は握手をした。
(あったかいな。人間の手って・・・)
「何だか夢の中みたいな所だね。俺のこと知ってるの?
 俺、マサヒコって言うんだ。よろしく、ルシファー。」
「何で俺を呼んだの?」
マサヒコは不思議そうに聞いた。
「驚くだろうけど、君は昔の僕の恩人と縁のある人だと思うんだ。」
ルシファーはそう説明した。
「へえー、心当たり無いよ。
 ねえ、ルシファーって君、堕天使なの?」
「え?僕はそんなんじゃないよ。
 行く場所が無くて空を漂っていたら、
 気がついたらそう呼ばれてたんだ。
 僕にはハッキリとした記憶が無くてね・・・。」
「へえ、お前男なのにキレイだな。」
と唐突にマサヒコが言ったので、
「いや・・・。」と言って
ルシファーは困って照れた。

長老は二人のやりとりを眺めていたが、
しびれを切らしたようにマサヒコに話し掛けた。
「遠い所までよく来たな。
 わしはここの番人みたいなもんでな。
 なに、名前なんぞ無い。
 皆に長老と呼ばれておる。よろしく頼む。」
そして二人は握手を交わした。
マサヒコは戸惑いながら聞いた。
「頼むって何か事情があるんですか?」
「ああ。」と長老は言った。
「皆ここに閉じこもってから時間が長くてな。
 出るに出られなくなったのじゃ。
 それで思い切って外の住人のお前さんに頼んでみることにした。
 すまんが頼まれてくれんかのう?」
「え、俺?」マサヒコにはとても意外だった。
「何、心配には及ばんよ。
 お前さん、元の世界で眠っておるのだろう。
 また扉を開けたらすぐ帰れるでな。
 わし等が責任を持って送り届けるから。」
と長老は言い、
「確かに、俺さっきまで寝ていたと思ったんだけど・・・。」
とマサヒコは言った。


13・毎日と世界の旅

マサヒコは樹を見上げて言った。
「不思議な樹だなあ。」
「おお、この樹の実にはいろんな記憶と知恵が詰まっていてなあ。
 大切にしておる。
 どれ、そなたには特別に一つしんぜようか?」
「え、好きなの貰っていいんですか?」
「そうじゃな。そなたに合いそうな物を捜してみるとよい。」
と長老は言った。

それからマサヒコとルシファーは浮き上がって木の実を
物色した。
「ねえ、お前は今いる世界でどんな生活をしているんだい?」
とルシファーは聞いた。
「え、俺?別に。工場で働いてるよ。
 最近、ヤンキーから足を洗ったんだ。」
「え?ヤンキーって何?
 僕ジャンキーなら聞いたことあるよ。」
「それって駄洒落?
 ヤンキーってね、特定の仲間とつるんでね、
 周りに毒づいて周るんだ。」
(何かジョーカーみたいだなあ。
 奴は誰かとつるんだりしないけど。)ルシファーは思った。
「ねえ、そんなことして面白いの?それが仲間なの?」
「なあ、馬鹿みたいでしょ?
 話しが合わなくなると思って付き合ってたけど、つまらないんだ。」
「そう。そんなのやめた方がいいよ。」
とルシファーは言った。

ふと樹の下に目をやるとジョーカーがいた。
彼はトランプを手持ちの鎌で切り裂いていた。
「やあ、ジョーカー。何してるんだい?」とルシファー。
マサヒコはそれを見てビックリしている。
「やあ、ルシファー。駄作のお話しを切り裂いてるんだ。
 そろそろ話しのネタにも尽きてきたし、
 外の世界を見てみたいもんだがなあ。」
「そうだったのか・・・。あ、奴は外の住人でマサヒコっていうんだ。」
「そうなのかい。やぁ、よろしくマサヒコ。」
マサヒコはジョーカーをまじまじと見た。
(本当にトランプのジョーカーみたいだ。)
「あ、どうも、よろしく。」とマサヒコは言った。
「そんなに驚かなくていいよ。こんな奴に会うと思わなかっただろ?
 僕はそういうの慣れてるから。取って食べたりしないから。」
そう言ってジョーカーはピエロのような顔で笑った。

「君の住む世界は平和かい?」とジョーカーは聞いた。
「ああ、俺の住む国は平和だよ。今の所。」とマサヒコ。
「そうかい。それは良かった。」

「これから、この世界の扉を開こうと思って、彼を呼んだんだ。
 長老に頼まれてね。」とルシファーは言い、
「よし、そうか。では僕も旅に出るとしよう。
 ところで、君達はどういう縁(えにし)なんだい?」
とジョーカーは聞いた。
「かつての恩人の末裔だと思うんだ。」
とルシファーは説明した。
「そういうことか。
 ここから出るには縁のある者と連れ立っていかないと
 出れないからなあ。
 君達が行く時に僕もここを出るとしよう。
 何しろ僕は世界をほっつき歩き過ぎて、
 縁のある者とはぐれてしまったんだ。流れ者さ。」
ジョーカーが身の上を話すのをルシファーは
初めて聞いた。
「そう、そうするといいよ。」とルシファーは言った。
(そんな者もいるんだな。)とマサヒコは思った。
「では、その時には声を掛けておくれ。
 じゃあな、ルシファー。」
とジョーカーはどこかに消えていった。



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作家:haru
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