途絶えたメール

 コロンダ君の目は輝き始めた。「他に何か気づいたことはありませんでしたか?」彼女はコロンダ君の右足を持ち上げるとスポンジでゆっくりと洗い始めた。「あ、ちょっと気になったことがあるんです。新年祝賀の儀のとき和歌子は黒真珠のネックレスをしていたんです。びっくりしました。和歌子は黒真珠のネックレスは絶対しないと言っていたんです。というのも、和歌子のお母さんが黒真珠のネックレスをした日に交通事故でなくなったそうです。だから、絶対に、しないと言っていたのに、それなのに」彼女は和歌子への不信を口にした。

 

 コロンダ君は左手を顎に当てるとしばらく考え込んだ。突然、メールが途絶えた。離婚できなければ自殺する。絶対しないと言っていた黒真珠のネックレスをしていた。新年祝賀の儀では元気な姿を見せていた。「お風呂にどうぞ」コロンダ君は湯船に案内された。風呂から上がり、真っ赤なソファーに案内されると横に彼女が腰掛けた。「お飲み物は何になされますか?冷蔵庫にはソフトドリンクもございます」テーブルにはブランディーがあった。

 

 ブランディーを注文した。彼女はグラスにブランディーを注ぎ、グラスを手渡した。おつまみが入った竹で編んだかごをコロンダ君の右手に置くと、彼女はプチチョコレートを口にそっと押し込んだ。「ご気分はいかがですか、和歌子の話は参考になりましたか?これを題材に小説を書かれるんですか?」彼女はいったいなぜ和歌子のことを根掘り葉掘り聞きだしたのか不思議に思っていた。

 コロンダ君は一瞬野坂の事故死のことを話そうかと思ったが、話すのをやめた。事故死と聞けば、自分のことを刑事と疑うと思えたからだ。「まあ、そんなところです。趣味で書いているだけですよ。とても癒されました。また、福岡にやってきたときは、アヤさんを指名しますよ」コロンダ君は福岡までやってきた甲斐があったことに満足した。笙子のことを思うと少し罪悪感が起きたが、情報をくれたアヤに感謝の意を込めてキスをした。

 

 コロンダ君は自宅に帰ると、早速お菊さんに報告することにした。お菊はお茶を入れて書斎に笑顔で入ってきた。「お菊さん、収穫がありましたよ。野坂が言っていたことは本当でしたよ」コロンダ君はアヤから聞いたことを順追って話した。「やはり、本当でしたか。和歌子妃はどうしてメールしなくなったんでしょうね。突然やめるって事は奇妙ですよ。離婚したい、自殺する、これはただ事じゃありませんね」お菊は妄想を膨らませ始めた。

 

 コロンダ君はお茶をすすると、飛行機の中で考えていたことを話しはじめた。「お菊さん、帰りの道中で考えたんだけど、和歌子妃は自殺したんじゃないだろうか?離婚できなければ自殺するって言っていたからね。でも、現に和歌子妃は元気で生きているんだ。この点だけど、この和歌子妃は替え玉じゃないだろうか?自殺した和歌子妃そっくりに整形した偽者の和歌子妃じゃないだろうか?ちょっと、強引な憶測だけど」コロンダ君は考えた挙句、このような結論に達した。

 お菊は真剣な面持ちで数回頷いた。「はい、その考えは当たっているかもしれませんね。もしかすると、自殺じゃなくて、皇太子に殺されたのかもしれません。天皇家の出来事は誰も分からないのです。たとえ、殺人があっても警察は事件をもみ消す、とどこかの本に書いてありました。天皇家も警察も怖いところですよ」お菊は天皇家について書かれた本を思い出しながら話した。

 

コロンダ君は呆然として天井を見詰めた。「自殺じゃなくて、他殺ですか。これは恐ろしいですね。もし、和歌子妃が他殺であれば、野坂の他殺は十分考えられますよ。詮索するやからは、消されますね」コロンダ君はますます和歌子妃は殺されたように思えてきた。「お菊さん、天皇家のことはどうしようもないけど、野坂の仇討ちは成し遂げたいですよ。何かいい方法はありませんかね」野坂の他殺は間違いないと確信した。

 

 お菊は残っていたお茶をすすって飲み終えると、眼を閉じて考え込んだ。コロンダ君もいろいろ考えたが、野坂を殺した犯人がヤクザであればどうすることもできないと思えた。きっと、指図したのは警察に違いないと思えたが、もはや、ヤクザと警察がグルでは太刀打ちできないとあきらめかけていた。お菊さんはゆっくりと眼を開けるとつぶやくように話し始めた。

 「天皇家、警察、ヤクザ、A新聞社、を相手にけんかを売っても勝ち目はありません。へたに手を出せばこちらがやられてしまいます。分かっていることは、今の和歌子妃は偽者だということです。本物はだれかに殺されたに違いありません。おそらく、このことを知っているのは、亡くなった野坂さんとわれわれ二人じゃないですかね。そこで、われわれにできることといえば、このことを公に知らしめることです。でも、われわれが言っていることがばれれば、二人は消されるでしょう。1つの案ですが、2チャンネルを使って匿名で書き込みをしてみてはどうでしょう」お菊はこれしかないように思えて提案をした。

 

 コロンダ君は大きく頷き眼を光らせた。「なるほど、2チャンネルを使うわけですか。今の和歌子妃は偽者だ。本物は皇太子が殺した。こんな文言を匿名で書き込むわけですね。もし、このことが事実ならば、偽者の和歌子妃はノイローゼになって自白するかもしれませんね」野坂への弔いはこれしかないように思えて早速書き込むことにした。もはや、改憲した新生日本は、CIA主導の軍国主義日本に変貌してしまった。

 

 

春日信彦
作家:春日信彦
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