再婚

アンナは握りこぶしを作り大きく頷いた。さやかはガッツポーズを作るとスッと立ち上がった。バッグから携帯を取り出すと、グランママに注文をしていた誕生日ケーキとシュークリームを引き取りにいくために亜細亜タクシーに電話した。二人がケーキを抱えて拓也宅に到着したのは4時半を過ぎていた。

 

災いを転じて福となす

 

アンナが玄関のインターホンを鳴らすと亜紀がドアを開けた。「こんにちは、また、お邪魔しますぅ~」アンナはいつものおどけた挨拶をした。「いらっしゃい、オネ~チャマチャマ」亜紀も笑顔で応えた。拓也がリビングから跳んでやってきた。笑顔を見せると「さあ、どうぞ、どうぞ」拓也は落ち込んでいるところを見せたくないのか、特に今日は陽気に振舞った。「亜紀ちゃん、今日はパパの誕生日ね、ケーキ買ってきたよ。パパをからかって、みんなでワイワイ騒いじゃおうね」アンナもいつも以上に子供のように陽気に振舞った。

 

アンナはミッキーの包装紙で包まれたボックスをそっとテーブルに置いた。グリーンのリボンをほどき、包装紙を開くと両手で箱のふたを開けた。すると拓也が大好物のチョコレートケーキが現れた。拓也と亜紀を席に着かせ、アンナとさやかは三人分のワイングラスと亜紀のグラスを用意した。アンナは3つのワイングラスにシャトー・クリネの赤ワインを注ぎ、亜紀のグラスにオレンジジュースを注いだ。ケーキに7本のローソクを立て、火をともした。部屋のライトを消すと炎の明かりでみんなの顔が輝き始めた。

 

Happy Birthday Takuya~歌声の後に続いて、拓也はニコッとすると口を尖らせ勢いよく7本のローソクの炎を消した。三人が拍手すると「ありがとう、年はとっても気持ちは27歳ですぅ。ワハハ~~」拓也は隣に座っている亜紀を見つめ大げさに笑った。アンナがAKBの話を切り出し、アンナは誰押しか拓也に尋ねた。拓也は恥ずかしそうに「ゆいはん、で~す」と元気よく叫んだ。さやかが部屋のライトをつけるとアンナはケーキをカットし、それぞれの取り皿にケーキを運んだ。

 

「アンナオネ~チャン、まりこは前原出身で、糸島高校の卒業って、知ってた?糸島高校って、すぐそこにあるんだよ」亜紀はAKBのメンバーについていろんなことを調べていた。「へ~、知らなかったわ、亜紀は物知りじゃない、一度、糸島高校ってところに見学に行ってみようかな。アンナは中卒なの。でもね、秋から、中洲女学院大学に通うことになったのよ。美人偏差値67が評価されて、芸能学部俳優科に特待生で合格したの」アンナは初めて亜紀に自慢話をした。

 

明日、拓也は休みだが、亜紀は幼稚園のため、食事を終えると全員9時に就寝した。拓也は二階、アンナ、亜紀、さやかは一階に寝床を取った。亜紀が幼稚園に行った後、さやかは例の名案を拓也に教えることにしていた。拓也はアンナとさやかたちと久しぶりにバカ騒ぎできたことで少しは気が晴れた。今までの子育てをいろいろしゃべったことで、今まで鬱積していたストレスがほんの少し解消した。

瞳との再婚の切望が今までアンナを無視させていたが、再婚の夢が破れた今、拓也の想いは徐々にアンナに向かっていった。拓也は自分一人では亜紀を育てられないことをしみじみ身にしみて感じていた。心の底ではアンナと再婚できれば最高の幸せと思ったが、22歳も年下のアンナにプロポーズする勇気は無かった。親子の年齢差を考えると、世間の目が気になって怖気づいてしまった。もし、アンナと結婚できれば、きっと亜紀も喜ぶと思ったが、それでも「結婚してほしい」と言い出せなかった。

 

亜紀がぐっすり寝入ったころ、アンナはそっと寝床を出ると二階に向かった。足音を立てないようにつま先で階段を上り、そっと部屋のドアを開けた。拓也はぐっすり寝入っていた。アンナは腰をかがめると少し布団をめくりそっと拓也の横にもぐりこんだ。拓也はまったく身動きしなかった。アンナは右手を拓也の胸の上に置くとゆっくり胸をなでた。拓也が薄目を開けて顔を右に傾けるとアンナは即座にささやいた。「亜紀のお母さんになりたいの、拓也!」アンナは左耳を下にして頭を拓也の胸の上に置いた。

 

拓也は左手でアンナの髪をそっとなでると「ありがとう、僕でよければ、結婚してほしい、アンナ」拓也は清水の舞台から飛び降りる思いでプロポーズをした。「はい!」アンナの眼から涙がこぼれていた。しばらく、拓也は黙っていたが、「でも、今すぐにはできそうも無いんだよ、ごめん」拓也は勃起不全のままでは結婚できないと思った。「え!どうして?まだ、彼女のことが忘れられないの?」アンナは強い嫉妬に駆られた。

 

「いや、違うよ。言わないと誤解されるから打ち明けるよ。なぜか、女性不感症になって、勃起不全になってしまったんだよ。つまり、あそこが使い物にならなくなったんだ。情けないけど、どうしようもないんだ」拓也は誤解されるより、恥を掻くことを選んだ。アンナは勃起不全という言葉を聞いて、不吉な不安に駆られた。アンナはどのようにリアクションしたらいいか戸惑った。

 

「きっと、疲れているのよ、心配ないわ。しばらく、休養して、精がつくものでも食べれば、また、元気になるよ」アンナは顔を起こすと拓也をじっと見つめた。拓也の顔にはまったく精気がなかった。アンナは拓也の股間に右手を入れた。まったく萎えきったあそこをしばらく揉んだが、いっこうに硬くならなかった。アンナは一大事件であることを改めて実感した。アンナは拓也におやすみを言うと階下に降りていった。

 

さやかと亜紀はぐっすり寝入っていた。さやかの肩をつんつんと突付いて起こすと、さやかを隣の部屋に招いた。アンナは拓也の事件をどのように話していいか迷ったが、右手が感じたことをありのままに話すことにした。「さやか、大変なことになったよ。結婚はダメかもしれない。拓也のあそこが、ダメになったのよ」アンナは興奮していた。「アンナ、もう少し分かりやすく話してよ。ダメってどういうこと?」さやかはアンナを落ち着かせた。

春日信彦
作家:春日信彦
再婚
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