再婚

瞳との再婚の切望が今までアンナを無視させていたが、再婚の夢が破れた今、拓也の想いは徐々にアンナに向かっていった。拓也は自分一人では亜紀を育てられないことをしみじみ身にしみて感じていた。心の底ではアンナと再婚できれば最高の幸せと思ったが、22歳も年下のアンナにプロポーズする勇気は無かった。親子の年齢差を考えると、世間の目が気になって怖気づいてしまった。もし、アンナと結婚できれば、きっと亜紀も喜ぶと思ったが、それでも「結婚してほしい」と言い出せなかった。

 

亜紀がぐっすり寝入ったころ、アンナはそっと寝床を出ると二階に向かった。足音を立てないようにつま先で階段を上り、そっと部屋のドアを開けた。拓也はぐっすり寝入っていた。アンナは腰をかがめると少し布団をめくりそっと拓也の横にもぐりこんだ。拓也はまったく身動きしなかった。アンナは右手を拓也の胸の上に置くとゆっくり胸をなでた。拓也が薄目を開けて顔を右に傾けるとアンナは即座にささやいた。「亜紀のお母さんになりたいの、拓也!」アンナは左耳を下にして頭を拓也の胸の上に置いた。

 

拓也は左手でアンナの髪をそっとなでると「ありがとう、僕でよければ、結婚してほしい、アンナ」拓也は清水の舞台から飛び降りる思いでプロポーズをした。「はい!」アンナの眼から涙がこぼれていた。しばらく、拓也は黙っていたが、「でも、今すぐにはできそうも無いんだよ、ごめん」拓也は勃起不全のままでは結婚できないと思った。「え!どうして?まだ、彼女のことが忘れられないの?」アンナは強い嫉妬に駆られた。

 

「いや、違うよ。言わないと誤解されるから打ち明けるよ。なぜか、女性不感症になって、勃起不全になってしまったんだよ。つまり、あそこが使い物にならなくなったんだ。情けないけど、どうしようもないんだ」拓也は誤解されるより、恥を掻くことを選んだ。アンナは勃起不全という言葉を聞いて、不吉な不安に駆られた。アンナはどのようにリアクションしたらいいか戸惑った。

 

「きっと、疲れているのよ、心配ないわ。しばらく、休養して、精がつくものでも食べれば、また、元気になるよ」アンナは顔を起こすと拓也をじっと見つめた。拓也の顔にはまったく精気がなかった。アンナは拓也の股間に右手を入れた。まったく萎えきったあそこをしばらく揉んだが、いっこうに硬くならなかった。アンナは一大事件であることを改めて実感した。アンナは拓也におやすみを言うと階下に降りていった。

 

さやかと亜紀はぐっすり寝入っていた。さやかの肩をつんつんと突付いて起こすと、さやかを隣の部屋に招いた。アンナは拓也の事件をどのように話していいか迷ったが、右手が感じたことをありのままに話すことにした。「さやか、大変なことになったよ。結婚はダメかもしれない。拓也のあそこが、ダメになったのよ」アンナは興奮していた。「アンナ、もう少し分かりやすく話してよ。ダメってどういうこと?」さやかはアンナを落ち着かせた。

「拓也は、女性不感症になって、勃起しなくなったの、Hができなくなったのよ」アンナは右手の感触を思い出していた。「女性不感症!きっと、彼女に振られたことが原因ね。アンナ、あきらめることは無いわ、災いを転じて福となす、って言うじゃない。今がチャンスよ、拓也をしっかり看病して、元気にしてあげることができれば、アンナは立派な妻ということじゃない。Hができなくても結婚するのよ」さやかは今こそ結婚すべきと激励した。

 

アンナは眉を下げて「もし、あそこが元気にならなかったら、子供ができないってことよね。子供、産みたいんだけど」アンナは淋しそうにつぶやいた。さやかはアンナの右肩をポンと叩くと「心配御無用!万が一、Hができなくても、子供は産めるのよ。拓也の精子を取り出して人工授精ができるの。だから、安心して」アンナはほんの少し笑顔を見せた。「分かったわ、拓也のために全力を尽くすわ。亜紀のためにもいいお母さんになって見せる」アンナは少し大きな声をだしてしまった。

 

突然、ふすまが開くと亜紀が立っていた。「オネ~チャンたちどうしたの?」亜紀は大きな声に起きてしまった。「ごめんね、起こしてしまって、亜紀ちゃん一緒に寝ようね、いい夢、見なくっちゃ」アンナは笑顔を作り亜紀の前で両膝をつくと、両肩を包むようにそっと手を添えた。アンナ、亜紀、さやかは川の字になって寝床についた。アンナは純白のウエディングドレスを身にまといバージンロードを歩く姿を思い浮かべ、そっと眼を閉じた。

 

春日信彦
作家:春日信彦
再婚
0
  • 0円
  • ダウンロード

16 / 18

  • 最初のページ
  • 前のページ
  • 次のページ
  • 最後のページ
  • もくじ
  • ダウンロード
  • 設定

    文字サイズ

    フォント