詩人に口なし

量子力学

 ヒトビトが量子の論理を難しく感じる理由のひとつは、

正しい質問をしない限り、正しい答えが返って来ないことである。


 粒子でも波でもあるという実在を想像して何らかの結論を導き出せるとは思えない。そこには常に解釈という落とし穴が待ち構えている


cf) 量子力学に対して実在の如何を求める質問は、

   正しい質問ではないのである。


実体についての、ありふれた疑問

 今日では凡庸なヒトでも知っていると思い込んでいる「光量子」について、アインシュタイン先生は50年もの間、熟考したという。

 古典論(*1)であれば、「光が何であるか?」という実体についての疑問に答えを与えてくれそうに錯覚する。

 光や電子などの実体が何であるのかについて、量子力学は何も語ってはくれない(*2)ということ以外、無名の詩人は何も知りはしない。

 

(*1)量子論以前の理論。

(*2)量子力学は実体の状態しか関知しない。

        The Feynman Lectures on Physics, Volume III

         Chapter 1.Quantum Behaviorより引用

“Quantum mechanics” is the description of the behavior of matter and light in all its details and, in particular, of the happenings on an atomic scale. Things on a very small scale behave like nothing that you have any direct experience about. They do not behave like waves, they do not behave like particles, they do not behave like clouds, or billiard balls, or weights on springs, or like anything that you have ever seen.

( 「量子力学」は物質と光の振る舞いについての全く詳細な記述であり、特に原子スケールで起こることを記述する。極微スケールのものは、君らが直接経験することがないもののように振る舞うのである。それらは波のように振る舞うこともなければ、粒子のように振る舞うこともなく、雲やビリヤードの玉、またはバネの重りのように振る舞うことはなく、君らがいままで見たことのあるもののように振る舞うことはないである。)

 

Science entertainment

その周辺に群がるヒトビトは、他人の話を聞いて分かった気分にはなれるが、

不毛な土地で議論の花は咲かせても実を結ぶことがない。

王道はなく、量子世界の地図上には数多の袋小路が散見される。

世界

ヒトの観る世界がひとつだけとは限らないようだ。

この場合の世界とは、特定の価値観や理論を通じて、物理的対象を眺めたときに理解される領域のことである。世界は多分に、詩人の想像力を遥かに超越している。

 

・マクロ世界

 対象の同一性を確定できる(同種の対象が区別可能な)領域。古典力学が通用する領域であり、粒子の位置と速度から決定論的に算出可能な軌道という概念が有効である。

  因果律(原因が先で結果が後)が破れないために速度上限があり(局所性)、遠隔作用は禁止される。

 

・ミクロ世界

 同種の対象について同一性を確定できない(基本的に区別が不可能な)領域。量子力学が通用する領域であり、1個の粒子の軌道といった古典論的概念は役に立たず、また(角)運動量やエネルギー等の抽象的概念の方が有効である。

 個別粒子の見分けがつかないので位置と速度に基づくトレーシングは断念され(非決定論)、その状態を記述する量(関数、ベクトル)を用いた確率的計算のみ可能である。

 

cf)マクロ世界とミクロ世界との間に明確な境界があるわけではない。

無名のヒト
作家:無名のヒト
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