~勇者が行く~(1)

本編( 6 / 11 )

外伝(参)

外伝(参)

 

外伝:盗子のラブラブ大作戦〔1〕
アタシは盗子。勇者に恋する可憐な盗っ人少女。アイツのハートはアタシが盗む!
最初はただ盗賊の意地って感じだったけど、知らぬ間に本気になってたって感じ?
でもアイツは姫に夢中だし…やっぱそれ相応の作戦立てる必要がありそうだよね。
よし!まずは作戦実行にあたって必要な仲間を集めて、それからアタックだー!
盗子「てゆーわけだから、よろしくね暗殺美☆」
暗殺美「はぁ?なんでさ?なんで私がアンタに付き合うさ?」
盗子「だってホラ、アンタって勇者のこと嫌いなんでしょ?」
暗殺美「…アンタと付き合うのは、勇者にとって苦痛になるのかさ?」
盗子「う゛ぉっ…!? ち、違うよ!そんなことは絶対無いよ!!」
暗殺美「だったら私の出る幕は無いのさ。他をあたるがいいさ。」
盗子「ど、どうしてもダメ?」
暗殺美「どうしてもさ。」
盗子「ホントにダメ?」
暗殺美「ホントにさ。」
盗子「じゃ、じゃあお菓子あげるから!」
暗殺美「私はそんなに安い女じゃないさ。」
盗子「賢二が一緒でも?」
暗殺美「任せろさ!!」

暗殺美が仲間に加わった。

 

外伝:盗子のラブラブ大作戦〔2〕
アタシは盗子。勇者に恋する可憐な盗っ人少女。アイツのハートはアタシが(以下略)
盗子「てゆーわけだから、よろしくね賢二☆」
賢二「えっ!なんで僕が!?しかもさも当然のように!」
盗子「イヤって言ったら、これから毎晩一つずつ家財道具が消えていくらしいよ。」
賢二「そんなヒトゴトの様に…。」
盗子「じゃあ…アンタが裏山に穴掘って、勇者の陰口叫んでたのバラしちゃうよ?」
賢二「えぇっ!?ななななんで知ってるの!?」
盗子「この前偶然聞いちゃった☆」
賢二「くっ…!で、でも証拠が無いし!」
盗子「あー、そっかぁ~。今の会話とか録音しとけばよかったなぁ~。」
賢二「でしょ?証拠無いでしょ!? というわけで、諦めてください。」
盗子「…わかった。諦めるよ……。」
賢二「あっ、うん。 なんかゴメンね…。」

再生『えぇっ!?ななななんで知ってるの!?』

賢二「Σ( ̄□ ̄;)!!」

賢二が仲間に加わった。

 

外伝:盗子のラブラブ大作戦〔3〕
とりあえず仲間は二人集まったから、作戦は第二段階に進めようと思うの。
ホントはまだ欲しいんだけど、あんま大人数に事情を打ち明けるのは恥ずかしいし。
賢二「それで、まず僕らは何をすればいいの?」
暗殺美「敵は勇者…奴はハンパな計画じゃ落とせない男さ。」
盗子「う~ん…とりあえず、やっぱあと何人か「兵隊」が必要なんだよね~。」
賢&暗「兵隊?」
盗子「ちょっと作戦第二段階として「やるべき事」があんの。」
賢&暗「やるべき事?」

邪魔者には、消えてもらう。

武史の命が危ない。

 

外伝:盗子のラブラブ大作戦〔4〕
勇者への告白…ここで一番の敵になると思うのはやっぱ「お兄ちゃん(シスコン)」。
とりあえずアイツをなんとかしないことには、作戦の成功は無いと思うんだー。
だから賢二と暗殺美には「兵隊探し」を頼んだの。 いい奴つれて来るかなぁ~?
賢二「と、とりあえず三人連れてきた…けど…。」
盗子「・・・・・・・・。」

白「晴れてなければ…」
盗子「帰れ。」

邦壱「べべんべ…」
盗子「帰れ!」

余一「再発した。」
盗子「入院して!!」

賢二はボコボコにされた。

 

外伝:盗子のラブラブ大作戦〔5〕
ろくな奴を連れてこなかった賢二。 あんなのを信用したアタシがバカだったよ。
あとは暗殺美に賭けるしかないんだけど…大丈夫かなぁ? う~ん、ちょっと心配。
暗殺美「く、苦情は一切受け付けないさ…。」
盗子「・・・・・・・・。」

巫菜子「協力するよ☆(弱み握っちゃるぜ!)」
盗子「ゼッタイ腹黒いから却下。」

芋子「芋…」
盗子「勝手に食ってて!」

霊魅「霊界から…」
盗子「呼ばないで!!」

もうアッタマきたー!

賢二がボコボコにされた。

 

外伝:盗子のラブラブ大作戦〔6〕
兵隊集めは失敗したから、結局お兄ちゃんは賢二と暗殺美に任せることにしたの。
かな~り不安だけど、二人がかりなら2・3日眠らせることくらいはできるかも☆
盗子「お、お兄ちゃん!この賢二が、何か用があるらしいよ?」
武史「なんだとぉ!?まさか…盗子が欲しいとか言うんじゃねぇだろな!?」
賢二「いやっ、そんなの要りませんよ!!」
盗子「…賢二、あとで覚えといて。」
賢二「しまたー!」
武史「フン!どうせ俺達の兄妹愛を壊そうって腹なんだろ? そうはさせるかよ!」
盗子「さぁ頑張って賢二!恋は闘いだよ!」
賢二「それは当事者同士でするものだよ!」
暗殺美「そうさ!私らが危ない目に遭う義理は無いさ!」
盗子「そ、そんなこと言わずに!暗殺美も頑張って!」
暗殺美「いーや!私はやっぱ帰ることにするさ!」
盗子(心理学によると、人は危機的状況を共有すると恋に落ちるらしいよ。)
暗殺美「頑張るさ!!」

恋は命懸けだ。

 

外伝:盗子のラブラブ大作戦〔7〕
なんとか暗殺美も丸め込んで、ついに戦いは始まったんだけど…やっぱ超不安。
でもまぁこうなったら信じるしかないよね! アタシは隠れて様子見てよっと☆
盗子〔物陰〕(頑張れ二人ともー!)
武史「たった二人でこの俺に挑んでくるとは…いい度胸だぜお前ら!」
暗殺美「アンタに恨みは無いけど、今からアンタを暗殺するさ!」
賢二「暗殺美さん!宣言したら「暗殺」にならないよ!」
暗殺美「(訳:イヤン私ってば☆恥っずかしいぃー☆)うっさいさクズ蟲めが!!」
賢二「ご、ごめんなさい…。」
暗殺美(はうあー!つい照れて心にも無いことをー!)
武史「フッ、迷うぜ。まずはどの魔法小僧から始末するか…。」
賢二「それ迷ってないし!思いっきり僕だけをロック・オンしてるし!!」
武史「さぁ行くぜ!盗子に近づく男は全てチリと化せやぁー!!」
賢二「狙いは僕だし…まずは僕が魔法で応戦するよ!暗殺美さんは援護して!」
暗殺美「(訳:うん☆でも無理はしないでね☆)雑魚はすっこんでろさ!!」
賢二「ごめんなさい…。」
暗殺美(はうあー!)

暗殺美の恋は散りそうだ。

 

外伝:盗子のラブラブ大作戦〔8〕
そしてバトルスタート。 頑張れ賢二!死んでもいいからお兄ちゃんもなんとかして!
武史「いくぜ!秘奥義、「武士道:マシンガン乱れ撃ち」!!」
暗殺美「それのどこが武士道さ!?正々堂々前を向いて歩けさ!」
賢二「そうはいかないよ!上手くいくかわからないけど…「映像(ビジョン)」!」

賢二は〔映像〕を唱えた。
盗子の立体映像が現れた。

武史「なっ!と、盗子!? …いや、薄い!立体映像か!」
賢二「あぅ…。やっぱりレベルが足りないとこうなるのか…。 ど、どうしよう!」
武史「くっ、これじゃ攻撃できねぇ!」
賢二(シスコンさんで助かったよ…。)
暗殺美「どうでもいいけど賢二君、この盗子に「ツノ」が生えてるのは何故さ?」
盗子〔物陰〕「…賢二、あとで覚えといて。」
賢二「しまたー! つい…」

賢二は必死で言い訳を考えた。
だが「つい」の時点で詰んでいた。

 

〔映像(ビジョン)〕
魔法士:LEVEL6の魔法。(消費MP10)
思い浮かべた物体を、立体的に映し出す魔法(静止像)。 エッチな男は夜に使う。
 

 

外伝:盗子のラブラブ大作戦〔9〕
戦いはまだ続行中。やっぱ倒すのは無理だろうから、なんとか降参させて欲しいよ。
賢二「お願いです武史さん、降参してください。 さもないと…」
武史「さもないと…?なんだってんだオラァ!!」
暗殺美「さもないと、今の魔法で作った盗子達が裸で街中を練り歩くことになるさ。」
武史「なっ!?」
盗子〔物陰〕「…賢二、いい度胸だね。」
賢二「えっ!僕じゃないよ!?僕の案じゃないよー!?」
暗殺美「全裸の盗子が繰り広げる珍妙な大名行列に、人々は嘔吐の嵐さ。」
武史「ぬぉっ…!!」
盗子〔物陰〕(な、なんだか凄まじくバカにされてる気が…。)
暗殺美「さぁどうするさ?早くしないと大事な妹の映像がノリノリストリッパーさ。」

武史「わ、わかった!わかったよ! 降参…するよ…。」
三人「よっしゃー!!」

よーし!次はいよいよ最終段階だー! …あっ、そうだ!その前に…

賢二はボコボコにされた。

 

外伝:盗子のラブラブ大作戦〔10〕
暗殺美のハッタリはなんか恥ずかったけど、一応これで作戦第二段階までは成功☆
お兄ちゃんには「しばらく家から一歩も出ない。」って念書書かせたからもう安心!
盗子「さ~て、いよいよ告白なんだけど…どうしよ??」
賢二「えっ!そんな肝心なところがまだ決まってないの!?」
暗殺美「こうなったら当たって砕けろさ。とっとと教室あたりで告白しちまえさ。」
盗子「で、でもぉ~…。」
賢二「やっぱ静かな所に呼び出そうよ。目立つ告白だと、彼は照れてキレると思う。」
暗殺美「私もそう思うさ。」
盗子「静かな所…やっぱ体育館裏とかが妥当かなぁ~。 でもどうやって呼ぼう?」
暗殺美「そんなん決まってるさ。無理矢理にでも引きずって連れ出せばいいのさ。」
賢二「ここは手紙とかがいいだろうね。その方が勇者君もドキドキするはずだよ。」
暗殺美「私もそう思うさ。」
盗子「ふ~ん、なるほど~。 いいね、それ! なかなかヤルじゃん賢二!」
賢二「まあね!人の考えとか気持ちに敏感なのが、僕の自慢なんだ☆」

暗殺美は笑うしかなかった。

 

外伝:盗子のラブラブ大作戦〔11〕
賢二の提案で、手紙で体育館裏に呼び出して告白することに決定。 超ドキドキ☆
とりあえず放課後に渡すってことにして、それまでに内容を考えることにしたの。
盗子「やっぱさ、直球ド真ん中のラブラブな手紙がいいと思うんだけど…。」
賢二「えっ!そ、それはやめた方がいいよ。意図が読めたら彼は来ない気が…。」
暗殺美「そうさ。そんなん読んだら荷物をまとめて島からの脱出を試みるさ。」
盗子「なっ…!そ、そんなことないよ!勇者だってきっと「ウッキューン☆」て…」
暗殺美「いいや。 もし私だったら、あまりのキモさに己の眼球をえぐり出すさ。」
盗子「くっ、失礼な…! じゃ、じゃあ二人はどんなのがいいと思うのさ!?」
賢二「う~ん…。まぁまだ放課後までには時間もあるし、じっくり考えようよ。」
暗殺美「そうさ。時間をかけてゼロの可能性を少しでも上げるように努めるべきさ。」
盗子「ぜ、ゼロって失礼な!100%だっての!勇者のハートはアタシが盗むの!」

弓絵「あげませ~ん!!」

第二の刺客が現れた。

 

外伝:盗子のラブラブ大作戦〔12〕
いきなり現れた超ポジティブ女の弓絵。 しまった、コイツがいるのを忘れてたよ!
なんとかこの子を始末しないと、お兄ちゃん以上の障害になる可能性も…。
弓絵「盗子せんぱ~い、ま~た勇者先輩にチョッカイ出す気なんですかぁ~?」
盗子「別にいいじゃん!アンタにゃ関係ない話じゃん!」
弓絵「関係アリアリですよ~!弓絵のダーリンに嫌がらせしないでくださーい!」
盗子「だ~れがダーリンだってぇ!? 勇者はアタシんだってーの!!」
暗殺美「いや、嘘を嘘で返すのはどうかと思うさ。」
弓絵「そうですよ、嘘はダメですぅー!その目つきの悪い先輩の言う通へぶっ!

暗殺美の鉄拳が突き刺さった。

弓絵「い、痛いですぅ~!」
暗殺美「今度私の悪口を言ったら、鉄拳じゃなくて「クナイ」が急所を貫くさ。」
弓絵「うぅ~、気をつけますぅ~。」
盗子「さぁ賢二、さっさとこの子を片付けちゃって!手紙書く時間が無くなっちゃう!」
賢二「いや、女の子に暴力振るうのはどうかと…。」
弓絵「そうですよ、暴力はダメですぅー!その冴えない顔の先輩の言う通ぎゃっ!

暗殺美のクナイが突き刺さった。

 

外伝:盗子のラブラブ大作戦〔13〕
暗殺美のお陰で弓絵の駆除も大成功☆これでもうホントに敵はいなくなったはず。
あの後一応保健室にブチ込んどいたから、多分すぐ治るとは思うけどね。
そして放課後。 今から手紙を渡して、勝負は明日の朝だー!頑張るぞー!
盗子「よーし、じゃあ早速手紙を下駄箱に…って、勇者もう下駄箱にいるー!!」
賢二「一足遅かったね…。 どうする?明日は諦めて明後日にする?」
盗子「ダメ!お兄ちゃんが来ちゃうかもしれないし、やっぱ早い方がいいよ!」
暗殺美「こうなったらクナイに縛り付けて投げるしかないさ!「矢文」の要領さ!」
盗子「で、でも大丈夫?ちゃんと勇者がすぐ気づく場所を狙える??」
暗殺美「信じろさ。私のクナイの腕前は、さっき見せた通りさ。」
盗子「そ、そうだよね!信じるよ!」
暗殺美「よーし、いくさー! ホイさっ!!」


サクッ。(勇者の頭に)

三人「うわーーー!!!」

「暗殺者」の悲しい性だ。

 

外伝:盗子のラブラブ大作戦〔14〕
うわーん!暗殺美のせいで大失敗だー! もう恋どころか命が終わりそうだよー!
うぅ~…で、でもでも!もしかしたら挽回はできるかも!よし、なんとか誤魔化そう!
勇者「う゛ぉ゛っ!こ、これは…クナイ…? だ、誰の仕業だ畜生がっ!!」
盗子〔物陰〕「うっぎゃー!どうしようどうしよう!?このままじゃ失敗しちゃうよー!」
暗殺美〔物陰〕「わ、私に任せるさ!責任は取るさ!え、え゛ぇ~…ゴホッ、ゴホン!」
声(暗殺美)「あ~、今日は午後からクナイが降るらしいよ~。鉄傘が欲しいよ~。」
勇者「む?姫ちゃん?? 一体どこに…。」
盗子〔物陰〕「ナイス声帯模写だよ暗殺美!って、そんなんで騙せるかー!!」
勇者「なるほど、今日は変わった天気なんだな。」
盗子〔物陰〕「信じたーー!!」
賢二〔物陰〕「も、もはや「信者」って感じだね…。」
暗殺美〔物陰〕「おっ!そんなことよりホラ!アイツ手紙読んでるさ!」
勇者「む?「明日の朝、体育館の裏で待ってます☆」…だと?」
賢二〔物陰〕「ホントだ見てる見てる! で、でも刺さったしなぁ…どうなんだろう?」
盗子〔物陰〕「あっ、笑ってるよ!なんかニヤリとしてる! ひょっとして脈アリ!?」
暗殺美〔物陰〕「頭に刺さったクナイの手紙で何故…?」
賢二〔物陰〕「うわ~!なんかホントに嬉しそうだ~! うまくいくかもしれないね!」
盗子〔物陰〕「うんっ!」

勇者(フッ、「果たし状」か…。腕が鳴るぜ!)

盗子は死ぬかもしれない。

 

外伝:盗子のラブラブ大作戦〔15〕
そして朝。ついに告白の時! 勇者もまんざらでもなさそうだったし…期待大かも☆
そろそろ約束の時間…あっ、もう来てる!やっぱ超期待大かも~☆
盗子「お、お待たせ勇者~☆」
勇者「…そうか、やはりお前だったのか盗子!」
盗子「え゛?」
賢二〔物陰〕「あー…名前書き忘れてたみたいだね…。」
暗殺美〔物陰〕「アイツは救えないアホさ。」
盗子「わーん!ウッカリしてたよー!」
勇者「フッ、安心しろ。十中八九お前だろうとは思っていた。」
盗子「えっ!? だ、だったらもう私の想いは…☆」
勇者「思えば随分前から気づいてたんだ。お前はそうなりたいんじゃないかと…。」
盗子「ゆ、勇者…☆」
勇者「もっと早くにこうしておけばよかった…待たせたな。俺はお前を、か…」
賢二〔物陰〕「ええぇっ、「か」!? も、もしかして…!!」
暗殺美〔物陰〕「盗子が「彼女」でもいいのかさ!?ゲテモノ食いにも程があるさ!」
盗子「じゃ、じゃあ…してくれるの!?アタシをか、か、か…(彼女に…☆)」

勇者「ああ!「刀のサビ」にしてくれるわ!!」
盗子「その「か」かよー!!」

作戦は失敗に終わった。

 

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本編( 7 / 11 )

第四章

第四章

 

166:進級〔7歳:LEVEL3〕
春…。 7歳になった俺は、今日から四号生として学校に通うことになる。
今年はとりあえず始業式はパス。どうせろくなことは起こるまい。行くだけ無駄だ。
てなわけで俺は始業式の間中、屋上で適当に暇を潰しておくことにしたのだが…
ズダダダダダダダン!!(銃声))
(「うわああああ!!」)
勇者「フッ、やはり始まりやがったか。懲りない奴らだぜ…。」
(「や、やめてー!」)
勇者「まぁ俺には関係ない。せいぜい先公どもを恨むがいいさ雑魚どもめが。」
(「やめてくれぇーー!!」)
(「ポピュッパー!!」)
ドガーーン!!(ロケットランチャー))
勇者「ッ!!?」
(「うっぎゃああああ!!」)
勇者「ポ…ポピュ?」
(「ぎゃー!や、やめてください校長先生ー!!」)
勇者「…ま、気のせいだろ。」
(「ポピュパッププー!!」)
(「勇者ー!勇者はどこだー!?父さんPTA代表で頑張ってるぞー!?」)
(「ぎょえぇえええええ!!」)
勇者「・・・・・・・・。」

うん、いい天気だ。

勇者は青空が目に染みた。

 

167:謝罪〔7歳:LEVEL3〕
始業式翌日。明らかにみんなの俺を見る目が殺意に満ちている。やれやれだ。
「勇者」たる者、やはり簡単に人に頭を下げるようなことがあってはならない。
だが、今回ばかりはちとマズい。 さすがの俺も腹を決めねばならん状況だと思う。
気は進まんが…仕方あるまい…。


全員、ブッた斬る。

勇者は友の屍を乗り越えた。

 

168:学校〔7歳:LEVEL3〕
入学して三年…。 振り返る意味も含め、学校について詳しく書いてみようかと思う。
俺達の通う学校の名は「学園校」。「学園」なのか「学校」なのかハッキリしない。
六年制の学校で、入学時に「冒険科」「駐屯科」「村人科」のどれかを選択する。
その後の行事は全て各科ごとに分けて行われるため、関わりはほとんど無い。
〔冒険科〕
冒険の知識と、戦闘能力を磨くことだけを目的としたクラス。俺達のいる科だ。
毎日が命懸けであるため、卒業するのは非常に困難。スパルタにも程がある。
〔駐屯科〕
冒険はしないが村人じゃ物足りないという奴らが通うクラス。中途半端な奴らめ。
「兵士」や「護衛人」のように、一箇所に留まる職を希望する奴が多くいる科だ。
〔村人科〕
いつか名を馳せてやろうという野望の無い奴らが通うクラス。フン、雑魚どもめが。
命を大事にしたい気持ちはわからんでもないが、そんな人生じゃ死んだも同じだ。

ちなみに各科とも、一学年は20人×3クラス。よって全校生徒は千人強で始まる。
だが冒険科は毎年人数が激減するため、年度始めに転入生で補うことになる。
したがって、今年も360人前後でスタートした我らが冒険科…


残り、80名。

勇者ファミリーの功績が大きい。

 

169:隔離〔7歳:LEVEL3〕
どういうわけか、どういうわけか記録的に人数が減った今年度。どういうわけか。
そのため今年は例外的に、全校生徒を学年ゴッチャ混ぜで4クラスに分けるらしい。
勇者「混合クラスか…ややこしいな。今からまた転入生の補給はできないのか?」
教師「行きたいのは山々ですが、これから大陸に行くのは少々面倒なのですよ。」
盗子「大陸!?転入生って大陸から来てるの!?」
姫「輸入雑貨だね。」
賢二「あぁ…言われてみれば、あの数をこの島だけで確保するのは無理だもんね。」
教師「ええ。毎年大陸の方から拉致って…あ、攫ってくるのです。」
賢二「先生、言い換えても同じ意味ですよ…。」
暗殺美「私ら転入生はみんな寮に入ってるのさ。親は大陸に置き去りさ。」
勇者「まぁ二度と生きて大陸の地は踏めんだろうがな。」
教師「いやいや。正式な手続きさえすれば、ちゃんと大陸に帰ることもできますよ。」
盗子「ふ~ん、そうなんだ~。 んじゃさ、もし無断で出ようとしたらどうなんの?」
教師「無断で?そうですねぇ~。 ちょっとだけ…お仕置きしますかね。」

勇者はなんとなく察した。

 

170:遠足〔7歳:LEVEL3〕
今年は学年混合のA~Dクラス(各20名)により構成されることになった我が学校。
俺のクラスはA組。盗子、賢二、姫ちゃん、暗殺美も同じのようだ。
そしてこのメンバーで、恒例の行事「春の遠足」を迎えることになる。
教師「今回の遠足の舞台は、南の小島「コミナ島」になります。」
賢二「コミナ島といえば、双子の…通称「筋肉兄弟」が支配してる島ですよね?」
勇者「確か名前は「化院(ケイン)」と「斜院(シャイン)」…。それが今回の敵か。」
教師「そうです。「奴らを追い出せガキども!」が、今回島民より受けた依頼です。」
暗殺美「…まずは島民を先にシメる必要がありそうさ。」
勇者「オイ先公、「拷問大全集」を貸してくれ。」
賢二「えっ、ダメだよ!仮にも僕ら正義の味方なんだし!」
教師「勇者君、暗殺美さん…」
盗子「そうだよ先生!先生からも何か言ってやってよ!」
教師「「列島破壊書」も要りますか?」
盗子「煽るんかい!!」

惨劇のニオイがする。

 

171:凍死〔7歳:LEVEL3〕
今年の春の遠足…我らA組は「コミナ島」へと赴くことになった。
だが、20人の大所帯では目立つ上に戦闘効率も悪い。やはり組分けが必要だ。
というわけで俺達は、各10人の二組に分けて乗り込むことにしたのである。
勇者「盗子、賢二、姫ちゃん、暗殺美…とりあえずお前らは俺の組だ。いいな?」
賢二「覚えるのが面倒なんだね。」
盗子「んじゃさ、残りの五人はどうする?」
暗殺美「んなの適当に選べばいいのさ。名簿の上から五人とか…」
少年「あいや待たれい! それならば、某(それがし)を選んではもらえんか?」
勇者「む?また随分と古臭い一人称だな…まぁいい、名を名乗れ!」
少年「某は「侍」の「寒来(サライ)」。五号生だけにGo!Go!っと行くぞー!」
賢二「・・・・・・・・え゛?」
寒来「ハッハッハ!こりゃ傑作だ!「五号」と「Go」を掛けたナイスギャグ!」
一同(う、うわー…寒ぅ~…。)
姫「ふわわ~。(あくび)」
勇者「寝るな姫ちゃん!寝たら死ぬぞ!」
寒来「ワッハッハ!なんてこった!思いっきりスベッ…介錯を頼む!!」
盗子「わー!し、死ななくていいよ!ギャグがスベッたくらいで死なれちゃ困るよ!」
勇者「嘘に決まってる。あくまで「振り」だけさ。仮にやっても途中でやめるだろう。」
暗殺美「そうさ。こういう奴は誰かが止めてくれるのを待ってるのさ。」
寒来「なっ、なな何を言う!某はいつだって本気なモンキーだぞ!!」
賢二「ま、まぁ落ち着いて!僕は結構面白かっ…たですよ! だ、だから…ね?」
寒来「くっ、かたじけない。その優しさ…全身の「ためらい傷」に染みおるわ…。」

いっつも死ぬ気は無かった。

 

172:弟子〔7歳:LEVEL3〕
寒来も加わり、仲間は六人となった。 あとは四人…できれば有望な奴がいい。
そう考えていると、なにやら暑苦しそうなのが寄ってきた。 男か女かわからない。
少女「わ、私は一号…「人形師」の「土男流(どおる)」!弟子にしてくれ勇者先輩!」
勇者「その声…女か。悪いが俺にママゴトの趣味は無い。人形遊びなら他でやれ。」
土男流「そんなことは言わないでくれ!頼む!私はアンタの男気に惚れたんだ!」
勇者「…ふぅ。ならば何か特技を見せてみろ。もし光るものがあれば考えてやる。」
土男流「よ、よし!よーし!やったぜー!じゃあ…腹話術!腹話術をやるぜ!」
勇者「はぁ?腹話術だぁ? …まぁいっか。とりあえずやってみろ。」
土男流「ゴ、ゴホン。あー。あー…。 あれ? 声が 遅れて 聞こえたらなぁ…。」
勇者「願望かよ!しかも人形も使ってないし! ま、失格だな当然のごとく。」
土男流「い、いや!実は腹話術は苦手なんだ!ホントは人形使った戦闘が…」
勇者「言い訳は男らしくないぞ!前言を簡単に覆すようなマネはやめろ!!」
土男流「くっ…!」

土男流「これ、姫先輩のフィギュアなんだ!」
勇者「俺について来い!!」

勇者はアッサリ覆した。

 

173:出発〔7歳:LEVEL3〕
そして翌日、俺達は中獣車(水陸両用)でコミナ島へと向かうこととなった。
結局残りの三人は適当に選抜。 よくは知らんのだが簡単に言えば以下の通りだ。
・三号生(女):名前「歌憐(カレン)」:職業「歌姫」
・四号生(男):名前「博打(バクチ)」:職業「勝負師(ギャンブラー)」
・六号生(女):名前「美風(みか)」:職業「風読師(かぜよみし)」
どいつもこいつも非戦闘員のニオイがするが…まぁいい。俺がいれば十分だ。
そんな俺達を乗せた獣車は、気づけば陸地を離れ海上をひた走っていた。
少女「あ、皆様ァ~。本日は当車をご利用いただき~誠にありがとうございまァす。」
勇者「む?なんだ、今回はガイドまで乗っているのか。 オイお前、名を名乗れ!」
少女「ハイ~。ワタクシはァ~「案内人」の「案奈(アンナ)」と~申しまァす。」
盗子「あれぇ?てゆーかそのバッヂ…ウチの六号生のじゃない?」
案奈「ハイ~。本日はァ~学校サボッてバイト~でございまァす。」
暗殺美「あ、あの学校をサボれる度胸は買ってやるさ。」
盗子「ガイドがバイトってどうかと思うけど…別にいいのかな、あくまでガイドだし。」

運転手「私は無免です。」
一同「降ろしてー!!」

勇者は「地獄への片道切符」を手に入れた。

 

174:再現〔7歳:LEVEL3〕
運転手が無免と判明して一同大慌て。状況は、三年前の秋遠足と似ている。
勇者「貴様…無免の分際で運転手を気取るとはいい度胸だ!ブッた斬る!!」
運転手「だ、大丈夫ですよ!できますって!お箸を持つ方が右ですよね!」
盗子「そんなの運転以前の常識だから!」
運転手「ま、まぁ運転なんて簡単ですよ。左利きだからちょっと難儀だけども。」
盗子「じゃあお箸は左じゃん!!」
勇者「どけ盗子!コイツを斬る!こんな奴よりは俺が運転した方がまだマシだ!」
賢二「い、いや、それはどうかと…。」
案奈「あ、皆様ァ~。右手に見えますのがァ~…」
盗子「ちょっと黙ってて!今は観光どころじゃないから!」
案奈「あ、じゃあ右手の「凶悪海竜」は無視する方向でェ~いっちゃいまァす。」
盗子「わー!いっちゃわないでー!!」
勇者「つーか運転手!テメェまで脇見…だからそっちは左だっつってんだろうが!」
案内「えェ~、この海竜はァ~筋肉兄弟のペットとしてこの海域周辺を~…」
盗子「だからって冷静に説明しないでー!!」
賢二「と、とりあえず僕が先に行って、魔法で時間を稼いでくるよ!」
暗殺美「なら私も行くさ!(訳:賢二君が心配だし☆)雑魚一匹じゃ心もとないさ!」

賢二と暗殺美は甲板へと躍り出た。

賢二は一瞬で食べられた。

盗子「ど、どうする勇者!?賢二と暗殺美じゃそんなにもたないよ!?」
勇者「わかってる!だがコイツの運転じゃ戦ってる間に転覆しかねんし…!」
姫「ゆ、勇者君…。」
勇者「姫ちゃん…。 大丈夫だ心配するな!俺に任せろ!」
姫「バナナはオヤツに入るのかなぁ?」
勇者「悪いがその話は後だ!」
謎「ハッハッハ!案ずるな少年、運転はこの私に任せて行きたまえ!」
勇者「おぉ、心強い!…って、またついて来たのかよクソ親父!?」
謎「な、何を言う!私は謎のお助け仮面「父さん」だ!一瞬で見破るな!!」

状況は、三年前の秋遠足と似ている。

気づけば出発地点かもしれない。

 

175:出陣〔7歳:LEVEL3〕
今回も現れた親父。だが一応コイツなら事故ることはなさそうだ。戦いに出られる!
勇者「よし、じゃあ行くぞ盗子!ついて来い!」
盗子「うん!」

勇者と盗子は甲板へと躍り出た。

盗子は一瞬で食べられた。

勇者「なっ!?と、盗子ー!!」
暗殺美「げんぢぐぅぅぅん!!びぇぇえええん!!」
勇者「け、賢二もか!?奴め…糞の役にも立たんどころか自らが糞になる気か!」
暗殺美「うぇっぐ、げんぢぐんが…げんぢぐんが死んぢゃったよー!」
博打「いや、そんなことはない…きっと生きてるさ。だから泣くなよベイベー!」
勇者「フン!「勝負師」のようなヤクザな野郎が言っても説得力は無いわ!」
博打「ほぉ…。なら、賭けるかい?」
勇者「いいだろう。俺は死んでる方に500銅(約500円)だ。」
博打「同じく。」
暗殺美「逆に賭けろや!!」
美風「まぁいいじゃん、一人や二人。 それよりボーヤ、オネーサンと遊ばな~い?」
勇者「ぬぉっ!さ、触るなこのアマァ!ブッた斬るぞ!!」
美風「あっ、風が…」
勇者「むっ!どうした「風読師」、何か読めたのか!?」

美風「吹いてる。」

風どころか空気も読めない。

 

176:奥義〔7歳:LEVEL3〕
どうやら今回も人選を誤ったらしく、使えそうな奴が一人もいない。
やはり俺が一人で殺るしかないようだ。 こうなったら…あの技を使うしかない!
勇者「いくぜ海竜!虚空に鮮血をブチ撒けろー!「血染十字(ブラッディクロス)」!」

勇者はどこかで聞いたような技を繰り出した。
だが攻撃は強靭なウロコに阻まれた。

勇者「くっ、硬い! それに…やはりこの大剣じゃ思ったように振るえん!!」
海竜「グガガガ!グガゴグガガー!グガッグガッグガー!」
勇者「野郎…いかにも勝ち誇ったような表情しやがって…!」
姫「甘いな小僧。その程度の攻撃が効くかー。わっはっはー。」
勇者「わ、わかるのか姫ちゃん!?」
姫「ぜんぜん。」
土男流「し、師匠!ここは私とこの人形「婆Bちゃん」に任せてくれ!」

〔婆B(バァビー)〕
戦闘用に作られた、音声認識で動作可能な小型人形。
だが何故か婆さんタイプなため、人形遊びには適さない。
ほのかに線香の香りがする。

~その頃、海竜の胃の中では~
盗子「うぅ~ん…ハッ!こ、ここは!?」
賢二「あ、盗子さんオハヨウ。ここは海竜の…」
謎「胃の中ですよ。」
盗子「出ぇーたぁーーーー!!!」

どうやら知り合いがいたらしい。

 

177:全滅〔7歳:LEVEL3〕
二人が海竜に飲まれてから結構経った。早く助けねば溶けてしまうかもしれない。
ちなみに婆Bは、「腰痛」などと人形にあるまじきことをぬかしたので壊してやった。
勇者「くっ、俺の斬撃は効かん…一体どうすれば…!!」
土男流「酷いぜ師匠ー!私のお人形さんを返してくれー!!」
歌憐「うっわ~♪甲板は風がきっもちいいのね~♪」
勇者「…む?確か貴様は「歌姫」だったか?」
歌憐「そ☆みんなのアイドル「カレンちゃん」って呼んでね♪」
勇者「悪いが貴様と遊んでいる暇は無い。急がねば賢二と盗子がウンコに化ける。」
歌憐「アハ☆照れちゃってる♪ でもゴメンね、カレンちゃんはみんなのモノなの♪」
勇者「いや、俺は照れても狙ってもないぞ!?弓絵よりタチが悪いぞコラ!」
歌憐「みんなー!今日はカレンちゃんに会いに来てくれてありがとー♪」
勇者「って、おもむろにコンサートを始めるなよ!自己陶酔にも程があるぞ!」
歌憐「とっても楽しかったけど、悲しいけど、次がラストナンバーなの…。」
勇者「しかも早速終わるのかよ!!」
歌憐「それでは聞いてください…「恋の湯煙殺人事件」♪」
勇者「それになんてタイトルなんだ…。」
ズンチャチャ♪ズンチャチャ♪(前奏)
歌憐「ときめきミラクルバズーカ♪アナタのハートにズッキュンバッキュン♪(音痴)」

勇者「ぐっ、ぐおぁっ!!
一同「うぎゃあああああ!!(絶叫)」

歌憐は破壊電波を撒き散らした。

勇者は気絶しかけた。
暗殺美は気絶した。
寒来は気絶した。
土男流は気絶した。
博打は気絶した。
美風は気絶した。

海竜は耐え切れず嘔吐した。

賢二が出てきた。
盗子が出てきた。
なぜか姫まで出てきた。

 

178:犠牲〔7歳:LEVEL3〕
歌憐の歌声によりなんとか二人は救出できた。だがコチラの被害も尋常じゃない。
最初は気持ち悪そうにしていた海竜だったが、しばらくすると回復したようだ。
それに引き換えコチラは気絶者多数…俺もまだ体が麻痺して動かない。ヤバい!
海竜「グガガー!ゴグゴガガーー!!」
勇者「チッ、回復しやがったか!」
姫「カキ氷がー。食べたいぞー。」
勇者「いや、それは絶対違うだろ姫ちゃん!つーかなぜキミまで胃の中に!?」
姫「あ~、物件探しだよ。」
盗子「住めないから!!」
海竜「グゴガアアアアアアア!!」
勇者「なに!?住めるって言うのか!?」
盗子「違うよ!何か撃つ気なんだよー!!」
勇者「チッ、しまった!まだ避けられ…」

海竜は「水流弾」を放った。
勇者は体が麻痺して避けられない。

勇者は寒来を盾にした。

寒来「うぼあっ!?
勇者「さ、寒来!お前…俺達のために自ら盾に…! なんて男なんだ!!」
盗子「アンタこそなんて男なんだ!!」
寒来「うぅ…い、痛い…一体何が…。」
賢二「大丈夫ですか寒来さん!?傷は浅…くないけど、大丈夫ですよきっと!」
寒来「い、いや…今のは…「痛い」と「一体」を掛けたナイスギャーーー!!

勇者は介錯を買って出た。

 

179:操縦〔7歳:LEVEL3〕
一撃目はなんとか寒来で防げたが、次を防げるアテは無い。チッ、どうするか…
と考えていたのだが、なぜか急に攻撃が止まった。一体どうしたのだろうか?
勇者「む?どうしたんだ…? ゼンマイでも切れたか??」
謎「彼は今、私の支配下にあります。だから大丈夫。」
盗子「わー!出たー!!ささささっき胃の中にいた…」
勇者「き、貴様は…黄錬邪!?」

黄錬邪が現れた。

勇者「お前…何故ここに!?」
黄錬邪「まあまあ。別にいいじゃないですか。」
勇者「う~む…まぁいっか。 安心しろ盗子、コイツは五錬邪だが敵じゃない。」
盗子「ほ、ホント?」
黄錬邪「アナタを殺します。」
盗子「嘘つきーー!!」
父「ハッハッハ。少しは冗談がうまくなったなぁ黄錬邪。」
勇者「なぜここにいるんだ運転手!?」
父「まあまあ。別に…」
勇者「よくねーよ!!」
父「見ろ勇者、星空があんまり綺麗じゃない。」
勇者「だったら言うなよ!ムリヤリ話を逸らすな!そしてなにより今はまだ朝だ!」
賢二「あの~、ところで…なんで海竜は急に大人しくなっちゃったんですか?」
黄錬邪「私の真の職業は「操縦士」。熟練すれば、なんでも操縦できるのです。」
勇者「ほ、ホントか!?だったらこの船も…いや、やっぱいいや…。」

見慣れた港が見えた。

 

180:弱音〔7歳:LEVEL3〕
気づいた時にはもう帰港していたため、仕方なく諦めることにした春の遠足。
状況が三年前に似てるとは感じていたが、まさかオチまで同じとは思わなんだ。
だが正直、今回はこれで良かったのかもしれない。明らかに力不足だった。
ペットである海竜に勝てないようでは、恐らく「筋肉兄弟」にも負けていただろう。
再戦となる秋遠足に向け、更に血の滲むような修行を積む必要がありそうだ。
俺はまだ、弱い…弱すぎる…とでも言うと思ったか雑魚どもめが!?俺をナメるな!

勇者は強がった。

勇者「というわけで、貴様を倒す!!」
オナラ「ウサ晴らし!?」

勇者はスッキリした。

オナラ魔人はグッタリした。

 

181:学祭〔7歳:LEVEL3〕
今日は文化祭。まぁ名前は一応「文化祭」なのだが、実情は島をあげての祭典だ。
島民の半数が学校に集うため、生徒は四号生以上でなければ参加できない。
この祭りの人気コーナーは、なんといっても「人気投票」。そしてもうじきその時間だ。
やはり「勇者」として、愚民どもに負けるわけにはいかない。勝たねばならん!
司会「さぁさぁ始まりました!血湧き肉踊る欲望の卍固め、42年度人気投票!!」
観客「イェーーイ!!」
司会「司会は私…荒ぶる魂を口に宿す男、「司会者」の「古館(フルカン)」と~!」
武史「特別ゲストとして帰ってきた、解説の武史だ。 盗子は俺が一位にする!」
白「ふ、不正はやめた方が…。 あ、白です。なぜか僕がツッコミを担当します。」
巫菜子「そして私、巫菜子がみんなをフォローします☆(ったくなんで私が…。)」
司会「ぃよぉーし!では早速参りましょう!まずは「投票システム」の説明だぁー!」
〔投票システム〕
・一票につき三人まで投票可能。
・一番に3、二番に2、三番に1点。
・順位は総合点によって競われる。
司会「そして今回集まったのは全部で194票、総合1094点!まさにキングコブラ!」
巫菜子「…へ?コブラ…?(ダメだコイツ…勢いで適当に例えてるだけだ!)」
白「え?あっ…ハイ。まったくもってキングゴリラですね。」
巫菜子「は、白さん…ちゃんとツッコミを…。(後で炒めるぞこのもやし野郎が!)」
武史「いいからとっとと進めろ!俺は一位の盗子にしか興味は無ぇんだ!」
司会「ならば進めましょう!まずは黄昏の夕暮れ時に赤く輝く第十位! それは…」

第十位(20点)
宿敵

観客「・・・・・・・・?」

観客「あぁ~…。」

司会「おぉっと!早速飛び出した「いたっけなぁ…。」という意味の「あぁ~…。」!!」
武史「そういや前に盗子から聞いた覚えがあるぜ。確か名前は「ベンガル」だ!」
白「結構どうでもいいですね。」
巫菜子「は、白さん!?(くっ、なんで私がツッコミを…!)」

司会「では次へと参ろう!野に咲く花のように風に吹かれて第九位! それは…」

第九位(29点)
ユーザック

観客「・・・・・・・・。」

観客「誰だっ!?」
賢二(Σ( ̄□ ̄;)!!)

司会「おぉっと!全く誰かわからない!まるで数年ぶりに会った親戚のオッサン!」
白「も、もっとたくさん会いなよ!」
巫菜子「そこに突っ込むんですか!?(もっと投票に絡んだツッコミをしやがれ!)」
武史「そういや最近…盗子と会ってねぇな…。」
巫菜子「な、なんで泣いてるんですか!?(まともな奴はいねーのかよオイ!!)」

司会「さぁサクサク進みましょう!角刈り親父狩り末広がりの第八位! それは…」

第八位(35点)
勇者父

司会「おぉっと!ここで来ました勇者父!いい加減教えろよ名前は何だー!?」
武史「チッ、あの勇者の…まぁ親父だからいっか。 じゃあインタビューでもすっか?」
司会「ナーイスアイディア!ならば早速召喚してみましょう!いでよ勇者父!!」
父「あ、どうも。 みなさんこんにちは、勇者の父です。将来の夢は「お嫁さん」です。」
巫菜子「無理ですから!!(つーかその歳で将来に夢見てんじゃねーよ!)」
白「僕は太陽を克服したいです。」
巫菜子「対抗しないでください!!(「黒点」にブチ込むぞテメェ!!)」

巫菜子(表)の限界は近い。

 

182:全滅〔7歳:LEVEL3〕
人気投票結果の発表はまだ続く。次は第七位。まぁ一位はどうせ俺だろうがな。
今はとりあえず、随分無理してるっぽい巫菜子の様子が気がかりでならない。
以前のようにキレて、会場を血に染めるようなことがなければいいのだが…。
司会「さぁ次は、愛してるという響きだけで強くなれる気がした第七位! それは…」

第七位(36点)
チョメ太郎

司会「おぉっと!第七位はチョメ太郎だー!勇者父はペットに敗れ去ったー!」
父「くわっ…!!」
白「では本人に話を聞いてみましょう。」」
巫菜子「聞いてわかるんですか!?(魔獣が喋れるわけねーだろがボケ!!)」
チョメ「応援ありがとう。チョメ太郎です。」
巫菜子「喋ったー!!って、勇者君!(腹話術してんじゃねーよ!)」
勇者「チッ、バレたか。」
武史「ああバレバレだ!テメェが盗子を狙ってることはなぁ!!」
チョメ「ポピュッパプー!」
巫菜子「あー!もう!いいから次いってくださーい!(もうダメだ、キレそうだ!)」

司会「では次だ!恋に恋焦がれ恋に泣きそうな第六位! それは…」

第六位(89点)
教師(凶死)

司会「おぉっと!ここでキター!我が校教師、謎が謎を呼ぶ謎の人物凶死先生!!」
武史「一気に50点以上も飛んでやがるぜ。じゃあ盗子はきっと2000点だな!」
巫菜子「総合点は越えませんから!(いい加減失せやがれこのシスコン野郎!)」
司会「なぜか名前を「狂死」と書く人が続出したが、まぁある意味正解だばぶっ!
教師「こんにちは、先生です。温厚なので暴力は嫌いです。」
司会(ピクピク…(痙攣))
巫菜子「古館さん!?古館さーん!!(もういいよ、そのまま死にやがれ!)」
姫「私が傷を治すよ。 むー、全め…」
一同「やめてー!!」

姫は〔全滅〕を唱えかけた。
一体どこで覚えたのか。

 

〔全滅(ぜんめつ)〕
賢者:LEVEL50の魔法。(消費MP200)
敵全体を死に至らしめる超高等魔術。だが熟練の術士でも大抵失敗する。
 

 

183:快速〔7歳:LEVEL3〕
司会がブッ倒れたため、急遽親父が代わりに仕切ることになった結果発表。
簡単な仕事だとは思うのだが、あの親父ということで俺は嫌な予感がしてならない。
父「えー。五位から先は、適当にこんな感じです。」

第五位(108点)
盗子

第四位(120点)


第三位(127点)
暗殺美

第二位…

盗子「えっ!ちょ、ちょっと待って!?なんでそんな投げやりな速さなの!?」
暗殺美「ふざけんなや!さっきまでみたく溜めて溜めてパンパカパーンとやれさ!」
父「えぇ~。だってぇ~、どうせ父さんの名はもう出てこないしぃ~。」
暗殺美「オトナ気ないことしてんじゃないさ!だからアンタは八位止まりなのさ!」
父「やれやれ…。仕方ない、もう一度やり直すか…。」
盗子「もう遅いよ!ブチ壊された感動の瞬間はもう戻らないよ!」
父「それでは気を取り直しまして、第八位から…」
盗子「しかも自分の番からかよ! …って、アタシ五位なの!?五位ごとき!?」
暗殺美「フン、反応が遅いのさ雑魚め。女子一位の座は私がお持ち帰りさ!」
武史「納得いかねぇー!どうして一位のはずの盗子が五位なんだー!!」
盗子「なんでオリジナルのアタシらが転校生に…! 姫からも何か言っちゃってよ!」
姫「四位って食べれるの?」
盗子「趣旨理解してないの!?」
白「ちなみに一位と二位との差は、わずか5点です。」
巫菜子「な、何事も無かったかのように進めるんですね…。(もう帰らせてくれ…。)」
父「さぁ一位は果たして誰なのか!?勇者なのか、それとも勇者なのか!!」
盗子「どっちも勇者じゃん!親バカなのにも程があるよ!!」
暗殺美「勇者なんかが勝つはずないさ!(賢二君に決まってるっての☆)」

会場ではチョメ太郎が暴れている。

 

184:優勝〔7歳:LEVEL3〕
結果発表もいよいよ大詰め。ぼちぼち俺の出番だ。ドライアイスを準備せねば。
そしてこの日のためにあつらえた特注スーツを身に纏い、颯爽と登場せねば。
父「それでは参りましょう!お次の第二位は…」
暗殺美「ちょっと待つさ!この場合、一位が先の方が盛り上がる気がするさ!」
父「おぉ、なるほど!ならばまずは第二位を…」
暗殺美「人の話を聞けや!!」
父「う~む…じゃあ仕方なく第一位の発表です!」

ドゥルルルルルル…(ドラムロール)

第一位(1000点)

勇者父

盗子「って、アンタかよ!!」
父「やっちった☆」
暗殺美「やっちった☆じゃないさ!しかも1000点なんてあり得ない点つけんなや!」
勇者「ふ、フザけるなこの野郎!思わず登場しかけたじゃねーかコラ!!」
賢二「ま、まぁまぁ勇者君…。」
父「ではでは、お約束も済んだので、後はやはり適当に発表しちゃいましょう!」

第二位(179点)
勇者

第一位(184点)
賢二

観客「うぉおおおおお!!」
勇者「Σ( ̄□ ̄;)!?」
賢二「Σ( ̄□ ̄;)!!」
盗子「わー!勇者が負けたー!!」
暗殺美(きゃーん☆やっぱ賢二君だー!賢二君サイコー☆☆)
美風「嵐が…きそうね…。」

勇者「・・・・・・・・。」
賢二「・・・・・・・・。」

賢二は逃げ出した。

だが周りを囲まれてしまった。

 

185:表彰〔7歳:LEVEL3〕
何故なのか賢二ごときに敗れてしまった人気投票。きっと国家の陰謀に違いない。
だが、この程度のことで腹を立てるほど俺は器の小さな男ではない。見くびるな!!
だから今は、素直に賢二の勝利を祝ってやろうと思う。 俺はそんな、できた男だ。
勇者「おめでとう賢二。最後に言い遺す言葉はあるか?」
賢二「えっ!祝ってるの怒ってるのどっち!?」
勇者「ハッハッハ!何を慌ててんだ賢二、冗談に決まってるじゃないか。」
賢二「ホッ。良かっ…」
勇者「誰が祝うかー!!」
賢二「そっちが冗談だったの!?」
勇者「俺は他人の幸せと盗子が大嫌いだ!!」
暗殺美「…さすがに同情するさ。」
盗子「もう…慣れたかな…。」
賢二「ちょ、ちょっと待ってよ勇者君!話し合お!話せばわかるよ!」
勇者「ああ任せろ!肉体と魂を斬り離してくれるわ!!」
賢二「その「はなし」じゃなくって!」
勇者「奥歯一本と残しはせん!!」
賢二「えっ!「歯無し」!?いや、ダジャレ考えるほど余裕あるなら許してよ!」

勇者「…なんてな。 フッ、冗談だよ…ホントに冗談だ。」
賢二「へ…?」
勇者「俺にとって、お前は一番古い仲間…。その幸せ、祝わんわけがなかろう?」
賢二「ゆ、勇者君…!」
勇者「さぁ野郎ども、今から「打ち上げ」と行こうぜ!今日だけは賢二が主役だ!」
一同「オォーーー!!」
賢二「勇者君…みんな…ありがとう!!」

賢二は打ち上げられた。(宇宙へ)

 

186:山篭〔7歳:LEVEL3〕
文化祭も終わり、そしていつしか夏になった。今日から学校も夏休みに入る。
今年は宿題が無いため他の奴らは遊ぶようだが、俺は今日から山篭りの修行だ。
来たる秋遠足は、春のような不甲斐ない結果に終わらせるわけにはいかない。
勇者「だいぶ登ったな。ぼちぼち腹が減っ…おぉ!こんな所に魚が落ちてやがる!」

勇者は「焼き魚」を見つけた。
明らかに落し物ではない。

勇者「うむ。なかなかいい塩加減だぶぼっ!!
女「こ、小僧…ワシの夕食を横からかっさらうとは、いい度胸じゃないか!!」
勇者「フッ、まあな。度胸には多少の自信があばぶっ!!
女「褒めたわけじゃないわー!!」
勇者「くぉっ、このアマァ…! 女の分際で俺に二撃も食らわべぼっ!!
女「立てクソ餓鬼!その根性叩き直してくれる!」

フッ、まぁいい。修行前のいい余興だぜ。

勇者はボコボコにされた。

 

187:屈辱〔7歳:LEVEL3〕
山奥にて、突如襲ってきた暴力女。外見から察するに、俺より十ほど上だろうか。
一見ひ弱そうだが、技の速さはなかなかのもの。かなりの使い手に違いない。
だが「勇者」として、いや男として、こんな女に負けるわけにはいかない。 ブッ倒す!
勇者「さっきは油断したが、もう容赦せん!勝負だこの糞アマぐぼぁ!!
女「糞アマではない。ワシには「麗華」という、実に乙女チックで麗しい名がある。」
勇者「ケッ!いくら名が良かろうが、その一人称(ワシ)で台無しだボケがはっ!!
麗華「やはり性根を正す必要があるな。 見たところ修行中…よし、見てやるか。」
勇者「なっ!? だ、誰が貴様なんぞに!しかも偉そうに「見てやるか。」だと!?」

麗華「ならば看取ってやるか。」
勇者「し、「師匠」と呼ばせてくれ…。」

勇者に「天敵」が誕生した。

 

188:耐久〔7歳:LEVEL3〕
話の流れで、謎の女「麗華」の下で修行することになった俺。正直かなりの屈辱だ。
いつか隙を見て反撃を…とは思っているのだが、機会の無いまま三日が経った。
麗華「よし、ではその格好であと五時間。 少しでも動けば、お前は今夜の夕食だ。」
勇者「ちょ、ちょっと待て!この剣はただでさえ重いんだ、それを五時間持てと!?」
麗華「剣が重いのではない、お前が非力なのだ。食われたくなくば必死で耐えろ。」
勇者「だ、だが5時間は…やり過ぎ…だろう゛ぉあ!もう重い!もうキツい!!」
麗華「フゥ…やれやれ情けない小僧だ。ならば大マケにマケてあと六時間。」
勇者「ふ、増えてる増えてる!そん…なお約束は、後で…ぐぉっ、やってくれぃ!!」
麗華「口答えするとまた増えるぞ?だがまぁその分…寿命は減るからトントンだ。」
勇者「そんな、方程式は…う゛っ!な、習ってねーぞコラ…!!」
麗華「いいから黙って続けろ。さすればワシが秋までに、レベルを一つ上げてやる。」
勇者「ケッ!わ、わかったよ…やったろうじゃねーか!!」
麗華「ふむ。 まぁ頑張れよ、あと七時間。」
勇者「増えてる増えてるー!!」

勇者は〔忍耐〕を覚えた。

 

〔忍耐(にんたい)〕
勇者:LEVEL3の魔法。(消費MP4)
我慢強さが上昇するド根性な魔法。お風呂が多少熱くても水で薄めないで入れる。
 

 

189:出発〔7歳:LEVEL5〕
いつしか地獄の夏は過ぎ、そして秋になった。ぼちぼち山を降りねばならん。
なぜなら、今日は待ちに待った秋遠足の日だからだ。今回こそは目的を果たす!
集合時間には遅れそうだが、まぁいい。ヒーローとは遅れて登場するものだ。
勇者「世話になったな師匠、ありがとう。 次に会うのは貴様が死ぬ時だ!!」
麗華「感謝するのか喧嘩売るのかハッキリしろ。 というか時間はいいのか?」
勇者「やれやれ、今から下山か…。これで間に合わなかったら全てが無駄だぜ。」
麗華「ん~、ならばコイツを貸してやろう。我が「契約獣」で名を「美咲」という。」
美咲「クェエエエ!」
勇者「ケイヤクジュウ…?なんだこの鳥みたいな魔物は?」
麗華「いいから早く行け。急がねば大事な友が海竜の糞と化すぞ。」
勇者「うむ! んじゃな、この糞アマめがはっ!!

勇者は飛んでいった。

麗華「…で?いつまで隠れているつもりですか、凶死殿?」
教師「フフッ、気づかれてましたか…。 さすがですね、えっと…麗華君。」
麗華「貴方が教師だと聞きましたが、それにしてはシゴキが甘いのでは?」
教師「まぁあくまでも学校教育ですから。下位の生徒にレベルを合わせると…ねぇ。」
麗華「この短期間で奴はレベルを二つも上げた。予想以上に期待できる奴です。」
教師「気長にやりますよ。 あまり厳しくすると、自信と誇りが壊れてしまう。」

あれでまだ序の口なのか。

麗華「さて、ワシもそろそろ行くか…。 ちょいと師匠に用がありますゆえ。」
教師「「秋臼(アキウス)」さんなら多分、今頃は北の山か六本森にいますよ。」
麗華「北ですか…方向音痴のワシにはどっちがどっちやら。」
教師「なら途中まで案内しますよ。」
麗華「かたじけない。」

遠足の引率はいいのか。

 

190:登場〔7歳:LEVEL5〕
師匠の怪鳥「美咲」の背に乗り、一路目的地を目指す俺。なかなか快適な旅だ。
すると眼下の海上に、海竜に襲われている獣車を発見。恐らくあれがそうだろう。
ちょうどいい、絶好のチャンスだ。ヒーローの登場シーンにはもってこいな展開だ。
勇者「よし美咲、ここでいいぞ!後は華麗に舞い降りるだけだ!」
美咲「クェッ!」

勇者は勢いよく飛び出した。

勇者「ハッハッハ!待たせたな野郎ども!!」
盗子「ゆ、勇者!?なんで空から!?」
暗殺美「チッ!生きてたのかさ!」
土男流「うぉおお!カッコいいぜ師匠ー!!」
勇者「そしてサラバだ野郎ども!!」

バシャーン!!(水没)

勢いがよすぎた。

 

191:相棒〔7歳:LEVEL5〕
目測を誤り、海中へとダイブしてしまった。せっかくのチャンスが台無しだ。
一応なんとか這い出せたのだが、剣が重かったため体力的にもう限界。無念だ!
勇者「というわけで、後は任せた!」
盗子「この役立たずー!!」
土男流「大丈夫だ師匠、私に任せてくれ! オーイ、来てくれトーコちゃーん!!」
盗子「!?」

土男流は高らかに名を叫んだ。
なにやら等身大の人形が飛んできた。

盗子「えっ!あ、アタシ!?アタシのそっくりさん!?」
勇者「な、なんだこの趣味の悪いロボットは!?」
人形「ロボチガウ。」
土男流「この子は私の新しい相棒、「メカ盗子」の「トーコちゃん」ってんだぜ!!」

〔メカ盗子〕
盗子アローは超音波 盗子イヤーは地獄耳
盗子ウィングは空を飛び 盗子ビームは熱光線
兄貴の力 身につけた
九人の戦鬼と 人は言う
だが我々は 愛のため
戦い忘れた 人のため
涙で渡る 血の広野
夢見て走る 死の広野
サイボーグ盗子 ロボチガウ
サイボーグ盗子 ロボチガウ

盗子「ま、まさか、コレを作らせたのって…」
土男流「壊れた婆Bちゃんの代わりを探してたら、武史って人がくれたんだぜ!」
盗子「やっ…ぱり…。」
暗殺美「い、一体何を目的にこんなロボットを…?」
メカ盗子「ロボチガウ。」
勇者「くれたってことは、きっとスペアもあるんだろうな…。」
盗子「いやぁああああ!!」

「愛」というより「狂気」だ。

 

192:知能〔7歳:LEVEL5〕
武史が発注したという、謎のロボット「メカ盗子」。明らかに趣味が悪い。(顔とか)
果たしてコイツはまともに使えるのだろうか?どう見ても役立たずそうなんだが…。
勇者「ところで土男流、このロボなんだが…」
メカ盗子「ロボチガウ。」
勇者「これしか喋れないのか?」
土男流「いや、喋れるらしいんだ。なんでも最新の人工知能が使われてるとか。」
メカ盗子「アタシ トウコ マモル ツクラレタ ロ…メカ。」
勇者「オイ、いま自分で間違えたろ?普通に「ロボ」って言いかけたろ??」
メカ盗子「ロボチガウ。」
盗子(なんでそんなにこだわるんだろう…?)
メカ盗子「ユウシャ キライ。 ユウシャ ジャマ。」
勇者「な、なんだと!?鉄クズの分際で生意気な!!」
暗殺美「きっと兄貴の奴がインプットしたのさ。あのシスコン兄の魂の叫びさ。」
メカ盗子「トウコ カワイイ。 トウコ イチバン。」
盗子「えっ、そ、そう?それはなんかちょっと嬉しいかも☆」
メカ盗子「ユウシャ キライ。トウコ カワイイ。オニイチャン ダイスキ。」
盗子「ちょっと待って!なんか今、聞き捨てならない言葉が聞こえたんだけど!?」
土男流「さぁトーコちゃん、そんなことより攻撃を頼むぜ!」
メカ盗子「テキ タオス。 トウコ マモル。 オニイチャン ダイスキ。」

メカ盗子の攻撃。

勇者に40のダメージ。

 

193:命令〔7歳:LEVEL5〕
そして海竜vsメカ盗子の闘いが始まった。まぁとりあえず、お手並み拝見といこうか。
できることなら俺は力を温存し、待ち受ける「筋肉兄弟」との対決に備えたい。
頑張れよメカ盗子。もしうまくやったならば、仕方なくさっきの攻撃は忘れてやる。
メカ盗子「アタシ タタカウ。 メイレイ ダス。」
土男流「よ、よーし!すんごい命令を出してやる!だから勝ってねトーコちゃん!!」
メカ盗子「アタシ マケナイ。 オニイチャンノ ナニカケテ。」
盗子「いや、だからなんでそこでお兄ちゃんが出てくるの!?」
メカ盗子「オニイチャンニ…ナリカケテ?」
盗子「なりかけないで!!まず「お兄ちゃん」から離れてってば!!」
土男流「さぁ行けトーコちゃん!おもむろに胸を開いて「オッパイミサイル」だ!!」
盗子「えぇっ!あるの!?そんなんあるの!?いやぁああああ!!」
メカ盗子「ゴメン ソレ チョト ナイ。」
盗子「あっ、そ、そうなの!?よかっ…」
メカ盗子「シナギレ ラシイ。」
盗子「問い合わせ済み!?」
メカ盗子「オニイチャン ガッカリ。」
盗子「アタシは…ガックリだよ…。」
土男流「うぅ~ん…じゃあ命令は、えっと、あの、その、ぬおおおおっ!!」
勇者「チッ! どけ土男流、俺が命令を出す!今のお前に任せてたら日が暮れる!」
土男流「で、でも…!」
勇者「言い訳はいい!俺は「でも」と盗子が大嫌いだ!!」
盗子「今日はもう…落ち込む気力も無いかな…。」
土男流「わ、わかったよ師匠!今日は勉強させてもらうぜ!」

俺は先を急ぐんだ。こんな海竜ごときに時間を割くわけにはいかない。

命令を出してください。





・盗子アロー
・盗子イヤー
・盗子ウィング
・盗子ビーム
面舵 ( おもかじ ) イッパイ

 

194:戦略〔7歳:LEVEL5〕
ロボを置き去りにし、海竜の巣を後にした俺達は、数分後コミナ島に到着した。
土男流の奴は散々泣き喚いたが、一喝して黙らせた。 師の教えは絶対だ。
そしてしばらく歩くと、なにやらデカい建物を発見。きっとあれが敵の城に違いない。
案奈「あ、皆様ァ~。アチラに見えますのがァ~、敵城「佐助城」で~ございまァす。」
勇者「佐助城…まるで塔のような城だな。五重の塔か…。」
盗子「なかなか守りが堅そうだけど、どうする気なの勇者?」
勇者「フッ。こういった塔の攻略方法といえば、もはや一つしかなかろう。」
盗子「そ、それってまさか…!」
暗殺美「「ここは自分に任せろ」と言い、各階に一人ずつ残るというお約束の…!」

勇者「爆薬をありったけ仕掛けろ!!」

勇者は勝てれば満足だ。

 

195:宿敵〔7歳:LEVEL5〕
戦いの準備は整った。万一生き延びたとしても、出て来たところを斬れば済む。
…と思ったのだが、なにやら様子がおかしい。中から人が逃げるように出てくる。
もしや気づかれたか?いや、違う。 どうやら既に誰かに襲われているようだ。
仕方なく数分待つと、中から俺と同年くらいの奴が男を二人背負って現れた。
少年「ヘッ。筋肉兄弟ってのも案外大したもんじゃ…ん?なんだよお前ら?」
案奈「え~、アチラでダランとしてるのがァ~、噂の筋肉兄弟で~ございまァす。」
盗子「えっ!なになに? 敵さんってばもうやられちゃってるの!?」
勇者「そのバッヂ…貴様は「学院塾」の奴だな? なぜここにいる!!」

〔学院塾〕
学園校とはライバル関係にある学習塾。
詳しいことはなんとなく謎に包まれている。

少年「あん?そういうお前は学園校の…」
勇者「フッ、児童最強…「学園校の蒼き流星」とはこの俺のことだ!」
土男流「師匠ー!カッコいいぜー!!初耳だけどカッコいいぜー!!」
勇者「そしてコイツが「カリスマ不細工」の盗子だ。」
盗子「そんなカリスマは不名誉だよ!!」
少年「あ~そっか、お前らもコイツらを…。 けどワリィが手柄はオイラがもらったわ。」
勇者「安心しろ。ここで貴様を倒せば俺達の手柄だ。」
暗殺美「いや、それは「勇者」の役目じゃない気がするさ。」
少年「ヘッ、まぁいいわ。 学院塾生の力…見たければ見せたるぜよ!」
勇者「俺の名は勇者!まずは貴様も名を名乗れ!!」
少年「オイラか?オイラの名は…「戦仕(せんし)」!!」

フッ、「戦士」ごときが「勇者」に挑もうとは笑止!!

職業は「武闘家」だ。

 

196:仰天〔7歳:LEVEL5〕
こうして闘うこととなった「武闘家」の学院塾生「戦仕」。なんだか非常にややこしい。
少し予定は変わったが、まぁいい。学院塾に俺の力を知らしめるのもまた一興だ。
勇者「フッ、「学園校の蒼き稲妻」と恐れられたこの俺に挑むとは命知らずな奴め!」
土男流「師匠ー!カッコいいぜー!!さっきと微妙に違うけどカッコいいぜー!!」
戦仕「御託はいいぜよ、とっととかかってきな!!」

戦仕は拳を構えた。
勇者はバズーカを構えた。

盗子「この卑怯者ォーーー!!」
勇者「「卑怯」ではない!「戦略」と呼ぶがいい!!」
戦仕「ヘッ、オイラは別に構わねぇぜよ。勝負の世界は所詮勝つか負けるかだわ。」
勇者「わかってるじゃないか。そう…これは男と男の真剣勝負。「最強」の称号と…」

戦仕「盗子サンを懸けた!!」

勇者「Σ( ̄□ ̄;)!?」

どこで話がこじれたのか。

 

197:争奪〔7歳:LEVEL5〕
どういうわけか、盗子を懸けて争うこととなった今回のバトル。 これは夢だろうか。
あ、もしかしたらドッキリか何かかもしれん。とりあえず少し様子をうかがってみよう。
勇者「お、オイ戦仕、ここは「最強」の称号と「プライド」を懸けるところでは…?」
戦仕「ヘッ、プライドなんて「愛」に比べれば些細なもんだわ!」
盗子(アタシを巡って争う男二人…す、素敵かも☆☆)
勇者「俺と出会った貴様は運が悪いと思ったのだが…まさか趣味まで悪いとはな。」
暗殺美「 ( たで ) を食うのも大概にしろさ。」
盗子「ムッキィー!もうちょっと酔わせてくれたっていいじゃんさー!」
戦仕「オイラ元気のいい娘が好きなんだわ。さっきまでのやり取り見てて惚れた!」
勇者「残念だが戦仕よ、盗子は「元気」ではなく「ウザい」属性の生き物だ。」
暗殺美「そのウザさは国家的に「危険レベルA」。ちなみに顔は「S」さ。」
盗子「こっ…!」
戦仕「いい加減にしとけよテメェら!!」
盗子「せ、戦仕君…」
戦仕「顔なんてどうでもいいだろがよ!!」
盗子「いや、あんまフォローになってないけども…。」
戦仕「さぁ、いいから勝負ぜよ勇者!愛とは往々にして奪い取るモンだぜ!!」

お、俺はどうすればいいのだろう。 「盗子味のカレー」と、「カレー味の盗子」と…。

勇者は混乱している。

 

198:決断〔7歳:LEVEL5〕
究極の選択。 かつてこれ程までに返答に困ることはあっただろうか。
闘いに負けるか、盗子を得るか…。どちらにせよプライドは捨てる必要がありそうだ。
いや、待てよ?一つだけプライドを守る方法が…。 よし、こうなったら仕方あるまい。
勇者「俺は決めたぞ戦仕!貴様を倒し…そして俺も死ぬ!!」
盗子「えっ!そんなにイヤなの!?命懸けで拒否られてるのアタシ!?」
土男流「待ってくれ師匠ー!私を置いていかないでくれー!」
暗殺美「バカな奴さ。盗子を殺っちまえば済むのにさ。」
勇者「黙れ!俺は誰の指図も受けん! 戦仕を倒し…そして盗子を倒す!!」
盗子「受けてんじゃん!すんごいノリノリじゃん!」
戦仕「そうはさせるかよ!盗子サンはオイラが守ったるわ!」
勇者「できるかな貴様に?リーチの差は歴然だぞ?」
戦仕「こちとら剣士との戦いは慣れっ子ぜよ!その程度の差は関係ねーし!」
勇者「フッ、その言葉…すぐに後悔させてやるわ!!」
戦仕「行くぜ!「武神流格闘術」、壱の秘拳「一武芸(いちぶげい)」!!」
勇者「リーチの違いを思い知れ! 我流殺人術奥義、「BM-5型バズーカ」!!」
リーチどころの話じゃない。

 

199:連撃〔7歳:LEVEL5〕
プライドを懸けた闘いが始まった。 恐らくコイツは強い、手加減は抜きでいかねば。
そう考えバズーカで挑んだわけなのだが、まったくもって当たらない。 ならば…!
戦仕「ヘッ、このオイラに死角なんぞねぇわ!そんなん当たらんぜよ!!」
勇者「甘いな。「死角」というのは身の周りにのみあるものと…思ってかーー!!」
戦仕「なっ…!」

勇者は盗子めがけてブッ放した。

戦仕「盗子サ…危なぐおっ!!
盗子「せ、戦仕くーーん!!」
勇者「そして畳み掛けるようにー!謎の秘奥義「一人ツープラトン」!!」

勇者の血も涙もない攻撃。
戦仕は瀕死のダメージを負った。

盗子「ちょ、ちょっと勇者ー!なんでそんな残忍な闘い方ができるわけ!?」
勇者「フッ、俺はプロセスよりも結果を重んじるタイプだ。」
盗子「少しは過程も大事にしてよ!」
勇者「フザけるな!誰があんな家族を愛すか!!」
盗子「「家庭」の事情はどうでもいいから!!」
戦仕「お、オイラはまだ…やれ…るぜよ…。」
盗子「戦仕君…。」
勇者「…やめだ。 今日のところは「引き分け」にしといてやる。」
戦仕「なっ…なぜだよ勇者!?なぜみすみす勝ちを…!」
勇者「フッ。男同士の闘いに「なぜ」なんぞ無粋だな。 言うまでもなかろう。」

要は盗子が要らない。

 

200:呑気〔7歳:LEVEL5〕
なんとかうまいこと乗り切った戦仕とのバトル。盗子なんぞゲットしてたまるものか。
筋肉兄弟を討った手柄も手に入ったことだし、もう満足だ。ぼちぼち帰るとしよう。
というわけで早速帰路についたのだが、なんとロボと海竜はまだ闘っていた。
海竜「グガガゴガーー!!」
メカ盗子「ロボチガーウ!!」
土男流「うぉおおお!生きてたんだねトーコちゃーん!!」
勇者「よくやったぞロボ、もうひとふんばりだ! …よし、行っていいぞ運転手。」
土男流「し、師匠ー!頼むから加勢してやってくれー!!」
メカ盗子「マテ。 イク コマル。 ネンリョウ モウナ…ア、ロボチガウ!」
勇者「黙れ無機物!冗談は顔だけにしろ!!」
暗殺美「オイ勇者、それは「生きた冗談」に失礼さ。」
盗子「アンタの方が失礼だよ!!」
海竜「グガガグゴー!ガガグゴガグガゴゴー!!」
勇者「フッ、悪いが何を言ってるのかわからん。 まぁわかったところで俺は…」
声「逃がすか小僧ー。今日のオヤツはバナナがいいのだー。」
勇者「ひ、姫ちゃん!?いやいや、その訳も絶対おかしいだろ…って、ゲッ!」
盗子「来てたの姫!?てっきり今日は休みなんだと…って、ゲッ!!」
姫「勇者くーん、見晴らし最高だよー。」

姫が現れた。
海竜の口内からノンキに手を振っている。

 

201:召喚〔7歳:LEVEL5〕
なぜなのか、海竜の口の中からコンニチハな姫ちゃん。相変わらず神出鬼没だ。
疑問は尽きないが、とりあえず今はなんとかして無事に助け出さねばならない。
勇者「ひ、姫ちゃん!いい子だからそいつを刺激せずに出てくるんだ!」
姫「ほぇ? ん~、わかったよ。じゃあお茶を飲んだら降りるよ。」
勇者「いや、だからそんな余裕は…!」
姫「まずはお湯を…」
勇者「待つんだ姫ちゃん!なぜこんな時に限って火起こしから入るんだ!」
海竜「!!?」
暗殺美「むしろ危険なのは海竜のような気がしてきたさ…。」

海竜はビビッて動けない。

勇者「どうすればいいんだ…このままじゃ姫ちゃんが海竜のエサに…!」
盗子「あっ、勇者!あれだよあの人!あの「黄色い人」ならなんとかできるかも!」
勇者「こんな時にフザけるな盗子!いくらオナラ魔人でも屁の色は無色だ!」
盗子「なっ!?ちがっ…!」
暗殺美「漫画の読み過ぎなのさ。まったくオメデタイ奴め。」
盗子「メデタイのはアンタらの頭ん中だよ!!」
土男流「師匠ー!黄錬邪さんだー!あの人ならまた海竜を操ってくれるぜー!」
勇者「ハッ、そうかその手があったか! よーし…オーイ、黄錬邪ー!!」

勇者は黄錬邪の名を叫んだ。

キラン☆(青空に一点の光)

群青「見つけたぞぁー!!」
一同「違うのキターーー!!」

お湯はもうじき沸く。

 

202:必殺〔7歳:LEVEL5〕
黄錬邪を呼んだのに、群青錬邪が飛んできた。 招かれざる客もいいとこだ。
今回の遠足はどうにも予定が狂ってばかりだが…まぁいいか。倒せば済む。
勇者「久しぶりだな、文鳥錬邪。」
群青「「群青錬邪」だ!ワザとらしく間違えてんじゃねぇぞテメェ!」
盗子「な、何しに来たのさ?まま、まさか…。」
群青「傷も癒え、あらかた力も戻った。だから殺しに来たに決まってんだろうがー!」
盗子「やっぱりぃーー!!」
メカ盗子「ダイジョウブ。 トウこの イノチ ワタサナイ。」
盗子「め、メカちゃん…!」
メカ盗子「シヌトキハ オニイチャンノ ムネノナカ。」
盗子「死ぬまで付きまとわれるの!?」
勇者「フッ、戻った程度の力か?ならばパワーアップした俺の敵ではないな!」
群青「あ?何を見当違いな…いや、いい。どうせテメェは死ぬんだからなぁ!!」
勇者「御託はいらん!来いっ!!」
土男流「頑張ってくれ師匠ー!男の生き様を見せてくれー!!」
暗殺美(あっ!もしかしたらまた賢二君が降ってくるかもー!きゃうーん☆)
群青「死ねやクソガキ!気づいた時にゃテメェは屍だ!! 群青ォ~…!」
勇者「俺を以前の俺と思うな!?修行で鍛え上げた剣技…とくと見るがいい!!」
群青「尖氣砲(せんきほう)!!!」



勇者「…えっ……?」

群青錬邪、会心の一撃。
勇者の心臓を突き破った。

勇者は死んでしまった。

 

203:死神〔7歳:LEVEL5〕
群青錬邪の攻撃を受け、俺の胸には風穴が開いた。 ピアスとか付けるべきか。
あ~あ、やれやれだよ。せっかく修行したってのに、全くいいところが出せなかった。
しかも「勇者」であるこの俺が、こんな中途半端な場面でアッサリ死ぬなんて…
勇者「…って、誰が死ぬかぁーーー!!」
盗子「ぎゃーー!生き返ったぁーー!!」
暗殺美「ままま迷わず成仏するさ!盗子の魂なら持ってけ泥棒だからさ!!」
盗子「な、なんでアタシなの!?」
勇者「要らない。」
盗子「なんでアタシじゃダメなの…。」
土男流「あ、穴が塞がってる!? うぉー!さすがだぜ師匠ー!神秘だぜー!!」
勇者(なぜだろう…?)
群青「なっ!?た、確かに心臓をブチ抜いたはずだ!!」
勇者「…フッ、ナメるな。俺にかかればこんな傷など、玄関開けたら二分で完治だ。」

声「フゥ~、間一髪でしたね~。危なかった危なかった。」

群青「!!?」
勇者「むっ!誰だ!?」
案奈「あ、みなさまァ~。アチラの奥に見えますのがァ~…」

教師「先生で~ございまァす☆」

妙なテンションで教師が現れた。

勇者「せ、先公!?じゃあまさかさっきのは…!」
教師「ハイ、私が見せた「幻術」ですよ。 いや~、命拾いしましたねぇ勇者君。」
群青「げ、幻術!?」
盗子「えっ!幻術ってことは…先生って「幻魔導士」だったの!?ウッソ!!」
群青「…ッ!!」
暗殺美「幻魔導士…確かかなりのレア職なはずさ。」
群青「…お、おいコラ…てぇことは、まさかテメェ…し、「死神の凶死」…か?」
盗子「え゛っ!し、死神!?」
姫「あ~、じゃあ新聞と交換したんだね。」
勇者「違うぞ姫ちゃん!それは「チリ紙」だ!って、いつの間に下に!?」
暗殺美「そんな名で通ってる男が教師だなんて、あんまりな事実さ。」
教師「フフッ、イヤですね~。 そんなのもう昔の名ですよ。」
勇者「いや、今でもバリバリの現役だろ。」
盗子「で、でも良かった~。アタシ、ホントに勇者が死んじゃったと思って…えぐっ。」
教師「ハハハ。あんな初歩の手で騙されてるようじゃ、まだまだですよ?盗子さん。」
群青「くっ…!」
勇者「くっ…!」

くっ…!

 

204:幻術〔7歳:LEVEL5〕
死んだと思ったのは、実は先公の仕組んだドッキリだったらしい。チクショウめ。
だがまぁいい、とりあえず俺はもう疲れた。 ここはコイツに任せることにしよう。
群青「チッ、迂闊だったぜ…。まさかテメェみてぇな大物が居やがったとはな。」
教師「私も驚きましたよ。まさかこんなに早く「呪縛錠」を外してくるとはねぇ。」
勇者「む?じゅばくじょう??」

〔呪縛錠〕
特殊な呪物により作られた魔法の枷。
力の大半を抑え込むために、囚人の両手両足に装着する。
もちろんそう簡単に外すことはできない。

群青「チッ、まだ右手しか外せてねぇ…。さすがにこれでテメェの相手はキツいぜ。」
教師「フフッ。 いやいや、アナタ程度では全部外しても私には敵いませんよ。」
群青「な、なんだとコラ!せめてあともう一つ外れてりゃテメェなんか…!」
姫「外れたよ~。」
群青「なっ!?」
盗子「え゛っ!なんで外しちゃうの!?てゆーか外せちゃうの!?」
姫「大自然の驚異だね。」
盗子「アンタの仕業じゃん!思いっきり人の業じゃん!!」
群青「フ…フハハハ! これで更に攻撃力は上がった!ブッ殺してやるぜ死神!!」
教師「…ふぅ、やれやれ。まったく学習能力の無い人ですね~。」
群青「あ゛ぁ?なにをホザいて…ゲッ!外れてない!!」
勇者「げ、幻術!? なんて能力だ…一体どこまでが現実なのかわからん…!」
姫「先生、私はお菓子のお家に住みたいよ。」
教師「あ~、大丈夫ですよ。私の幻術は「味覚」や「痛覚」等も表現できますし。」
暗殺美「じゃ、じゃあさ!わわ私はもう一度賢二君に会いたいさ!」
教師「ん~、まぁ幻でもいいのなら。」
盗子「せ、先生!私は勇者好みの顔に…」
教師「それはちょっと…。」
盗子「なんで私だけ!?」

限界を超えてた。

 

205:確信〔7歳:LEVEL5〕
以前より強くなった群青錬邪を、まるで子供扱いの先公。やはり只者じゃなかった。
教師「…さて、実力の違いはわかりましたか?わかったのならもう帰ってください。」
群青「!?」
勇者「なっ!?なぜ逃がすんだ!今なら殺れるんだろ!?」
姫「10数えたら捕まえに行くよ~。」
盗子「えっ!鬼ゴッコ!?鬼ゴッコすんの!?」
教師「いや~、さすがに死ぬ気で暴れられたら獣車は守れそうにないですしね~。」
暗殺美「あぁ…確かにこんな海のド真ん中に放り出されたらヤバいかもさ。」
群青「チッ、しゃあねぇ…今回は退いてやる。 だがいつか殺す!覚えてろよ!!」

群青錬邪は逃げ出した。

こうして、俺の四度目の秋遠足は終わりを告げた。今日も今日とて大ピンチだった。
学院塾にも敵ができたし、五錬邪の力も再確認した。今後は更に厳しくなるだろう。
もはや先のことはわからない。 いま俺がわかっているのは、ただ一つ。

今回は一度も、剣を振るっていない。

修行した意味が無かった。

 

206:読書〔7歳:LEVEL5〕
遠足も終わり本来なら体育祭の時期なのだが、今年は人数的に無理なので中止。
よってこの秋は、「読書の秋」にちなんで「悪魔の読書大会」が行われるらしい。
毎度のことではあるが、頭の「悪魔の」が気になって仕方ない。イヤな予感がする。
教師「みなさんは、「夢絵本シリーズ」の絵本を読んだことはありますか?」
盗子「あ!アタシあるよ☆ 本の中に入って主役気分を体験できるんだよね!」
勇者「ということは、話の流れからして今回の冒険先は絵本の中のようだな。」
暗殺美「まぁ心配ないさ。絵本なんて所詮、「メルヘン」が売りな子供騙しさ。」
盗子「あ~、そうだよね。話は決められた一本道だし、危険は無さそうだよね。」
教師「中に一つだけ、主人公が命を落とすメルヘンがあります。」
盗子「聞いたことない!そんなメルヘン聞いたことないよ!!」
教師「さぁみなさん、くじ引きで入る本を決めてください。一冊に五人までですよ。」
勇者「本は四冊…生き残る可能性は四分の三だな。」
盗子「アタリを引くか、たった一つのハズレを引くか…。」
一同「…ゴクッ。」

姫「あ~、私は「空飛ぶ魚屋さん」だったよ。」
暗殺美「私のは「稲穂姫」だとさ。」
盗子「さ、「さよなら勇者様」…。」
勇者「ハハッ、それがハズレだろ!死んだなバカ盗子…「メルヘン殺人事件」!?」

なんとなく二択になった。

 

207:疑問〔7歳:LEVEL5〕
俺が旅立った夢絵本は、「メルヘン殺人事件」。名前からしてババを引いたっぽい。
絵本内では話通りに動かざるを得ないため、これがババなら逃げ道はないのだ。
だがまぁ仕方ない。こうなったら成り行きに身を任せるしかないだろう。やれやれだ。

〔あらすじ〕
( もも ) から生まれた「腿太郎(勇者)」は、生後まもなく旅に出る。
目指すは親戚の伯父がいる島、「伯父ヶ島」。

すると道中、知らぬ間に仲間ができる。
その仲間とは、「犬(博打)」「猿(土男流)」「キリン(美風)」。

はっきり言って、キリンは目立ちすぎる。

歩くこと数日、やっとのことで伯父の家に到着。
だがしかし、腿太郎がそこで見たのは、伯父の変わり果てた姿であった。

まぁ初対面なわけだが。

果たして誰が伯父を殺害したのか…。
こうして、彼らの謎解きが始まったのである。

勇者「やれやれ…。随分かかったが、どうにか終わりが見えてきた気がするな。」
美風「ふぅ~。やっとタイトルにある「殺人事件」が出てきたわね~。」
勇者「まぁいつまで待っても「メルヘン」は出てきそうにないがな。」
土男流「そんなことないぜ師匠!本の中ってだけで十分メルヘンだぜ!」
博打「そうだぜボーイ、夢を忘れたら人生終わりだぜ?」
勇者「フン、夢を捨てきれず人生をドブに捨てそうな賭博師が何を言う。」
土男流「んー!ところで師匠、これからどうすればいいんだー?」
勇者「さあな。まだ情報が少なすぎてわからん。 なにより一番わからんのは…」
土男流「わからんのは?」

この展開で、なぜ仲間が「動物」なんだ。

犯人よりも気になった。

 

208:手抜〔7歳:LEVEL5〕
なにやらドタバタと展開し、なんとなく脱出方法が見えてきた「メルヘン殺人事件」。
恐らくこの謎を解かねば現実には帰れないということだろう。 非常に面倒だ。
勇者「よしお前ら、まずは現場検証から入るぞ。怪しいところを列挙せよ!」
土男流「師匠ー!ナイフを持った怪しげな家政婦がいるぜー!」
家政婦「しまった!見つかったわ!!」
勇者「そいつだ捕まえろ!!」

この絵本は推敲前なのか。

家政婦「ば、バレたからには全員生かしちゃおけないわ。死んでちょうだい!」
勇者「フッ、この俺達に勝てるとでも思っているのか? さぁ土男流、やってしまえ!」
土男流「すまない師匠ー!絵本の中だからトーコちゃんは呼べないんだー!」
勇者「チッ、使えない奴め…。」
美風「大丈夫よ勇者ちゃん、心配しないで!」
勇者「おぉ、やる気か年増!」
美風「応援なら任せて♪」
勇者「失せろメス豚が!!」
土男流「違うぞ師匠ー!今の美風さんはキリンさんだー!」
勇者「くっ、じゃあ仕方ない…。 行けぃ博打!!」
博打「フッ、この俺の華麗な技が見たいのかいブラザー?」
家政婦「いい度胸ねボーヤ!ワタクシのナイフで血みどろになるといいわ!」
博打「や、やはりレディーに暴力は主義じゃないぜ。」
勇者「腑抜けめ!!」

頑張れ腿太郎。

 

209:名前〔7歳:LEVEL5〕
どうやら土男流は武器無し、美風はヤル気無し、博打は根性無しで使えなそうだ。
やはり俺がやるしかないらしい。 こんな余興に手を下したくはないのだが…。
勇者「もういい、下がってろ雑魚ども!この俺がカタをつけてやる!」
家政婦「ヤル気!?ヤル気なのねボーヤ!?ワタクシに勝てると思ってるの!?」
勇者「フッ、俺の辞書に「敗北」と「盗子」の文字は無いわ!!」
土男流「本人がいなくても言うんだな師匠…。 さ、さすがはこだわりの男だぜ!」
美風「頑張ってね勇者ちゃ~ん☆」
博打「くっ、残念だぜ…持病のリュウマチさえ無ければ俺も…!」
家政婦「ホントにヤル気!?アナタ女性に手を上げるつもりなの!?最低ね!」
勇者「敵に男も女も無い。それとも貴様は、雄か雌かを見てから蚊を殺すのか?」
家政婦「くっ…! い、いいわ!倒してあげる!このナイフでギッタギッタに斬るわ!」
勇者「まずは女、名を名乗れ。我が名は勇…腿太郎!貴様を滅する者だ!!」

家政婦「ワタクシ? ワタクシは…「メルヘン」よ!」

だから「メルヘン殺人事件」。

 

210:絶望〔7歳:LEVEL5〕
その後、謎の秘奥義で家政婦を倒し、なんとか脱出できた「メルヘン殺人事件」。
誰も死なずに出られたので、この本はハズレではなかったようだ。 となると…
勇者「ふぅ~、やっと帰ってこ…なっ!?」
盗子「あ!おっかえり勇者☆」
暗殺美「一体何日かかってるのさ?雑魚め。」
勇者「な…なんでお前らが生きてるんだ!!」
盗子「はぁ!?ひっど…」
暗殺美「まぁ待つさ盗子、勇者の気持ちも察してやれさ…。」
盗子「あっ…。」
勇者「ど、どういうことだ!?まさか…まさかハズレは…。」
教師「…はい。 ハズレ絵本は、「空飛ぶ魚屋さん」でした…。」
勇者「Σ( ̄□ ̄;)!!!」
盗子「ゆ、勇者…。」
勇者「姫ちゃん…。」
姫「なに?」
勇者「うぐっ。ひ、姫ちゃん…。」
姫「なぁに?」
勇者「姫ちゃーーーん!!!」
姫「なーーにーーー?」
勇者「ひ、姫ちゃん!?」
教師「!!?」
姫「姫だよ。」
盗子「えっ!なんで!?どゆこと!?」
姫「むー。なんで姫なのかは聞いたことないよ。」
盗子「いや、名前についてじゃないんだけど…。」
暗殺美「どうして生還できてるのさ?先生の思い違いだったのかさ?」
教師「…フフッ。 実は~嘘でした☆」
盗子「えっ、嘘!?」
勇者「な、なんだよ嘘だったのかよコラ!脅かすんじゃねーよこの先公め!」
教師「いや~、みなさんに危機感を持ってもらおうと思いまして。」
暗殺美「やっぱりスゴいペテン師さ、この男…。」
教師「フフフ…。」

教師(う~ん…なぜでしょう…?)

スゴいのは姫だった。

 

211:職権〔7歳:LEVEL5〕
冬だ。冬といえば…というほど行ってもいない行事、「地獄の雪山登山」がある。
前回はスイカ野郎が敵だったわけだが、今回の目的は果たして何なのだろう。
教師「明日の登山では、山頂にある「血色草(ちのいろぐさ)」を探してもらいます。」
勇者「オイ、なんだその物騒な名の草は?野ウサギでも食ってるのか?」
教師「イヤですね~。食べるのは「人」ですよ。」
盗子「そっちの方がイヤだよ!!」
暗殺美「そんな食人植物を採らせてどうする気なのさ?まさか飼う気かさ?」
教師「あ~、実は私的に作ってる「魔法薬」に必要なんですよ。」
美風「ふ~ん。でもそれって職権濫用なんじゃな~い?」
教師「イヤですね~「濫用」だなんて。「悪用」と言ってください。」
盗子「だからそっちの方が悪いってば!!」
勇者「ところで、その薬は何に使うんだ?まさか良からぬことに使うんじゃ…?」
教師「フフフ。イヤですね~「まさか」だなんて。」

良からぬことに使うらしい。

 

212:贔屓〔7歳:LEVEL5〕
先公のためにお遣いに行くこととなった今年の雪山登山。 面倒だがやるしかない。
今回は5人×3組で挑むことになり、俺の組は盗子、姫ちゃん、美風、博打の五人。
山のふもとに到着した俺達は、早速山頂を目指して歩き始めたのだった。
勇者「ふぅ~、やれやれ。この重装備で雪道は辛いぜ…。」
盗子「あ!そういえばこの山って、エレベーターがあるんじゃなかったっけ!?」
勇者「それは崖側の山頂までだろ?こっちは普通に登るしかなさそうだぞ。」
美風「あ~ん、もう美風ってば歩けなぁ~い☆おぶって勇者ちゃ~ん☆」
勇者「うおっ!か、勝手におぶさるな子泣きババア!」
盗子「な…なーにしてくれちゃってんのさアンタ!それにまだ出発したばっかだよ!」
美風「はぁ?なによ不細工、アタシの視界にその不快な顔入れるのヤメてくれる?」
盗子「ぬゎっ…ぬゎんですとー!!?」
美風「アタシは可愛い男の子にしか興味なーいの。わかったら消・え・て。」
博打「フッ、照れるぜベイベー。」
美風「アンタはウザい。」
博打「は…はは…。 おかしいな…急に鼓膜が破れたようだぜ…。」
姫「それは大変だよ。私が傷を治すよ。」
勇者「構うな姫ちゃん!今こっちに来ると美風に噛まれるぞ!」
美風「だ~れが噛むのよ!それにこんなブッサ…」
姫「うまうま。うぷ~。(カキ氷)」
美風「・・・・・・・・。」
姫「…ほえ?」
美風(か、可愛い…。)

姫は無敵だった。

 

213:左右〔7歳:LEVEL5〕
深い雪に苦しみながら歩いていると、眼前に分かれ道が現れた。
この山には幾つか山頂があるため、間違えたら戻らねばならん。 さて、どうするか。
博打「分かれ道か…。 俺の読みからすると…右だぜ?」
勇者「俺は左と見た。左に行くぞお前ら。」
博打「な、何を言うんだブラザー!?「勝負師」であるこの俺が…」
勇者「ナメるな。あの学園で四年も過ごした俺の方が、よっぽどのギャンブラーだ。」
博打「ちょっ…待つんだブラザー!俺の読みが信じられないっていうのかい?」
勇者「信じられん。なぜならお前の顔には幸が無い。」
盗子「そうだそうだー!幸がないぞー!」
勇者「お前には興味が無い。」
盗子「なんか…寒いな…。冬だからかな…。」
博打「頼むぜ!プライドに懸けて…ここは俺にトライさせてくれよ!」
勇者「断る!」
博打「絶対に右なんだ!」
勇者「違う!左だ!」
姫「面倒だから右でいいよ。」
勇者「だから右だと言ったろうが!!」
博打「えぇっ!?」

実は、最初から右だと思ってたんだ。

正解は左だ。

 

214:天使〔7歳:LEVEL5〕
博打のせいで、どうやら間違った道に来てしまったようだ。博打だけのせいで。
明らかに道が下っている。このままでは山頂には辿り着けん。 戻るしかないか…。
勇者「チッ、この雪道を引き返すのか…コリャかなり骨だな…。」
姫「むー。こうなったら飛ぶしかないよ。」
盗子「それができれば苦労は無いから!」
勇者「ぬぉおおお!ド根性ーー!!」
盗子「コラそこ!パタパタやっても飛ばないから!」
姫「わーい。」
盗子「ってそこ!なんで飛べてんの!?」
勇者「ぶはっ! ひ、ひひ姫ちゃんすまない!パパパパンツが丸見えだっほー!!」
美風「あら?あの子の背中…「天使草」じゃな~い?」
勇&盗「テンシソウ??」

〔天使草〕
背中に付ければ一定時間空を飛ぶことができる貴重な草。
形が天使の翼に似ているためこの名が付いた。
しかし、邪な者には使うことができない。

盗子「ゆ、勇者…オチが読めたよ…。」
勇者「なっ、何を言う!この俺が邪だとでも言うのか!?ナメやがって!!」

ナメやがって…この雑草風情が…。

勇者は引き返した。

 

215:埋没〔7歳:LEVEL5〕
先の分かれ道まで戻ってしばらく歩くと、ようやく山頂へと到着した。
見渡すとそこには、まさに血の色と言える真紅の草が生えていた。これに違いない。
勇者「これが「血色草」か…。よし、早速抜くぞ。 よいしょっ…」
声「アイタッ!イータタタタッ!痛いよバカー!」
勇者「…む? なんだ盗子、術後の顔が痛むのか?」
盗子「へ?アタシは何も…って、整形なんてしてないから!!」
美風「そうよ勇者ちゃん、術後でこの顔は有り得ないわ。オェ~。」
盗子「ムッキィー!ブッ殺ーす!アンタむかつくー!」
勇者「う~む。盗子じゃないとなると…えい。」
血色草「痛っ!イタタタッ!だ~から痛いってば!」
盗子「うっぎゃー!喋った!草が喋ったよ勇者!!」
勇者「最近の雑草は声も出すのか、生意気な。 引っこ抜く!」
血色草「ダメ!抜かないで!痛いから!死んじゃうから!!」
勇者「イヤだ。喋りや声が盗子に似てるのがなんかムカツク。」
盗子「えっ!そこなの!?そこがポイントなの!?」
血色草「イタタッ!痛い!やめて!呪うよ!?抜かれたらアタシ呪っちゃうよ!?」
勇者「フッ、呪いだと?崇高な「勇者」であるこの俺に、呪いなんぞ効くかー!」

だが魔剣には呪われている。

~その頃、別の山頂では~
血色草「ゲハハハハ!バカな奴らめ、忠告通り抜かずにいれば良かったものを!」
土男流「うぉー!オッサンが出て来たぜー!ムキムキのオッサンだぜー!!」
暗殺美「ほ、本体は根、草は髪だったってわけかさ…。」
血色草「さぁ貴様らの血をよこせ!俺様は腹が減っ…あぁ!イヤ!やめてぇー!!」

埋めた。

 

216:小人〔7歳:LEVEL5〕
血色草はギャーギャーうるさく、数十分格闘したが、なんとか引き抜くことに成功。
だがなんと、土中から小人の女が出てきたのだ。 これは…根なのか人なのか。
少女「うわーん!抜かれたー!とうとう抜かれちゃったよぉー!」
勇者「…オイ根っ子、お前は一体…なんなんだ?」
少女「根ッコじゃないよ!アタシは「血子(ちのこ)」、きゃわゆい根ッコだよ!」
盗子「根ッコなんじゃん!!」
血子「あーモウやんなっちゃう!この責任どう取ってくれるの!?プンプン!」
勇者「責任?まぁ盗子の命でなんとかなるなら別に構わないが。」
盗子「アタシはとっても構うよ!!」
血子「血色草はね、裸を見られた異性と結婚する決まりなのよバカ!もう大好き☆」
盗子「早っ!惚れるの早っ!!」
美風「ふ~ん。でも、彼の次にこの片目ボーヤも見ちゃってるけど…どうなの~?」
博打「フフッ、俺はレディの誘いは断らないぜベイベー☆ さぁおいでハニー!」
血子「殺すわ!好みじゃない奴と断った奴は、むさぼり食うのが掟なの!!」
博打「み、見てない!そういえばさっき、急に眼球から血が!(目元をかじりながら)」
血子「というわけでダーリン、死にたくなかったらお嫁に貰ってよね!」
盗子「な、なーに言っちゃってんのさ!勇者がアンタみたいな草…」
勇者「…前向きに検討する。だからとりあえず山を降りるぞ、凍え死にそうだ。」
盗子「え゛ぇっ!?ちょっ、本気なの勇者!?」
血子「だ、ダーリン☆☆」

どうせ明日には魔法薬だ。

 

217:背水〔7歳:LEVEL5〕
凍死するぐらいなら一日くらい我慢しようということで、血子を言いくるめた俺。
盗子に似てウザいキャラだが、まぁ肩に乗るサイズだからそう邪魔にもなるまい。
血子「じゃあ早速行こダーリン☆アタシも早くお義父様とかに挨拶したいし☆」
勇者「おっと、まずはその一人称を改めろ。盗子なんぞとカブるのは苦痛だろう。」
血子「あ~…、そだね! 血子、気をつける!」
盗子「な、なんで初対面なのに「そだね」なの!?ムッキィー!」
勇者「さぁ、騒いでないでとっとと降りるぞ。もう寒くて…」
男1「おっと、待ちなボウズ。」
勇者「!?」
男2「子供の血色草なんて貴重な品、ガキにはもったいねぇや。俺達によこしな!」

木陰から二人組のハンターが現れた。
だが勇者は寒くてプルプルしている。

姫「勇者君~、かまくらができたよ~。」
勇者「おぉ、ナイスだ姫ちゃん!これで寒さをしのげる!」
姫「お菓子の家だよ。」
勇者「いや、かまくらにシロップはどうだろう…。」
盗子「ゆ、勇者!? アンタがそっち行っちゃったら誰が戦うってのさ!?」
勇者「む?博打がいるじゃないか。一度くらいは見せ場が欲しかろう。」
博打「え゛!あっ…な、なんてことだ!こんな時に限って持病の口内炎が…!」
勇者「見えるか血子、あれが今夜の夕飯だ。」
血子「じゅるっ…。」
博打「Σ( ̄□ ̄;)!!」

味方の方が危険だ。

 

218:気紛〔7歳:LEVEL5〕
寒いので、雑魚の相手は博打に任せることにした。 しばらくは暖を取ろう。
コイツじゃ勝てるかどうかは微妙だが、まぁ俺の体が温まるまでもてばいい。
博打「や、やはりキミがやってくれないかブラザー!?俺は持病のギックリ肘が…」
勇者「生か死…こんなスリルある賭け事に燃えないってのか?ギャンブラーよ!!」
博打「!! あぁ、俺としたことが…なんて大切なことを忘れていたんだ…。」
盗子「そうだー!頑張れ博打ー!!」
博打「なんてことだ…午後から歯医者の予…」
盗子「往生際が悪すぎるよ!!」
男1「何をゴチャゴチャと…。 まさかテメェら、俺らとヤルっつーのか!?あ゛ぁ!?」
勇者「博打よ、お前に退路は無い。もはや背水…背に控えるは血の川と思え。」
博打「くっ、仕方ない…ややややってやるぜ! きま…「気まぐれ四面ダイス」!!」

〔気まぐれ四面ダイス〕
出た目によって相手か自分を攻撃するリスキーなサイコロ。
「赤字の1・2・3」が出たら相手に、「黒字の4」が出たら自分に攻撃がくる。
形は正四面体で、振った際に下になった目が出目となる。
また、攻撃力はサイを振る度に増していく。

血子「大丈夫かなぁダーリン?アイツすっごく運悪そうだよ??」
勇者「む?まぁ大丈夫だろう。四分の三の確率で勝つわけだし。」
美風「あ~、でも「出続ける確率」はその回数乗だから、結構ハズれるかもよん☆」
博打「や、やっぱり歯医者に…。」
男2「逃がすかよクソガキ!死ねやぁーー!!」
勇者「危ないっ!!」
盗子「気をつけて博打!!」
勇者「危ないぞ姫ちゃん、お茶がこぼれそうだった。」
姫「あ~、うっかりしてたよ。」
盗子「そっちの話!?」
博打「う、うぉおおお!こうなったらイチかバチかだー!いくぜダイス・ロール!!」

黒字の4。

 

219:圧倒〔7歳:LEVEL5〕
博打がアッサリのびたため、俺が戦うことになってしまった。やれやれ面倒だぜ。
だがまぁ体は軽く温まったし、今なら普通に動けそうだ。さっさと終わらせて帰ろう。
勇者「オイ雑魚ども、俺が相手してやる。ありがたさを噛み締めながら死ぬがいい。」
男1「んだと生意気な!一瞬でブッ殺してやるから覚悟しやがれ!」
勇者「フッ、甘いな!我流忍術「変わり身の術」!!」
男1「なっ…!」

勇者は「職業」の概念を無視した。

博打「グハッ!!
勇者「よし、成功!」
盗子「そういう術なの!?仲間を犠牲にする系!?」
男1「チッ、やるじゃねーか!だが逃げてるだけじゃ勝てないぜクソガキ!!」
勇者「フンッ、ならば食らうがいい! 謎の秘奥義「扉に黒板消し」!!」

良い子のみんなは真似しちゃダメだ。

男1「ぐぁああああ!!
盗子「えっ!なんでそんな技が効いちゃうの!?」
血子「てゆーかこの山頂のどこにそんな扉が!?」
姫「その点ぬかりは無いよ。」
盗&血「持参なの!!?」
勇者「フッ、「チョークの粉」の代わりに「毒蛾の鱗粉」…深く吸えば即死だ。」

「勇者」の武器じゃない。

 

220:嫉妬〔7歳:LEVEL5〕
俺と姫ちゃんの息の合った攻撃により、まずは一人撃破。残るはあと一人だ。
勇者「さぁ次は貴様の番だ。 そうだなぁ…貴様には刀のサビになってもらおうか。」
男2「こ、この小僧…結構やりやがる!」
勇者「剣は久しく使っていないからな、腕が鈍っては…む?抜けん!なぜだ!?」

魔剣はご機嫌を損ねていた。

勇者「おいコラ!抜けやがれこの鉄クズめが! ぬぉおおおおおっ!!」
姫「あ~、ダメだよそんなんじゃ。乙女心は複雑だよ。」
勇者「…ば、バカだな~。お前が一番に決まってるだろ?な?」
盗子「えっ!そんなことで機嫌が直せるの!?」
血子「てゆーかその剣って乙女なの!?」
男2「チャンス!今なら殺れる!!」
勇者「くっ…!盗子、その倒れてる奴の剣を取れ!」
盗子「あっ、うん!わかったよ!」
勇者「そして自分の胸を貫け!」
盗子「なんで!!?」

男2の攻撃。
勇者は50のダメージ。

 

221:狼狽〔7歳:LEVEL5〕
魔剣が抜けなかったせいで、手痛い反撃を食らってしまった。痛いぞチクショウ。
もう怒った!剣が使えないのならば、謎の秘奥義てんこ盛りでブッ潰してやる!!
勇者「う゛っ…ゆ、油断したぜ…。」
盗子「だ、大丈夫勇者!? えっと、一応これ…。」
男2「ハッ! しまった、剣を…!」
勇者「ぐぅっ…お、おぉ!これで反撃ができる…ぜ! 覚悟はいいかテメェ!!」
男2「ま、待て!コイツがどうなってもいいのか!?」
姫「あ~、捕まっちゃったよ。」

姫が人質に取られた。

勇者「いぃーやぁあああああああ!!
男2「!!?」
盗子「あ、アタシの時との違いようったら…。」
勇者「貴様ぁ!もし姫ちゃんに何かしてみろ…内臓をグツグツ美味しく煮込むぞ!」
血子「だ、ダーリン落ち着いて!美味しくする必要性がわからないよ!」
男2「ヘッ、別にいいぜ?そいつを渡しゃこのガキは…あのガキは…どこ行った!?」

姫は雪ダルマとスリ替わっていた。

勇者「う…うぉー!!さっすが姫ちゃんだぜ!ワンダホー!!」
男2「なっ…! いつの間に逃げやがったんだ!?」
血子「てゆーか、いつの間にこんな物を!?」
盗子「そして一体どこに…」

雪ダルマ「そればっかりは言えないよ。」
一同「中にイターー!!」

スリ替わってなかった。

 

222:反撃〔7歳:LEVEL5〕
不覚にも姫ちゃんが人質に取られた。だが、本人にその自覚は無いようだ。
よし、今のうちに倒すか。今なら姫ちゃんは雪の鎧を纏っているので大丈夫だろう。
勇者「さぁぼちぼちお別れの時だ。浮世への別れは済んだか?」
男2「くっ…!」
盗子「今回は呪いは平気かなぁ?まぁ別に魔剣に換わっても問題ないけど…。」
勇者「前のバズーカの時は換わらなかった。どうやら毎回ではないらしい。」
男2「…ケッ!調子に乗るなよ!しょ、所詮はガキじゃねぇか!!」
勇者「フッ、ならば見せてやろう。 「刀神流操剣術」…その秘剣をな。」
男2「なっ!刀神流!?あの伝説の…「刀神」とうたわれた「剣豪:秋臼」の…!?」
勇者「あの地獄の夏修行…あの苦しみ…そのすべてを、貴様にぶつけてやる!!」

完全な八つ当たりだ。

 

223:決別〔7歳:LEVEL5〕
初めて使った必殺剣で敵を葬り、なんとか凍える前に山を降りられた俺達。
そして翌日、俺は血子との登校…最初で最後となるだろう登校をしたのだった。
勇者「む?オイ暗殺美、まさかお前らはミッションに失敗したのか?雑魚どもめが。」
暗殺美「フザけんじゃないさ!あんなムキムキした奴には誰も勝てないさ!」
血子「誰よアンタ?ダーリンに喧嘩売ったら血子許さないよ!?」
暗殺美「…勇者、この珍妙な生き物は何かさ? もしかして…」
勇者「うむ、血色草だ。色々あってかなり疲れたぞ。」
暗殺美「「憑かれた」の間違いじゃないかさ?」
勇者「そうとも言う。」
血子「二人はずっと一緒☆ 死ぬまで一緒なんだもんねー☆」
勇者「…まぁ、そうだな。」
血子「ねぇダーリン、ギュッとして☆ 壊れる程に抱きしめて☆」
勇者「いや、ダメだ。それは最後の手段だ。」
血子「え? ど、どゆことダーリン!?」

教師「いらっしゃい「原材料」。」
血子「Σ( ̄□ ̄;)!?」

別れの時が迫っていた。

 

224:処刑〔7歳:LEVEL5〕
ついに先公が現れた。これで血子も終わりだろう。あの世では華やかに咲くがいい。
血子「えっ!ちょ、何する気!? まさか…まさか血子、殺されるの!?」
勇者「残念だが血子、ウザいキャラは早死になのが世の常だ。」
盗子(明日は我が身なのかなぁ…。)
血子「イヤッ!絶対イヤッ!痛いのイヤァーー!!」
盗子「あ、あのさ先生、麻酔とかって無いの?せめて最後の情けに…ね?」
教師「あー、ありますよ。一瞬で心臓止まるのが。」
血子「そんな劇薬は麻酔とは呼ばないよ!」
教師「大丈夫、気づいた時には逝ってます。」
血子「痛くなきゃいいって問題じゃないよー!助けてぇー!!」
勇者「安心しろ、死ぬまで側にいてやる。」
血子「それは「死に際」以前に言って欲しかったよー!!」
教師「…で、痛かったですか?」
血子「え…? あっ、無い!髪が少し無い! でも、痛くも無かった…。」
盗子「いつの間に!?」
教師「フフフ。名付けて「幻想麻酔」…ってとこですかね。」
勇者「ちょ、ちょっと待て!そこだけでいいのか!?生かしてていいのか!?」
教師「必要なのは草…つまりは「髪の部分」だけですから。」
暗殺美「そ、それを早く言ってくれればウチらも刈ってこれたのにさ…。」
血子「わーい☆ ダーリーーン!これでまた一緒にいられるよー☆」

なんてこった。

壊れる程に抱きしめろ。

 

225:終業〔7歳:LEVEL5〕
徐々に冬は過ぎ行き、終業の季節となった。今年も生き残れて良かった。
まぁ今年は生徒数の関係でシゴキが甘かったのか、結構な人数が残ったのだが。
そのせいか、今年はちゃんと卒業式もあった。だがもう面倒なので特に書かない。
白とか美風とか案奈とかも卒業できたようだが、別に興味も無い。いらない。
盗子もいらない。血子もいらない。弓絵もいらない。賢二?誰それ??

もうじき春が来る。そして俺は五号生になる。

教師はニヤリと笑った。

 

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本編( 8 / 11 )

外伝(肆)

外伝(肆)

 

 ~魔王が行く~

ある日、それは遠く離れた世界で「勇者」が生まれたちょうどその日。
とある村で一人の少年が産声をあげた。

 

1:誕生〔0歳:LEVEL1〕
出生届の間違いで、「魔王」という名にされてしまった。お役所さん、そりゃないよ。

生きてるだけで後ろ指差されるという僕の悲惨な人生が、いま始まった。

魔王が現れた。

 

2:暗黒〔0歳:LEVEL1〕
オムツからヨダレ掛けまで、全てが黒に統一されている僕のコスチューム。
「魔王=黒」という安直な考え方はやめてほしいですお母さん。

あと、息子に「様」を付けるほどノリノリなのもキッツいですお母さん。

魔王は参っている。

 

3:苦悩〔1歳:LEVEL1〕
今日は僕の誕生日。 でも母さん、誕生日を「黒ミサ」と呼ぶのはやめてください。

ところで、いま食卓に並んでる肉は何の肉ですか? …怖くて食べられない。

魔王は日に日にやつれていく。

 

4:些細〔1歳:LEVEL1〕
今更だけど、もし役所のミスがなかったら、僕はどんな名前になっていたんだろう?
気になった僕は、母さんの日記をコッソリと覗いてみることにした。
『役所の手違いで、大事な息子が「魔王」なんて名前にされてしまった。可哀想に。』
母さん…だったらなんで、出生時からノリノリだったの…?
『私は「魔皇」と書いたのに…。』

ミスって…その程度…?

魔王は恨む相手が違った。

 

5:謝罪〔1歳:LEVEL1〕
母の日記を読み、今まで憎むべき人を誤っていたことに気づいた夏の昼下がり。
お役所さんに罪は無いのに、僕はずっと恨んでた…。 やはり一度謝っておきたい。
そう思った僕は役所へと向かった。 今のこの気持ちを、担当だった人に伝え…

母さんの、仕業ですか?

役所は滅んでいた。

 

6:会話〔2歳:LEVEL1〕
生まれて二年が経ち、僕もやっと流暢に言葉が話せるようになった。
というわけで、出生時から気になっている「ある疑問」を母にぶつけてみたのです。
魔王「母さん、僕には父さんはいないの? 見かけないってことはやっぱり…」
母「…そう、今はもう…いないんですよ…。」
魔王「そ、そっか…。 あ、じゃあさ、父さんってどんな人だったの?知りたいよ!」
母「ウフフ。とっても素敵な人でしたよ。」
魔王「ホントに?例えばどこらへんが??(わくわく!)」

母「名前が。」

そこに愛はありましたか?

父の名は「嗟嘆(サタン)」だった。

 

7:驚愕〔2歳:LEVEL1〕
父さんはもういないと告げられ、さすがにショックだった僕。どこまで薄幸なんだか。
もし父が正常な人間だったら、共に協力して母さんを倒そうと思っていたのに…。
魔王「ところで母さん、父さんはいつまでこの家にいたの?」
母「あ~、ちょうど一年くらい前まででしょうか。」
魔王「えっ!じゃあ僕も会ったことあるの!?でも覚えてないよ僕!!」
母「あの人、あんまり帰って来ませんでしたから…。」
魔王「あぁ…お仕事が忙しかったんだね…。 そっか、一度も会えなかったのか…。」
母「いいえ?去年の誕生日に、一度だけ会ってるはずですよ?」
魔王「…へ?」


魔王「Σ( ̄□ ̄;)!!」

もしかして、僕は父さんを食べましたか?

魔王の肩書きに「父食い疑惑」が加わった。

 

8:反抗〔2歳:LEVEL1〕
去年の誕生日、無理矢理食べさせられたお肉が父さんかもしれないだなんて…。
もうホントにグレてやりたい。でもそれじゃ母さんの思惑通りなので、絶対グレない!
魔王「母さんが魔王好きなのはわかったけど、僕は絶対にならないからね!」
母「えぇっ!は、反抗期!?反抗期ですか魔王様!? やったー!第一歩☆」
魔王「そんな一歩は踏み出してないから!僕は善良な人間になりたいの!」
母「ん~、まあいいんじゃないですか?」
魔王「…へ? い、いいの!?ホントにいいの!?」
母「「善良を装う魔王」というのも、新しくて素敵ですよ。」
魔王「えっ!なんで「魔王」は確定なの!?てゆーか「装う」て!違うから!!」
母「よーし!方向性の決まった魔王様を祝って、今日はお赤飯にしましょうね!」
魔王「いや、祝わないでいいから!「魔王」なんかになる気は無いから!!」
母「まずはニワトリを絞っ…」
魔王「血の赤なの!?」

こんな残念な親がいるなんて、僕だけだと思う。
勇者はクシャミが出た。

 

9:毒舌〔2歳:LEVEL1〕
2歳になったのにちっとも嬉しくないのは、絶対に母さんのせいだと思う。
だから僕は、精一杯の毒舌で母さんを傷つけてやることにしたんだ。
母「魔王様、今年の「貢物」は何がいいですか?何でもおっしゃってください。」

魔王「「お母さん」が欲しい。」
母「も、もう!この子ったら☆」

むしろ逆効果だった。

 

10:敵増〔2歳:LEVEL1〕
最近、母さんの暴走が日に日に激しくなっている気がする。
なぜなら母さんの部屋を訪れたら、机の上にこんな原稿が置いてあったからです。

『急募!! 「資格:強くてたくましい方」、「時給:応相談」、「職種:四天王」』

て、敵が増える…。

もはや逃げられない。

 

11:謎人〔2歳:LEVEL1〕
広告は意外にも反響があり、20人も集まった。これから面接があるそうです。
でも、仮にも「四天王」が「アルバイト」というのはいかがなものだろう?
魔王「それでは次の方どうぞ。」
男「ヌシが魔王か。ほぉ、なかなか良い面構えをしておるな。」
母「あ、アナタ!魔王様に向かってなんという口の利き方を…!」
男「女は黙っていろ。ワシは今、このスイカと話しておるのだ。」
魔王「えっ?スイカ??」
男「2歳でその体躯…さすがは「戦闘族バルク」と言ったところか。良いスイカだ!」
魔王「ち、違いますよ!?僕はスイカなんかじゃ…」
男「フッ、照れるな。その瞳の奥に輝きしスイカ…実に素晴らしい!ガッハッハー!」
魔王「・・・・・・・・。」

こんな人ばっかりです。

類が友を呼んでた。

 

12:忠誠〔2歳:LEVEL1〕
面接に来たのは予想通りアホな人ばっかりで、結局全員不採用になった。
でも数日後、意外な理由から「四天王」は集まることになるのです。
声「たのもぉ~!!魔王様はおられますかー!?」
…ガチャッ。(扉)
魔王「…ハイ、どちらさんですか?宗教の勧誘ならウチはもう「邪教」に…」
男1「我が名は「鴉(カラス)」。是非ともアナタ様の家臣にしていただきたい!」
魔王「は…? えっ、なんですかいきなり??」
女「私は「華緒(はなお)」。我らはアナタのお父上…嗟嘆様に救われた人間です!」
男2「この「黒猫」も是非!嗟嘆様に誓った忠誠、今後はアナタ様に捧げまする!」
魔王「と、父さん…? そっか、父さんは素晴らしい人だったのか…良かった…。」
男女「我ら、「嗟嘆四天王」!!」
魔王「えっ!? いやいや、三人しかいないじゃん!もう一人は!?」
鴉「最初から三人ですが、心は「四天王」です!」
魔王「いや、心構えの問題じゃ無いと思うよ!?」
華緒「そんなことは気にせずに!共に嗟嘆様のカタキを探し、そして討ちましょう!」

僕もカタキに入るのでしょうか?

魔王は事実の隠蔽を決めた。

 

13:迷惑〔2歳:LEVEL1〕
突如現れた「四天王」。 命を狙われても困るので、手なずけることにした。
できることなら深い忠誠を誓わせ、共に手を取り母さんを倒したいものです。
鴉「ま、魔王様!大変です!「義勇軍」と名乗る騎士団が、急に攻めて参りました!」
魔王「えっ!なんで!?僕はまだ何もしてないのに…なんでなの!?」
母「あぁ、それはワタクシめが…」
魔王「な、何か変な情報でも流したの!?勝手なことしないでよ!」
母「雇いました。」
魔王「もっと大迷惑だよ!!」
母「荒波に揉まれてこそ、真の「魔王」は育つと思いまして…つい…」
魔王「「つい…」じゃないから!育つ前に死んじゃうから!!」

母「つい、全宇宙に求人を…。」

こ、このアマァ…!!

魔王は覚醒し始めた。

 

14:晩餐〔3歳:LEVEL3〕
一年が過ぎ、僕は3歳になった。 母が雇った刺客との戦闘でレベルも上がった。
家臣達も懐いてきたので、ぼちぼち復讐に乗り出してもいいのかもしれない。
僕と四天王…四人がかりなら、なんとか寝首くらいは掻けそうな気がするのだ。
魔王(期は熟した。今夜、母を討つよ。 これが奴の最後の晩餐となろう。)
鴉(ハッ!)
華緒(あっ、来られましたよ!)
母「さぁ魔王様、黒ミサの準備が整いましたよ。」
魔王「ああ、わかった…すぐ行く。」

鴉「おぉ、これはスゴいご馳走だ!」
華緒「わぁ~!見たことも無いお料理がイッパイですねぇ!」
魔王「そうか、お前達にとっては珍しいものなんだね。 僕は以前に食べ…」


魔王「Σ( ̄□ ̄;)!!」

ま、まさか…。

そういえば黒猫を見かけない。

 

15:旅立〔5歳:LEVEL7〕
そして月日は流れ…気づけば俺は、すっかり母親の邪気に毒されていた。
まぁ「魔王」になってやる気はサラサラ無いのだが、生真面目に生きる気も失せた。
こうなったらこの星を離れ、奴の目の届かぬ地で自由に破壊を楽しもうと思う。
華緒「ま、魔王様!どこへ行かれるおつもりですか!?」
魔王「俺は旅に出る。お前らも、後は好きにしろ。」
華緒「そ、そんな…!」
鴉「で、でしたら我々も…我々もご一緒させてください!」
華緒「もはや我々は、アナタ様に忠誠を誓った身…離れるわけには参りません!」
魔王「お前ら…。」
家臣達「お願いします!お願いします魔王様!!」
魔王「…だったらその呼び方はやめろ。俺は「魔王」になる気なんぞ無いんでな。」
鴉「で、では…!!」
魔王「フッ、好きにしろ。バカどもめが…。」
華緒「あ、あの~…ところで、「魔王様」でなければ今後はどうお呼びすれば…?」
魔王「「魔」の「王」…意味合い的にはいいのだが、「魔王」の職との区別が欲しい。」
鴉「ならば、「古代語」で「魔の王」を意味する言葉ではいかがでしょう?」
魔王「古代語か…なるほどな。いいだろう!」

魔王「さぁ準備はできたか!? 行くぞお前達!!」
家臣達「ハッ!!」

魔王「俺の名は「ユーザック(王)・シャガ(魔)」!「ユーシャ様」と呼ぶがいい!!」

そして「魔王」は、「侵略者」となった。

 

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本編( 9 / 11 )

第五章

第五章

 

226:進級〔8歳:LEVEL5〕
春…。 8歳になった俺は、今日から五号生として学校に通うことになる。
去年は始業式をサボッてえらい目に遭ったので、今回は真面目に出席しよう。
もしも戦闘になったなら、今年は俺がみんなを守ってやるべきなのかもしれない。
それが去年地獄を見せた奴らへの、当然の報いだと思っているからだ。

…などと考えながら、急いで学校へ向かっている。

勇者は寝過ごした。

 

227:遠足〔8歳:LEVEL5〕
大量の転入生を迎え、今年もなんとか定員に達した我らが冒険科。
おかげでクラスメイトも、盗子、姫ちゃん、巫菜子、博打以外は誰が誰だかわからん。
まぁ早速訪れる春の遠足で、そのウチのかなりの人数は消えるんだろうがな。
ちなみに今年は生徒会を脅して学園祭を中止にさせたため、春行事は遠足だけだ。
教師「今回の遠足は、「クラス対抗宝探し」をやってもらいます。」
勇者「宝探しか…確か一昨年もやったな。 なんだ、ネタ切れなのか?」
教師「いいえ、少し違うんですよ。今年のは前回のような「ゲーム」ではありません。」
盗子「ゲームじゃないってことは…実際にどこかにある何かを探せってこと?」
教師「ハイ、幻と言われている「蒼茫(そうぼう)海賊団」の財宝を」
巫菜子「ん~、沈没船かぁ~。結構大変そうだね。(めんどくせーなオイ…。)」

教師「奪ってきてください。」
生徒「現役から!?」

クラスで対抗どころじゃない。

 

228:先制〔8歳:LEVEL5〕
今回の春遠足の目的は、どうやら「海賊」から宝を奪うことらしい。
確かに海賊は悪党だが、それから宝を奪う行為は悪じゃないのかと問い詰めたい。
勇者「今回のクラス対抗は、各学年のA~C組同士が手を組み戦う三つ巴戦だ。」
弓絵「キャー!キャー! 勇者センパーイ☆カッコいいですぅ~☆」
勇者「というわけで、今回A組連合軍の指揮を執ることになった勇者だ。よろしく。」
少年1「あぁん?ちょっと待てや! リーダーつったらやっぱ六号…ぐわっ!
勇者「俺達は「同志」だ。手を取り合って頑張ろう。」
盗子「まったくもって説得力が無いよ!」
芋子「ワタイは芋さえ食えればなんでもいいわ。」
盗子「そういう集まりじゃないから!」
博打「ところでブラザー、敵の戦力分析はもう済んでるのかい?」
勇者「正直C軍はカスばかり…つまり敵は、暗殺美率いるB軍ということになる。」
栗子「あ、あの、あの…」
姫「あの世。」
勇者「ん~、賢二。」
盗子「コラそこ!勝手に連想ゲーム始めない!」
巫菜子「えっと、どうしたの栗子ちゃん?(気ぃ遣わせんじゃねーよクソガキが。)」
栗子「あ、あの…まままずは、その「海賊船」を探すのがせ先決な気がしまりまり!」
勇者「フッ、甘いな。お前は暗殺美の姑息さを全然わかっていない。」
栗子「で、でも…!」
勇者「まぁ座れ、わからんと言うなら今からその意味を教えてやる。」
栗子「え? あ、ハイ…あうっ!

画鋲の攻撃。
栗子はお尻に2のダメージ。

 

229:魅了〔8歳:LEVEL5〕
予想通り先制攻撃を仕掛けてきた暗殺美。 しかし画鋲なんていつの間に…。
やはり今回は、海賊船より邪魔者の駆除が先らしい。大きな戦になりそうな予感だ。
と考えていた遠足当日、早速刺客の魔の手は迫ってきた。 しかも、すんごい量で。
勇者「くっ!まさか集合場所(学校)が即戦場になるとは思わなかったぜ…!」
歌憐「みんなー!今日はカレンちゃんのために集まってくれてありがとー♪」
C軍男子「うぉおおおお!カレンちゃーん!!」
勇者「って、なぬっ!? なぜB軍の歌憐の取り巻きにC軍が…!?」
弓絵「「歌姫」の能力ですよ先輩☆半端な男子は一瞬で釣られるらしいです~!」
盗子「ど、どうするの勇者!? 人数違うし、それにあの子の歌声は…。」
勇者「まぁ歌は問題なかろう。要はあの音痴な歌を聴かねばいいんだ。」
弓絵「先輩違いますぅー!歌憐の歌には色んなバージョンがあるんですー!」
盗子「えっ!バージョンて…どゆこと!?」
弓絵「盗子先輩には教えませーん!」
巫菜子「じゃあ私には教えてくれる?(教えなかったらブッ殺すぞ小娘!)」
弓絵「えとですねー、「攻撃」「防御」「統制」とか、いっぱい種類があるんですぅ~!」
盗子「ムッキィー!結局アタシにも聞こえてるしー!」
歌憐「じゃあ最初は、いつものあのバラードいっちゃうねー♪」
C軍男子「イェーーーーイ!!」
勇者「お、オープニングからバラード…なんて盛り上がりづらいコンサートなんだ!」

歌憐「それでは聴いてください…「LaLaLa乱打戦」♪」

曲名がバラードじゃない。

 

230:妨害〔8歳:LEVEL5〕
歌憐の能力により、敵の数が一気に増えた。いくら雑魚でもこの量は少々キツい。
しかも、こうしてる間に暗殺美に先を越されるかもしれない。 なんとかせねば。
勇者「チッ、これを全部相手してるとなると…時間が足りん!」
盗子「あ!そうだ栗子、何かいい機械とか無いの? ホラ、歌を邪魔するような…。」
栗子「まま任せてくらはい!わ私が「妨害用拡声器」を作っちゃってましたですよ!」
勇者「おぉ、さすがは「機関技師」! …だが、一体誰が使うんだ?」
芋子「えー、イヤだわ栗子~。ワタイは歌なんて歌えないわよ~。」
盗子「えっ!なにその感じ!? その「実はノリノリよ☆」みたいな感じは!?」

衣装もバッチリ決まっている。

勇者「…つまり、任せていいわけだな?芋っ子よ。」
芋子「仕方ないわね、やったるわ。「皇女」でも庶民の歌謡曲くらい知ってるわよ。」
歌憐「ララララ~乱闘~♪」
C軍「乱闘ー!!」
勇者「ヤバい、始まっちまったぞ! 急げ芋っ子!!」
盗子「って、これのどこが「バラード」なんだよ!」
芋子「あー…ゴホッ、ゴホン。  いぃーーーしやぁ~~きイモ~~♪」
歌憐「!!?」
C軍男子「な、なんだ!?」
盗子「えっ!? た、確かに邪魔できてるけどソレって歌謡曲なの!?」
芋子「おイモ~おイモ~♪ おイモ~だよ~♪」
C軍男子「はぁ!?何言ってんだよテメェ!おイモじゃねーよ!!」
芋子「おイモだYO!」
C軍男子「え、あっ…HEY YO!」
芋子「お芋、食いたいYO!」
C軍男子「く、食いたいYO!」

もう、何がなんだか。

芋子はライブを乗っ取った。

 

231:逃亡〔8歳:LEVEL5〕
芋子のライブジャックにより、なんとか歌憐の攻撃を回避することに成功。
というわけで学校の敵は芋子に任せ、俺達は港へ急ぐことにしたのだった。
勇者「よし、さっさと港へ行くぞ!遠足は今日一日しかないんだ!」
弓絵「船旅ですねー☆ 新婚旅行は南の島がいいですぅ~!」
盗子「違うから!海賊船を探しに行くの!」
弓絵「はぁ~。つまんない人ですね~盗子先輩って。」
盗子「べ、別にいいじゃん!ユーモアなんて別にいらな…」
弓絵「存在が。」
盗子「ムッキィー!やっぱアンタが一番ムカツクー!!」
巫菜子「あれ?そういえば今日は姫ちゃんは…?(サボりかよあの天然は?)」
勇者「む?まぁいいさ。 こんな危険な遠足、無理して参加することもない。」
栗子「ばば博打さんも途中からみ見かけませんでよ?」
勇者「あの野郎ぉ…!!」

~その頃、博打は…~
タッタッタッタッ…(走)
博打「フッ、「三十六計逃ぐるに如かず」ってね。俺にはまだ果たすべき使命が…」
声「おっと、逃がさないでござるよ少年!」
博打「!!」
法足「さぁ食らうがいいでござる!束縛の大奥義、「忍法:大王蜘蛛縛り」を!!」
博打「…くっ! なら俺は、かつて世界を滅ぼした必殺ビームを絞り出してやるぜ!」

世紀の「嘘つき対決」が始まった。

 

232:石化〔8歳:LEVEL5〕
博打の野郎は逃げたが、未だ無傷な我らがA軍。今のところは順調な感じだ。
来るべきB軍との全面戦争に向け、少しでも多くの仲間と共に向かいたいものだ。
などと考えていると、当然の如く次の刺客が現れた。 まぁ、楽勝な相手なのだが。
勇者「ほぉ…次の相手はお前ってわけだな? 俺に逆らう気なのか土男流よ!!」
土男流「し、師匠ー!悪いけど今の私はB軍の一員なんだー!」
メカ盗子「ソシテ アタシハ 「オニイチャン」ノ イチイン。」
盗子「そんな物騒な組織は要らないよ!!」
勇者「う~む…よし、お前に任せるぞ栗子。俺達には時間も人的余裕も無いんだ。」
栗子「えぇええっ!?な、なななんで私の出番だったりしちゃいますか!?」
勇者「相手はロボだ。「機関技師」なら気合いでバラせ。」
メカ盗子「ロボチガウ。」
勇者「特に顔の部分を重点的に。」
盗子「なんで!?」
土男流「ま、待ってくれ!たとえ師匠でも見逃すわけには…!」
勇者「そうか、短い付き合いだったな…。 お前はホント、いい弟子だったのに…。」
土男流「い、イヤだー!やっぱり通っていいから私を見捨てないでくれー!!」

都合のいい弟子だ。

土男流「…というわけで、すまないが一人で死んでほしいんだ栗子先輩ー!!」
栗子「ひ、ひぇええええっ!!」
メカ盗子「クラエ ヒッサツ ビーム ア…ネジ トレタ。」
土男流「うわー! く、首が落ちそうだよトーコちゃーん!?」
メカ盗子「ウ ウチクビ モード?」
土男流「違うんだー!そんな自分を不利にしちゃうような形態は無いんだー!」
栗子「はわわわ!えええっと、そ、それは多分こっちのネジででですよ!」

~一時間後~
栗子「ん、んと、後は多分…ハイ! これで全体の整備も終わりましたよ☆」
土男流「わーい!助かったぜ先輩ー! もうアンタは敵じゃないぜー!」
メカ盗子「アリガト。 モウ コウゲキ シナイ。 アンタ オンジン。」
栗子「えへ、えへへ☆ か、機関技師として当然の事をしただけだってばさー☆」
土男流「あ、そうだ!栗子先輩にお茶を出してやるんだトーコちゃん!」
メカ盗子「ア、 キガ ツカナ カッタ。 イマ ツクル。」
栗子「えっ!まま、まさかそんな機能までと搭載しちゃってやがるですか!?」

メカ盗子「デル ワキカラ。」
栗子「Σ( ̄▽ ̄;) ワキ!?」

栗子は石になった。

 

233:眠宝〔8歳:LEVEL5〕
土男流は栗子に任せ、港へと続く林道に入ると、そこには大きな分かれ道があった。
確か左が近道だが、両方とも港には出られるはずだ。 さて、どっちを選ぶか…。
巫菜子「土の荒れ方から見て…多分B軍は左だね。(チッ、やっぱ近い方かよ。)」
勇者「ならばお前らは右へ行け。 俺が敵を食い止める、その間に抜き去るんだ。」
盗子「えっ!まさか一人でB軍を…100人以上を相手にする気!?死んじゃうよ!」
勇者「放せ!こうしてる間も惜しいんだ! 俺は一刻も早く…」
盗子「イヤッ!!」
勇者「お前から離れたい!!」
盗子「そっちがメインなの!?」
巫菜子「でも勇者君、行ったところで追いつけるの?(もう遅ぇだろがよボケが!)」
勇者「フッ、この俺のお手製…「謎の遠足リュック」に不可能は無い!」
盗子「リュック!? 五年目にしてついにベールを脱ぐの!?」
勇者「今まで散々驚いた。これ以上ビックリするなど有り得んわ!見るがいい!!」

姫「…ほぇ?」
勇者「ビックリーー!!!」

謎は深まるばかりだ。

 

234:再会〔8歳:LEVEL5〕
もはや暗黙の了解なのか、今回も期待を裏切ってくれた我が遠足リュック。
おかげでせっかくの秘策がフイに…。 だがまぁ、姫ちゃんが可愛いから許す。
勇者「くっ!万事休すか…!」
姫「あ~、じゃあ私が連れてってあげるよ。」
盗子「あっ!それって「天使草」!? 確かに空飛んで最短距離を行けば…!」
勇者「よし、じゃあ頼むぞ姫ちゃん!剣がデカいぶん重いだろうが、頑張ってくれ!」
姫「むー、〔砲撃〕!」
一同「え゛っ!?」

天使草はフェイクだった。

勇者「今なら賢二の気持ちがあああぁぁぁぁぁ……!!

キラン☆(青空に一点の光)

姫「行っちゃった…。」
盗子「自分が撃ち込んだんじゃん!」
弓絵「違いますよ勇者センパーイ!弓絵の実家はそっちじゃないですぅー!」
巫菜子「ま、まぁとりあえず…行こっか?(敵がいねーなら楽でいーや。)」
霊魅「うふふ…。 残念だけど…ここから先は通しませんよ…。」
盗子「れ、霊魅!?ここにはアンタが張ってたの!?ってか一人で!?」
弓絵「こっちは100人もいるんですよー?先輩一人で何ができるんですかー?」
霊魅「あらあら…。「霊媒師」をナメたらダメですよ…。」
銃志「動くなよテメェ、俺に近づくと…死ヌぜ?」
盗子「えっ!? なんでそいつが…!?」

〔霊媒師〕
「死霊」を召喚する能力を持つ謎深き職業。
「偽魂(ぎこん)」という核を媒体として霊を呼び寄せる。
偽魂を壊すか術者を倒すまで、その死霊は消せない。

霊魅「退けば良し…退かないなら…うふふ…。」
盗子「へ、へーんだ! そんな奴が何さ!?その程度の雑魚が何人いたって…」

ゴップリン「オヒサシブリ。」
盗子「いやーーーーん!!」

どうでもいいが盗子も雑魚だ。

 

〔砲撃(ほうげき)〕
魔法士:LEVEL5の魔法。(消費MP8)
砲弾等を撃ちっ放す魔法。反動や着地の問題上、人間に使うなんてそんなバカな。
 

 

235:機会〔8歳:LEVEL5〕
どわああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
勇者「好いた者の手にかかり死ぬ…か。悪くないかもし…んでたまるかぁーー!!」
声「ん?おぉ、勇者ではないか。人力飛行に挑戦とはまた随分と無謀な試みだな。」
勇者「ぬぉっ!? お、お前は夏の…ちょ、ちょうどいい!助けてくれ鬼ババア!!」
麗華「…ごきげんよう。」
美咲「クエェ。」
勇者「嘘だ嘘だ嘘だ!鬼じゃない!天使だ!女神だ!女神ババア!」
麗華「この期に及んで大した度胸だと少々感銘すら受けるぞ、潰れトマト。」
勇者「わわ悪かった!だから「十数秒後の俺」を的確に表現するのはやめてくれ!」
麗華「やれやれ…。 まぁいい、乗れ。」

勇者は一命を取り留めた。

勇者「ふ、ふぅ~…。 ありがとう、感謝する。だが礼は言わんぞ!!」
麗華「まったく…お前の半分は「意地っ張り」でできてるのか?」
勇者「そんなことより、貴様はこんな中空で何をしてるんだ? 魔界にでも帰ぶっ!
麗華「うむ。 少々急用ができてな、「エリン大陸」へと向かっている最中だ。」
勇者「た、大陸…!?」
麗華「そうだ。 お前も聞いたことくらいはあるだろう?」
勇者「大陸…。」

麗華「来るか?」
勇者「へっ!?」
麗華「ワシも色々と忙しい身だ。お前のような微少な力とて、足しになる日もあろう。」
勇者「だ、誰が美少年だ!!」
麗華「えらく都合のいい聞き間違いだな。というかそれならなぜ怒る?」
勇者「大陸…広い世界…強大な敵…。」
麗華「まぁ返事は今すぐでなくてもいい。考える時間くらいくれてやろう…2秒間。」
勇者「短い!!」

勇者は旅立ちの機会を与えられた。

 

236:妨害〔8歳:LEVEL5〕
ナイスタイミングで俺を助けた麗華は、なんと大陸への出撃を求めてきた。
「旅立ち」と言えば「勇者」として避けては通れぬもの。それに大陸には憧れもある。
行ったところで特に目的は無いが、こんな片田舎で一生を終えるよりはマシか…。
勇者「…よ、よし!行ってやろうじゃねーか! そして無理矢理にでも名を残す!」
麗華「生きて帰れるという保証は無いが…いいのか?」
勇者「フッ。そんな保証など、生まれて此の方一度も手にした記憶は無いが?」
麗華「好いた者への別れも済ませられんが?」
勇者「ぐぉっ…! いや、いい。離れて深まる愛もあるさ。(ひ、姫ちゃーーん!!)」
麗華「そうか。ならば…」
声「おやおや、いけませんねぇ勇者君。」
勇&麗「!!?」
教師「家に帰るまでが遠足ですよ…っと!」

勇者は突き落とされた。

勇者「ぶ、ブッ殺ぉおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ…!!」

教師「フフッ、まぁこの高度なら大丈夫でしょう。」
麗華「あ、貴方は化け物ですか!神出鬼没にも限度というものがあります!」
教師「いやいや、今の彼の消えっぷりもなかなかでしたよ。」
麗華「貴方が落としたんです!」
教師「ダメですよ麗華君、あの子は巣立つにはまだ早すぎる。」
麗華「し、しかし! 「奴の方」には別段危険な症状は…!」
教師「ん~、そうでもないのですよ。思想に少々危険な部分がありまして。」
麗華「それも貴方の責任な気が…。」
教師「ま、とりあえずもうしばらくは…ね?」
麗華「…わかりました。貴方がそう言うのであれば。」

勇者の意思は無視なのか。

 

237:乗船〔8歳:LEVEL5〕
突き落とされた後、気合いで着地したのは、なにやら変わった形をした船上だった。
もしやこれが「蒼茫海賊団」の船…? どうやら俺は、図らずも勝ってしまったらしい。
蒼茫海賊団は幻の如く滅多に目撃もされず、噂が一人歩きしたような存在と聞く。
きっと大層な宝を持っているに違いない。 よし、とりあえず隠れて様子を窺おう。
勇者(とはいえ、着地時に随分とデカい音がしたからなぁ…あ、やっぱ来たぜ。)
船員「おかしいな…。確か大きな物音がしたと思ったんだが…むぐっ!?
勇者「騒ぐな。騒げば貴様はサメも食わん程にぐっちゃぐちゃな代物に変わるぞ。」
船員「き、貴様…こんなことをして、ただで済むと思っているのか…?」
勇者「フン、ほざくな!海賊風情が偉そうに!」
船員「か、海賊!? フザけるな!我らは「海軍」だ!!」
勇者「お…?」

勇者は国家権力を敵に回した。

船員「海軍に楯突くとは、もはやA級犯罪…。名を名乗れ小僧!捕えてくれるわ!」
勇者「フッ、名乗る程のモンじゃない。」
船員「いや、使いどころ間違ってるぞそのセリフ!そんな謙遜は求めてない!」
勇者「黙れ礼儀知らずめが!人に名を聞く時はまず自分からだろうが!」
船員「そ、そう言われればそうだな。 えっと、私の名は…」
勇者「興味無い。」
船員「なら聞くなよ!!」
勇者「ケッ、海軍がなんだってんだ!そんなのこの俺様がブッ潰してやるよ!!」
船員「な、なんだと…!?」

勇者「この宿敵様がなぁ!!」

宿敵は前科一犯になった。

 

238:混乱〔8歳:LEVEL5〕
海軍を撒くのに時間がかかり、なんとか港に着いた頃には既に夕刻だった。
危うく国家を敵に回しかけたが、顔は見られてないのでまぁ問題は無いだろう。
港には盗子達の姿もあった。どうやら生き残ったらしい。 チッ、しぶとい奴らめ。
勇者「そうかみんな生きてたか。じゃあ俺と別れてから何があったか教えてくれ。」
盗子「あぁ…うぅ…。」
巫菜子「うぐぅ~…。」
勇者「む?やけに放心状態だなお前ら。何か衝撃的なことでもあったのか?」
盗子「ご、ゴップリンが…。」
勇者「ゴップリン!? ば、バカな!奴は俺が倒したはずだ!」
巫菜子「お化けが…攻撃が…。」
勇者「まさか化けて出やがったのか!?しかも攻撃って、一体どんな!?」
栗子「わ、ワキから…。」
勇者「ワキ!?ワキからなのか!?そんな微妙な部位からどんな攻撃を!?」
栗子「もう…飲めな…。」
勇者「飲ますのか!?」
栗子「お、お気持ち…だけで…。」
勇者「お気持ちは嬉しいのか!?」

勇者はその晩、妙な夢にうなされた。

 

239:家族〔8歳:LEVEL5〕
結局、どの組も海賊団は発見できずに終わった春の遠足。続きはきっと秋だろう。
今回も普通に疲れたし、とりあえず帰って大人しく寝ることにする。
勇者「ふぅ~…、ただいまー。」
チョメ「ポピュッパ☆」
勇者「よしよしチョメ太郎。 出迎えは嬉しいが、とりあえずそのバズーカは降ろせ。」
チョメ「ポプゥ~…。」
義母「あ、おっ帰り勇者ちゃ~ん☆ 超ひっさしぶりって感じぃ~?」
勇者「む?なんだ、来てたのかカマハハ。オカマバーは休みか?」
血子「今日はお義母様に料理を習ってたんだよ☆」
勇者「そしてお前はいつまで居る気なんだ血子?」
父「あぁ、やはり一家団欒はいいなぁ…☆」
勇者「何が一家だ!四割が魔物じゃねーか!!」
血子「ひ、酷いよダーリン! オカマは魔物じゃないよ!お義母様に謝って!」
勇者「お前が謝れよ!!」
父「よーし、じゃあ家族が全員揃ったところで話がある。 母さん、よろしく。」
義母「えっとね~、この夏はみんなで旅行に行こうかなってゆーかぁ~?」
血子「旅行!ダーリンと旅行! 血子は大賛成ーー☆」
チョメ「ポピュパッポプ!」
勇者「俺は却下。 こんな濃すぎる奴らとの旅なんて、休まるどころか逆に疲れる。」
義母「でも~、このメンツじゃなきゃ行けないしぃ~。値段も超安いんだけど~。」
勇者「このメンツってことは…家族を対象にした旅ってことか? あざとい商売だな。」
血子「なんてプランなの?お義母様。」

義母「「一家心中」。」
勇&血「縁起でもない!!」

帰りの交通費が要らない。

 

240:旅行〔8歳:LEVEL5〕
夏休み。 今年の夏は、半ば無理矢理に家族旅行へ連れて行かれることになった。
しかもプラン名は「一家心中」…。 果たして俺達は、無事に帰れるのだろうか。
案奈「あ、皆様ァ~。本日は当車をご利用いただき~誠にありがとうございまァす。」
勇者「おぉ、お前か案奈。偶然じゃないか。 お前が今日のガイドなのか?」
運転手「ゲホッ、ゴホッ! ぞ、ぞじで私が今回の運転手で…ゲハッ!!」
勇者「な、なんで俺が会う運転手は不安要素のある奴ばかりなんだ…。」
案奈「ちなみに~ワタクシは10歳~、運転手は享年86歳で~ございまァす。」
血子「享年て!!」
案奈「尚~、条例により~、火薬~ガソリンなどの危険物は~…」
勇者(チッ、持ち込み禁止か!だがチョメ太郎は絶対持ってる…マズいぞ!)
案奈「車内で~販売しておりまァす。」
勇者「取り締まれよ!!」
案奈「また~、悪路につき~、状況により止むを得ず~…」
勇者「あぁ、急停車する場合があるってんだろ?」
案奈「心停止する場合が~ございまァす。」
血子「誰が!!?」

運転手「・・・・・・・・。」
勇&血「まさかっ!!」

これで金を取る気か。

 

241:施設〔8歳:LEVEL5〕
今回もまた運転手に問題があったため、例の如く親父の運転で大獣車は走った。
そして着いたのは「一家団ランド」という施設。一見アットホームそうだが、しかし…。
勇者「オイ案奈、ここは一体どんなスポットなんだ?嫌な予感しかしないのだが…。」
案奈「首吊り~、飛び込み~、その他各種アトラクションが~充実しておりまァす。」
血子「一回こっきりで人生終わりじゃん!いくつも楽しんでらんないじゃん!!」
少年「ねぇパパ、ここに来ればママに会えるってホント?」
父親「ああ、すぐに会えるよ…すぐに…。」
血子「騙されてる!騙されてるよボウヤ!?」
父「感動の光景だな…。父さんちょっと泣けてきたぞ。」
血子「血子も泣きそうだよ違った意味で!!」
勇者「こんな負の感情が渦巻く所に、俺達は一体何をしに…。」
義母「てゆーか~、アタシもうお腹すいちゃったんだけどぉ~?」
案奈「え~、この先にレストランがありまして~…」
勇者「やれやれ…どうせ毒入りの食べ物でも売ってんだろ?」
案奈「餓死するまで~監禁されまァす。」
勇者「せめて商売しろよ!!」
血子「だ、大丈夫だよダーリン!血子が頑張ってお弁当作ってきたから!」
勇者「おぉ、やるじゃないか血子…って、これは何ていう料理だ?」
血子「えっとね、「ミミゴー」ってゆーの。 こんな大きいのは結構貴重なんだよ☆」
勇者「へぇ~。 だがそんな貴重品、どこで手に入れたんだ?」
血子「えへへ☆ 学校で☆」
勇者「学校…?」

ほ、邦壱…。

的確な推理だった。

 

242:最期〔8歳:LEVEL5〕
なんとも怪しい遊園地「一家団ランド」。出口とか無さそうな雰囲気でイッパイだ。
もともと期待なんぞしていなかったが、まさかこれ程までに酷い旅とは思わなんだ。
勇者「コラ親父!なんでこんな不気味な場所まで連れて来たんだ!?目的は!?」
父「はっはっは! 目的もなにも、そんなの家族で楽しむために決まっとろうが。」
勇者「楽しめねーから言ってんだよ!」
父「ワガママを言うな勇者。 最後の…家族旅行…なんだから…。」
勇者「最期になりそうなのはテメェのせいじゃねーか!」
義母「ねぇ勇者ちゃん。あの「お化け屋敷」なんだけど~、超入ってみたくな~い?」
血子「えぇ~!こ、怖いよ!化け物がいるんでしょ!?」
勇者「化け物が何を言うか。」
血子「違うもん!血子はただのキュートな根っこだもん!お化け怖いー!!」
勇者「ったく…。 騒ぐな血子、こんなのは所詮子供騙し…」
看板『霊魅のドキドキお化け屋敷』
勇者「本物かも!!」
義母「ん~、じゃあアレは~?あのメリーなんとかってゆーの。」
勇者「む?「メリーゴーランド」のことか?」
血子「ち、違うよダーリン!「メリーゴートゥヘル」って書いてある!」
勇者「まともなアトラクションは無いのかよ! このフリーパスチケットの意味は!?」
父「やれやれ…。 じゃあ最初は穏やかに「観覧車」でも乗ってみるか?」
チョメ「ポピュッパー!ポピュッパップー!!」
勇者「言っとくがチョメ太郎、勘で乱射するから「勘乱射」ってわけじゃないぞ。」
チョメ「ポ、ポピュッ!?」
血子(どうするダーリン?きっとその観覧車にも何かあるよ?)
勇者「…俺は行くぞ。 逃げ回るのは、性分じゃないからな。」

閉園時間まで生き延びれば、それで済むんだ。

勇者は「24時間営業」の事実を知らない。

 

243:真剣〔8歳:LEVEL5〕
結局、親父の提案に従い観覧車に乗った俺達。二人乗りなので俺は親父と乗った。
親父は最初は大人げなくはしゃいでいたが、途中から次第に静かになっていった。
うるさいのも嫌だが、嵐の前には静けさが訪れるというし…かなり不安で仕方ない。
父「思えば、こうしてお前と落ち着いて話すのも久しぶりだな…。」
勇者「久しぶり? 俺の記憶が確かなら、恐らく人生で初の経験だと思うが?」
父「そうか…確かにそうかもしれんな。」
勇者「? どうした親父、いつになく神妙な顔つきだが…。」
父「今日はちょっと、お前に大事な話があってな。」
勇者「大事な話? 悪いが貴様なんぞと結婚してやる気は無いぞ?」
父「ちゃかすな勇者。 父さん、シリアスモードは五分が限界なんだ。」
勇者「な、難儀な生き様だな…。」
父「母さんのことだ。」
勇者「母さ…ま、まさか俺の…ホントの母親のことか!?」
父「お前は何故か聞いてこなかったから、今まで話さなかったんだが…。」
勇者「どうせろくでもない事実が待ってると思ってな。怖くて聞けなかった。」
父「まずは結論から言おう。 お前の母はもう…既に、亡くなっている。」
勇者「…そうか。 だがまぁ一度も抱かれたこともない母だ、特に感慨も無いな。」
父「そう言ってやるな。 自分の死を覚悟のうえ、お前を産んだんだからな…。」
勇者「えっ…。」
父「お前のその「勇者」って名前だがな、考えたのは実は…母さんなんだよ。」
勇者「なっ!俺の名は、親父がRPG好きって理由で付けられたんじゃ…!?」
父「母さんがRPG好きだったんだ。」
勇者「同じか!そのフザけた事実は揺るがないのか!!」
父「…む? 気づけばもう一周か、早いな…。」
勇者「おぉ、言われてみればそうだな。意外にも何事も無くてビックリだぞ。」
父「違うぞ勇者、こういう時はこう言うんだ。 「時間が…止まればいいのに…。」。」
勇者「お、親父!?いきなり何を言い出すんだ!?」
父「すると男は言う、「じゃあ魔法…かけてやろうか?」。 そして見つめ合う二人!」
勇者「なんだそのクサいセリフは!?顔から出た業火で世を焼き尽くせそうだぞ!」
父「そして二人は熱いキッス! オゥ、なんたる定番!しっかしロマンティーック!!」
勇者「間違えるな!そんな定番はモテない妄想野郎どもによる悲しみの産物だ!」
父「いや、待てよ?その前に停電で止まるという展開もありがち!ありがっちー!」

そういえば…五分経ったな…。

副作用が出るほど苦痛なのか。

 

244:苦悩〔8歳:LEVEL5〕
観覧車の中で、親父に衝撃の真実を中途半端に聞かされた。ホント中途半端に。
正直気にはなったが、その後回復した親父は何一つ覚えていなかったので諦めた。
まぁ死んだと聞かされた以上、我が未来には関係あるまい。 別にいいか…な…。
勇者「ふぅ~、なんとか夕方まで生き延びたな…。 ぼちぼち帰らないか親父?」
父「今夜は…帰したくない!」
勇者「まだ続いてたんかい!!」
案奈「あ、出口は~館内各所に~合計五ヶ所ございまァす。」
勇者「おぉ、ちゃんと出口はあったのか。 一応外に帰す気はあったのだな。」
案奈「アタリは一つで~ございまァす。」
勇者「残りは何だ!!?」
父「さぁ行け勇者よ!ちゃんとアタリの出口を探してくるんだぞ!」
勇者「チッ、偉そうに…。 わかったよ、俺も帰れなきゃ困るんでな。」
父「アタリが出たらもう一本だ!」
血子「アイスじゃあるまいし!」
勇者「…やれやれ。もう相手にするな血子、行くぞ。チョメ太郎もだ。」
血子「あ、うん!」
チョメ「ポピュッパー!」

タタタタタッ…(走)

父「…勇者にな、母親の話をしたんだ。」
義母「ま、マ~ジでぇ~? なにも今日する話じゃなくな~い?あったま悪ぅ~。」
父「うぬぅ~…。」
義母「ねぇパパちゃ~ん、この家族旅行の目的~…」
父「言うな、これでも反省してるんだ。折角の…そして最後の旅行だったのにな…。」

義母「…って、何だっけぇ~?」
父(母親役…間違えたかな…?)

まだ疑問形なのか。

 

245:意表〔8歳:LEVEL5〕
「一家団欒」を掲げた旅行も見事失敗に終わった夏は過ぎ、秋がやってきた。
明日は遠足…恐らくは春に引き続き「蒼茫海賊団」を探すことになるのだろう。
教師「春は残念な結果に終わりましたが、気づけば秋遠足の時期になりましたね。」
勇者「なぁ先公、そういやその海賊団ってのは滅多に目撃されないんだよな?」
教師「ええ。まぁ春遠足の少し前に彗星の如く現れた新参の海賊ですからね。」
盗子「つい最近じゃん! だったら目撃されなくて当然なんじゃないの?」
勇者「うむ。少なくともそんな短期間でなぜ「幻」とまで言われるのかはわからんな。」
教師「あ~。 実はその船、消えたり飛んだりするらしいのですよ。」
勇者「なっ!? バカな!今の技術で船ごと消えるとか飛ぶとか有り得んだろ!?」
姫「クルック~。」
勇者「ハト!? そうか、マジックか!」
盗子(ヤバい!通じ合ってきてる!!)
教師「しかも彼らは、そんな船を持ちながらほとんど港を襲わないのです。」
盗子「ふ~ん、確かに変だね。でも「ほとんど」ってことは少しは襲ってるんでしょ?」
教師「ハイ、食い逃げとか。」
盗子「ショボッ!それが「海賊」のやること!?ただの小悪党じゃん!」
教師「ですが、彼らの技術力は未知数…。脅威となる前に潰すのが得策なのです。」
博打「疑わしくば滅せよ…か。相変わらず恐ろしい思想だぜティーチャー…。」
巫菜子「宝を奪えって話は建て前だったわけだね…。(まぁどのみち悪だけどな。)」
教師「ん~、大体こんな感じですかね。 みなさん、わかりましたか?」
生徒「ハーイ!」

教師「というわけで、明日は「イモ掘り」に行きます。」
生徒「どういうわけで!?」

前フリはフェイクだった。

 

246:懐古〔8歳:LEVEL5〕
秋の遠足は三年ぶりの「イモ掘り」らしい。あの思わせぶりな会話は何だったんだ。
てっきりまた海賊探しだと思って心の準備をしてたってのに…やれやれだよ。
教師「今回は五号生同士の親睦を深めるイモ掘りです。仲良くしてくださいねー。」
勇者「チッ、まぁそういうことなら仕方ない。不本意ではあるが一時休戦といくか。」
暗殺美「不本意なのはこっちの方さ。死ねや。」
巫菜子「ま、まあまあ。とりあえず獣車の中では…ね?(とばっちり食うだろうが!)」
盗子「ところでさ、今日はどこ行くの?オナラ魔人のイモ園は燃えちゃったよね?」
勇者「そうだな、激しく燃えたよな。」
姫「バケツリレーの甲斐も無かったよね。」
盗子「撒いてたのは灯油じゃん!」
教師「燃えたんじゃありません。燃やしたんです。」
盗子「冷静に開き直らないで!! …って、やっぱ先生が着火したんかい!」
教師「別に気にしてませんよ。もう済んだことですから。」
盗子「アンタ加害者じゃん!!」
教師「実はあの時燃やさなければ、土の病気であの土地は永久に死んでいた…。」
盗子「そ、そうだったの!?」
教師「…というのはどうでしょう?」
盗子「いま考えたんかい!!」
勇者「まぁ落ち着け盗子。 それよりもホラ、到着前にマスクを装着しとくべきだ。」
盗子「あっ! そ、そだったね。前回は勇者…死にかけたんだもんね…。」
勇者「そうだな…。「ガスマスク」じゃなくて「デスマスク」だったからな…。」

「だった」で済めばいいのだが。

 

247:遭遇〔8歳:LEVEL5〕
走ること数時間。俺達はオナラ魔人のいるイモ園へと到着した。 既に少し臭い。
よし、ならば俺もマスクを装着し、ニオイに備えるとするか。 もう嗅ぎたくな…え゛?
勇者「フッ…。ひ、久しぶりだなオナラ魔人。去年の秋にボコして以来か。」
オナラ「だ、誰だ貴様!?私に銀行強盗の友人はいないぞ!(プ~)」
勇者「ウルサイ!この「目出し帽」はオヤジの差し金…グハッ!やっぱ臭ェ!!」
盗子「が、頑張って勇者!見た目が滑稽すぎて同情しきれないけども!」
暗殺美「というかよく考えるさ勇者!それ鼻にも穴あるから被る意味無いさ!」
オナラ「ところで、キミらは何しに来たんだね? 私は入園を許した覚えは…」
教師「おやおや、今日はいい感じに乾燥してますね~。」
オナラ「や、やめてくれ!もう燃やさないでくれ!!」
勇者「グフッ…ま、まぁ諦めろ。 コイツに目を付けられた時点で…む?」
ブロロロロロ…。(上空から)
暗殺美「な、何さこの音は!?空の上から…!?」
勇者「空飛ぶ船…ま、まさかコレが「蒼茫海賊団」!?」

~その頃、船内では~
少女「腹減ったニャー!もう耐えられニャいのニャー!死ぬぅうううう!」
少年「ライ殿、お願いだから我慢して欲しいッス!食糧街はもう少し先なんスから!」
ライ「あっ!イモ園!イモ園があるニャ!ここを襲うのニャ「下端(カタン)」!」
下端「駄目ッスよ!船長は犯罪事は嫌いなんスから!」
ライ「うーるーさーいー!海賊団ニャんだし悪事の一つ二つは仕方ニャいのニャ!」
下端「せ、船長~。もう自分には止められないッス~。」

賢二「いや、でもここは臭いから…。」

なんと!賢二は生きていた。

 

248:躊躇〔8歳:LEVEL5〕
突如上空に現れた海賊船。恐らく「蒼茫海賊団」と見て間違いは無いだろう。
幻とか言われてる割にはヤケに堂々と出て来たので驚いたが、これはチャンスだ。
ここで奴らを一網打尽にし、この「学園校の蒼き竜巻」の名を世に轟かせてやる。
盗子「ど、どうするの勇者!?真っ直ぐこっち向かって来てるけど!」
勇者「どうするもこうするも、どうしたりこうしたりだ!」
盗子「サッパリわかんないよ!!」
姫「…深いね。」
盗子「深いの!?」
暗殺美「まぁとりあえず、空から引きずり降ろさなきゃ話にならないのは確かさ。」
勇者「そうだな…。 オイ先公、何かいい案は無いのか?たまには頭貸しやがれ。」
教師「さぁ~?名前でも呼べば降りて来るかもしれませんよ? フフフ。」
勇者「へ…?」

~その頃、甲板では~
下端「船長!なにやらイモ園には誰かいるようッス!どうするッスか?」
ライ「きっとイモ泥棒ニャ!けしからん奴らニャ!」
賢二「どの口がそんなセリフを!?」
太郎「遠足か何かじゃないの?」
賢二「えっ…アレッ!?ななななんでみんながいるの!?」
剣次「どうした賢者殿?お仲間でもいたのか?」
賢二「あ、ハイ。 仲間というか悪魔というか…。」
剣次「悪魔…そうか、この異臭はそのせいか。」
賢二「いや、それは悪魔に失礼かと。」
剣次「で、どうする?殺るなら手伝うぜ?」
賢二「…だ、ダメですよ!僕の友達なんですから!!」

賢二は一瞬ためらった。

 

249:再会〔8歳:LEVEL5〕
色々と考えた結果、やはり海賊船は砲撃して撃ち落すことにした。バズーカあるし。
まぁそれで倒せるとは思えないが、うまくやれば着陸させることはできるだろう。
そして奴らを一網打尽にし、この「学園校の蒼き隼」の名を世に轟かせてやる。
勇者「よし、野郎どもバズーカを用意し…む?なんだあの白い布は…?」
姫「あ~、今日はいい天気だしね。」
盗子「洗濯物!?「白旗」って意味じゃないの!?」
勇者「ば、バカな! 仮にも「海賊」と名乗る奴らが、戦わずして降参などと…!」
盗子「あっ、出て来たよ!誰か出てき…うぇっ!?」
賢二「白旗ですー!降参なので撃たないでー!」
暗殺美「えっ!ああああアンタは…!!」
勇者「お前…生きていたのか!!」
賢二「勇者君!みんなー!会いたかったよー!!」

勇者「カルロス!!」
賢二「だから賢二だってば!!」

感動の再会もブチ壊しだ。

剣次「おぉ、勇者じゃねーか!」
勇者「カルロス!」
賢二「えぇっ!?」

剣次の本名だった。

 

250:談笑〔8歳:LEVEL5〕
賢二達の登場でゴタゴタしたため、結局遠足は中途半端な感じで終了した。
その夜、俺は再会したカルロスを家に招待した。 親父とも話したいだろうからな。
父「いやぁ~、久しぶりだなカルロス。もうアレはどれくらい前の話かなぁ?」
勇者「まだ俺が二歳ぐらいの頃か。 確か一ヶ月程ウチにいて、剣とかも習ったな。」
剣次「あ~、あん時は参ったぜ。 まさか放浪中に宇宙船が墜落するとはねぇ。」
父「それにしても、しばらく会わん間に海賊になってるとは驚いたな。 ハハハ!」
勇者「あ、そういや船は先公が調べたいとか言ってたが…その間どこに住むんだ?」
剣次「その点は問題ねぇよ。みんなまとめて間借りさせてくれるって人がいてさ。」
勇者「ほぉ、また随分と奇特なヤツがいたもんだな。あんな騒がしそうな連中を…」
(「ちょっ、アンタ何してんの!?ここは血子の部屋…って、なんでおコタ持参!?」)
(「ん~。 ちょいと狭いけど、まぁミカン箱よりはマシにゃ。」)
(「うわっ!しかも他にもいる! 三人も集まって何!?何する気なのよ!?」)
(「あ、自分のことはお構いなくッス!」)
(「いや、お構いなくとか言われても!居るだけで迷惑なんだってば!」)
(「じゃあ僕には、お構って。」)
(「あつかましいよ!!」)

聞こえない。俺には何も聞こえない。

勇者は現実から目を背けた。

 

251:再考〔8歳:LEVEL5〕
遠足も終わり、体育祭の季節となった。 まぁ今年は五号生だし、優勝は堅いかな。
勇者「体育祭が終わりゃもう冬…なんか今年は一年が早いな。」
盗子「冬か~…あっ、そうだ!冬といえばちょっと気になることがあったんだよ!」
勇者「安心しろ、俺はお前は気にならない。」
盗子「気にしてよ!四六時中気にしててよ! …って、「極秘書庫」のことだよ!」
賢二「あ~。 前に言ってたね、侵入して先生に怒られたって。」
勇者「極秘書庫? あの「歴史全書」とかいう、親父が書いた小説があった所か?」
盗子「それなんだけどさ、その本ってホントに…小説なのかなぁ?」
勇者「あん?何を言ってるんだ、冗談は顔と体と心と魂だけにしろ。」
盗子「全部じゃん!存在全部じゃん! …って、だってさ、ベビルん時にホラ…。」
賢二「あっ、そっか! その時聞いた話では「式神」で守るほど重要な場所って…!」
盗子「でしょでしょ?そんな場所に、ただの小説置いとくって絶対おかしくない?」
勇者「…なるほど、これは検証の余地があるな。 よし!今から行くぞ!」
盗&賢「うげっ!?」

盗子は余計なことを言った。

~放課後~
勇者「…というわけで、今から侵入する。心の準備はできたか?」
盗子「イヤッ!イヤだよ!絶対にイヤァーー!!」
賢二「僕も先生に殺されかねないようなことはしたくないよー!」
勇者「ありがとう、やっぱお前らは親友だ。」
二人「話を聞いてーー!!」
剣次「安心しなよ賢者殿、式神とやらはこの俺がチャッチャと片付けてやるからさ。」
賢二「だ、ダメですよ剣次さん!アナタ利用されてるんですよ!?気づいて!」
勇者「さぁ入るぞ。先公にバレたら厄介だからな。」
二人「「厄介」で済めばいいなぁ…。」

今度こそ死刑かもしれない。

 

252:歴史〔8歳:LEVEL5〕
カルロスの助けを受け、俺達は再び極秘書庫に侵入することができた。
もしあの本が真の歴史書なのだとしたら、「魔王」と「勇者」は実在したことになる。
となれば、解明しないわけにはいかない。 たとえ(盗子の)命を危険に晒そうとも。
剣次「じゃ、俺はもう帰るぜ。何する気かわかんねぇけど頑張れよな。」
勇者「ああ、手間かけたなカルロス。」
盗子「こ、こうなったら腹を決めるしかないね!」
賢二「もしバレたら首をキメられるけどね…。」
勇者「見つけたぞ「歴史全書」。 さぁ読め賢二、さっさと読んでさっさと逃げるぞ。」
賢二「うん…オッケー! えっと~…新星暦523年、突如現れた「魔王」により…」
勇者「その概要部分は前回読んだ。だからもう本編に入ってくれ。」
賢二「あ、そうなんだ。 じゃあねぇ…。」

ある日、とある小さな島で一匹の「霊獣」が生まれた。
その名は「マオ」。恐るべき魔力を秘めた霊獣だった。

マオには実体が無かった。
そして、実体が無ければ力も発揮できなかった。
そこでマオは、契約者たる人間に力を貸すことで肉体を得ることにした。

マオが目を付けた者の名は、「終(おわり)」。
終はちっちゃな頃から悪ガキで、15で不良と呼ばれていた。

新星歴523年のことだった。

勇者「20年前…結構最近のはずなのに、俺達が知らないのは何故だ…?」
盗子「ん~。 真面目な話のはずなのに、妙にフザけてる気がするのは何故…?」

マオの憑いた終が世界を征服するのには、一年とかからなかった。
人々は恐怖にプルプル震え、チワワのモノマネが流行した。

だが新星歴526年、世界を救う五人の戦士が現れた。
「勇者:凱空(ガイク)」と「四勇将(しゆうしょう)」だった。

賢二「あっ、出て来たね「勇者」さん。」
勇者「うむ。 一体どんな活躍をしたのかが気になるところだぜ、同じ「勇者」として。」

凱空は四勇将と共に、魔王城へと乗り込んだ。
「武闘王:拳造(けんぞう)」は、荒々しい拳技で魔王軍を蹴散らした。
そして「剣豪:秋臼(アキウス)」は、華麗な剣技で終を追い込んだ。

その間凱空は、必死に四葉のクローバーを探していた。

マオ封じを試みたのは、「退魔導士:妃后(ひこ)」。
妃后は自らの体内にマオを封印しようと術を練った。

凱空「お前は純血の退魔導士だから、多分耐えられる!つーか耐えて!」
妃后「あ、うん!任せてよ凱空君!」


妃后「…ギブ。」

妃后、途中でアッサリ断念。
だがマオを半分奪われた終は、魔力もまた半分に。

そこで「賢者:無印(むいん)」、氷の柱に終を封印。


めでたしめでたし。

盗子「な、なんだか最後の方はすんごい投げやりなんだけど…。」
賢二「それになんだか、肝心の勇者さんだけちっとも活躍してないんだけど…。」
勇者「いや、待て!まだ続きがある! きっとこっからに違いない!」

…と、そう単純な話でもなかった。
なぜなら、妃后が死ねばマオは甦るはずだからだ。

そのため、凱空達はまだ休むことはできなかった。
失われた太古の退魔術書、「天地封印術典」の解読が急務となった。
そこで凱空と四勇将は、必死にその作業に取り組んだ。


サッパリわからなかった。

仕方なく凱空達は、とりあえず無人島へと移住した。
終を封じた氷柱も、人知れずその場に移した。
そしてその事実を誰にも知られぬよう、その島を外界から隔離した。


この計画を「隔離計画」、島の名を「カクリ島」と呼んだ。

盗子「か、カクリ島!?ここじゃん!この島じゃん!!」
勇者「むー。この島だって話になるとやっぱ現実味に欠けるな…。 どう思う盗子?」
盗子「わっかんないけど、やっぱこんな部屋に隠してあるくらいだしさ~。」
勇者「賢二、お前は?」
賢二「でもその割に、今日の警備は手薄だったよね?」
勇者「お前は?」
教師「死にますか?」
三人「うわぁーーーー!!」

三人はしばらく投獄された。

 

253:計画〔8歳:LEVEL5〕
俺達が地下牢(学校なのに!)から釈放された頃には、もう体育祭は終わっていた。
半月にも及ぶ獄中生活と説教はさすがに辛かったが、そのぶん得たものはあった。
そこまでするということは、やはりあの本は本物なのだ。 この島には…何かある!
勇者「…というわけで、今日から色々と調べようと思う。 協力頼めるか?」
盗子「イヤッ!イヤだよ!もう牢獄なんて絶対にイヤァーー!!」
賢二「次こそホントに命が危険っぽいから、僕も手伝えないよ…ゴメン。」
勇者「ありがとう、そう言ってくれると思ってた。」
二人「だから話を聞いてーー!!」

~物陰~
教師「ホラ、あんなこと言ってる。困ったことをしてくれましたねぇお馬鹿さん。」
剣次「す、すまねぇ!まさかそんな事情があるとは思わなかったんだよ!」
教師「シッ、声が大きい。 ウッカリが過ぎると牢獄行きですよ?」
父「そう責めるな…確かにカルロスはちょっと馬鹿だが、根は良い馬鹿だ。」
剣次「いや、どうせなら「馬鹿」の部分から否定してくれよ…。」
教師「もし邪魔でもされたら終わりなんですからね。今後は頼みますよ?」
剣次「わかってる。もうウッカリはしねぇよ。」
父「安心しろ、その点は私もなんとかフォローする。」
教師「まぁアナタがそう言うのなら…。じゃあお任せしますよ? …凱空さん。」

父「うむ。」

剣次「なっ!? アンタが凱空なグベヴォバブボッ!!

勇者は親の名も知らないのか。

 

254:執着〔8歳:LEVEL5〕
冬になった。本来ならば「地獄の雪山登山」の時期だ。 だが今年は行く気は無い。
なぜなら、俺には「隔離計画」について調べるという重要な作業があるからだ。
勇者「どうだ盗子、あれから何かわかったことはあるか?」
盗子「それがさ、バレたらマズいから聞き込みとかもできなくてさ~。」
勇者「賢二、お前は?」
賢二「とりあえず街の図書館では何の収穫も無かったよ。」
勇者「お前は?」
教師「ホント死にますか?」
三人「うわぁーーーー!!」

三人は再び投獄された。

 

255:一年〔8歳:LEVEL5〕
流れるように時は過ぎ、もう一年が終わろうとしている。今年は異様に早かった。
特に秋後半と冬の記憶が一切闇に包まれている…というか、実際闇の中に居た。
だが、俺は懲りない。たとえまた(盗子が)捕まろうとも、絶対に秘密を暴いてやる。
たとえ(賢二が)死にかけようとも、絶対に真実を解き明かしてやるのだ。

もうじき春が来る。そして、ついに俺は六号生になる。

今年の卒業生はゼロだった。

 

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