小さな詩集 強いさざなみ

「おじいちゃん」

「おじいちゃん」


おじいちゃんと言う人はどこでも、丸坊主だ

(男の子もいがぐり頭、女の子はおかっぱ)

うちのおじいちゃんは朝、脚にゲートルを巻く

立て膝をして、脛に長い強い布をほうたいみたく

そろえて巻く、順次に巻き上げていく

時々折り曲げる

細くて強い体と顔、鋭い視線、笑わない

でもあたしちっとも怖くなんか無いよ

大大大好き

大八車に乗せてもらう、鍬や鎌と一緒に

デコボコ道をごとごと進む


ガラスやさんの前を通るとき

ついみとれてしまう、おじいちゃんもついでに休憩して

一息でまあるい瓶ができるのを黙って眺める

暗い工場の中で魔法がつかわれてる


それから、道ばたに切り株をみつけて

「おじいちゃん、木にはなんであんなに丸い輪があるの」

と、そういう意味の鹿児島弁で質問する

おじいちゃんは前を向いたまま、

年輪は一年ごとに増えていくんだ、と真面目に説明


あたしの頭に電灯印がついた

「じゃ年輪を数えたら、木の年がわかるんだね!」

おじいちゃんは振り返って、少し笑って、ホッと声を出した


あたしは大得意、何て素晴らしいことがわかったんだろって

ちょうど思いついた歌を大声で歌いだす

そのあとしばらく

「あの子に一本やられた」っておじいちゃんも大得意

たくさん負けて、喜んでくれた、頑固じじいと評判が



それから時が無事に過ぎて

小学3年生だったっけ

遠足に武岡(たけおか)の頂上のサツマイモ畑にわいわい行った


あれ、ここはおじいちゃんの畑だ

悪い予感が

みんな駆け回るな、と思った

わあ、怒声が


先生におじいちゃんが怒ってる

怖い顔でガンガン文句、先生はまだ一言も言えない

みんなでこわごわ取り巻いていたら


ふと

おじいちゃんはあたしを見た

眼がまん丸くなった

何も言わなくなった


子ども達は謝ってすごすご帰ったが

おじいちゃんにとっても「一本取られた」だったのだ

あれには参った、と笑ってみんなに語って

あたしはおじいちゃんが大大大好き


 

二人のおばあちゃん

 おばあちゃん 一人目


幼稚園生のあたしと

お父ちゃんとこのおばあちゃんと二人で写ってる写真が

あるんだけど

誰もが言うの、まあそっくり、って

そりゃないよ、ショックだったら

そりゃ色白だよ、あまりしわもなくてふっくら

でもお鼻がさあ、こんなに低いの

あたしもそうなのね、がっかりさあ


がっかりしたけど

すぐに受け入れた,諦めた

東(当時の町名)のおばあちゃんて、なんだか心が落ち着く

怒らないし、静かで、可愛がらないわけじゃなく、頭良さそう

それに面白い

沢庵の漬け物を手でさいて食べるとか

熱い湯気のたつお茶を、目の下にあてがって

何かを治療してた

ブドウを食べる時,あたしが皮だけ食べるので

まあここが一番おいしいのに,と身を食べてくれた

入れ歯をカタカタ言わせて


男の子をたくさんと女の子を二人生んだおばあちゃん

上の女の子は賢かったけど、少女のとき病死したって

末っ子の女の子は甘えんぼで

あたしの遊び相手にちょうどよかった(11歳年上)

オジサンの1人は2階から落ちて知能が遅れていた

そのオジサンに餅つきさせたら

杵をおばあちゃんの親指に打ち付けた

それで片手の親指の爪がないおばあちゃん

そこはつるつる丸い

あたしはいつもそこをくるりと撫でた、くるり

可哀想にさあ



 おばあちゃん 二人目


ごめんね、おばあちゃんのこと2番目に好きで

でも、安心して甘えていられたんだよ

縁側に腰掛けたおばあちゃんの膝に

あたし、よく股がってたでしょ

顔と顔を見合わせて

おばあちゃんの手の皮をつまんだり

するとむぎゅっと盛り上がって、そのままの形で止まっちゃうから

面白くて不思議でさぁ

野良着の胸をはだけさせて

おっぱいを吸ってみたり

顔中のしわを

検分したり点検したり、どうしてしわだらけなのかって

尋ねたりしたかも、ごめんね

天然パーマの髪の毛も

入れ歯の形も(醜いなんか思わなかった)

ぜーんぶ可愛いかった、だってそれがおばちゃんなんだから


十六歳でお嫁に来て、働いてお産して

その一生畑で働いて八回お産して

二人亡くして

手作りの味噌醤油漬物お茶干し柿、玄人はだしだと

特技は人に上手にものを頼むことだって聞いた

どうしてだったのかな(地所持ちの娘だったせいか)

字を書くのは苦手だったのに

あたしに長い手紙を書いてくれて有り難う


土間のかまどや水がめ、金魚とホテイアオイの池

庭の草木や放し飼いの鶏、裏の豚小屋、離れたご不浄

風のなる竹林、満点の星、渡り鳥、小笹の生け垣

古く薄暗い

おばあちゃんの笑い顔がすべてを照らしていたね


はるなつあきふゆかわらずに

はるなつあきふゆかわらずに

はるです。はらっぱで
こねこのリボンちゃん、小さなお花をね、
うまれてはじめて見たんだって。
『きいろいのがタンポポで
タンポポはきいろいのよ』
『ふぅうん、これはなに?』
『白いひなぎくよ、リボンちゃん』
ねこママはそういって
リボンちゃんのおでこをベロンってなめた。

『なにかうごいてるよ!』
リボンちゃんはおいかける。
どうしてもおいかけたい!
くろくてあかいテントウムシ。
まてまて、ピョン、
もいちどピョン、ねこの手パンチ、
ああ、しっぱい。
『ミャア、つかれたなー』
ママにだっこ。
ねこママはペロンとおでこをまたなめて
『ママのだいじなかわいいリボンちゃん』
って、やさしいこえでいった。


なつだよ。こいぬのポチだよ。

「ン? なにかくる!」っておうちのかどからくびをだした。
白くって、やわらかなあしがよっつ。しっぽはゆらゆら、みみはさんかく。
ワン、ってポチのごあいさつ。
ニャ? とリボンちゃんびっくりしたよ。おもわずポチのあごにね、ねこひっかきをくらわせた。
「キャーン」
リポンちゃんこれにもおどろいた。
シュッとにげこんだよ、くさの中。

「かあさん、あのね、あのね、いまね」ってポチはいぬかあさんにはなしたの。
「それはきっとねこのこよ。しらんかおしてたらなにもしやしないの、どれ見せて」
いぬかあさん、ペロペロきずをなめながら
「わたしのかわいいかわいいなきむしちゃん」って、
しずかにいった。


あきだよ。ある日のあさにね、
あさ一ばんはやおきのトラックパパがエンジンを、いつものようにブルーンブルーンってかけている。
「おべんともって、サイフとケータイ、オーケーイっと! あ、ひとつわすれたぞ」
トラックパパはいそいでこどもべやにもどったよ。
「ブーくんとプーくん、ふたりのねがおを見なくっちゃ!」
トラックパパはこどもたちのほっぺをちょいちょいつっついた。
「どんなゆめをみてるのかナ。いちにちよくあそべよ、ふたりとも。パパはとってもあいしているよ」
って、パパはそっとささやいた。


ふゆがきたよ。
さむいおそらのゆきぐもの中で、くものかあさんはたいへん。
だって子どもたちが、ひとりずつ、ゆきん子になって、しゅっぱつするんだもの。
フワフワ、サラサラ、チラチラって山の上へ、木のえだへ、おうちのまどへ、じてんしゃの上へ、いっこいっこ、やわらかく、つもっていくためにね。
なかにはコロコロってあられになって、どうろをはしったりする。
にんげんの子どもたちのちいさな手であつめられて、ゆきうさぎになったり、ゆきのボールになったりする。

でもね、やがてはとけて川にながれこむよ。
うみまでいくと、
きょうだいみんなにであうの。
それからお日さまの手でそらの上まではこばれるから。
そしたら大きな、かあさんのくもがまっていて、
だっこされるから。
「だから、しんぱいしないで。またあえるからね。かわいい子、この子もあの子もたいせつな、かわいいたからもの」
って、くものかあさんはみんなをそっとだきしめたの。
ゆきん子たちはげんきよく、スパァッととびだした。
「いっておいで! かあさんはいつでもここにいるからね、まっているからねぇ! あいしてる、あいしているよ! バァイバァイ!」
「またねぇ、かあさぁん」

ゆきん子たちがおりてゆき、たびをつづけるそのころには、
もうねこママのおなかのなかに、はるの子どもたちがねむっている。
「子どもたち、くろでも白でもみけでもね、ママはとってもあいしているわ」
って、ねこママはいったの。これでおわり


「ぼく、一さいはんだって」

「ぼく、一さいはんだって」


ぼくね、ゆーりくんてよばれてる。

ほいくえんのせんせが、まいあさ

たなかゆーりく〜ん、てよぶでしょ、


ぼくもみんなのまねして

てをあげるのさ。

「はあい」

くちパクだけどね。


 ぼく、おとうさん大すき

おかあさんも大すき。

いつもぼくのこと

だっこしたり、にっこりしてくれる、

ときどきほっぺたをすりすり。


ねむたくたると、よしよしねんねって

ゆすってくれる。


くすぐってぼくをわらわせてくれるし。

ぼくそれ大すきなんだよ。


 ぼくね、いろいろしてみたいんだ。

ぼくのもの、おもちゃってものだけど、

どうしてだか

ひとつのはこにはいってる。


どうしてだかはどうでもいいけど、

それおもしろいものばっかなんだよね。


 きょうはまずレールが

あたまにうかんだよ。


 でもさあ、ときどきこまるの。

ぼく、まだそれをつたえられないので、

おとうさんのゆびをひっぱってつれていく。


レールであそびたい、てぼくはいう。

おとうさんは、

「レールであそびたいのかい、わかったからそんなにさけばないでまって、まって」


 あのね、ぼくなんでもわかってるんだよ。

おとながいうこと、それがなんのことかは。


 でもどうしてか、ぼくのいうこと

わかってもらえないことおおいのね。


 レールのうえに

れっしゃをどんなふうにならべたいか

スイッチじゃなく、じぶんでびゅーんてはしらせたい


ぼく、おもっていることちゃんといってるつもりなんだけど、

おとうさんもおかあさんもすぐにはわからな

いらしい。


どうしてだろう。

まあたいていはわかってくれたり、ぼくがもうわすれちゃったりすることもあるし。


 このまえなんか、ぼくえほんをあけて

そこにいるこがテレビでうたったり、ダンスするまねまでしたのに、

四かいもしたのに、


ばあちゃんてひとがさ

「え、だれだって? いすさんがルラルラしておててをぶらぶらするの?」

あほなことばかりいうんだよ。


でもだんだん、うまくいってるかな。

ぼくがさ、「ほら、バス!」てゆびさすと、おとうさんが、

「お、バスだね、あかいバスがぶーって」


ぼくがバナナたべたいていうと、おかあさんが

「ゆーくん、アバだって、バナナほしいの」

じゃなくて、ぼくちゃんといってるでしょ、そのきいろくておいしくてかわをむくもののこと。


 パトカーのついたシャツかってもらった。

もう大すき。

ばあちゃんとそとにいったら、

パトカーがほんとにはしってきたんだよ。


ぼくのなかからちいさなおとがでた。

「パ!」

ばあちゃんもさけんだ、ひっかかりながら

「パパパパパトカー!」


東天
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