小さな詩集 強いさざなみ

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はるなつあきふゆかわらずに

はるなつあきふゆかわらずに

はるです。はらっぱで
こねこのリボンちゃん、小さなお花をね、
うまれてはじめて見たんだって。
『きいろいのがタンポポで
タンポポはきいろいのよ』
『ふぅうん、これはなに?』
『白いひなぎくよ、リボンちゃん』
ねこママはそういって
リボンちゃんのおでこをベロンってなめた。

『なにかうごいてるよ!』
リボンちゃんはおいかける。
どうしてもおいかけたい!
くろくてあかいテントウムシ。
まてまて、ピョン、
もいちどピョン、ねこの手パンチ、
ああ、しっぱい。
『ミャア、つかれたなー』
ママにだっこ。
ねこママはペロンとおでこをまたなめて
『ママのだいじなかわいいリボンちゃん』
って、やさしいこえでいった。


なつだよ。こいぬのポチだよ。

「ン? なにかくる!」っておうちのかどからくびをだした。
白くって、やわらかなあしがよっつ。しっぽはゆらゆら、みみはさんかく。
ワン、ってポチのごあいさつ。
ニャ? とリボンちゃんびっくりしたよ。おもわずポチのあごにね、ねこひっかきをくらわせた。
「キャーン」
リポンちゃんこれにもおどろいた。
シュッとにげこんだよ、くさの中。

「かあさん、あのね、あのね、いまね」ってポチはいぬかあさんにはなしたの。
「それはきっとねこのこよ。しらんかおしてたらなにもしやしないの、どれ見せて」
いぬかあさん、ペロペロきずをなめながら
「わたしのかわいいかわいいなきむしちゃん」って、
しずかにいった。


あきだよ。ある日のあさにね、
あさ一ばんはやおきのトラックパパがエンジンを、いつものようにブルーンブルーンってかけている。
「おべんともって、サイフとケータイ、オーケーイっと! あ、ひとつわすれたぞ」
トラックパパはいそいでこどもべやにもどったよ。
「ブーくんとプーくん、ふたりのねがおを見なくっちゃ!」
トラックパパはこどもたちのほっぺをちょいちょいつっついた。
「どんなゆめをみてるのかナ。いちにちよくあそべよ、ふたりとも。パパはとってもあいしているよ」
って、パパはそっとささやいた。


ふゆがきたよ。
さむいおそらのゆきぐもの中で、くものかあさんはたいへん。
だって子どもたちが、ひとりずつ、ゆきん子になって、しゅっぱつするんだもの。
フワフワ、サラサラ、チラチラって山の上へ、木のえだへ、おうちのまどへ、じてんしゃの上へ、いっこいっこ、やわらかく、つもっていくためにね。
なかにはコロコロってあられになって、どうろをはしったりする。
にんげんの子どもたちのちいさな手であつめられて、ゆきうさぎになったり、ゆきのボールになったりする。

でもね、やがてはとけて川にながれこむよ。
うみまでいくと、
きょうだいみんなにであうの。
それからお日さまの手でそらの上まではこばれるから。
そしたら大きな、かあさんのくもがまっていて、
だっこされるから。
「だから、しんぱいしないで。またあえるからね。かわいい子、この子もあの子もたいせつな、かわいいたからもの」
って、くものかあさんはみんなをそっとだきしめたの。
ゆきん子たちはげんきよく、スパァッととびだした。
「いっておいで! かあさんはいつでもここにいるからね、まっているからねぇ! あいしてる、あいしているよ! バァイバァイ!」
「またねぇ、かあさぁん」

ゆきん子たちがおりてゆき、たびをつづけるそのころには、
もうねこママのおなかのなかに、はるの子どもたちがねむっている。
「子どもたち、くろでも白でもみけでもね、ママはとってもあいしているわ」
って、ねこママはいったの。これでおわり


「ぼく、一さいはんだって」

「ぼく、一さいはんだって」


ぼくね、ゆーりくんてよばれてる。

ほいくえんのせんせが、まいあさ

たなかゆーりく〜ん、てよぶでしょ、


ぼくもみんなのまねして

てをあげるのさ。

「はあい」

くちパクだけどね。


 ぼく、おとうさん大すき

おかあさんも大すき。

いつもぼくのこと

だっこしたり、にっこりしてくれる、

ときどきほっぺたをすりすり。


ねむたくたると、よしよしねんねって

ゆすってくれる。


くすぐってぼくをわらわせてくれるし。

ぼくそれ大すきなんだよ。


 ぼくね、いろいろしてみたいんだ。

ぼくのもの、おもちゃってものだけど、

どうしてだか

ひとつのはこにはいってる。


どうしてだかはどうでもいいけど、

それおもしろいものばっかなんだよね。


 きょうはまずレールが

あたまにうかんだよ。


 でもさあ、ときどきこまるの。

ぼく、まだそれをつたえられないので、

おとうさんのゆびをひっぱってつれていく。


レールであそびたい、てぼくはいう。

おとうさんは、

「レールであそびたいのかい、わかったからそんなにさけばないでまって、まって」


 あのね、ぼくなんでもわかってるんだよ。

おとながいうこと、それがなんのことかは。


 でもどうしてか、ぼくのいうこと

わかってもらえないことおおいのね。


 レールのうえに

れっしゃをどんなふうにならべたいか

スイッチじゃなく、じぶんでびゅーんてはしらせたい


ぼく、おもっていることちゃんといってるつもりなんだけど、

おとうさんもおかあさんもすぐにはわからな

いらしい。


どうしてだろう。

まあたいていはわかってくれたり、ぼくがもうわすれちゃったりすることもあるし。


 このまえなんか、ぼくえほんをあけて

そこにいるこがテレビでうたったり、ダンスするまねまでしたのに、

四かいもしたのに、


ばあちゃんてひとがさ

「え、だれだって? いすさんがルラルラしておててをぶらぶらするの?」

あほなことばかりいうんだよ。


でもだんだん、うまくいってるかな。

ぼくがさ、「ほら、バス!」てゆびさすと、おとうさんが、

「お、バスだね、あかいバスがぶーって」


ぼくがバナナたべたいていうと、おかあさんが

「ゆーくん、アバだって、バナナほしいの」

じゃなくて、ぼくちゃんといってるでしょ、そのきいろくておいしくてかわをむくもののこと。


 パトカーのついたシャツかってもらった。

もう大すき。

ばあちゃんとそとにいったら、

パトカーがほんとにはしってきたんだよ。


ぼくのなかからちいさなおとがでた。

「パ!」

ばあちゃんもさけんだ、ひっかかりながら

「パパパパパトカー!」


「健気なさわがに」

「健気なさわがに」 


窓から山並を見ていたら、蟹の姿が

その朱色が、突然起ち上がったよ。

大阿蘇の山を無意識に思い出していたらしい。

四十年を瞬時に駆け抜けて。


ぼくらは大観峰へと続く尾根にいた。

若人五人と老教授。風も眺めも、

もうたまらんって感じでフウッ!

木イチゴを露の中からむしりとって

むさぼり喰った、そんな僥倖もあった。

あの頃の日本の未来は良かった。

未来学なんてものもあった。

なにせ、ぼくらはどんどこ歩いた。


既に数時間、午後中阿蘇をさまよった。

そこらで育ったひとりの男が

情け容赦なく前進する。

何もない,歩くしかない、空と草だけ。

遥か遥か下方に

カルデラの畑が色とりどりに見える。

何てこった、あそこまで下って行くのだ。

今から!

一直線に下山するぞ! 彼が怒鳴った。

実はみなただの怠け者ぞろいで

ほとんど絶望感に襲われた。

ドドドと山肌をほとんど転がっていく。

森に迎え入れられる。

鳥の声はあるがもう雑音。

手はすぐに泥と汗と血で汚れた。

道じゃないんだ、獣道ですらない。

いつまで、あと何時間?

大岩をへめぐり、

清水がチョロリしているのをペシャと踏む。

半泣きだ。次の岩肌を滑り降りる。

コワイナ、口々に叫ぶ、先生? 

とりあえず必死の形相だ。


とりわけ大きな岩から辛くも降り立った時

そこに、蟹がいた。朱色があった。

緑と岩の自然の中に

不似合いな、目を射るその赤。

愛らしい形をして! 三センチくらい!

こんな狭い沢で、君は一人で何してるんだい

ぼくらは大変なんだけどね。

深紅の小さな沢蟹は

あわてた風もなく少し横に移動して

巨人たちの地響きを静かに感じていた。

命燃え立つ、炎のごとき生命体は

弱虫たちの脳に赤い点を灯した。

緑色の影なす天井、シダと苔と岩と清水。

ぼくらは一粒の驚きを得た。

とても愛しかった。息を吐き出して笑った。


たそがれて、やっと汽車の席に座った。

ぼくらが後にしてきた

小暗い山の重量があった。

サルビア色のひとひらの、可憐な形

山の飾りよ、よくお生き!


「竹の秋」

散文詩  竹の秋


世を空を被ひし桜白々と

  舞ひ散りてのち万緑に色染め変へて

小さき実を小鳥のために結びたる

  その時に竹の秋とぞ


惜しげなき枯れ笹の笹舟の

  尖がりて流るる風に乗り

  いづこへの旅ぞ

突き刺さるかにハタと墜つ

  ほとんど色は黄金に

  先端ありて落ちながら

  ついと漂う

風と重力の作用のまにまに明確に

  指向する先端

  描かるる鋭き斜線は無数にして

垂直の竹林よぎるその眺め

造化の技のいたずらめきて

  息をぞ呑まさる

その組織花びらよりも密なれば

  成す一直線

  斜めの角度は時々に様々にあれ


魂のげに美しき宝子ら

  憶うこの夕に

けふの最期の光の使者は

  竹たちの片側のみを輝かすなり


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東天
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