俺の退職 Season 1(退職前と直後)

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第一話 激震!退職目前( 3 / 9 )

送別会でみんなが是非聞き出したい俺の話題は、これからどうするの?

会社を辞めると決まればかつては職場で、きっと今どきは会社の気の置けない同僚達から『送別会開くけど』のメールが届くことがある。


ここに一発目の難関があるとも知らず、滅多にない自分が主役の宴会なのだから断ることもない、俺はふつうにそう思った。

ここでどんな話題が繰り広げられるか、またその展開によっては楽しい宴会か、はたまた苦い酒になるか、会社の思い出のさえここで決まると言ってもいい。そこではきっとこのような展開にあなるだろう。


「まったく残念だね、おまえとこれから仕事ができなくなるなんて」と、最初はお決まりのフレーズで始まった。やや酒の回ったあたりで同僚達が知りたくてしかたのない本筋質問がこれ。
「これからどうするの?」


送別会の時点では『そんなこと言えやしない』というのが俺の本音。

仮に転職が決まっての退職でも転職先をベラベラ喋るのもマズいし、当時の俺はその時まるでアテなど無かった。起業は魅力あるけど自信無いから迂闊にそんなこと言えないし、とにかく言えない。定番の答えは「少しゆっくりこの先を考えてみるよ」だろうけど、これではゼロ回答と同じ。もっとマシな回答は無いものか。


「ハローワークに行くことになっている」は現実的だし実際そうなのだけど、なんかハローワークという言葉を発するのが辛い気分を誘う。

推奨できるのは「ま、とりあえず夫婦で旅行に行ってみようと思う。そこでこれからのことを二人で話し合うつもり」これがマシだと思う。ウソにならないように実際に夫婦で旅行する気になるし、これを聞いた同僚達は『一応気持ちに余裕はあるんだ』と察すると思う。


次はいよいよ本命質問が飛んで来るだろう。

「生活は大丈夫なんだろうな」
この質問はクセがある。一応相手の暮らしを思いやっての質問に見えるんだけど、実は『この人どのぐらい財産貯めてんだろう』が聞きたいのだろう。だからその手に乗らない。「ウチの貯蓄は・・・」とか絶対に答えない。はぐらかして「ま、生活は妻が取り仕切っているからね」ぐらいで済ませる方がいい。


でも本当は貯蓄はまあまあだった。だから実は言いたいんだ『それはね!もう大丈夫になているんだよ』などと酒で口が滑りやすくなっている。自分がいかにお金に賢いか自慢したくなるんだけど、こんな場で私的なことは言ってはいけない。


さらに宴が進むと愛社精神関連に話が飛ぶ。
「会社ストレスから解放なんて羨ましい」
この手の質問は退職に至った本音を聞き出そうとしている。

酔った席では今までの恨み辛みを吐露してしまいがち。ただ多少は本音を言っても『やっぱりそうだったのか』と思われるだけでサヨナラする自身にとっては問題ない。


しかしやり過ぎは絶対に避けるべきだ。会席には愛社精神に溢れる社員がいる可能性は高い。彼らを怒らせる行き過ぎた会社への恨みは反感を買う。

殴られやしないけどさんざん飲まされることになるかもしれないし、自己都合退職や退職募集に積極応募という場合は、裏切り者、脱走兵呼ばわりされる結果になる。


原則、去って行く会社の同僚とは円満な関係で退職するのがいい。送別会後には憎まれず、後追いされず会社と縁切りすることが大切なんだ。付け加えれば、原則に則らない「消え去る」という辞め方もある。俺の初回退職はこれだった。

第一話 激震!退職目前( 4 / 9 )

アイツは退職するらしい!は、みんなが注目して俺は人気者か!?

さらに退職前の宴会は続く。
どこで知ったのか?もう10年も会っていない以前勤めていた会社の同僚から飲み会の誘いメールが舞い込んでくる。俺の二回目の退職時にそれがあった。

退職日を前になんか焦る気分が募るし、家に帰っても妻はため息ばっかりついている。退職前は肩書が無くなり給料もなくなるから家族の誰もが気が重い。家に帰ると湿っぽい雰囲気だからこんな誘いは正直ありがたい。

指定された駅の改札でかつての同僚達と待ち合わせする。
にこやかに「よー!久しぶり」と元気に威勢いい声からその日の宴会はもう始まった。
「びっくりしちゃったよ、急に会社辞めるなんて聞いたからさ」というけど、彼らは直前まで勤めていた会社の同僚ではない。もうひとつ前の会社の昔の同僚達。

びっくりするのはこっちの方、なぜ自分の進退情報を知り得たのだろう?
「俺の退職、どこから聞いたの」
聞いて分かった、労働組合っていうのがキーになっている。彼らは上でつながっているから俺みたいな無名なやつも情報が流れるのだ。しかも当時の俺は51歳で退職したもんだから、もしかしたら『アイツ何を考えているのか、行って会って調べて来い』みたいな指令が労組上層部より発せられたのかね?まさか、とは思うけど。

指令はどうだか知らないけど何で俺が51歳で辞めるのか。その先どこに再就職しようとしているのかは彼らの興味の本命だった。宴会はその話ばかり。
俺はこの先のことを決めているわけじゃないし、再就職のうまい勤め先が見つかったらいいなと思っていたけど、もう無理してお金のためにしんどい仕事をすることだけはやめようと考えていたから正直にそれ話した。

彼らは苦笑して俺の話しを聞いていた。たぶん説明用に用意した架空の方便を語っているんだろうと俺の話しを信用しなかったんだろう。終始ニヤニヤ苦笑しながらの宴会は割と早く終わってしまい、二次会行こうかとも言われたけど「明日は引っ越しだから」と今度はウソをついてその場を後にした。

かつての同僚達が何を期待していたかは終始分からなかったが、俺の身の上にうまい話があるんじゃやいかと探っているのは明らかだった。
たとえば、かつての会社とはライバル会社に再就職した?
株か宝くじで大儲けした?
無いとは思うけど、ヘッドハンティングされた?
将来とも収入が安定した外郭団体の職員になった?とか『なんかいいことあったから辞めるんだろ?それ教えろよ』と彼らの顔が言っている。

かつての同僚とは年賀状とかで縁が繋がっていて、だから旧友と言えばそうかもなんだけど、もはや話がシャキッと合うことは無いんだなぁと、このときはっきりそう思った。

会社を去ることになったからこの先は孤独が待っているか、新しい友人・知人が運よくできるのかと不安になり焦りもした。だから繋がっている縁を切ることは不安をそそられる。

しかしそれから12年経った今だから書けるけど、引退して孤独にはならなかった。退職後の縁者はほぼ100%退職後に知り合った完璧に新しい人間関係となった。以前の会社から縁の繋がっている友人はたった一人だけだ。

やはり案の定、会社の人間関係は勤めが終わると遅かれ早かれほぼ関係が自然に切れてしまう。だけどそれをあまり深刻に考えることはない。自分から「俺に声かけるなよ」オーラを出すようなことをしなければ、自然にまた新しいところで新しい人間関係ネットワークを作ることができることがその後分かってきた。

第一話 激震!退職目前( 5 / 9 )

ハローワークが通いなれた場所になるよう、辞める前から何度も行っといた方が役立つ

今まで勤めてきた会社との退職手続きをすべて終え、送別会も昨日のことになったらいよいよ退職初日を迎える。この朝は緊張で目覚めがいい。そしてたぶんハローワークに足を運ぶことになるだろう。

ハローワークは退職・失業経験者にはお馴染みのところ。俺もここにニ回も本格的にお世話になった。
初回は失業者になってから通い始めたけど、二回目はリストラの匂いが会社内で出回ったとき、それは退職の3か月前からだったけど、早い時期からときどきハローワークに出入りするようになっていた。

こんな早期からハローワークに出入りする理由はいくつかあった。
まず、場に慣れておくこと。
どこに所轄ハローワークがあり、そこへどうやって通えば一番安上がりか。それに事務所内には何があるのか。混んでいるとどんな具合になってしまうのか。そんなことから軽く調査し始めていた。

通い始めると窓口で担当の人と話をしたくなってくる。
ふつうハローワークで何等かのサービスを受けるにはカードが必要なのだけど、窓口に尋ねたら雇用保険適用者であることが確認できれば退職前でもカードは発行してもらえると言われ早速入手した。

ここでのサービスのうち、退職前から受けられるのは求人情報の閲覧だ。たくさん並んだパソコン端末で探すと、求人がどの程度魅力的なのか魅力的でないのかが一目瞭然で見えてくる。パソコンの画面を見てみたら求人のレベルが分かる。これが第二の早期見学目的だ。

第三に、ハローワーク経由で受けられる再就職トレーニングの種類や内容を調べることができる。これはけっこう魅力的なタイトルを発見でき、退職に前向きになれる。

実際に俺が退職する際に、壁に貼られたステキな無料再就職トレーニングが残っているかどうかは保証されないけど、これらを眺めているだけで退職や失業という灰色ワールドから一筋の光明が差し込んでくる感じを受ける。だからハローワークへは退職を待たずに通った方がいい。

しかし、ハローワークへ事前に通うに抵抗感は湧き上がるだろう。
なにしろまだ会社員の身だ。それなりにステイタスがある。それが近い将来は失業者か!そんなこと考えたくもない、と俺もちょいとそう思ったりもした。が、そのような会社員ステイタスを退職翌日から一気に捨てるより、事前から長い下り坂を降りて行くように少しづつトーンダウンを図った方がいいと思っていた。つまりバリバリのビジネスマンからただの人間一匹にソフトランディングした方がマシだと俺は考えてハローワーク通いを励んだ。

それは確かに役立ったと思う。
おかげで退職後は割と素直に失業時代に移行でき、職探しのアテの無い旅に入り込むことができた。早い時期からのハローワーク通いはそのための原動力になったとつくづく思う。

第一話 激震!退職目前( 6 / 9 )

危うくねんきん定期便に勘違いして、後で気付いて青い顔になる寸前だったよ

これから書くことは大事なことなので、勘違いから取返しがつき難い事態にならないように、ここで伝えたい。それは年金に係わる知らないとエライことになり得る話。

50歳を超えると年金見込み額がキチンと端数なしで印刷された「ねんきん定期便」が届く。それ以前の年齢でもときどき郵送されてくる。
『俺の年金受取額はけっこう多いな』ほくそ笑む俺、しかし危うく俺はその印刷された額に心踊らされて、誤解したまま退職へ向かうところだった。今思い出しても恐ろしい「年金受取額の勘違い」をするところだった。

それは俺の46歳第一回会社退職のときだった。
俺は会社を自己都合退職した。しかもその先の勤め口が決まらないまま会社を飛び出した。一応退職後の生活はなんとかなるつもり。少し前に見た「ねんきん定期便」に印刷されていた数字を頼りにすれば苦しいけど老後は何とか生き延びられそう。そんな気がした。

俺は安心して家族に「俺の退職」を宣言したけど、家族へ与えたショックはものすごくてさすがに俺も気持ちも萎えてしまった。この気分の萎えが功を奏したのか、俺は奮起して転職したから偶然にも難を逃れたものの、もしあのままねんきん定期便に書かれた数字に期待を寄せて就職を遅らせていたなら恐怖は現実になっていただろう。そのワケは、このときのねんきん定期便に書いてあった数字は、会社を勤め続けたら受け取れる額。決してその額が確保されたわけではありません。コレたいへん重要デス。

そんな大事なこと知らなかったから、次に郵送されて来たねんきん定期便の新たな数字を見て俺は絶対に青冷めたことは間違いない。まさに間一髪、家族の厳しい目に促され、第一回目退職でそのまんまリタイアの道に突っ走らなくてほんとによかったと胸なでおろす俺だった。

この話のからくりをもう一度整理して書くとこうなる。
ねんきん定期便に書いてある年金見込み額は、それが作成された時点で年金機構が認識している俺の年収がそのまんま60歳到達まで「続いた」として機械的に計算された数字なのだ。

年金機構は個人の今後の収入は想像もつかない。でも巷の人は自分の将来いくら年金受け取るのか知りたいだろうし、巷の多くの人は60歳ぐらいまではだいたい勤めを続けるだろうから、ほぼ今までと同じとして機械的に計算しても当たらずと言え遠からずの見込み額になる。

しかし俺は今まで稼いでいた会社を辞め、それ以降アテの無いふうてん暮らしになる気分が当時あった。もしその道を進めば収入なんてあっても少しだろう。すると次回のねんきん定期便で年金機構が計算する新しい収入データは低く変わってしまうから、当然新しい年金受取見込み額は激減する。この理屈を俺は転職した後に知ったから救われた。

第二回目のリストラ退職では、もはやねんきん定期便の数字をアテにせず、地元の年金事務所に直接駆け込み、目の前で今後の収入がゼロになった場合の見込み額を計算してもらった。退職や転職で収入が大きく落ちた場合、年金見込み額はガクッと落ちのが実際だ。

年金というものは会社に勤めている間はそれなりに増えるけど、いくら稼いでも上限がそんなに高いわけではない。しかも会社を辞めると収入無いのに国民年金は60歳が来るまで夫婦二人前払わなければならない。しかも受取額は60歳まで勤続した場合よりガクッと減る。さらに会社員は年金についてほとんど知識を得る興味も機会も乏しい。だからほとんどの会社員は年金の仕組みを知らないらしい。

そこへ「ねんきん定期便」という頼もしいご連絡が郵送されて来れば、ひょっとして「俺今からでもアーリーリタイアで南国の浜辺でビール片手に昼寝暮らしできるんじゃね!」と踊る人も出るかもだけど、それは勘違いだ。定年退職でもそれ以前の早期退職でも、再就職予定であっても辞める前に地元の年金事務所で今後の収入見込みを話してその場で見込み額の計算しなおしをお願いすることを俺は推奨する。
俺の退職 Season 1(退職前と直後)500の有料書籍です。
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大庭夏男
作家:大庭夏男
俺の退職 Season 1(退職前と直後)
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