神様、お願い

 イケメン執事に気をよくしたアンナは、キッチンに案内した。「亜紀、待ちに待った、お客さんよ」亜紀は、ピザクックだと思い、大きな声で返事した。「わかった、今行く」亜紀が立ち上がり、振り向いたとき、背の高い紳士の姿が目に入った。アンナが、イケメン執事を紹介した。「亜紀、緊急連絡を受けて、来てく出さった西園さん。よかったね」亜紀は、あっけに取られて挨拶もできなかった。アンナは、声をかけた。「亜紀、ご挨拶は?」亜紀は、我に返り挨拶した。「亜紀と申します。よろしくお願いします」亜紀は、頭を深々と下げた。イケメン執事が席につくとアンナが、さやかを紹介した。「こちらは、親友のさやか。同居してるんです。気にしないでください」イケメン執事は、早速、用件を尋ねた。「早速ですが、ご用件は?」アンナは、何といえばいいか、惑ってしまった。

 

 アンナは、直接、亜紀にお願いさせることにした。「実は、用件というのは、この子のお願いを会長に伝えてほしいのです。亜紀、わかりやすく、お話しするのよ」イケメン執事は、うなずいたが、即座に返事した。「申し訳ありませんが、お嬢様以外の依頼を承ることはできません」がっかりした表情の亜紀を気遣って、アンナは返事した。「依頼は、私です。私って、口下手でしょ。亜紀は、説明が上手だから、私に代わって、話してくれるってわけ。だから、聞いてあげて」イケメン執事は、うなずいた。「さようでございますか。お嬢様の依頼ということであれば、承ります。どのようなご用件でしょう」イケメン執事は、ボイスレコーダーのスイッチを入れ、テーブルに置いた。亜紀は、大きく深呼吸して、背筋を伸ばした。単刀直入にお願いすることにした。「おじいさま、お願いがあります。お願いというのは、中国共産党国家主席、コンペーを暗殺してください」

 

 執事は、いったん、スイッチを切った。「コンペーの暗殺、ですね」亜紀は、マジな顔つきでイケメン執事を見つめた。「では、理由をおっしゃってください」イケメン執事は、スイッチを入れた。亜紀は、簡潔に理由を述べることにした。「一つ目、コンペーは、多くのチベット人、ウイグル人を虐殺した。二つ目、台湾を破壊しようとしている。三つ目、三峡ダム決壊を国民に知らせず、数千万人を見殺しにしようとしている。この3点です」イケメン執事は、うなずき、スイッチを切った。アンナに再確認した。「お嬢様。こちらの依頼を会長にお届すればよろしんですね」手を震わせ、アンナは、うなずいた。「は、はい。会長に伝えてください。よろしくお願いします」執事は、うなずき、ボイスレコーダーを胸の内ポケットにしまった。その時、インターホンが鳴った。そして謝罪の声が響いた。「遅くなりまして、申し訳ありません」

 

 アンナは、引きつった顔を笑顔に変えて、立ち上がった。「西園さん、ピザを召し上がってください」アンナは、駆け足で玄関に向かった。亜紀も後をって玄関に向かった。二人は、それぞれLサイズのピザを運んできた。アンナは、ピザをテーブルに置くと食器棚からグラスを取り出した。グラスに麦茶を注ぎ、イケメン執事の前に差し出した。「食事ぐらいは、いいでしょ。召し上がってください」イケメン執事は、笑顔で返事した。「それでは、ありがたくいただきます」アンナは、小皿にピザをよそった。アンナは、デートでもしているかのように笑顔で話し始めた。「いつもの執事の方は、お休みですか?」イケメン執事は、返事した。「いいえ、西田さんは、魔界島にいらっしゃいます。緊急の場合は、私がお伺いすることになっております」

 

 アンナは、うなずき、話を続けた。「西園さんは、独身でいらっしゃいますか?」イケメン執事は、一瞬、顔を引きつらせたが、冷静に返事した。「はい」アンナの笑顔に、ますます、輝きが増した。「イケメンなのに、独身。もったいないこと。かなりのメンクイなのね。いつもは、どんなお仕事をなされていらっしゃるの?」イケメン執事は、一瞬、口ごもった。「指示に従って仕事をしています。内容は、お嬢様といえども、お話しできません」アンナは、会長の執事であることを考えれば、かなりヤバイ仕事だと察した。「そうですよね。お仕事のお話は、やめましょう。ご趣味は?」不必要な話は、禁じられていたが、お嬢様ということで話を合わせることにした。「趣味は、射撃です」さやかは、しつこいアンナをたしなめた。「アンナ、そのくらいにしなさい。食事できないじゃない」

 

 イケメン執事は、即座に応答した。「そんなことはございません。お嬢様をお守りするのが役目ですから。何なりとお申し付けください」アンナは、イケメンに舞い上がっていることに気づき、口をつぐんだ。亜紀が口をはさんだ。「西園さん、おじいちゃん、元気?」イケメン執事は、笑顔で返事した。「とても、お元気でいらっしゃいます。ほかに、何かお伝えすることがあれば、おっしゃってください」亜紀は、一度でいいから、魔界島に行ってみたかった。「魔界島に遊びに行きたいんだけど、おじいちゃん、許してくれるかな~~」イケメン執事は、うなずき、アンナに確認した。「お嬢様のご意向ということですか?」アンナは、うなずいた。イケメン執事は、応答した。「かしこまりました。会長にお伝えいたします」アンナは、笑顔を見せない執事に冗談を言った。「まさか、ゲイってことはないわよね」生真面目なイケメン執事もこの質問には、笑顔を作った。「ご心配なく。ノーマルです」

 

 アンナは、イケメン執事に確認した。「これからも、緊急時には、西園さんが来てくれるのよね」イケメン執事は、マジな顔つきで返事した。「さようでございます。なんなりとお申し付けくださいませ」アンナは、笑顔を作った。「よかった。今日は、幸運の日だわ」さやかは、あきれた顔でアンナを見つめた。イケメン執事は、背筋を伸ばし、挨拶をした。「ごちそうさまでした。それでは、失礼いたします。何かありましたら、遠慮なく、お呼びくださいませ」イケメン執事は、席を立ち、一礼すると玄関に向かった。アンナも席を立つと彼氏を追うように後を追った。イケメン執事は、玄関口で深々とお辞儀をすると西側の駐車場に向かった。すぐに、玄関を飛び出したアンナは、イケメン執事の後姿に手を振った。赤いフェラーリがサックス音を響かせると静かに走り出した。アンナは、夢心地でニコッと笑顔を作った。

 

 アンナが、テーブルに戻るとさやかが嫌みを言った。「ちょっと、何か勘違いしてない。西園さんは、仕事でやってきてるに過ぎないのよ。のぼせちゃって。まったく、バッカじゃないの」アンナの耳には、さやかの言葉が届いていなかった。亜紀もアンナの浮かれた様子にあきれていた。「ママ、ママ、聞こえてるの?」アンナは、ふと、我に返った。「何か言った?」さやかは、もう一度嫌みを言った。「あのね~~、西園さんは、緊急ボタンを押したから、やってきたに過ぎないの。何か、勘違いしてない。今後、気軽にボタンを押さないようにね」アンナは、言い返した。「なによ、その言い方。やさしくて、素敵な方だな~~、と思っただけじゃない。別に、浮気してるわけじゃないし~~」

 

 亜紀が、二人が喧嘩しないように、話に割り込んだ。「おじいちゃん、お願い聞いてくれるかな~~」アンナは、応答した。「一応、お願いしたことだし。これで、気が済んだでしょ。もうこれ以上、コンペーちゃんの話は、やめてよ」

亜紀は、お願いができたことで、コンペーのことは、どうでもいいように思えてきた。それより、夏休みの間に、魔界島に行きたくなった。「ママ、魔界島ってどんなとこ。夏休みの間に、いけるかな~~?」アンナは、さやかに目配せした。さやかが、代わりに返事した。「一度しか行ったことがないけど、だれでもがいけるところじゃないみたい。あまり、期待しないほうがいいかも?」亜紀は、どんなところだったか聞いてみた。「一度、行ったんでしょ。どんなところだった?大きい島?小さい島?ジャングルみたいなとこ?小鳥とか、動物はいるの?」

 

 

 さやかが、思い出しながら話し始めた。「そうね~。地球とは思えないところだった。大きな門を入ると金色のラクダと銀色のラクダがいて、二人を乗せてくれたの。公園の小道の両側には、ロボのお花が咲いていて、歌を歌って、歓迎してくれた。あ、そう、プール横のパラソルで休んでいると、かわいいロボの女の子がやってきて、昼食の錠剤をくれたのよ。しばらく、休憩していると、突然、体が軽くなって、空を飛べたの。二人が、キャ~キャ~言ってると、キューピットが現れて、会長のところに案内してくれたっけ。こんなところ」亜紀は、信じられなかった。「それって、マジ?うそでしょ。作り話でしょ」アンナが、返答した。「嘘みたいだけど、本当なのよ」

 

 さやかが、話を続けた。「きっと、あの島は、人工島なのよ。しかも、重力を自由に操作できる装置があるのね。奇妙な体験をして、楽しかったけど、さやかは、二度と、行きたくない」亜紀は、話を聞いて、ますます行きたくなった。「亜紀も行きたいな~~。おじいちゃん、招待してくれないかな~~」アンナもさやかと同感だった。「別に見るところもないし、あまり期待しないほうがいいかも」亜紀の頭には、奇妙な魔界島の上空を飛んでる笑顔の自分の姿が浮かんでいた。「今日から、毎日、魔界島に行けますように、って神様にお願いする」アンナは、話題を替えることにした。「拓実も1年生になったことだし、夏休みの思い出を作らなくっちゃね。三密を避けて、遊べるとこって、どこがある?さやか?」さやかもコロナにはうんざりしていた。パ~~と羽を伸ばしたかった。「ヘリで九州一周ってのは、どう?」亜紀が、即座に反対した。「嫌よ、墜落したらどうするの?」

 

 アンナが、提案した。「キャンピングカーで、温泉巡りする?」亜紀は賛成した。「それって、楽しそう。いつから、行く?」アンナは、応答した。「善は急げね。お盆が済んだら、出かけよう~~」さやかが、不安を述べた。「でも、キャンピングカーって、どこで借りればいいの?それに、女性と子供だけで、大丈夫?運転は、だれがするの?さやかは、大きな車は、運転できないよ」アンナが、首をかしげたが、即座に、笑顔を作った。「これって、緊急事態よね。西園さんに相談しましょう」亜紀は、賛成した。「それがいい。西園さん、やさしそうだし」さやかも賛成した。「運転は、アンナと西園さんが、交代でやればいいんじゃない。そうと決まれば、どこの温泉に行くか?みんなで決めましょう。行くとしても、九州内がいいと思う。別府温泉か?雲仙温泉か?杖立温泉か?黒川温泉か?ほかに行きたいところは?」亜紀は、温泉に詳しくなかった。「亜紀は、ママが決めたところでいい。早く、行きたいな~~」

 

 

 

春日信彦
作家:春日信彦
神様、お願い
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