神様、お願い

 アンナは、イケメン執事に確認した。「これからも、緊急時には、西園さんが来てくれるのよね」イケメン執事は、マジな顔つきで返事した。「さようでございます。なんなりとお申し付けくださいませ」アンナは、笑顔を作った。「よかった。今日は、幸運の日だわ」さやかは、あきれた顔でアンナを見つめた。イケメン執事は、背筋を伸ばし、挨拶をした。「ごちそうさまでした。それでは、失礼いたします。何かありましたら、遠慮なく、お呼びくださいませ」イケメン執事は、席を立ち、一礼すると玄関に向かった。アンナも席を立つと彼氏を追うように後を追った。イケメン執事は、玄関口で深々とお辞儀をすると西側の駐車場に向かった。すぐに、玄関を飛び出したアンナは、イケメン執事の後姿に手を振った。赤いフェラーリがサックス音を響かせると静かに走り出した。アンナは、夢心地でニコッと笑顔を作った。

 

 アンナが、テーブルに戻るとさやかが嫌みを言った。「ちょっと、何か勘違いしてない。西園さんは、仕事でやってきてるに過ぎないのよ。のぼせちゃって。まったく、バッカじゃないの」アンナの耳には、さやかの言葉が届いていなかった。亜紀もアンナの浮かれた様子にあきれていた。「ママ、ママ、聞こえてるの?」アンナは、ふと、我に返った。「何か言った?」さやかは、もう一度嫌みを言った。「あのね~~、西園さんは、緊急ボタンを押したから、やってきたに過ぎないの。何か、勘違いしてない。今後、気軽にボタンを押さないようにね」アンナは、言い返した。「なによ、その言い方。やさしくて、素敵な方だな~~、と思っただけじゃない。別に、浮気してるわけじゃないし~~」

 

 亜紀が、二人が喧嘩しないように、話に割り込んだ。「おじいちゃん、お願い聞いてくれるかな~~」アンナは、応答した。「一応、お願いしたことだし。これで、気が済んだでしょ。もうこれ以上、コンペーちゃんの話は、やめてよ」

亜紀は、お願いができたことで、コンペーのことは、どうでもいいように思えてきた。それより、夏休みの間に、魔界島に行きたくなった。「ママ、魔界島ってどんなとこ。夏休みの間に、いけるかな~~?」アンナは、さやかに目配せした。さやかが、代わりに返事した。「一度しか行ったことがないけど、だれでもがいけるところじゃないみたい。あまり、期待しないほうがいいかも?」亜紀は、どんなところだったか聞いてみた。「一度、行ったんでしょ。どんなところだった?大きい島?小さい島?ジャングルみたいなとこ?小鳥とか、動物はいるの?」

 

 

 さやかが、思い出しながら話し始めた。「そうね~。地球とは思えないところだった。大きな門を入ると金色のラクダと銀色のラクダがいて、二人を乗せてくれたの。公園の小道の両側には、ロボのお花が咲いていて、歌を歌って、歓迎してくれた。あ、そう、プール横のパラソルで休んでいると、かわいいロボの女の子がやってきて、昼食の錠剤をくれたのよ。しばらく、休憩していると、突然、体が軽くなって、空を飛べたの。二人が、キャ~キャ~言ってると、キューピットが現れて、会長のところに案内してくれたっけ。こんなところ」亜紀は、信じられなかった。「それって、マジ?うそでしょ。作り話でしょ」アンナが、返答した。「嘘みたいだけど、本当なのよ」

 

 さやかが、話を続けた。「きっと、あの島は、人工島なのよ。しかも、重力を自由に操作できる装置があるのね。奇妙な体験をして、楽しかったけど、さやかは、二度と、行きたくない」亜紀は、話を聞いて、ますます行きたくなった。「亜紀も行きたいな~~。おじいちゃん、招待してくれないかな~~」アンナもさやかと同感だった。「別に見るところもないし、あまり期待しないほうがいいかも」亜紀の頭には、奇妙な魔界島の上空を飛んでる笑顔の自分の姿が浮かんでいた。「今日から、毎日、魔界島に行けますように、って神様にお願いする」アンナは、話題を替えることにした。「拓実も1年生になったことだし、夏休みの思い出を作らなくっちゃね。三密を避けて、遊べるとこって、どこがある?さやか?」さやかもコロナにはうんざりしていた。パ~~と羽を伸ばしたかった。「ヘリで九州一周ってのは、どう?」亜紀が、即座に反対した。「嫌よ、墜落したらどうするの?」

 

 アンナが、提案した。「キャンピングカーで、温泉巡りする?」亜紀は賛成した。「それって、楽しそう。いつから、行く?」アンナは、応答した。「善は急げね。お盆が済んだら、出かけよう~~」さやかが、不安を述べた。「でも、キャンピングカーって、どこで借りればいいの?それに、女性と子供だけで、大丈夫?運転は、だれがするの?さやかは、大きな車は、運転できないよ」アンナが、首をかしげたが、即座に、笑顔を作った。「これって、緊急事態よね。西園さんに相談しましょう」亜紀は、賛成した。「それがいい。西園さん、やさしそうだし」さやかも賛成した。「運転は、アンナと西園さんが、交代でやればいいんじゃない。そうと決まれば、どこの温泉に行くか?みんなで決めましょう。行くとしても、九州内がいいと思う。別府温泉か?雲仙温泉か?杖立温泉か?黒川温泉か?ほかに行きたいところは?」亜紀は、温泉に詳しくなかった。「亜紀は、ママが決めたところでいい。早く、行きたいな~~」

 

 

 

春日信彦
作家:春日信彦
神様、お願い
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