対馬の闇Ⅴ

 シュー社長は、不謹慎な質問をした。「会長、コロナのターゲットは、老人と貧乏人だけですか?まさか、マフィアってことは?」ハッとしたハン会長は、目をむき出した。「どういうことだ。マフィアだと。わしを殺そうとしてるというのか?」シュー社長は、弁解するように返事した。「いや、そういうわけでは。CIAは、マフィアを煙たがってますから。そういうこともあるかもと?」ハン会長は、小さくうなずいた。「そういわれれば、可能性もなくはない。麻薬、カジノ、それに加え、原発。CIAを利用して、かなり儲けさせてもらった。ちょっと、CIAに圧力をかけすぎたきらいがある。とにかく、老人は、感染防止に努めねば。感染すれば、天国に直行だからな」カジノと聞いて、シュー社長は、尋ねた。「北海道のIRは、延期になりそうですか?」

 

 ハン会長は、IRのことを懸念していた。「それじゃ。現状では、推進できん。とにかく、コロナの終息が先決だ。そうか、CIAのヤツ、わしらのIR計画をぶっ潰す気だな。コロナ程度の攻撃で、へこむハン・マフィアではないわ。わしは、不死身だ。今に見てろ」CIAは、ハン・マフィアの勢力を恐れているのではないか、とシュー社長は直感した。今や、原発開発を利用して、ヨーロッパ、日本、中近東、への勢力拡大が顕著になった。やはり、今回のコロナ攻撃は、ユーロ、元、の攻撃だけではなく、マフィアへの威嚇でもある。ハン会長が、感染しなければよいが、万が一、感染して、あの世に行くようなことにでもなったら、要を失ったマフィアは、一気に劣勢になる。「会長。その心意気です。しばらく、この別荘にひきこもって、筋トレなりやって、健康を維持されては、いかがですか?」

 

 ハン会長は、笑顔でうなずいた。今や、中国、韓国、ヨーロッパ、アメリカ、などは、コロナが蔓延している。まだ、日本のほうが安全。「それは、名案じゃ。対馬では、感染者は、出ておらんな。よし、コロナが、終息するまで、この別荘に引きこもるとするか」笑顔を作ったシュー社長は、返事した。「そうなさいませ。この別荘は、安全どころか、来客といえば、警官ぐらいです」ハン会長は、警官と聞いて、別荘への来客に不安を感じた。「いいか、これからは、来客は、一切、遮断しろ。警官であっても、別荘に入れるな。そして、別荘にいるものすべて、身体検査をやれ。熱があるもの、咳をするものは、別荘から、追い出せ。いいな」ちょっと、神経質のようだったが、老人の致死率を考えれば、ハン会長の気持ちにも納得がいった。

 

 

 

 シュー社長は、眉間にしわを寄せ、返事した。「はい、かしこまりました。神戸へのブツは、別荘で渡すのでなく、私が、運び屋に外部で渡せばいいのですね」ハン会長は、うなずいた。「そうじゃ。これからは、この別荘には、だれも入れるな」シュー社長は、顔を引きつらせて、返事した。「はい。かしこまりました。この別荘を完全防御すればよろしいのですね。それでは、4月の首脳会談は、中止ということですね」ハン会長は、うなずき、シュー社長を見つめた。「当り前じゃ。こんな時に、やれるわけがない。奴らが、感染している可能性は、大いにある。会談も、余興も、中止だ」シュー社長は、直立不動で、返事した。「早速、中止の連絡を入れておきます」

 

 ハン会長は、まじまじとシュー社長の顔を見つめた。「おい、お前は、大丈夫だろうな。いや、俺も、心配じゃ。早速、俺の体温を測れ」ハン会長の極度のおびえように笑いが込み上げてきたが、早速、体温を測ることにした。テーブルの呼び鈴を押すと即座に執事がやってきた。用件を聞き取った執事は、部屋を出ると体温計を携えてすぐに戻ってきた。体温計を受け取ったシュー社長は、ハン会長の額に当てた。「36.4℃問題ありません」シュー社長は、笑顔で報告した。ハン会長が、声をかけた。「おい、お前は、どうだ」シュー社長は、自分の額にあてた。「36.5℃私も問題ありません」二人は、体温を確認し、ホッとした。

 

 

            盗聴案

 

 対馬勤務が1年延長となり、伊達と沢富は、意気消沈していた。沢富が、悲しげな声で話し始めた。「コロナが、1年で終息しなければ、もう一年、対馬ですかね?一体全体、どうなるんでしょうか?いつになったら、結婚できるんでしょうか?」伊達も、全く、先が読めなかった。欧米の感染が急激に拡大している。日本も、急激な感染拡大がいつ起きてもおかしくない。マフィアは、コロナ感染を考えて、取引を自重すいるだろうか?万が一、対馬にも感染者が出れば、マトリは、思うような捜査はできない。「そうだな~~。ヤクザ連中は、コロナ感染拡大の中でも、麻薬密輸をやるだろうか?万が一、運び屋がコロナに感染すれば、奴ら、どこで治療する気か?いや、奴らも馬鹿じゃない。おそらく、取引を中止するに違いない」

 

 沢富も取引中止説に同感だった。「僕もそう思います。ヤクザも馬鹿じゃない。きっと、コロナが終息するまで、動かないと思います。ということは、コロナが終息するまで、我々は、対馬で待機するということでしょうか?結婚もお預けですね。コロナの特効薬は、いつになったら、開発されるんですかね。開発されなければ、どうなるんでしょうか?」伊達は、コロナ感染拡大は人為的なものではないかと思い始めていた。中国のコロナ感染から、ヨーロッパ、アメリカと一気に感染が拡大している。あまりにも、感染拡大が速すぎるように感じていた。「おい、今回のコロナは、武漢からのようだが、俺は、そうじゃないように思う。きっと、誰かが、世界中にコロナをばらまいているように思うんだ。誰かは、わからないが」

 

 沢富は、コロナは、動物から人間に感染したウイルスと思っていた。仮に、秘密結社によって、人工的に作られたウイルスだったら、そう簡単に特効薬はできないように思えた。「テロですか?サリンテロのようなものですか?世界中にテロを仕掛けて、だれが得をするんですかね。こんなことは、狂人のやることですよ。人間がやることじゃない。おそらく、特効薬が、開発販売されなければ、数千万、いや、数億の人々が、亡くなるんじゃないですか。その中でも、特に、高齢者と病人が。必ず、経済も世界大恐慌に陥る。今、治療に当たっている多くの医者もなくなり、政府は、多額の休業補償を強いられている。全く、コロナでだれが得をするというんでしょうか?」

 

 

 伊達は、開き直ったように笑顔で返事した。「コロナは、人間じゃない。コロナが殺人犯だとしても、逮捕しようにも、逮捕令状はとれん。コロナに対しては、俺たちは、無力だ。コロナを逮捕できるのは、神以外いないんじゃないか?こうなったら、ひきこもって、毎日、春日神に祈願するか?」沢富が、諦めたような表情で返事した。「そうですね。我々、警察官の出番は、ありません。引きこもりましょう。そして、新しい価値観を見つけましょう。僕の価値観なんて、しょせん、ゲスの欲から生まれたものにすぎません。ところで、ひきこもり生活って、何をやればいいんですかね?」伊達は、肩を落として返事した。「そうだな~~。いざ、ひきこもってしまうと、退屈だよな~~。俺たちに、ひきこもり生活ができるのか?」

 

 沢富は、天を仰ぎ、ため息をついた。「あ~~、退屈だ~~。何をやればいいんだ~~。ア、そうだ、将棋でもやりますか?愚痴をこぼすよりは、ましでしょ」伊達は、しかめっ面で返事した。「将棋ね~~。でもな~~、将棋をやっても、お前には、勝てっこないしな~~。何か、ほかに面白いことはないか?」沢富は、腕組みをして首をかしげた。「面白いことですね~~。中洲の屋台が、対馬にやって来ませんかね~~。禿げ頭の亭主、今もやってますかね。全く、対馬は、遊ぶところがないところです。唯一の娯楽といえば、魚釣りですから。あ~~、パ~~~といきたいですね~~」伊達も、あと一年、対馬でひきこもり生活をすると思うと、気が変になってきた。「やっぱ、いったん、歓楽街で遊びを覚えた俺たちには、離島のひきこもり生活は、地獄だな」

 

 沢富は、伊達の腹を見つめた。「先輩、お腹、出てますよ。もうちょっと、ダイエットされてはどうです。そうだ、筋トレをやりましょう。我々は、警察官です。強く、たくましい体作りが第一です。先輩は、学生時代、ラグビーをやられていたんですよね。学生時代を思い出して、体を鍛えて下さい。僕は、スポーツ音痴ですが、一緒に、筋トレをやって、マッチョを目指します。それがいい。筋トレって、何をやればいいですか?先輩?」伊達は、学生時代に筋トレは、毎日やっていたが、対馬には、スポーツジムはないように思えた。「ここは、対馬だぞ。筋トレをやれるようなジムはないんじゃないか?」沢富のやる気は、本物だった。「とにかく、ジムに行かなくても、やれることをやりましょう。先輩は、やっていたんでしょ。教えてください」

 

 

春日信彦
作家:春日信彦
対馬の闇Ⅴ
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