ソリティア  —上がりの型で占う今日のあなたの運勢—

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第一章

第一章     

ソリティアの歴史*1

 

 ソリティアとは、対戦者のいない、「一人遊び」を意味する名詞(solitaire [仏、英])で、盤・駒・石・カードなどを用いて、一定のルールに従って目的を達成できるかどうかを競うゲームの総称です。

一人で麻雀の牌を積んで遊んでも、これはもともと競技相手を想定したゲームなので、ソリティアとは呼びません。

 トランプを使うソリティアを、特に一人用トランプゲームのことを総称して、アメリカ英語ではソリティアと呼びます。*2 イギリス英語ではペイシェンス(patience)と呼び、歴史的にはこの呼び名の方が古くから使われているようです。しかしトランプ自体の歴史がはっきりしないのと同様に、一人用トランプゲームの起源も、また定かではありません。今のところアデレード・カドガンによる1870年の書籍が、ペイシェンスについてまとめられた最古の文献とされています。また同時代の文献ではトルストイの「戦争と平和」(1865-69)にペイシェンスを遊ぶ描写があるのを見ることができます。以下にその部分を引用します。19世紀にも現代と同じような感情でゲームをしている有様が見て取れます。曾婆さんか、曾爺さんの時代ですから、現代と余り違わないのは当然でしょうか。いや、人間は本質的なところで数千年の間変わっていないのでしょう。

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トルストイの「戦争と平和」からの引用*3、4

 

「ニコライはひげを噛みながら、溜め息をついていた。そして、母の注意をほかのものにそらせようとして、トランプ(英訳:the cards for a patience)を並べていた。」(エピローグ第1篇6)

 

「ピエールとナターシャが包みを腋にかかえて客間に入ったとき、伯爵夫人は例によって、ベロフ夫人といっしょに座って、トランプの一人遊びをやっていた。」

(エピローグ第1篇12)

 

「ピエールが妻と客間に来たとき、伯爵夫人はトランプの一人遊びという知的作業(英訳:the mental exertion of playing patience)を自分にさせる例の欲求を感じていたので、ピエールか息子が戻ったときにいつも彼女が口にする、『そろそろ帰っていいころですよ、あなた、待ちくたびれましたよ。まあ、これでよかった』ということばを、習慣で言い、自分に贈り物が渡されたとき、『だいじなのは贈り物じゃありませんよ。あなた、あたしのようなおばあさんに贈り物をしてくださるのがありがたいのよ・・・・・』という別の習慣的なことばを言ったものの、こんなときにピエールが来たのは彼女には不愉快な様子だった。というのは、まだすんでいない一人遊びの邪魔をされたからだった。」(エピローグ第1篇13)

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 ソリティア(ペイシェンス)のルールには様々なバリエーションが存在し、難易度も易しいものからほとんど完成不可能なものまで幅広くあります。これらにはそれぞれ異なったゲーム名がつけられていますが、ここでは省略します。*2 ただ、用語についてはある程度の統一が図られていますので、以下にその一例を示します。

 

・台札または組札(ファウンデーションfoundation):多くのゲームで、この場所に札をすべて移すのが目的です。

・場札(タブロー tableau):多くのゲームではこの場所で札を動かしつつ、台札に移せる札を探します。

・山札(ストック stock):場札から捲って不要なカードを表向きに、場札の山の横に山を作ります。これを山札と言います。場札に動かせる札がなくなった時、この山を裏向きにして場札の山の場所に移し、ここから新たな札を引く事になります。

・捨札(ウェイストパイル wastepile):場札や台札の中で不要な札をここに捨てます。多くのゲームでは一番上のカードに限り拾って使用できます。

 

 多くの人は、マイクロソフト社のオペレーションシステム(OS)、ウインドーズに付属しているソリティアでゲームを楽しんでいます。筆者はアップル社のマック派ですから、OS付属のゲームで遊ぶことはありませんでした。現在はウインドーズで動くパソコンも二台目として持っていますが、習い性でしょうか、ウインドーズを使わずに、マックをネット上無料で公開されているソリティアゲームに接続して遊んで(心を無にして瞑想に使って)います。

 さて、ウインドーズの「ソリティア」というタイトルのアプリケーションは、ソリティアの中でも比較的知名度の高い「クロンダイク」と呼ばれるゲームを再現したものです。この本で扱っているのもこのクロンダイクです。

 ウインドーズ用の最初の「ソリティア」*51989年、マイクロソフト社で当時インターンとして働いていた学生プログラマのウェス・チェリーによって開発されました(初版のプログラムは、1990年発売のウインドーズ3.0に収録されました)。インタビューされた時の記録*6によれば、彼が「ソリティア」を製作した目的はあくまでもプログラミングの練習のためであり、業務ではなかったとのことです。そのためマイクロソフト社は、彼の「ソリティア」に対して報酬を一銭も支払っておらず、彼はこの契約を後悔しているとのことです。世界中で遊ばれていますから、パソコン一台当たり1銭(又はセント)としても膨大な金額でしょうね。

 ウインドーズの普及に伴い「ソリティア」もまた爆発的に流行しました。今ではパソコン上で遊んだ最初のゲームが「ソリティア」であったというユーザーも少なくないようです。特にOS付属であるため、職場のパソコンにも入っている可能性が高く、「勤務中にソリティアを遊んで解雇された」*7というニュースが報道されるほどの人気となっています。そういう筆者の家内もパソコンには全く弱いのですが、会社に勤めていた頃にこのゲームに出会い、今も日長一日、暇があるとソリティアをしています。どうもその間に、夕食の献立などを考えているようです。時々、

「今日は、何を食べたい?」

とパソコンのソリティアの画面を見ながら尋ねてきます。

 一方この流行により、「ソリティア」を特定のトランプゲーム名だと誤って認識する(つまり「クロンダイク」を「ソリティア」と呼ぶ)例も増加しています。ウインドーズ95で「フリーセル」というもう一つのソリティアが追加されたにもかかわらず「ソリティア」の方はタイトルが変更されませんでした。この点もこの誤解に拍車をかけたのではないかと推測されます。ちなみにウインドーズ7には、Purble Place、ソリティア、フリーセル、スパイダーソリティア、ハーツ、マインスイーパーなどの一人遊びのゲームと、リバーシ、ジグソー通、Uno、マインスイーパフラグなど対戦形式のものが用意されています。

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「仕事中にパソコンでソリティアを遊んで解雇」

  

 マイケル・ブルームバーグ ニューヨーク市長は、仕事中にコンピュータでソリティアをしていたアルバニーの市事務所で6年間勤めた男性職員エドワード・グリーンウッド四世を、1月30日付で警告も解雇手当もなく解雇した。報道陣からこの解雇について質問を受けた際に、ブルームバーグ市長(ちなみに素養が無くコンピュータは使えない)は、

「職場はゲームをする場所ではありません。わたしも含めて、すべての市の職員が懸命に働くことを望んでいます」

と答えた。

 ブルームバーグ市長が、14日の州知事の演説前にアルバニーの事務所に立ち寄った時に、この職員がコンピュータカードゲームをしているのを見つけた。

 記者に対して、グリーンウッド氏は、

「仕事は遅れることなく、懸命にしていました。知事がボスですし、彼の決定に対して何もできません」、

「このことで、後味がどうかって?」、

「良い訳ないでしょ!」。 [ニューヨークタイムス 2006年2月10]*7

川田 啓祐
作家:川田啓祐
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