ソリティア  —上がりの型で占う今日のあなたの運勢—

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はじめに

はじめに

 白状しますが、かっての自分はゲームに偏見があったように思います。余暇を楽しむ余裕が無かったのかもしれません。

「ゲーム中毒で本業を忘れている」

かのように、同僚や電車の中でゲームをする人を見ていました。しかし、時間的に余裕が出来るようになってゲームを始めると、確かに面白さを覚えた当初は、中毒にかかったような状態でしたが、その時期が過ぎて落ち着いてくると、ゲームをするときに脳を空に出来る、あるいは現在心に引っかかっている問題に、純粋に雑念を交えずに対峙できるような気がします。まるでヨガをしていて、最後のところで入る重要な休息(屍)のポーズ、

「サバ・アサナ」

に似たところがあります。脳を空にしようとしても涌いてくるもの、当面の問題点、解決への糸口が走馬燈のように脳に現れては、消えます。目を見開いた現実の生活では、どうしても入ってくる雑音や雑念から解放されることが難しいので、この瞬間は貴重です。

 最初に出合ったゲームがソリティアです。今では最も気に入ったゲームになっています。多分過去の「糞」が着くような真面目な自分を背負っていた頃ならば、仕事中の寸暇に周りでソリティアをする人を見たら、何か険のある言葉を吐いて注意をしたことと思います。しかし、いざ自分で経験してみると、ゲームをしている間も脳は違った面で活発に活動し、ヒョッとすると名案が浮かぶこともあるのではと、今ではその効能を考えるようになっています。

 読者の周りに居る堅い上司は、会社で寸暇にゲームをする部下を見て、叱責するかもしれません。恥ずかしい過去の自分を見る思いです。たばこを吸って思索を練るという言い分には、生理的に見て疑問があります。血管を収縮させる働きがあるのですから、気持ちが良くなるだけで、良い案など浮かぶはずがありません。たばこを吸わない者の偏見かも知れませんが、論理的にはそう思います。従って、たばこタイムがあるなら、ゲームタイムもあって然るべきで、経験から言って、ゲームタイムの方が問題解決、思考のまとめにはより良いように思えます。ニューヨーク市長のように、ソリティアをする部下を解雇するなどもってのほかで、ゲームの後でさらに良い仕事をするかもしれません。

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はじめに

 家庭でもソリティアは使い道がありそうです。母親が年を取ってからでした。編み物をしつつ、時々視線を向けながら、側にいる私にいろいろと小言や物事に対する処し方などを話したのを思い出します。手を動かしていると頭も働くようです。ドイツ人の腹話術師が編み物をする老女の人形を使って、言いにくいことを観客に向かってズカズカと言うパーホーマンスを見たことがあります。一言言っては、一瞬動きを止めてじろっと観客見て、直ぐに忙しく編み棒を動かす仕草が、観客に大受けでした。小言を言う時に、編み物の代わりにソリティアを隠れ蓑に使えるかもしれません。

 嵐の中で航行するヨットのスキパー(船長)の心得として、経験の浅い人や未熟な人、心配性の人(決して女、子供などとは言っていません。念のため)には、何か単純な仕事を与え、心の平安を保たせ、パニックにならないようにすることが重要とされています。こんな時は考え込むよりも、手足を動かしている方が良いのです。オフィスや家庭でするゲームも、差し迫った意味で嵐との比較はともかくとして、これに似たところがあると思います。手や指を動かしていることが良いのです。仕事が捗っているなら、勤務中の寸暇の使い道には目をつぶりましょう。

 しかし、そこでソリティアをしている人、あなた! 仕事中に堂々とゲームをしてはいけない。少しは上司に遠慮しなさい。

 「ソリティアのすすめ」のような緒言になりました。このゲームに出合う前は、家内を横目でみながら、「どこがそんなに面白いのだろう」

と思っていました。時間に、いや気持ちに余裕が無かったのでしょう。そのうちノートパソコンを並べて横に座ってソリティアをするようになって、始めは解決法(上がり方)をまとめるつもりでメモを取っていましたが、何かより精神的なものにつなげた方が、広く意味があるように思い、ソリティア占いへと考えが纏まって行き、本書へとつながりました。

 この占いが、読者の皆さんの日々の生活のささやかな応援(?!)になればと願っています。

 

平成23年秋

川田啓祐

 

追記: ソリティアに慣れていて、今直ぐに上がり型を占いに使おうとする人は、第三章から読むことを勧めます。表3−1〜3−6の読み方が分かれば、占いに進みましょう。問いに答えて運勢が分かるように工夫した付表を巻末に載せていますので、利用して下さい。

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第一章

第一章     

ソリティアの歴史*1

 

 ソリティアとは、対戦者のいない、「一人遊び」を意味する名詞(solitaire [仏、英])で、盤・駒・石・カードなどを用いて、一定のルールに従って目的を達成できるかどうかを競うゲームの総称です。

一人で麻雀の牌を積んで遊んでも、これはもともと競技相手を想定したゲームなので、ソリティアとは呼びません。

 トランプを使うソリティアを、特に一人用トランプゲームのことを総称して、アメリカ英語ではソリティアと呼びます。*2 イギリス英語ではペイシェンス(patience)と呼び、歴史的にはこの呼び名の方が古くから使われているようです。しかしトランプ自体の歴史がはっきりしないのと同様に、一人用トランプゲームの起源も、また定かではありません。今のところアデレード・カドガンによる1870年の書籍が、ペイシェンスについてまとめられた最古の文献とされています。また同時代の文献ではトルストイの「戦争と平和」(1865-69)にペイシェンスを遊ぶ描写があるのを見ることができます。以下にその部分を引用します。19世紀にも現代と同じような感情でゲームをしている有様が見て取れます。曾婆さんか、曾爺さんの時代ですから、現代と余り違わないのは当然でしょうか。いや、人間は本質的なところで数千年の間変わっていないのでしょう。

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第一章

トルストイの「戦争と平和」からの引用*3、4

 

「ニコライはひげを噛みながら、溜め息をついていた。そして、母の注意をほかのものにそらせようとして、トランプ(英訳:the cards for a patience)を並べていた。」(エピローグ第1篇6)

 

「ピエールとナターシャが包みを腋にかかえて客間に入ったとき、伯爵夫人は例によって、ベロフ夫人といっしょに座って、トランプの一人遊びをやっていた。」

(エピローグ第1篇12)

 

「ピエールが妻と客間に来たとき、伯爵夫人はトランプの一人遊びという知的作業(英訳:the mental exertion of playing patience)を自分にさせる例の欲求を感じていたので、ピエールか息子が戻ったときにいつも彼女が口にする、『そろそろ帰っていいころですよ、あなた、待ちくたびれましたよ。まあ、これでよかった』ということばを、習慣で言い、自分に贈り物が渡されたとき、『だいじなのは贈り物じゃありませんよ。あなた、あたしのようなおばあさんに贈り物をしてくださるのがありがたいのよ・・・・・』という別の習慣的なことばを言ったものの、こんなときにピエールが来たのは彼女には不愉快な様子だった。というのは、まだすんでいない一人遊びの邪魔をされたからだった。」(エピローグ第1篇13)

川田 啓祐
作家:川田啓祐
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