シンシア

シンシア -4p-

 母子の会話だった。
  両目が上下に逆動し、首を振り画像を変えていく。 元に戻る。 現実の世界へ。
「うっ、お〜おっ。 俺、寝たっ。 疲れているのかな〜。 それとも季節的なもの!? もしかして三年寝太郎!?」
  目をパチクリさせる。

  一年経って一皮剥けた高校の元不良達が五人、居酒屋"竜宮城"でお花見と称して飲み初めてから一時間半、既に出来上がっていた。  皆ドリフの赤鬼ルックで漫才師並みに途切れる事なく喋っていた。

「あ〜あっ、酒は、上手いし、いい仲間で楽しいし、これって最高の贅沢っ」
「はは〜あったりめ〜だよ、このメンバーだぜっ」
「こんな可愛い不良いないぜっ!?」
「よく言う~よっ!?」
「な〜な〜、隣のビルくらい楽に壊せるよなぁ〜!?」
「お〜・・・ほっほ〜、お前一人でやってろっ、バ~カ!?」
「もう、お前らには、ついて行けね〜よっ・・・!?」
「ついて来てるよっ」
「フッ、そろそろ次にいこうぜっ」
  和人、健、悟、行二、大介は、会話に花が咲き、会計を終え、そとに出た。

  五人が人の間を紙一重ですり抜け、我が物顔で広いニースリーデポンの駐車場を横切って行った。
  黄色い三日月が一瞬、充血した悪魔の目に変わった。
「ンガルルル・・・・・・。 ネーネー、一緒に遊ぼうよぉー。 (刺激が欲しいんだろ、このザコども)」
と怪物の叫び声の後に可愛い声が、そして囁きやざわめき。  地震や豪雨が立て続けに人間を襲った。  (シャッフル)

  人々は、屋根を求めてビル街に入って行った。 采は、投げられゲームが始まったのだった。

  一階の奥の警備室では、たった一人残された木村哲男 二十七歳が金髪白人美女と悦楽の世界に身を投じていた。
  愛らしい声と微笑みとセクシーな赤い唇。  タイプの子だった。

 熱いキスを交わし合う。  彼女は、白いブラウスを脱ぎ、赤いナイフプリーフスカートも脱いだ。
「おーっ、ほっほー・・・・・・」  上から下まで舐めるように見渡しニンマリする。 もう木村は、欲求を止める事が出来なかった。
  純白のブラジャーとガーターベルトとパンティとストッキングを脱がす。

「あっ!うう〜ん。 はぁっ、ああああーっ。 あっ、はぁんっ。 はぁーあぁ〜ん〜・・・」
  豊満なバストを揉む、舐める、腰を動かす。 もだえる体、Sexyな声。 脳や性器に直に伝わる。
『快感』だった。

  ソファー、座位、騎乗位と体勢を変えて楽しんでいく。
  正常位で導かれるようにディープキスをした時だった。
  男の頬に女の両手が優しく優しく触った。 木村は、視界を無くした。

  女の背中側から、三メートル程の大きな赤黒い掌が二枚哲男を包むべく、ゆっくりと音も立てずに動き出していた。
  食中植物のハエトリソウのようだった。
「んっ、んんんんー、んっ・・・!?」

  絶頂を迎えて行った時、木村は、困惑をした。
  口が同化し、声が出せなかった。
  そして女から離れようとした時に見てしまった。
  斑点模様の内部に自分が居る事を!?。
  目を見開き、暴れまくった。

  しかし、抵抗むなしく胸腹部の割れ目に呑み込まれていった。 内部がバタバタする・・・・・・ゆっくりと消化していく。
「ふふつ、この建物、この×××も〜らったぁ〜」

  コントロールルームの操作盤を構い、タイマーをセットした。
  そして、数分後全てのシャッターは、下がり外界と遮断された。 とどめのような小爆破が起こる。 そこかしこで火花が散り続ける。

  キーッ、キキッ、キーッ、ガッシャーン。
  ニースリーデポンの地下駐車場で、

シンシア -5p-

タイヤの摩擦跡と無理な高音を響かせてシャッターをぶち破り、トキフネ自動車のライトゴールドの『ツタンカーメン』が、豪雨の外へ飛び出して行った。 
  社会現象を起こしていたG-DNAの"神のあやまち"が、車内の空気をつんざいていた。
「早く走れーっ、止まるなーっ、逃げろーっ」
  二十歳の四人は、慌てふためいていた。

  ビル街、ニュータウン、野原をひたすら走り続ける。
「何だったんだ。 あの光景は!?」
「狂ったように痛みが無いみたいに、抑制を外したみたいに大勢でナイフで刺しあってた!?」
「それに人間の溶けた姿干しの壁!?」
「止めろ、喋るなっ、忘れろっ・・・・・・」

  四人共タバコを吸って各々の世界に・・・・・・。
  煙が車内を舞う・・・・・・時間が経過する・・・・・・静かだった。
「んっ・・・!?」  ギューギュギュギュッ、ギュー。
「どうしたっ」
「タイヤが空回りしている」
四人が車内で目を合わす。

 パタパタッ、パタパタッ。  赤と緑の腐った腕が八本伸び、タイヤに手がピタリと付いていた。
 車のフロントが三十度傾き、血の池に沈み始める。「お〜っ、おいっ!?」
「おぉ〜・・・!?」
「わぁ〜・・・!?」
「げげっ!?」
車内は、パニック状態に成った。

 血が腰迄入ってきた。
 バンッ、バンッガッシャガシャガシャ〜。
 運転手の梶尾が喉元を噛まれ、振り回された。
 エアーバックが膨らむ、鳴りっぱなしのクラクション、そして残り三人も急襲された。  致命所を幾度となく噛まれる。

後部の燃料補給口が開く。
 腐死人が蓋を開き、焚かれた発煙筒が直ぐに叩き込まれた。
 ドカーン、爆発、炎上。 備品が周囲に飛び、散らかる。
 トランクに座った腐死人が、タバコに火をつけ、最後に喋った。
「情報は、漏らしちゃ〜駄目よ。 タバコも吸い過ぎちゃ〜駄目よ。 フフフッ」
ウインクをしてタバコをふかし、血の池に燃えた車ごと沈んでいく。

 前が見えない程の豪雨は、午後八時十五分を過ぎても止む気配を感じさせなかった。
 中途半端な季節なので薄着気味の人は、身を縮めていた。

 ニースリーデポンは、十二階建ての四つ建物から出来ていた。
 中央にショッピングモール、それに対して左右・後ろに立体駐車場が並んでいた。

 その駐車場とショッピングモールは、六階の三つの掛け橋と外壁の端・中央をつたうH型エレベーターで移動が出来るように成っていた。 最新型である。
 またショッピングモールは、吹き貫けも出来る仕組みで十二階は、下も見えるし、周りも一望でき、日本海最大のデザイン建築物として、ローカルニュースや全国ネットでも取り上げられていた。

 健のパソコンが音もなく立ち上がる。
 そしてパソコンの原型が無くなる程 悪魔が、黒い顔や手を四方八方にもがき伸ばし、出て来た。
それは、苦しんでいるように見えていた。
 灯りのついたディスクトップに"これから実行する"と書かれ、"了解 任せた"とチャーミンから返事が来た。 メールが送信される。

 暗い事務所に精密なニースリーデポンの模型が有った。
 ピンポイントライトが当たる。

 ペタペタペタッ。 見えない悪魔が近付き、臭い色のついた息を吹きかける。

シンシア -6p-

 すると机上からブロック式(本物みたいな色付け)模型図が血塗られた、腐ったパラボラアンテナと共に上がってきた。

 志向センターポールが、ニースリーの建物に成っていた。
 ニースリーのHPが現れ、そしてパソコンに魔力が強制ダウンロードされた。

 好奇心旺盛な岡部美雪は、十一階で蝶の光に誘われて美術展に足を運んでいた。
 外とは、別世界で暖かく、時計が無く、心が落ち着くベージュと薄緑が使われている部屋だった。

 展内は、『モナリザ』や3D映像の宙に浮いた『自由の女神』やホログラフの『ラピュタ』『ネコバス』が浮遊していて芸術の枠を越えた世界だった。

「へー、たまには、いいものねっ、豪雨の時の雨宿りって。 私の為の貸し切り・・・ほほほほっ」
 シルバーフレームの眼鏡にモデルのプロポーション、美人家庭教師タイプの子だった。

 濃紺制服にスカートの美雪がある空間に目を止めた。
「あれっ、な〜に!?」
 床の一部が光ったのだった。
 気に成って、部屋の中央を確かめに歩み寄った。

 床には、一平方センチメートル位のダイヤの絵が描かれていた。
 興味深げに両膝を曲げ、右腕を伸ばし、人差し指の先で絵を触ってみた。
 すると虹の光が小さく広がり、三平方センチの絵に変わった。

「うわーっ」 小さな声を出し、驚いて目を見開いた。 笑みを浮かべた。 少女に成っていた。
 再度触れてみると、五センチのダイヤの絵に成り、ぼんやりと立体化し、フィルム状に。

『アラジンと魔法のランプ』のように舞い上がる。 踊る、ほほにキス、額にもキスをした。
 美雪は、目をつむり陶酔した。 心を許したのだった。
 フィルムは、一瞬にして黒光し、襲いかかった。
 シューシューと音を立てて口や鼻、体、足に幾重にも巻き付き、締め付けた。 ピクピクッ、ピクピクッと小刻みに動く。

 しかし、抵抗むなしく目がひっくり返った・・・。
 数秒で窒息死させられたのだった。
 床からプレートが上がってきた。
 タイトルは、『救いを求める人』
 横たわって右腕を伸ばし、手を開いている体勢の美雪だった。

 磨光ルージュは、アメリカの父と日本の母を持つクォーター(1/4)だった。
 功夫(クンフー)は、伯父さん(おじ)から教わっていた。
 身に付いたクンフーは、怪物達を次から次へと蹴り、殴り、倒し、消滅させていった。

 ある時は、ブルース・リー「アチョーオッ」、またある時は、ジャッキー・チェン「ハハァーッ、ハイハイッ、ハーッ」、またある時は、ジェット・リー「フッ、フー、フンッ」、と俳優のように多彩な技を繰り広げていた。

「さー、来い来いっ。 このキョンシーヤロー」 調子ついてもいた。
 血や肉、筋肉が躍動する。
 しかし、知らず知らずのうちに、腐死人は、いなく成っていた。 身構える。

「う〜ん。 ちぇっ、この程度か。 お前ら、この俺をおいて、いい気に成るなよっ。 フンッ」
 服やズボンの汚れを払い、ドアの方へ歩き始めた。

 強気な言葉を吐き捨て、部屋を出ようとした時だった。
「ね〜、まだ遊ぼうよっ。 貴方 強い奴 好きっ!?」 後ろから女の声がした。
 振り向くとチャイニーズルックの美女が立っていた。  
 思わず胸の谷間と腰まで切れたスリットに目がいく。

シンシア -7p-

魔口には、二匹ずつ植物型ゾンビが入っていて胴から上が外界に出ていた。
息つく暇も与えず六体がルージュに攻撃し続ける。 防御し、汗をかき、後退りをするしかなかった。
 左背中を切り裂く、左中指と小指を噛まれ、引きちぎられた。
 「うっ」
 左腕と右足をつかまれ、左側の首を噛まれた。
 「ゲ〜ッ、あアあアッ・・・」
綱引きされた。  叫ぶ暇を与えず胴体が真っ二つに引き裂かれた。
 グッシャキュ〜、プツ。  鈍く、変な、小さな音がする。
 口から血を吐き、即死させられた。 気が遠く成っていく。

「小バカにするからバチが当たるのよっ。 あ~あっ、床を汚しちゃって~。  フフッ」 ス~。
血が床に吸われ綺麗に無くなった。 
 可愛らしく美女は、首を傾けて微笑んでいた。 唇を右中指で拭く。

 ヤクザのやり手の若頭 早乙女 武士は、タバコをふかし、右手に銃を持って相手に向けていた。
「おい、そこに居るのは、判って居るんだよ。 早く出て来いよ。 関谷さん」
 落ちついた声に対して、落ちついた態度で ゆっくりと廊下から部屋の中央へ歩いて行く関谷 涼次刑事 二十七歳 だった。

「両手をゆっくりと上げて出て来いよ。 下手なマネをすると死ぬ事に成るよ・・・・・」
「・・・よっ、お久しぶり・・・」
「フフッ・・・」
「まっ、何を考えているのか判らないが、周りを見ても誰もいないし、俺を殺す事も出来るし」
「フフッ、面白いね〜」
「俺にも一服させてくれよ・・・ナッ」
「フフッ、いいだろう。 でも、ゆっくり動けよっ」

 両手でタバコとオイルライターを取り出し、一本取り 火をつけた。
「相変わらず、オイルの香りを楽しんでいるのか〜・・・フ〜、美味いね〜」
 互いに目を合わせて微笑んだ。

 「最後のは、美味いか」 改めて銃を構えた。
 キンキンッ、ブルブルブルー。 タバコの先が床に落ちる。 カンカラカン〜・・・・・・!?
 銃口の先も床に落ちた。 二人 眉をしかめ、床を見る。

 そして揃って二人共 天井を見た。 蛍光橙が有った。
 ドアがゆっくりと閉まる。
 行き成りドンヨリとした真っ黒い雲に変わり、生物みたいに動いた。 カシャ。 一瞬にして晴れる。    そこには、点対称の部屋があり、黒スーツの男がタバコを吸っていた。
 呆気に取られていた。

 ドアが開いて三人!? 入って来た。
 タバコを吸う。
 中国服の女とゾンビと羽と尾のある悪魔だった。
 話をしたりし、笑いながら一斉にタバコを吸い始める。

 キンキンキン、ナイフの通り雨に追われる破目に。
「うわっ」
「クソッ」
 パンパンパンッ、パリンパリンパシャー、銃を撃つ高柳。
 ドアを開けようとした。
「クソッ、バカな開かない」
「どいてろっ」
 ピンッ、手榴弾を投げた。
 ドアを破壊し、天井を見て出て行った。
 四人は、立って見送った。
「あ〜っ、私の蹴ったの〜」
 床には、槍のような長〜いヒールが刺さっていた。

 プロ級の技術を持っていた。 カウンター気味に右の拳が関谷のボディーブローに肝臓に入っていた。
「うううっ・・・」 ひざを付いた。
 間髪入れず左ショートフックを、関谷のあごに入れた。 一切 声を出させずに倒し寝かせる。

「チェッ、手間かかせやがってぇー、

迷 彩映 (mei saiei・メイ サイエイ)
作家:MNALI PADORA
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