シンシア

シンシア -3p-

「ダイエットをしないといけないかな〜、さ〜さっ、仕事仕事」
  そう言い残した悪魔は、コウモリに変わり、外から帰り、隊列から離れた健を探して急襲したのだった。

  既に右首には、一ミリ程の丸い跡が二つ付けられていた。
  片方には、ピンクをベースに緑とオレンジの葉を散らした宝石オパールともう一方では、鮮やかな青をベースに緑の小島と濃赤の根っこのトルコ石があった。

  六十度ずつ、円の左から黒くカウントダウンしていく。
「キュキュッ」 バタパタバタという音がした。 チクッ。

「うわっ・・・・・・!?」
  首を押さえた手を確認して健は、床に倒れた。
  見回りに戻って来た運転手と由実に声を掛けられ、支えられてバスに乗った。
  そして酔い止めの薬を飲まされて爆睡した健だった。

 山は、雪が溶けつつあり、墨絵のように成っていた。
  せっかくの休みだというのにウォーキングをしている人が多く目に付くと程だった。
  人口二十七万四千人、日本海側の陽炎県稲穂地方の高羽尾という健康推進都市をアピールをしている街である。 全国的には、豪雪地域で知られていた。

  近くに妙高、火打、焼山、南葉山なとが見え、名所として金谷山に日本スキー発祥の地のレルヒ像、春日山に戦国武将・上杉謙信の銅像、本城町に松平忠輝の復元されたミニ三重櫓、そして日本三大夜景の三千四百本の桜 ソメイヨシノがあり、ハスが回りを固めていた。

  この桜 今は、つぼみながらも満開に成ると九十万人もの人を魅了し、街を活性化させていた。

  お花見の時期に間に合わせるかのようにして、飲み屋街と新しい駅の間に"レスティング ガーデン(憩えるお庭)"『ニースリーデポン』が建てられ、街の繁栄が期待されていた。 
 新たなるチャレンジ、つまり、ショッピングデパートとショッピングモールを足して良い所だけを極力生かして上に伸ばした建造物だった。

 四月二日 日曜日 十二時五十分
  仕事時間や休み関係や人間関係等が、気に入らず仕事を辞め失業中の身の健だった。

  回りには、求人情報誌、パソコン、マウス、辞書なとが整理!?されて置いてあり、十八インチのテレビもあった。
「フ〜、ここ迄にしておこ〜とっ」
  テレビのボリュームを上げる。 本を読んでいたのだ。

  そして、くつろいで座椅子にもたれ掛かっている時だった。
「んっ、お〜、自衛隊の鼓笛隊か。 花見の時期か〜いいね〜シャバは、活気があって〜・・・・・・キ〜ン、ん〜また耳鳴りか〜・・・・・・!?」
  このところ度々起こり、気に成っていたのだ。
  回りの雑音が少しずつ消されていく、そして全ての音が消えた。

「うっ」
  心臓に行きなり槍が刺さったような痛みが。 手、腕、体、足、全機能が動かなく成った。
「あ〜・・・た・す・け・て・・・・・・」
  ガチャンと強制的に両目が閉ざされる。
「ふふふ〜、うるさいんだよ。 蘇らせて貰ったぜ」
  体は、蒼白く成り、凹凸を繰り返し、赤緑の瞳孔に成った。 目の回りが、濃紫でただれていた。

  悪魔マスターカードが何処からともなく出て来て舞いパソコンに侵入した。
・・・ピコ・・・。
  手や腕が千手観音に見えるように高速でキーが叩かれる。 〈実行〉 インターネット!?により、暗黒界が開通された。

「ゴーアーキーオーアー・・・・・・」
 「我は、食人鬼ラミアの末裔、新時代を造る。 "魅力”で獲物を捕える」
「いわゆるサラブレット、魅惑のカリスマ、悪魔王」
「通称シンシア チャーミン ラミア。  全てを喰らう」
  左掌を力いっぱい握り締める。

シンシア -4p-

 母子の会話だった。
  両目が上下に逆動し、首を振り画像を変えていく。 元に戻る。 現実の世界へ。
「うっ、お〜おっ。 俺、寝たっ。 疲れているのかな〜。 それとも季節的なもの!? もしかして三年寝太郎!?」
  目をパチクリさせる。

  一年経って一皮剥けた高校の元不良達が五人、居酒屋"竜宮城"でお花見と称して飲み初めてから一時間半、既に出来上がっていた。  皆ドリフの赤鬼ルックで漫才師並みに途切れる事なく喋っていた。

「あ〜あっ、酒は、上手いし、いい仲間で楽しいし、これって最高の贅沢っ」
「はは〜あったりめ〜だよ、このメンバーだぜっ」
「こんな可愛い不良いないぜっ!?」
「よく言う~よっ!?」
「な〜な〜、隣のビルくらい楽に壊せるよなぁ〜!?」
「お〜・・・ほっほ〜、お前一人でやってろっ、バ~カ!?」
「もう、お前らには、ついて行けね〜よっ・・・!?」
「ついて来てるよっ」
「フッ、そろそろ次にいこうぜっ」
  和人、健、悟、行二、大介は、会話に花が咲き、会計を終え、そとに出た。

  五人が人の間を紙一重ですり抜け、我が物顔で広いニースリーデポンの駐車場を横切って行った。
  黄色い三日月が一瞬、充血した悪魔の目に変わった。
「ンガルルル・・・・・・。 ネーネー、一緒に遊ぼうよぉー。 (刺激が欲しいんだろ、このザコども)」
と怪物の叫び声の後に可愛い声が、そして囁きやざわめき。  地震や豪雨が立て続けに人間を襲った。  (シャッフル)

  人々は、屋根を求めてビル街に入って行った。 采は、投げられゲームが始まったのだった。

  一階の奥の警備室では、たった一人残された木村哲男 二十七歳が金髪白人美女と悦楽の世界に身を投じていた。
  愛らしい声と微笑みとセクシーな赤い唇。  タイプの子だった。

 熱いキスを交わし合う。  彼女は、白いブラウスを脱ぎ、赤いナイフプリーフスカートも脱いだ。
「おーっ、ほっほー・・・・・・」  上から下まで舐めるように見渡しニンマリする。 もう木村は、欲求を止める事が出来なかった。
  純白のブラジャーとガーターベルトとパンティとストッキングを脱がす。

「あっ!うう〜ん。 はぁっ、ああああーっ。 あっ、はぁんっ。 はぁーあぁ〜ん〜・・・」
  豊満なバストを揉む、舐める、腰を動かす。 もだえる体、Sexyな声。 脳や性器に直に伝わる。
『快感』だった。

  ソファー、座位、騎乗位と体勢を変えて楽しんでいく。
  正常位で導かれるようにディープキスをした時だった。
  男の頬に女の両手が優しく優しく触った。 木村は、視界を無くした。

  女の背中側から、三メートル程の大きな赤黒い掌が二枚哲男を包むべく、ゆっくりと音も立てずに動き出していた。
  食中植物のハエトリソウのようだった。
「んっ、んんんんー、んっ・・・!?」

  絶頂を迎えて行った時、木村は、困惑をした。
  口が同化し、声が出せなかった。
  そして女から離れようとした時に見てしまった。
  斑点模様の内部に自分が居る事を!?。
  目を見開き、暴れまくった。

  しかし、抵抗むなしく胸腹部の割れ目に呑み込まれていった。 内部がバタバタする・・・・・・ゆっくりと消化していく。
「ふふつ、この建物、この×××も〜らったぁ〜」

  コントロールルームの操作盤を構い、タイマーをセットした。
  そして、数分後全てのシャッターは、下がり外界と遮断された。 とどめのような小爆破が起こる。 そこかしこで火花が散り続ける。

  キーッ、キキッ、キーッ、ガッシャーン。
  ニースリーデポンの地下駐車場で、

シンシア -5p-

タイヤの摩擦跡と無理な高音を響かせてシャッターをぶち破り、トキフネ自動車のライトゴールドの『ツタンカーメン』が、豪雨の外へ飛び出して行った。 
  社会現象を起こしていたG-DNAの"神のあやまち"が、車内の空気をつんざいていた。
「早く走れーっ、止まるなーっ、逃げろーっ」
  二十歳の四人は、慌てふためいていた。

  ビル街、ニュータウン、野原をひたすら走り続ける。
「何だったんだ。 あの光景は!?」
「狂ったように痛みが無いみたいに、抑制を外したみたいに大勢でナイフで刺しあってた!?」
「それに人間の溶けた姿干しの壁!?」
「止めろ、喋るなっ、忘れろっ・・・・・・」

  四人共タバコを吸って各々の世界に・・・・・・。
  煙が車内を舞う・・・・・・時間が経過する・・・・・・静かだった。
「んっ・・・!?」  ギューギュギュギュッ、ギュー。
「どうしたっ」
「タイヤが空回りしている」
四人が車内で目を合わす。

 パタパタッ、パタパタッ。  赤と緑の腐った腕が八本伸び、タイヤに手がピタリと付いていた。
 車のフロントが三十度傾き、血の池に沈み始める。「お〜っ、おいっ!?」
「おぉ〜・・・!?」
「わぁ〜・・・!?」
「げげっ!?」
車内は、パニック状態に成った。

 血が腰迄入ってきた。
 バンッ、バンッガッシャガシャガシャ〜。
 運転手の梶尾が喉元を噛まれ、振り回された。
 エアーバックが膨らむ、鳴りっぱなしのクラクション、そして残り三人も急襲された。  致命所を幾度となく噛まれる。

後部の燃料補給口が開く。
 腐死人が蓋を開き、焚かれた発煙筒が直ぐに叩き込まれた。
 ドカーン、爆発、炎上。 備品が周囲に飛び、散らかる。
 トランクに座った腐死人が、タバコに火をつけ、最後に喋った。
「情報は、漏らしちゃ〜駄目よ。 タバコも吸い過ぎちゃ〜駄目よ。 フフフッ」
ウインクをしてタバコをふかし、血の池に燃えた車ごと沈んでいく。

 前が見えない程の豪雨は、午後八時十五分を過ぎても止む気配を感じさせなかった。
 中途半端な季節なので薄着気味の人は、身を縮めていた。

 ニースリーデポンは、十二階建ての四つ建物から出来ていた。
 中央にショッピングモール、それに対して左右・後ろに立体駐車場が並んでいた。

 その駐車場とショッピングモールは、六階の三つの掛け橋と外壁の端・中央をつたうH型エレベーターで移動が出来るように成っていた。 最新型である。
 またショッピングモールは、吹き貫けも出来る仕組みで十二階は、下も見えるし、周りも一望でき、日本海最大のデザイン建築物として、ローカルニュースや全国ネットでも取り上げられていた。

 健のパソコンが音もなく立ち上がる。
 そしてパソコンの原型が無くなる程 悪魔が、黒い顔や手を四方八方にもがき伸ばし、出て来た。
それは、苦しんでいるように見えていた。
 灯りのついたディスクトップに"これから実行する"と書かれ、"了解 任せた"とチャーミンから返事が来た。 メールが送信される。

 暗い事務所に精密なニースリーデポンの模型が有った。
 ピンポイントライトが当たる。

 ペタペタペタッ。 見えない悪魔が近付き、臭い色のついた息を吹きかける。

シンシア -6p-

 すると机上からブロック式(本物みたいな色付け)模型図が血塗られた、腐ったパラボラアンテナと共に上がってきた。

 志向センターポールが、ニースリーの建物に成っていた。
 ニースリーのHPが現れ、そしてパソコンに魔力が強制ダウンロードされた。

 好奇心旺盛な岡部美雪は、十一階で蝶の光に誘われて美術展に足を運んでいた。
 外とは、別世界で暖かく、時計が無く、心が落ち着くベージュと薄緑が使われている部屋だった。

 展内は、『モナリザ』や3D映像の宙に浮いた『自由の女神』やホログラフの『ラピュタ』『ネコバス』が浮遊していて芸術の枠を越えた世界だった。

「へー、たまには、いいものねっ、豪雨の時の雨宿りって。 私の為の貸し切り・・・ほほほほっ」
 シルバーフレームの眼鏡にモデルのプロポーション、美人家庭教師タイプの子だった。

 濃紺制服にスカートの美雪がある空間に目を止めた。
「あれっ、な〜に!?」
 床の一部が光ったのだった。
 気に成って、部屋の中央を確かめに歩み寄った。

 床には、一平方センチメートル位のダイヤの絵が描かれていた。
 興味深げに両膝を曲げ、右腕を伸ばし、人差し指の先で絵を触ってみた。
 すると虹の光が小さく広がり、三平方センチの絵に変わった。

「うわーっ」 小さな声を出し、驚いて目を見開いた。 笑みを浮かべた。 少女に成っていた。
 再度触れてみると、五センチのダイヤの絵に成り、ぼんやりと立体化し、フィルム状に。

『アラジンと魔法のランプ』のように舞い上がる。 踊る、ほほにキス、額にもキスをした。
 美雪は、目をつむり陶酔した。 心を許したのだった。
 フィルムは、一瞬にして黒光し、襲いかかった。
 シューシューと音を立てて口や鼻、体、足に幾重にも巻き付き、締め付けた。 ピクピクッ、ピクピクッと小刻みに動く。

 しかし、抵抗むなしく目がひっくり返った・・・。
 数秒で窒息死させられたのだった。
 床からプレートが上がってきた。
 タイトルは、『救いを求める人』
 横たわって右腕を伸ばし、手を開いている体勢の美雪だった。

 磨光ルージュは、アメリカの父と日本の母を持つクォーター(1/4)だった。
 功夫(クンフー)は、伯父さん(おじ)から教わっていた。
 身に付いたクンフーは、怪物達を次から次へと蹴り、殴り、倒し、消滅させていった。

 ある時は、ブルース・リー「アチョーオッ」、またある時は、ジャッキー・チェン「ハハァーッ、ハイハイッ、ハーッ」、またある時は、ジェット・リー「フッ、フー、フンッ」、と俳優のように多彩な技を繰り広げていた。

「さー、来い来いっ。 このキョンシーヤロー」 調子ついてもいた。
 血や肉、筋肉が躍動する。
 しかし、知らず知らずのうちに、腐死人は、いなく成っていた。 身構える。

「う〜ん。 ちぇっ、この程度か。 お前ら、この俺をおいて、いい気に成るなよっ。 フンッ」
 服やズボンの汚れを払い、ドアの方へ歩き始めた。

 強気な言葉を吐き捨て、部屋を出ようとした時だった。
「ね〜、まだ遊ぼうよっ。 貴方 強い奴 好きっ!?」 後ろから女の声がした。
 振り向くとチャイニーズルックの美女が立っていた。  
 思わず胸の谷間と腰まで切れたスリットに目がいく。

迷 彩映 (mei saiei・メイ サイエイ)
作家:MNALI PADORA
シンシア
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