シンシア

シンシア -2p-

変換させていく。

 濃茶の建物ダークネスワールドに、どんどん吸い込まれて行った。
  客は、目の前の黒いカーテンの部屋で視的感覚を奪われた。
「キャーッ」
「オォーオッ、オッ、オッ」
「何も見えな〜いっ」
「コ〜ワッ」
  両手を伸ばして指先だけで探り始める。
(カーテンらしき物・・・・・・!?)
  掻き分けて出る。
「うわっ」
  突然の強い光が、両目を突いた。
  瞬時に目を細める。 右掌で光をさえぎる。
  カーテンから出ると先に出た人達が、こちらを見て楽しんでいた。
「いや〜、参りましたねっ」
  健もグループに加わり、気軽に見ず知らずの人と会話をし始めていた。
  そして、後から出て来た人々を笑顔で向かい入れる。

「うわ〜っ!?」
  回りの色々な場所で、同じ声が上がった。
  ダークネスワールド内は、白やゴールドをベースにした中世の白を思わせる、高級感のある造りに成っていた。
  美術館といっても、いい程だった。

  見映えする所で、天井絵、ステンドグラス、古めの地球儀、技術が高度な彫刻があった。
  壁や柱には、『ヴィーナスの誕生』や『最後の晩餐』や『バベルの塔』などの西洋絵画や聖画が、そして中央付近には、戦国時の戦っている人形、隣には、拷問の地獄絵図の人形館、また隣には、ドラキュラに例えられた人物達の等身大の彫刻像や頭だけの石像などの歴史物件が、飾られてあった。
  そして目的の城は、壁を隔てた一番奥の薄めの黒いカーテンの、その奥に見られるように成っていた。
  健は、回りを気にせず、人の間をぬって一番始めに"復元されたドラキュラ城"を見に向かった。

  未知の扉、薄黒のカーテン内に恐る恐るゆっくりと歩を進めて行く。 そして・・・・・・抜ける。
「オー、オオーッ。 スッ、凄いじゃん・・・・・・へーっ」
  そこには、右にドラキュラ城原寸大の廃墟の城の立体模型が、左には、本物のドラキュラ城跡の土と写真が置かれていた。
  目が止まっていた。
  魅了させられる。
  鼓動が早く成る。
  しかし、時の経過と共に脈拍が落ちていく・・・・・・冷えていく・・・・・・黒い瞳孔が動く。
「ふ〜ん・・・・・・。 トイレに行ってこ〜とっ」
  向きを変えて歩き始めた。

  不意に途中で非常口のノブが、目に止まった。
「開く訳、無いよな〜!?」
  カシャと音がする。 押す。
「へ〜っ、開くんだっ。 不用心だな〜、ここの人達は」
  外に出てタバコに火をつけて一本吹かした。
「あ〜うめ〜、フー」

  室内のドラキュラ城の土が、突然生き物みたいに盛り上がる。
  コロコロ、ザザザザー、ポトポトポト〜・・・・・・!?。
  そこには、頭に曲がった二本の角、焼け焦げた体と傷口から覗くワインレッド色の血、折り畳まれた怖気な翼、槍を付けた黒い尾、そして充血した目。

  悪魔が誕生し立っていた。 ポキッ、ボキポキッ、首を左右に曲げ、翼を広げ飛び立つ。
「ああ〜、オオ〜、おもっ、少し休み過ぎて太った!?」
  顔を下に向け、自らの体を見ていた。

 

シンシア -3p-

「ダイエットをしないといけないかな〜、さ〜さっ、仕事仕事」
  そう言い残した悪魔は、コウモリに変わり、外から帰り、隊列から離れた健を探して急襲したのだった。

  既に右首には、一ミリ程の丸い跡が二つ付けられていた。
  片方には、ピンクをベースに緑とオレンジの葉を散らした宝石オパールともう一方では、鮮やかな青をベースに緑の小島と濃赤の根っこのトルコ石があった。

  六十度ずつ、円の左から黒くカウントダウンしていく。
「キュキュッ」 バタパタバタという音がした。 チクッ。

「うわっ・・・・・・!?」
  首を押さえた手を確認して健は、床に倒れた。
  見回りに戻って来た運転手と由実に声を掛けられ、支えられてバスに乗った。
  そして酔い止めの薬を飲まされて爆睡した健だった。

 山は、雪が溶けつつあり、墨絵のように成っていた。
  せっかくの休みだというのにウォーキングをしている人が多く目に付くと程だった。
  人口二十七万四千人、日本海側の陽炎県稲穂地方の高羽尾という健康推進都市をアピールをしている街である。 全国的には、豪雪地域で知られていた。

  近くに妙高、火打、焼山、南葉山なとが見え、名所として金谷山に日本スキー発祥の地のレルヒ像、春日山に戦国武将・上杉謙信の銅像、本城町に松平忠輝の復元されたミニ三重櫓、そして日本三大夜景の三千四百本の桜 ソメイヨシノがあり、ハスが回りを固めていた。

  この桜 今は、つぼみながらも満開に成ると九十万人もの人を魅了し、街を活性化させていた。

  お花見の時期に間に合わせるかのようにして、飲み屋街と新しい駅の間に"レスティング ガーデン(憩えるお庭)"『ニースリーデポン』が建てられ、街の繁栄が期待されていた。 
 新たなるチャレンジ、つまり、ショッピングデパートとショッピングモールを足して良い所だけを極力生かして上に伸ばした建造物だった。

 四月二日 日曜日 十二時五十分
  仕事時間や休み関係や人間関係等が、気に入らず仕事を辞め失業中の身の健だった。

  回りには、求人情報誌、パソコン、マウス、辞書なとが整理!?されて置いてあり、十八インチのテレビもあった。
「フ〜、ここ迄にしておこ〜とっ」
  テレビのボリュームを上げる。 本を読んでいたのだ。

  そして、くつろいで座椅子にもたれ掛かっている時だった。
「んっ、お〜、自衛隊の鼓笛隊か。 花見の時期か〜いいね〜シャバは、活気があって〜・・・・・・キ〜ン、ん〜また耳鳴りか〜・・・・・・!?」
  このところ度々起こり、気に成っていたのだ。
  回りの雑音が少しずつ消されていく、そして全ての音が消えた。

「うっ」
  心臓に行きなり槍が刺さったような痛みが。 手、腕、体、足、全機能が動かなく成った。
「あ〜・・・た・す・け・て・・・・・・」
  ガチャンと強制的に両目が閉ざされる。
「ふふふ〜、うるさいんだよ。 蘇らせて貰ったぜ」
  体は、蒼白く成り、凹凸を繰り返し、赤緑の瞳孔に成った。 目の回りが、濃紫でただれていた。

  悪魔マスターカードが何処からともなく出て来て舞いパソコンに侵入した。
・・・ピコ・・・。
  手や腕が千手観音に見えるように高速でキーが叩かれる。 〈実行〉 インターネット!?により、暗黒界が開通された。

「ゴーアーキーオーアー・・・・・・」
 「我は、食人鬼ラミアの末裔、新時代を造る。 "魅力”で獲物を捕える」
「いわゆるサラブレット、魅惑のカリスマ、悪魔王」
「通称シンシア チャーミン ラミア。  全てを喰らう」
  左掌を力いっぱい握り締める。

シンシア -4p-

 母子の会話だった。
  両目が上下に逆動し、首を振り画像を変えていく。 元に戻る。 現実の世界へ。
「うっ、お〜おっ。 俺、寝たっ。 疲れているのかな〜。 それとも季節的なもの!? もしかして三年寝太郎!?」
  目をパチクリさせる。

  一年経って一皮剥けた高校の元不良達が五人、居酒屋"竜宮城"でお花見と称して飲み初めてから一時間半、既に出来上がっていた。  皆ドリフの赤鬼ルックで漫才師並みに途切れる事なく喋っていた。

「あ〜あっ、酒は、上手いし、いい仲間で楽しいし、これって最高の贅沢っ」
「はは〜あったりめ〜だよ、このメンバーだぜっ」
「こんな可愛い不良いないぜっ!?」
「よく言う~よっ!?」
「な〜な〜、隣のビルくらい楽に壊せるよなぁ〜!?」
「お〜・・・ほっほ〜、お前一人でやってろっ、バ~カ!?」
「もう、お前らには、ついて行けね〜よっ・・・!?」
「ついて来てるよっ」
「フッ、そろそろ次にいこうぜっ」
  和人、健、悟、行二、大介は、会話に花が咲き、会計を終え、そとに出た。

  五人が人の間を紙一重ですり抜け、我が物顔で広いニースリーデポンの駐車場を横切って行った。
  黄色い三日月が一瞬、充血した悪魔の目に変わった。
「ンガルルル・・・・・・。 ネーネー、一緒に遊ぼうよぉー。 (刺激が欲しいんだろ、このザコども)」
と怪物の叫び声の後に可愛い声が、そして囁きやざわめき。  地震や豪雨が立て続けに人間を襲った。  (シャッフル)

  人々は、屋根を求めてビル街に入って行った。 采は、投げられゲームが始まったのだった。

  一階の奥の警備室では、たった一人残された木村哲男 二十七歳が金髪白人美女と悦楽の世界に身を投じていた。
  愛らしい声と微笑みとセクシーな赤い唇。  タイプの子だった。

 熱いキスを交わし合う。  彼女は、白いブラウスを脱ぎ、赤いナイフプリーフスカートも脱いだ。
「おーっ、ほっほー・・・・・・」  上から下まで舐めるように見渡しニンマリする。 もう木村は、欲求を止める事が出来なかった。
  純白のブラジャーとガーターベルトとパンティとストッキングを脱がす。

「あっ!うう〜ん。 はぁっ、ああああーっ。 あっ、はぁんっ。 はぁーあぁ〜ん〜・・・」
  豊満なバストを揉む、舐める、腰を動かす。 もだえる体、Sexyな声。 脳や性器に直に伝わる。
『快感』だった。

  ソファー、座位、騎乗位と体勢を変えて楽しんでいく。
  正常位で導かれるようにディープキスをした時だった。
  男の頬に女の両手が優しく優しく触った。 木村は、視界を無くした。

  女の背中側から、三メートル程の大きな赤黒い掌が二枚哲男を包むべく、ゆっくりと音も立てずに動き出していた。
  食中植物のハエトリソウのようだった。
「んっ、んんんんー、んっ・・・!?」

  絶頂を迎えて行った時、木村は、困惑をした。
  口が同化し、声が出せなかった。
  そして女から離れようとした時に見てしまった。
  斑点模様の内部に自分が居る事を!?。
  目を見開き、暴れまくった。

  しかし、抵抗むなしく胸腹部の割れ目に呑み込まれていった。 内部がバタバタする・・・・・・ゆっくりと消化していく。
「ふふつ、この建物、この×××も〜らったぁ〜」

  コントロールルームの操作盤を構い、タイマーをセットした。
  そして、数分後全てのシャッターは、下がり外界と遮断された。 とどめのような小爆破が起こる。 そこかしこで火花が散り続ける。

  キーッ、キキッ、キーッ、ガッシャーン。
  ニースリーデポンの地下駐車場で、

シンシア -5p-

タイヤの摩擦跡と無理な高音を響かせてシャッターをぶち破り、トキフネ自動車のライトゴールドの『ツタンカーメン』が、豪雨の外へ飛び出して行った。 
  社会現象を起こしていたG-DNAの"神のあやまち"が、車内の空気をつんざいていた。
「早く走れーっ、止まるなーっ、逃げろーっ」
  二十歳の四人は、慌てふためいていた。

  ビル街、ニュータウン、野原をひたすら走り続ける。
「何だったんだ。 あの光景は!?」
「狂ったように痛みが無いみたいに、抑制を外したみたいに大勢でナイフで刺しあってた!?」
「それに人間の溶けた姿干しの壁!?」
「止めろ、喋るなっ、忘れろっ・・・・・・」

  四人共タバコを吸って各々の世界に・・・・・・。
  煙が車内を舞う・・・・・・時間が経過する・・・・・・静かだった。
「んっ・・・!?」  ギューギュギュギュッ、ギュー。
「どうしたっ」
「タイヤが空回りしている」
四人が車内で目を合わす。

 パタパタッ、パタパタッ。  赤と緑の腐った腕が八本伸び、タイヤに手がピタリと付いていた。
 車のフロントが三十度傾き、血の池に沈み始める。「お〜っ、おいっ!?」
「おぉ〜・・・!?」
「わぁ〜・・・!?」
「げげっ!?」
車内は、パニック状態に成った。

 血が腰迄入ってきた。
 バンッ、バンッガッシャガシャガシャ〜。
 運転手の梶尾が喉元を噛まれ、振り回された。
 エアーバックが膨らむ、鳴りっぱなしのクラクション、そして残り三人も急襲された。  致命所を幾度となく噛まれる。

後部の燃料補給口が開く。
 腐死人が蓋を開き、焚かれた発煙筒が直ぐに叩き込まれた。
 ドカーン、爆発、炎上。 備品が周囲に飛び、散らかる。
 トランクに座った腐死人が、タバコに火をつけ、最後に喋った。
「情報は、漏らしちゃ〜駄目よ。 タバコも吸い過ぎちゃ〜駄目よ。 フフフッ」
ウインクをしてタバコをふかし、血の池に燃えた車ごと沈んでいく。

 前が見えない程の豪雨は、午後八時十五分を過ぎても止む気配を感じさせなかった。
 中途半端な季節なので薄着気味の人は、身を縮めていた。

 ニースリーデポンは、十二階建ての四つ建物から出来ていた。
 中央にショッピングモール、それに対して左右・後ろに立体駐車場が並んでいた。

 その駐車場とショッピングモールは、六階の三つの掛け橋と外壁の端・中央をつたうH型エレベーターで移動が出来るように成っていた。 最新型である。
 またショッピングモールは、吹き貫けも出来る仕組みで十二階は、下も見えるし、周りも一望でき、日本海最大のデザイン建築物として、ローカルニュースや全国ネットでも取り上げられていた。

 健のパソコンが音もなく立ち上がる。
 そしてパソコンの原型が無くなる程 悪魔が、黒い顔や手を四方八方にもがき伸ばし、出て来た。
それは、苦しんでいるように見えていた。
 灯りのついたディスクトップに"これから実行する"と書かれ、"了解 任せた"とチャーミンから返事が来た。 メールが送信される。

 暗い事務所に精密なニースリーデポンの模型が有った。
 ピンポイントライトが当たる。

 ペタペタペタッ。 見えない悪魔が近付き、臭い色のついた息を吹きかける。

迷 彩映 (mei saiei・メイ サイエイ)
作家:MNALI PADORA
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