危険なビキニ

             危険なビキニ 

 

 その日の午後3時を少し過ぎたころ、安田はリノに誘われティールームにやってきた。安田は、特に文句を言われることはやっていないと確信していたが、なぜか不安が込み上げてきた。対面して腰掛けるとリノがにらみつけてきた。これはヤバイと思った安田は、先制攻撃に出た。「おい、何だよ。俺が何をしたっていうんだ。俺は、神に誓って浮気はしていません。信じてくれよ~」突然の弁解にリノは噴出した。「バ~~カ、何言ってんの。そんなことじゃないの。ゆう子のことよ。ほら、8月のデートのこと。思い出してよ。ゆう子のビキニ」安田は、1回生の大家とのデートを誰かにチクられたのではないかとビクビクしていた。そのことではないことがわかり、ホッとした。

 

 「ゆう子のビキニがどうかしたのか?でも、ゆう子も結構大胆だよな~~。イサクのヤツ、よだれをたらして股間をジロジロ見てたぞ。さぞかし目の保養になったんじゃないか」リノは、目を吊り上げて安田をにらみつけた。「何言ってんの。そのビキニがいけないんじゃない。何よあの三角ビキニ。あれが、学生が着るビキニなの。熟女じゃあるまいし。みっともないったらありゃしない。いったい何を考えてるのやら」安田は、リノが言っている意味がよくわからなかった。「俺は、いいともうがな~~。チョ~~セクシーだったぞ。似合ってたと思うがな。ゆう子は、今はやりのビキニって言ってた。いいんじゃないか?あれって、へんか?」

 

 リノは呆れた顔で安田を見つめた。何かリノを怒らせるようなことを言ったのではないかと思い安田は身を引いた。男子は根っからのスケベと思ったリノはあきれてしまった。「まったく、男子ってのは、スケベなんだから。あのね~~そのセクシーってのがいけないっていうの。ちょっと考えればわかるじゃない。あんなセクシーな三角ビキニを見せられたら、イサクはどう思う?俺に気があるんだな、セックスOKってことだな、って思うはずよ。そうでしょ。そうじゃない?」安田は、自分が思っていたことをリノが発言したことに驚きを隠せなかった。「リノもそう思うか。俺もだ。だから、必死になって、デートを阻止したんだが、ゆう子のヤツ」

 

 


 腕組みをしたリノの顔は夜叉となっていた。「全く、どういうつもりなの。あんなんじゃ、次のデートでやられるな。まったく、能天気なんだから。ヤマト撫子も、地に落ちたもんだわ。バシッと、お仕置きをせねば」別にお仕置きってこともないと思い、なだめるように声をかけた。「いやま~~、そう、いきり立つこともないだろう。ゆう子は、軽い女子じゃないし。セックスは、バシッと断るんじゃないか?」何言ってんのという顔付きで安田をにらみつけた。「バカね~~。女子はイケメンに弱いんだから。甘い言葉を信じて、きっとやられる。イケメンの秀才よ。とにかく、何らかの策を練らないと。もうそろそろ、やって来ると思うんだけど」リノは、窓から南側の広い駐車場を見つめた。

 

 安田は、これ以上何を言っていいかわからなくなった。こんなに怒り狂ったリノを見たことがなかった。5分ほど沈黙が続くとリノが声を上げた。「あ、やっと来た。ほら、見て、スウィッシュ」安田は、駐車場に目をやると玄関正面にある駐車場から歩いてくるジーパン姿のゆう子が見えた。「ゆう子じゃないか。噂をすればなんとやら」リノがすぐに返事した。「何言ってんの。お仕置きするために、呼びつけたのよ。ガッツリ、お灸をすえてやるから、覚悟しなよ」リノは立ち上がり、玄関にかけていった。お仕置きが待っていることを知らないゆう子は、無邪気な笑顔で手を振っていた。ゆう子を迎えたリノは、笑顔でティールームに案内した。嵐の前の静けさを思わせていた。

 

 ゆう子がテーブルに着くと安田は、なるべく場を和らげようと明るい声で話しかけた。「スウィッシュ、どう調子?乗りやすいか?」リノの右横に腰掛けたゆう子は、笑顔で返事した。「とっても、乗りやすい。お母さんも買い物には最適って言ってた。女子でも取り回しできる重量で、バランスもナイス。思い切って買ってよかった。安田に、感謝」スズキ・スウィッシュはスズキ特約店の安田自動車が勧めたスクーターだった。「そうか。そうほめてもらうとうれしいよ。とにかく、安全運転で頼むな。事故でも起こされたら、俺の責任になるからな。まあ、ゆう子だったら、大丈夫だろ~」怒りを抑えたリノの気持ちを和らげようとワハハ~~と安田は大きな笑い声をあげた。だが、リノの表情には笑顔は起きなかった。

 

 


 リノは右側のゆう子をじろっと見つめた。目を吊り上げたリノの顔を見たゆう子は一瞬身を引いたが、怪訝な顔で質問した。「そういえば、話ってなに?リノ」怒りを抑えたリノは、ゆっくりと諭すように話し始めた。「この前のデートのことよ。いったいどういうつもりなのか、聞きたいと思って」ゆう子には質問の意味が全く分からなかった。首をかしげたゆう子は返事した。「8月のダブルデートのこと?それがどうしたっていうの?ダブルデートは安田が考えたことじゃない。私は、別にどうでもよかったのよ。どうしてもって、安田が言うから、しぶしぶ承諾したんだから。文句言うなら、安田に言ってよ」

 

 一瞬安田の顔が引きつったが、リノが間髪入れずに話し始めた。「ダブルデートのことを言ってんじゃないの。ゆう子のビキニのことよ。あのビキニはどういうことなのかって、言ってんの」ゆう子は、ビキニが似合わなかったといわれていると思い即座に反論した。「私が選んだから、それでいいじゃん。今はやりの三角ビキニなんだから。店員さんに、すっごく似合いますよ~~って言われたから、買ったんじゃない。かわいいと思うんだけどな~~。何か文句あんの?」

 

 リノは、口をとがらせて反撃した。「どこがかわいいの。あのね~~、あんなひも付きの三角ビキニっていうのは、熟女が着るものよ。処女の女子が着るようなビキニじゃないわよ。処女なら処女らしいヴァージンビキニを着ればいいのよ。私だって、ゆう子のことを考えて、ちょっとダサ目のビキニを着たんだから」ゆう子は予想しなかったビキニの話に困惑した。処女にふさわしいビキニがあるなど考えてもいなかった。「それって偏見じゃない。処女がひも付きを着ちゃいけないっていう常識でもあるの?初めて聞いた。リノ、変なひがみはよしてよ」

 

 


 目を吊り上げたリノは、今にも噛みつきそうに大きく開けた口で叫び始めた。「何がひがみよ。ひも付きのビキニって、どう意味か分かってんの?イサクの目を見たら、わかんでしょ。どこ見てたと思うの。あのスケベなまなざし。あのビキニってのは、セックスOKって、言ってるのと同じってこと。わかる?全く、鈍感なんだから」セックスOKと軽い女のように言われたゆう子は、目を丸くして金魚のように口をパクパクさせていた。気を取り直したゆう子は、一呼吸おいて話し始めた。「セックスOKって、どういう意味よ。ビキニとセックスは関係ないじゃない。イサクも、かわいいって、言ってくれたんだから。変な言いがかりはよしてよ。もう、リノって、変態じゃないの。イサクはまじめな紳士よ。イスラエルで選抜されたエリート留学生よ。セックスのことなんか、考えないわよ」

 

 リノはあきれ返っていた。ゆう子が男子のことが全く分かっていないということは承知していたが、ここまでパ~プリンだとは思わなかった。少しバカにしたような口調でリノは話し始めた。「あのね~~、イサクは紳士なんかじゃないの。ゆう子にはわかんないかもしれないけど、あの目は、間違いなくプレイボーイ。マジスケベ。そんなんじゃ、次のデートで、きっとやられる。ゆう子が、あんなプレイボーイが好きだとはね。ヤマト撫子も地に落ちたもんだわ」イサクのことを紳士と思っていたゆう子は、真っ赤な顔で反論した。「何言ってんの。イサクは、秀才で紳士よ。英語も教えてくれるやさしい学生よ。プレイボーイじゃないわよ。言っとくけどね~~、あくまでもデートであって、セックスOKなんかじゃないわよ。まったく、失礼しちゃうわ」

 

 リノは、ここまでバカだと子供に諭すように話す以外ないと母親の気持ちで話すことにした。「あのね~~、ゆう子。男子ってものは、生まれながらにしてスケベなの。この世に紳士なんていないの。どんなにイケメンでやさしくて秀才でも、それは単なるカモフラージュに過ぎないの。心はセックスのことしか考えてないの。次のデートでは、きっとバリトンボイスの甘い言葉でホテルに誘われるから。ボ~~としてたら、ベッドの上。許してしまったら、あとは、適当に捨てられるだけ。捨てられた女は、男にしがみつく。運が悪いと、いいように利用されて、ヤクでも打たれて、悲劇の人生。わかった?」

 

 


サーファーヒカル
作家:春日信彦
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