危険なビキニ

 ゆう子は、神妙な顔つきで鳥羽を迎えに玄関に向かった。鳥羽はゆう子の顔を見ると笑顔であいさつした。「ゆう子先輩、お久しぶりです。お元気そうで何よりです。会食できるなんて、夢のようです」苦笑いしたゆう子は、ティールームに鳥羽を案内した。鳥羽がテーブルに着くとほどなくしてリノと安田がかけてやってきた。安田が声をかけた。「よ、突然呼び出してすまん。リノが、ご馳走したいっていうもんだから」腰掛けたリノは、笑顔で鳥羽に話しかけた。「鳥羽君が、いつも手伝ってくれるから、本当に助かってるの。今日は、そのお礼にご馳走するわ」鳥羽は、イセエビの生き造りや佐賀牛のステーキのご馳走を思い出した。「ありがとうございます。さすが太っ腹の若女将。いつでもお手伝いします。任せてください」

 

 ニコッと笑顔を作ったリノは、早速、本題に入ることにした。「今日は、ご馳走のほかに、プレゼントがるの。腰を抜かさないでよ」プレゼントと聞いた鳥羽は、目を輝かせて話し始めた。「うれしいな~~。プレゼントですか。僕は、男手一つで育てられたから、プレゼントなんてもらったことがないんです。ワクワクするな~~」リノはかしこまった表情を作り、鳥羽を見つめ話し始めた。「腰を抜かさないでね、プレゼントというのは、ついに、鳥羽君は、ゆう子の彼氏になれるんですぅ~~。おめでとう~~」リノは、パチパチパチと笑顔で拍手した。鳥羽は、リノの言っている彼氏の意味が、全く分からなかった。首をかしげた鳥羽は、問い返した。「彼氏って、どういう意味ですか?ゆう子先輩から、何も聞いていませんが。僕は、彼氏じゃなくて、ファンなんですけど」

 

 リノは、ゆう子に振り向き小さくうなずいた。「今日から、鳥羽君はゆう子の彼氏になるの。ゆう子、そうよね」ゆう子は、小さくうなずきうつむいた。鳥羽は、彼氏になれるといわれても、納得がいかなかった。「彼氏ですか?ファンの間違いですよね、ゆう子先輩」ゆう子は、何と言って返事していいかわからず、リノに振り向いた。「びっくりするのも当然よね。まあ、彼氏といっても、ちょっと普通の彼氏じゃないんだけどね。まあ、何と言っていいか~、お願いといっていいか~、ま~、ある事情があって、鳥羽君に彼氏の役をやってほしいの。ダメかな~~。いやだったら、いいのよ」

 

 

 


 神妙な顔つきになった鳥羽は、しばらく口を開かなかった。バカにされたと鳥羽は怒り狂うに違いない、と思ったゆう子と安田は、目をつぶってじっとうつむいていた。しきりに瞬きしていた鳥羽は、内心うれしかった。たとえ一時的な彼氏役でも、ゆう子姫の彼氏になれるのだったら、喜んで引き受ける気持ちになった。鳥羽は、びっくり箱から飛び出したピエロのような笑顔を作り、元気な声で返事した。「いや、いやだなんて。ゆう子先輩の彼氏役に抜擢(ばってき)されるとは、一生に一度の幸運です。誠心誠意、全力をもってやらせていただきます。よろしく、お願いいたします」ホッとしたゆう子は、緊張が一気に消えた。安田は、あきれた顔で鳥羽を見つめた。「そうか、やってくれるか。主役だぞ。よかったな~~」

 

 鳥羽は首をかしげて尋ねた。「いったい、どういうことなんです?彼氏役ということは、誰かに僕を紹介するということですよね」リノが即座に返事した。「さすが、天才鳥羽君。そうなのよ。ほら、鳥羽君もしっている、イケメンのイサク。イサクが、ゆう子に付きまとってくるのよ。ストーカーみたいに。だから、ゆう子には、ちゃんと、彼氏がいるって、見せつけたいのよ」鳥羽は、イサクと聞いて、怒りが込み上げてきた。顔を真っ赤にした鳥羽は、選手代表のように大声で宣誓した。「あのユダヤのイサクですか。全く、けしからんヤツだ。ヤマタイコクのゆう子姫を略奪しようなんて、もってのほか。僕が彼氏になった限り、指一本触れさせません。安心してください、ゆう子姫」

 

 ちょっと勘違いしているように思えたリノは、マジになった鳥羽にくぎを刺した。「鳥羽君。あくまでも、彼氏役だからね。彼氏じゃないのよ。そう、張り切らなくてもいいんだけど」鳥羽は、胸を張って応えた。「わかってますとも、若女将。彼氏でなく、彼氏役です。光栄なる役職を授かり、感謝いたしております。だからこそ、命を懸けてゆう子姫をお守りする所存です。イサクに一度会った時から、うさん臭いヤツだと思っていたんです。イサクといい、ヤコブといい、何を企んでいるのか。きっと、ヤツらの化けの皮をひん剥いてやる。今に見てろ」

 

 

 

 

 

 


  鳥羽の話を聞いて、安田もヤコブへの不信感が沸き起こった。安田はヤコブたちをモサドだと信じていたが、次第に不信感が募ってきた。モサドへの誘いはいったい何だったのか?と疑問に思い始めた。高額の報酬も不自然に思えてきた。バカな学生をモサドに誘うことに疑問を感じていた安田は、鳥羽の考えに興味がわいてきた。「おい、ヤツらは、モサドだといっていたが、本当だろいうか?確かに秀才だと思うんだが、俺も、何か裏があるように思えてならん。ヤツらは、詐欺師かも?」鳥羽は、大きくうなずき返事した。「ヤコブたちは、紳士で秀才です。だからといって、頭から信用しないほうがいいと思います。ヤコブの目つきは、只者ではありません」

 

 リノが不安げな顔で質問した。「イサクとか、ヤコブって、イスラエルの留学生じゃないの?」鳥羽は、自分の直感を話すことにした。「あくまでも、憶測ですが、彼らは、マフィアとつながりがあるんじゃないかと思うんです。今、日本には優秀なマフィアが全国各地に潜伏しているという噂があるんです。学生に成りすましたマフィアがいてもおかしくはないのです。先輩、ヤツらの言動には、十分警戒したほうがいいと思います。いずれ、きっと、甘い言葉を使って先輩にアクションをかけてくるはずです」マフィアという意外な言葉が耳に入ると安田の鼓動が激しくなった。ヤコブの話を思い返せば返すほど、不自然さを感じ始めた。

 

  


                    AI脳兵士

 

 毎週土曜日に定例ミーティングが行われていたが、今週はイサクのマンションで行うことになっていた。98日(土)、午後7時少し前に、生物兵器開発プロジェクトリーダーのヤコブは、AI兵器開発プロジェクトリーダーのイサクのマンションにやってきた。リビングで二人は今後の活動について話し始めた。キリマンを一口すすったヤコブはイサクに尋ねた。「地下研究所建設の進捗(しんちょく)状況のほうはどうなんだろう?」イサクは、今朝、本部から入手した情報をの述べた。「来年の夏ごろには、O研究所とK研究所の二つは、稼働できる見通しらしい」ヤコブがうなずき応答した。「日本に地下研究所を作れば、アジアを制覇できたも同然だな。いったい誰が想像しただろう。AIが脳操作兵器に利用されるとは。俺も、まさかAIがここまで進化するとは思わなかった。人間を最強兵器にできるのも時間の問題だな」

 

 イサクがうなずき話を続けた。「大統領と幹部議員をコントロールできれば、国家を自由自在に操作できるわけだからな。全く、AIには恐れ入った」ヤコブがワハハ~~と笑い声をあげたが、即座に、鋭いまなざしでイサクを見つめた。「あとは、優秀な科学者を集めるだけだ。でも、ちょっと気になることがある。あの天才ブサイクだ。あいつの目は、俺たちを疑っている。しかも、安部教授の子分と来てる。万が一、俺たちに接近してきたら、要注意だ。俺たちの素性に感づいたのかもしれん。イサク、ゆう子も油断ならんぞ。彼女の様子もおかしい。とにかく、ヤマト民族を甘く見るとこっちがやられる。俺たちは、ヤマト民族について研究不足だったような気がする。石橋をたたく気持ちで事を運ばねば」

 

 眉間にしわを寄せ考え込んでいたイサクが口を開いた。「とにかく気になるのは、ブサイクと謎の安部教授だ。安部教授は、AI兵器開発と米露中相手に兵器売買を行っている桂コーポレーションとつながっている。ということは、だれも潜入できないという魔界島での研究に彼もかかわっているのではなかろうか?」ヤコブが、一瞬顔をしかめ、つぶやいた。「とにかく、ブサイクには要注意だ。イサク、ゆう子にも油断するんじゃないぞ」イサクが小さくうなずいた。「承知した。俺たちは、日本の優秀な若い科学者を集めることに専念すればいい。でも、ブサイクは、実にもったいない人材だ。俺たちの仲間に入れることができれば、きっと、役に立つんだが」


春日信彦
作家:春日信彦
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