危険なビキニ

  鳥羽の話を聞いて、安田もヤコブへの不信感が沸き起こった。安田はヤコブたちをモサドだと信じていたが、次第に不信感が募ってきた。モサドへの誘いはいったい何だったのか?と疑問に思い始めた。高額の報酬も不自然に思えてきた。バカな学生をモサドに誘うことに疑問を感じていた安田は、鳥羽の考えに興味がわいてきた。「おい、ヤツらは、モサドだといっていたが、本当だろいうか?確かに秀才だと思うんだが、俺も、何か裏があるように思えてならん。ヤツらは、詐欺師かも?」鳥羽は、大きくうなずき返事した。「ヤコブたちは、紳士で秀才です。だからといって、頭から信用しないほうがいいと思います。ヤコブの目つきは、只者ではありません」

 

 リノが不安げな顔で質問した。「イサクとか、ヤコブって、イスラエルの留学生じゃないの?」鳥羽は、自分の直感を話すことにした。「あくまでも、憶測ですが、彼らは、マフィアとつながりがあるんじゃないかと思うんです。今、日本には優秀なマフィアが全国各地に潜伏しているという噂があるんです。学生に成りすましたマフィアがいてもおかしくはないのです。先輩、ヤツらの言動には、十分警戒したほうがいいと思います。いずれ、きっと、甘い言葉を使って先輩にアクションをかけてくるはずです」マフィアという意外な言葉が耳に入ると安田の鼓動が激しくなった。ヤコブの話を思い返せば返すほど、不自然さを感じ始めた。

 

  


                    AI脳兵士

 

 毎週土曜日に定例ミーティングが行われていたが、今週はイサクのマンションで行うことになっていた。98日(土)、午後7時少し前に、生物兵器開発プロジェクトリーダーのヤコブは、AI兵器開発プロジェクトリーダーのイサクのマンションにやってきた。リビングで二人は今後の活動について話し始めた。キリマンを一口すすったヤコブはイサクに尋ねた。「地下研究所建設の進捗(しんちょく)状況のほうはどうなんだろう?」イサクは、今朝、本部から入手した情報をの述べた。「来年の夏ごろには、O研究所とK研究所の二つは、稼働できる見通しらしい」ヤコブがうなずき応答した。「日本に地下研究所を作れば、アジアを制覇できたも同然だな。いったい誰が想像しただろう。AIが脳操作兵器に利用されるとは。俺も、まさかAIがここまで進化するとは思わなかった。人間を最強兵器にできるのも時間の問題だな」

 

 イサクがうなずき話を続けた。「大統領と幹部議員をコントロールできれば、国家を自由自在に操作できるわけだからな。全く、AIには恐れ入った」ヤコブがワハハ~~と笑い声をあげたが、即座に、鋭いまなざしでイサクを見つめた。「あとは、優秀な科学者を集めるだけだ。でも、ちょっと気になることがある。あの天才ブサイクだ。あいつの目は、俺たちを疑っている。しかも、安部教授の子分と来てる。万が一、俺たちに接近してきたら、要注意だ。俺たちの素性に感づいたのかもしれん。イサク、ゆう子も油断ならんぞ。彼女の様子もおかしい。とにかく、ヤマト民族を甘く見るとこっちがやられる。俺たちは、ヤマト民族について研究不足だったような気がする。石橋をたたく気持ちで事を運ばねば」

 

 眉間にしわを寄せ考え込んでいたイサクが口を開いた。「とにかく気になるのは、ブサイクと謎の安部教授だ。安部教授は、AI兵器開発と米露中相手に兵器売買を行っている桂コーポレーションとつながっている。ということは、だれも潜入できないという魔界島での研究に彼もかかわっているのではなかろうか?」ヤコブが、一瞬顔をしかめ、つぶやいた。「とにかく、ブサイクには要注意だ。イサク、ゆう子にも油断するんじゃないぞ」イサクが小さくうなずいた。「承知した。俺たちは、日本の優秀な若い科学者を集めることに専念すればいい。でも、ブサイクは、実にもったいない人材だ。俺たちの仲間に入れることができれば、きっと、役に立つんだが」


 ヤコブは、顔をゆがめ返事した。「確かにブサイクは、天才だ。でも、ブサイクだけには、気を許すな。ちょっとした言動から、素性がばれる。ヤツは、安部教授に逐一俺たちのことを報告しているかもしれん。もしかしたら、ゆう子も安部教授とつながっているかもしれん。ゆう子とブサイクは、高校時代からの友達というじゃないか。とにかく、油断は、禁物だ。そう、安部教授は、病院建設予定地として九州の土地を買い占めている。まさか、桂コーポレーションに依頼されて、病院の地下にAI兵器開発研究所を作るつもりじゃないだろうか?その代償として、多額の研究費を得ているのでは?」

 

 イサクは、大きくうなずいた。「それは、考えられる。桂コーポレーションは、AI兵器のパイオニアだ。俺たち以上の研究をやっていてもおかしくない。もしかしたら、安部教授は、桂コーポレーションから得た多額の研究費で天才遺伝子開発をしてるのでは?」生物兵器開発プロジェクトリーダーのヤコブが興味を示し即座に質問した。「どういうことだ?」イサクはうなずいた。「俺たちも議論していた頃があったじゃないか。グリア細胞を活性化させるニューロンの形成だ。そして、IQ1000の超天才科学者を作り出そうというわけだ。でも、そう簡単に解決される課題ではない。安部教授でも、時間のかかる研究だ」顔を紅潮させたヤコブは、語気を強めて話し始めた。「その研究は、俺もやりたい。でも、本部の命令は、AI脳兵士開発だ。安部教授がうらやましいよ」

 

 イサクはヤコブをなだめるように返事した。「脳の研究をしているヤコブの気持ちはわかる。でも、何度も言うように、生物学的に不可能なことに時間をかけるより、AIとニューロンをリンクさせたAI脳を開発したほうが、兵器として利用できる。とにかく、一刻も早く、AI脳の完成に向けて研究を進めよう。そのためにも、科学者を九州に集結させなければ」一度うなずいたヤコブだったが、未練がましく話を続けた。「確かにAIの脳への利用は、実用的だ。だが、ニューロンをもっと利用するためにグリア細胞をいかに活用するかの研究も大切だ。俺は、この研究にこだわりたい」


 イサクは、また同じことを繰り返しているとあきれた顔で返事した。「ヤコブの悔しい気持ちはよくわかる。だが、俺たちは、不可能に近いことに費やす時間はない。世界をユダヤ帝国にするには、まずは、人間を操作できなければならない。そのためには、一刻も早くAI 脳を開発することじゃないか?ヤコブ」ヤコブは、納得がいかない表情だったが、大きくうなずいた。「そうだな。俺たちは、結果を出さなければならない。まずは、政治家たちの脳をコントロールして国家を操作すること。そして、地球を支配するユダヤ帝国をつくること。そういっているイサクこそ、ゆう子に惚れて、裏切者になるんじゃないぞ」

 

 心のゆるみを突かれたイサクは、顔をゆがめて頭をかいた。気まずそうな顔でイサクは話し始めた。「いや~、痛いところを突かれた。あ、そう、腰を抜かすような話があるんだ。今週の火曜日に、偶然、ゆう子と校門前で出会ったんだ。8月のデートで攻略できそうな気がしたもんだから、ゆう子をデートに誘おうと思い、9日、日曜日の予定を聞いたんだ。ところが、デートの約束があるというんだ。その相手というのが、だれだと思う、あのブサイクなんだ。青天の霹靂とはこのことを言うんだな。全く、自分の耳を疑ったよ」ヤコブが、ワハハ~~と笑い声をあげた。「それって、冗談だろう。まさか、あんなブサイクが、彼氏?それはない、ゆう子は、アイドルだろ。冗談がすぎないか」

 

 イサクは、首をかしげて返事した。「いや、俺も、冗談だと思いたいさ。でも、鳥羽とは、高校から付き合っているんだとさ。ヤマト撫子の心は、なぞだな。まったく、まいるよ」ヤコブが、腕組みをして考え込んだ。何かひらめいたかのような顔で話し始めた。「おい、ちょっと警戒したほうがいいぞ。もしかすると、ブサイクは俺たちに接近しようとしているのかもしれん。イサク、ゆう子にも、要注意だ」イサクもマジな顔つきになり返事した。「いや、俺もうかつだった。確かに、ゆう子に関しては、油断していたような気がする。ところで、ゆう子の友達だという鳥羽なんだが、実に興味ある人物だ。ヤツは、姫島という孤島で生まれている。しかも、幼少のころに母親は失踪し、その後は漁業で生計をたたていた父親の男手一つで育てられた。さらに不運なことに、中学3年生の時に、父親も漁に出たまま失踪している」

 

 


春日信彦
作家:春日信彦
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