危険なビキニ

 ヤコブは、身を乗り出し大きな目をむき出して耳を傾けていた。「ほう~、まさしく、ミステリアスなヤツだ。かわいそうな気もするが。ほかには?」イサクは、低い声で淡々と話を続けた。「そして、なぜか、当時、担任をしていた小柳ルミ子教諭が、彼を養子として引き取り、糸島高校に進学させている。また、高校2年生の時、数学オリンピックで金メダルを取っている。現在、安部医科大学に在籍しているが、安部教授が特待生として入学させている。まったく、謎の天才だな」ヤコブは、何度もうなずき真剣なまなざしで聞き入っていた。「孤島の天才か。まさにミステリアスなヤツだ。それにしても、あんな孤島に天才が生まれるだろか?父親は、漁師だろ~、漁師の子が天才だとはな~~」

 

 イサクが、思い出したような表情で話し始めた。「いや、言い忘れていた。彼の父親は、漁師だったが、Q大の理学部で物理を専攻している。まあ、秀才ではあるわけだ。はっきりしたことはよくわからないんだが、学生時代、革マル派の彼は、過激な革命運動をやっていたらしい。いつごろからかは、はっきりしないが、姫島にやってきて、漁師になったということだ。姫島では、青年団のリーダー的存在だったらしい。そう、肝心なことを言い忘れていた。噂らしいんだが、結婚後5年たっても、子供ができないといって近所に愚痴をこぼしていたらしい。ところが、志摩総合病院で不妊治療をしたところ、突然、妊娠したらしい。生まれた子が、天才ブサイクだ。これも、奇妙なことだ」

 

 日本人離れした鳥羽を思い浮かべていたヤコブは、ますます彼の素性に興味がわいた。「志摩総合病院か。ということは、その時、安部教授がかかわっていたと考えても不思議ではない。安部教授は、脳外科医であり、遺伝子研究の第一人者だ。となれば、失踪したという母親は、遺伝子操作実験に利用された可能性もある。その結果、誕生したのがブサイクということだ。そう考えても、決して不可思議ではない。いや、その可能性は高い。天才でブサイク。肌はライトブラウン、筋肉はしなやかで強靭。どう考えてみても、ヤマト民族の遺伝子ではない。きっと、遺伝子操作がなされている。だから、あんな孤島で天才が生まれたんだ。イサク、安部教授は、とんでもないことをやってるぞ」

 


 イサクも日本人離れした鳥羽の姿を想像していた。遺伝子操作で何かの異変が起きブサイクな顔の天才が誕生したに違いない。安部教授は、東京だけでなく糸島という片田舎に医科大学と総合病院を建設している。これも何か謎めいている。やはり、桂コーポレーションがかかわっているのか。鳥羽は、安部教授の弟子だ。ということは、安部教授の研究にも携わっているに違いない。ならば、研究内容について何らかの情報を持っているはず。「まったく、鳥羽といい、安部教授といい、不思議な連中だ。ちょっとあくどいやり方だが、鳥羽をひっ捕まえて、安部教授の研究について吐かせてみるか?」

 

 ヤコブは、即座に返事した。「まあ、そんなことをしても無駄だな。たとえ、拷問を受けたとしても、俺たちにゲロすることはないだろう。ヤツは、そこいらの学生たちとは訳が違う。安部教授に操作されているロボットのようなものだからな」イサクも納得した表情で本来の使命を口にした。「そうだな。余計な寄り道をしている時間はない。一刻も早く、九州を第二のイスラエルにしなければ。そのためには、日本の同志を増やし、彼らをモルモットとして利用することだ。ところでヤコブ、ユダヤAIチップの右脳への設置はうまくいきそうなのか?」

 

 ヤコブは、ほぼ人体実験の段階に入ったことを説明することにした。「ユダヤAIチップは完成している。あとは、右脳に設置するだけだ。問題は、アウトプットさせる左脳がAIの信号に従って正確に機能するかなんだ。右脳は機械で左脳は生物だ。この関係が正常に機能してくれるかは、人体実験して見なければわからない」イサクは、うなずき人体実験の計画を尋ねた。「人体実験に日本人を使う予定なんだな。安田と三島も」ヤコブは、顔を左右に振った。「いや、しばらくは、彼らには設置しない。彼らは、ベンチャー企業で働いてもらい、優秀な若者を採用してもらう。採用された若者から、特に優秀な人物に実験する。AIを設置された被験者は、IQ10000の頭脳を持つことになる」


 イサクは、「フュ~~」と口笛を鳴らし、笑顔を作った。「AIと頭脳のコラボか。IQ10000の天才AI脳兵士の誕生ってわけか。素晴らしい。人類史上、最強の天才兵士となるわけだな。でも、天才AI脳兵士がユダヤを裏切るということはないだろうな?」ヤコブは、右口元を引き上げ、少し不安げな表情で答えた。「右脳のAIは、ユダヤAI言語にしたがって作動する。だが、左側半分は、生物の脳だ。その生物脳が突然、ユダヤに反抗することも想定しておいかなければならない」イサクは、不安げな表情で尋ねた。「万が一、AI脳兵士が、ユダヤに反抗した場合、どういう対応をするんだ。AI脳兵士はIQ10000の超天才だぞ。俺たちだって、到底太刀打ちできる相手じゃない」ヤコブは、小さくうなずき返事した。「万が一のことを想定し、AI脳コントローラーで右脳のAIに命令を出す」

 

 イサクは、身を乗り出して尋ねた。「いったい、どんな命令を?」ヤコブは、一呼吸おいて答えた。「左脳へ高電圧を流す命令だ。つまり、左脳のシナプスを破壊する。一瞬にしてシナプスは破壊される。ユダヤにしたがわないAI脳兵士は、脳死してもらう。これが、最も効率的なAI脳兵士の活用だ」イサクは、目を丸くしてうなずいた。「なるほど。ユダヤAI脳兵士が完成すれば、ユダヤ帝国も実現するということだな。実に愉快だ」ヤコブは、大きくうなずき話を続けた。「地球だけではない、宇宙もユダヤが支配できる。ユダヤAI脳兵士は、宇宙に飛び立ち、宇宙基地を建設していく。もはや、宇宙は、ユダヤのものとなる」

 

 イサクは、即座に立ち上がりサイドボードに向かった。「さあ、祝杯をあげようじゃないか。ユダヤ宇宙帝国を祝って」イサクは部屋中いっぱいに張りのあるバリトンボイスを響かせた。そして、二つのグラスを左手にナポレオンを右手にわしづかみにした。ニヤッと笑顔を作り声をかけた。「ホ~ラよ」イサクは、右手のナポレオンをヤコブに向かって放り投げた。ナイスキャッチしたヤコブに向かって右手の親指を立て、ソファーに腰掛けると二つのグラスをテーブルに並べた。イサクは、グラスにコクコクコクッとブランデーを注ぐとヤコブに差し出した。「さあ、乾杯だ」二人はグラスを手に取り持ち上げるとカキ~~ンとグラスを響かせた。

 

 

 

 

 


 イサクは、突然、ソロモンからのメールを思い出した。「そう、T大のソロモンが915日、土曜日に福岡にやってくる。何か、朗報があるみたいだ。楽しみだな」ヤコブは、笑顔で応答した。「そうか。スカウトリストの報告だな。三人で解析しようってわけか。ワクワクするな。そうだ、はるばる博多にやってくるんだ、中州にでも案内して、遊ばせてやるか。あいつ、女には目がないからな。きっと、鼻血ブ~~で喜ぶぞ」ヤコブのワハハ~~という大きな笑い声が響いた。「きっと、噴水のような潮吹きは初めてじゃないか。プラチナのローズ・コジマを紹介してやろう」イサクもワハハ~~とバリトンボイスを響かせた。

 


春日信彦
作家:春日信彦
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