ガンプラの日

神隠し

 

 1123日(水)勤労感謝の日、早朝、突然、亜紀の姿が消えた。休日の日でも、いつもならば、7時に起床して、8時には、朝食を食べるためにスパイダーとピースを連れて1階に降りてきた。だが、今朝は、815分になっても亜紀はキッチンに姿を現さなかった。まだ眠っていると思ったアンナは、2階に上がる階段の入口から、亜紀の部屋めがけて、「さっさと、食べなさい」とヒステリックな怒りを爆発させた。

 

いくら叫んでも降りてこない亜紀にムカついたアンナは、叩き起こそうとガニ股でドタドタと階段を駆けあがって行った。そして、鬼の形相になったアンナは、ドアを勢いよく押し開け部屋に飛び込んだ。ところが、部屋の中は、ひんやりと静かで人がいる気配がまったくなかった。部屋の中をグルッと見渡したが、亜紀の姿はなかった。一瞬、初めての出来事にアンナは固まってしまった。

 

ドアを開ける音で目が覚めたのか、ベッドの上に大の字に寝転がっていたピースが、ピクッとドアの方を振りむき、ピョコンと立ち上がり、ヒョイとベッドを飛び降りてアンナの足元まで歩いてきた。話しかけても通じないとは分かっていたが、不安のあまりつい尋ねた。「ピース、アキは?一緒に寝ていたんじゃないの?」ピースは、身体をアンナの足に体をこすりつけニャ~ンと鳴いただけだった。

徐々に、鼓動が激しくなってきたアンナは、飛び移るようにして隣のスパイダーの部屋のドアを素早く開いた。ドアを開けた途端、フロアをウロウロ駆けまわっていたスパイダーがワンと吠えた。お腹がペコペコのスパイダーは、しっぽをフリフリ、アンナに跳びかかった。スパイダーの頭をよしよしとなでながら「アキ、知らない?」と同じように尋ねたが、そんなことよりご飯、ご飯と言っているかの如く、部屋を飛び出していった。いったいどこに隠れたの?と思いながら、じっくりと部屋の隅々まで見渡してみた。でも、この部屋にも亜紀の姿はなかった。

 

鳥羽は昨日から安田の家に泊まっていることを思い出し、もしかしてと思い、ヒョイと振り向き、向かいの鳥羽の部屋のドアを勢いよく押し開けた。だが、そこにも亜紀の姿はなかった。念のために納戸にしている部屋も覗いたが、やはり、亜紀の姿はなかった。2階のすべての部屋のどこにも亜紀の姿はなかった。いったいどこに隠れたのかしら、と思い小走りで階段を下りて行った。

 

トイレに隠れているのではと思い、ワッと言ってトイレのドアを勢いよく開いた。そこにも亜紀の姿はなかった。かくれんぼにもほどがあるわ、とムカついたアンナは、「さっさと、出てきなさい。食べないんだったら。朝抜きにするわよ~~」と大きな声で叫んだ。それでも、亜紀の返事は返ってこなかった。亜紀に何かあったのでは、と胸騒ぎが起きた。いったいどこに?まさか、誘拐?顔をブルブルと左右に振り、不吉な予感を払いのけた。

 

もう一度、アキ、アキと叫んだが、亜紀の返事は一向に返ってこなかった。突然、頭が真っ白になりパニクッたアンナは、アキ、アキ、と宇宙のかなたまで響き渡るような大声で叫びながら、廊下をドタドタと駆けまわった。悲鳴のようなアンナの声にびっくりした拓実は、キッチンで棒立ちになっていた。「ママ、ママ」拓実は、今にも泣きだしそうな声で叫んだ。

 

アンナは、拓実を見つめると怒鳴るように声をかけた。「アキ、アキを見なかった。アキが、いないの」拓実は、怒られているようで、ワ~~ンと泣き声をあげてアンナの右脚にしがみついた。「泣かないで、ママが悪かった。アキがいないの。ごめんね。タクミ」ちょっと冷静になったアンナは、テーブルに置いていたスマホを手に取り、素早くSAYAKA

にタッチした。ハイ、とさやかの声が返ってくると悲鳴のような声で叫んだ。「いないの、アキが。どうしよう。いないのよ」

 

さやかは、いったい何のことやらさっぱりわからず、問い返した。「アンナ、落ち着いて。いったい、どうしたの。アキがいないって?」アンナは、胸に手を当て、大きく深呼吸した。「さやか、聞いて。アキがいないのよ。朝から、家のどこにも、いないの。どこに行ったのかしら。まさか、誘拐されたんじゃ」さやかもちょっと不安になった。亜紀が無断で外出したことは、今まで一度もなかった。もしかして、神隠しにあったのではと不安になった。「アンナ、落ち着くのよ。とにかく、すぐに行くから。待ってて」亜紀の失踪の件は、後でドクターにメールすることにして、さやかは、化粧もせず看護師寮を飛び出した。

いてもたってもいられなくなったアンナは、屋外も探すことにした。拓実をダッコしたアンナは、顔を真っ赤にして公園に駆けて行った。拓実をベンチにポンと置いたアンナは、公園の中央にかけて行き、顔を東側から南側へと回転させながら叫んだ。「アキ~~、アキ~~、どこなの~~。アキ~~」アンナの甲高い声は、公園中に響き渡ったが、亜紀からの返事は帰ってこなかった。必死になって叫ぶアンナを見ていた拓実は、勢いよくベンチに立ち上がり、両手をメガホンのようにして渾身の力で、オネ~~チャ~~ン、オネ~~チャ~~ンと叫んだ。

 

公園から大通りまでくまなく大声でアキ、アキ、と叫んで探しまわったが、それでも亜紀は見つからなかった。「ママ、オネ~チャン、どこに行ったの?」真っ青になっていたアンナは、震える唇で答えた。「あのバカ、どこよ。アキったら、かくれんぼしてるのよ。さっさと出てくればいいのに。困ったもんだわ。タクミ、帰りましょう」アンナは、拓実に心配をかけないように平静さを保って返事した。ヒョイと拓実を抱えたアンナは、頬を膨らませ、自宅に向かった。でも、言葉と裏腹にアンナの心臓は、胸を突き破らんばかりにバックバックと鼓動していた。

 

朝ごはんにありつけなかったピースは、ふてくされてソファーに寝ころび、おなかペコペコのスパイダーは、ご飯はまだか、ご飯はまだか、とキッチンをウロウロ駆け回っていた。玄関ドアが開く音がキッチンまで響くとピースの耳がピクピクっと動いた。スパイダーは、その音を聞くや否やガシガシと音をたて玄関めがけて廊下をかけて行った。拓実をダッコしたアンナがキッチンにやってくると、ピースはピョコンとソファーから飛び降りて、アンナの足元に駆け寄った。

サーファーヒカル
作家:春日信彦
ガンプラの日
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