ガンプラの日

いてもたってもいられなくなったアンナは、屋外も探すことにした。拓実をダッコしたアンナは、顔を真っ赤にして公園に駆けて行った。拓実をベンチにポンと置いたアンナは、公園の中央にかけて行き、顔を東側から南側へと回転させながら叫んだ。「アキ~~、アキ~~、どこなの~~。アキ~~」アンナの甲高い声は、公園中に響き渡ったが、亜紀からの返事は帰ってこなかった。必死になって叫ぶアンナを見ていた拓実は、勢いよくベンチに立ち上がり、両手をメガホンのようにして渾身の力で、オネ~~チャ~~ン、オネ~~チャ~~ンと叫んだ。

 

公園から大通りまでくまなく大声でアキ、アキ、と叫んで探しまわったが、それでも亜紀は見つからなかった。「ママ、オネ~チャン、どこに行ったの?」真っ青になっていたアンナは、震える唇で答えた。「あのバカ、どこよ。アキったら、かくれんぼしてるのよ。さっさと出てくればいいのに。困ったもんだわ。タクミ、帰りましょう」アンナは、拓実に心配をかけないように平静さを保って返事した。ヒョイと拓実を抱えたアンナは、頬を膨らませ、自宅に向かった。でも、言葉と裏腹にアンナの心臓は、胸を突き破らんばかりにバックバックと鼓動していた。

 

朝ごはんにありつけなかったピースは、ふてくされてソファーに寝ころび、おなかペコペコのスパイダーは、ご飯はまだか、ご飯はまだか、とキッチンをウロウロ駆け回っていた。玄関ドアが開く音がキッチンまで響くとピースの耳がピクピクっと動いた。スパイダーは、その音を聞くや否やガシガシと音をたて玄関めがけて廊下をかけて行った。拓実をダッコしたアンナがキッチンにやってくると、ピースはピョコンとソファーから飛び降りて、アンナの足元に駆け寄った。

拓実をテーブルにつかせ、アンナもイラつく気持ちを抑えて腰をドスンと落とした。どこに行ったの?どこに行ったの?と何度も心の中でつぶやいた。ふと、拓実に目をやると、お腹がペコペコだったのか、上手にスプーンを使って黙々とコーンフレークを食べていた。ニャ~~ン、ニャ~~ンと甘えるような鳴き声とワンワンと吠えるおねだりの声が、いらだつ心に響いてきた。

 

そうか、まだだったか、と我に返ったアンナは、さっと立ち上がり、ピースには低炭水化物のシンプリーキャットフード、スパイダーには無添加のモグワンドッグフードを食べさせた。お腹いっぱいになったピースは、ソファーに寝転がり、アキちゃん、早く来ないかな~~、と退屈そうな顔でつぶやき、モフモフさせながら亜紀が現れるのを待った。スパイダーは食後の散歩に出かけたかったが、誰も、散歩に連れて行ってくれないので、しょうがなく、廊下をウロウロしていた。

 

ピースとスパイダーにとって、食後、亜紀と戯れない時間は初めてであった。ピースは、話し相手としては不服だったが、スパイダーに声をかけた。「スパイダー、ちょっとこっちにおいでよ。話があるから。さあ」スパイダーは、またお説教と思いのらりくらりとソファーに近づいて行った。ピースは、マジな顔つきになってスパイダーに話しかけた。「今日は、変じゃない。亜紀ちゃんが、どこにもいない。どうしたんだろうね。お友達のうちにでも、遊びに行ってるのかしら」

スパイダーは、亜紀ちゃんのことだと分かり、ホッとして気軽に返事した。「亜紀ちゃんは、子供なんだから、遊びに行ってるに決まってるじゃないか。でも、僕たちにご飯も食べさせずに遊びに行くとは、残酷だね。やっぱ、人間の子供って、こんなもんなのかな~~」ピースは、亜紀ちゃんは思いやりのある子供だと信じていた。「ちょっと、亜紀ちゃんは、そんな子供じゃないわよ。いつもかわいがってくれるし、ご飯も食べさせてくれてるでしょ。何か事情があって、出かけたのよ。もうしばらくしたら、帰ってくるかも」

 

首をかしげたスパイダーは、ヒゲをピクピクッとさせ、ニコッと笑顔を作り返事した。「ってことは、お土産があるってことだね。ヤッター、今日はご馳走が食べられるってことだな。早く、亜紀ちゃん、帰ってこないかな~~」また食べることしか考えてないとあきれたピースだったが、朝の様子を考えてちょっと心配になっていた。「でも、今朝の大騒ぎは、何だったんだろうね。アキ、アキって、ママが叫んでいたでしょ。あれって、どういうことかしら?」

 

スパイダーは、犬の吠える習慣から判断して答えた。「猫にはわからないのかい。犬が吠えるように、人間も大きな声を出すんだよ。亜紀ちゃんがいないから、元気良く、大きな声で呼んだってことだよ」ピースは、ちょっと納得がいかなかった。「でも、どうして、子供を呼ぶのにあんなに大騒ぎするんだろうね。人間って、やっぱ、猫とは違うみたいね。猫なんか、子猫がいなくなっても、泣き声を頼りに黙って探して、見つけたら首をくわえて運ぶんだけどね。あんなに、大騒ぎしても、見つからないと思うんだけど」

能天気なスパイダーは、ワンと言って答えた。「ピースは、考え過ぎじゃないか。そもそも、人間と動物は違うんだ。特に、人間は、コトバという変な声を発するからな~。その点、亜紀ちゃんは、ワンとかニャ~~とか言わなくても、僕たちの気持ちをちゃんとわかってくれるから、気が楽だよ。あの甲高い声を発するオニママは、何をしでかすかわかっものじゃない。この前なんか、元気に廊下を走っただけで、僕のお尻をピシャッて叩いたんだ。わけわかんないよ。早く、亜紀ちゃん、帰ってこないかな~」

 

スパイダーは、やはりアホだとピースは思った。「分かってないわね~、人間には人間のオキテってものがあるのよ。廊下は、走っちゃいけないの。わたしなんか、足音を立てずに、忍者のように歩いているのよ。見習ったらどう。つまり、人間のオキテに逆らったから、ママにお尻ペンペンされたんでしょ。これからは、もっと、静かに歩きなさい。犬って、ヤッパ、野蛮ってことかしら」

 

バカにされたスパイダーは、ピースをにらみ付けた。「何を言ってるんだ。犬は、動物の中で一番、健全なる精神を持っているんだ。猫と一緒にされちゃ、迷惑だ。人間のオキテかなんだか知らないが、そのオキテが間違ってるんじゃないか。犬ってものは、健康のために走り回っているんだ。健全(けんぜん)なる精神は健全なる身体(しんたい)に宿(やど)る、っていうじゃないか。ゴロゴロ寝ころんでテレビを見てるような人間は、すぐに痴呆症(ちほうしょう)になって、早死にするに決まっている」

サーファーヒカル
作家:春日信彦
ガンプラの日
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