ガンプラの日

拓実をテーブルにつかせ、アンナもイラつく気持ちを抑えて腰をドスンと落とした。どこに行ったの?どこに行ったの?と何度も心の中でつぶやいた。ふと、拓実に目をやると、お腹がペコペコだったのか、上手にスプーンを使って黙々とコーンフレークを食べていた。ニャ~~ン、ニャ~~ンと甘えるような鳴き声とワンワンと吠えるおねだりの声が、いらだつ心に響いてきた。

 

そうか、まだだったか、と我に返ったアンナは、さっと立ち上がり、ピースには低炭水化物のシンプリーキャットフード、スパイダーには無添加のモグワンドッグフードを食べさせた。お腹いっぱいになったピースは、ソファーに寝転がり、アキちゃん、早く来ないかな~~、と退屈そうな顔でつぶやき、モフモフさせながら亜紀が現れるのを待った。スパイダーは食後の散歩に出かけたかったが、誰も、散歩に連れて行ってくれないので、しょうがなく、廊下をウロウロしていた。

 

ピースとスパイダーにとって、食後、亜紀と戯れない時間は初めてであった。ピースは、話し相手としては不服だったが、スパイダーに声をかけた。「スパイダー、ちょっとこっちにおいでよ。話があるから。さあ」スパイダーは、またお説教と思いのらりくらりとソファーに近づいて行った。ピースは、マジな顔つきになってスパイダーに話しかけた。「今日は、変じゃない。亜紀ちゃんが、どこにもいない。どうしたんだろうね。お友達のうちにでも、遊びに行ってるのかしら」

スパイダーは、亜紀ちゃんのことだと分かり、ホッとして気軽に返事した。「亜紀ちゃんは、子供なんだから、遊びに行ってるに決まってるじゃないか。でも、僕たちにご飯も食べさせずに遊びに行くとは、残酷だね。やっぱ、人間の子供って、こんなもんなのかな~~」ピースは、亜紀ちゃんは思いやりのある子供だと信じていた。「ちょっと、亜紀ちゃんは、そんな子供じゃないわよ。いつもかわいがってくれるし、ご飯も食べさせてくれてるでしょ。何か事情があって、出かけたのよ。もうしばらくしたら、帰ってくるかも」

 

首をかしげたスパイダーは、ヒゲをピクピクッとさせ、ニコッと笑顔を作り返事した。「ってことは、お土産があるってことだね。ヤッター、今日はご馳走が食べられるってことだな。早く、亜紀ちゃん、帰ってこないかな~~」また食べることしか考えてないとあきれたピースだったが、朝の様子を考えてちょっと心配になっていた。「でも、今朝の大騒ぎは、何だったんだろうね。アキ、アキって、ママが叫んでいたでしょ。あれって、どういうことかしら?」

 

スパイダーは、犬の吠える習慣から判断して答えた。「猫にはわからないのかい。犬が吠えるように、人間も大きな声を出すんだよ。亜紀ちゃんがいないから、元気良く、大きな声で呼んだってことだよ」ピースは、ちょっと納得がいかなかった。「でも、どうして、子供を呼ぶのにあんなに大騒ぎするんだろうね。人間って、やっぱ、猫とは違うみたいね。猫なんか、子猫がいなくなっても、泣き声を頼りに黙って探して、見つけたら首をくわえて運ぶんだけどね。あんなに、大騒ぎしても、見つからないと思うんだけど」

能天気なスパイダーは、ワンと言って答えた。「ピースは、考え過ぎじゃないか。そもそも、人間と動物は違うんだ。特に、人間は、コトバという変な声を発するからな~。その点、亜紀ちゃんは、ワンとかニャ~~とか言わなくても、僕たちの気持ちをちゃんとわかってくれるから、気が楽だよ。あの甲高い声を発するオニママは、何をしでかすかわかっものじゃない。この前なんか、元気に廊下を走っただけで、僕のお尻をピシャッて叩いたんだ。わけわかんないよ。早く、亜紀ちゃん、帰ってこないかな~」

 

スパイダーは、やはりアホだとピースは思った。「分かってないわね~、人間には人間のオキテってものがあるのよ。廊下は、走っちゃいけないの。わたしなんか、足音を立てずに、忍者のように歩いているのよ。見習ったらどう。つまり、人間のオキテに逆らったから、ママにお尻ペンペンされたんでしょ。これからは、もっと、静かに歩きなさい。犬って、ヤッパ、野蛮ってことかしら」

 

バカにされたスパイダーは、ピースをにらみ付けた。「何を言ってるんだ。犬は、動物の中で一番、健全なる精神を持っているんだ。猫と一緒にされちゃ、迷惑だ。人間のオキテかなんだか知らないが、そのオキテが間違ってるんじゃないか。犬ってものは、健康のために走り回っているんだ。健全(けんぜん)なる精神は健全なる身体(しんたい)に宿(やど)る、っていうじゃないか。ゴロゴロ寝ころんでテレビを見てるような人間は、すぐに痴呆症(ちほうしょう)になって、早死にするに決まっている」

ピースは、減らず口を叩くスパイダーに愛想をつかし、いつもの忠告をした。「何回言ってもわかんないのね。郷(ごう)に入(い)りては 郷(ごう)に従(したが)え、っていうでしょ。人間と共同生活するんだから、人間に合わせるのが、スジってものじゃないかしら。あんまり人間に立てついてると、ご飯食べさせてもらえなくなるかもよ。それでも、いいの?」スパイダーは、ピョンと飛び上がり、顔をブルブルと左右に振った。「そんな~~、それって、イジメじゃないか。亜紀ちゃんは、絶対、そんなことはしないさ。僕は、信じてるもん」

 

ピースは、スパイダーの減らず口と付き合っているうちに亜紀ちゃんが現れないかと期待していたが、亜紀の姿はいまだ現れなかった。「それにしても、亜紀ちゃん、どうしたのかしら。ママとケンカして、家を出ていちゃったのかしら。あのママって、ちょっとキモイから」スパイダーもうなずいて答えた。「そうだよな~~。あのオニみたいなママにいじめられたに違いない。あのオニママをやっつけようか」

 

短絡的思考のスパイダーにあきれたピースは、たしなめるように返事した。「ちょっと、そんなに見かけだけで決めつけちゃダメ。あのママは、キモイけど、優しいところもあるじゃない。二人の仲は良くないようだけど、かわいいアキちゃんをイジメたりしないわよ。もうちょっと、待ってみましょう。とにかく、廊下を走り回らずに、お座りして、待っていなさい、分かった」

サーファーヒカル
作家:春日信彦
ガンプラの日
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