ホワイトレディー

ケイは、少し心配になってきた。「カワイ~白いハトって、これからイジメられるんじゃない。黒いカラスからだけでなく、腹黒い人間からも。人間んって、私たちみたいに純潔じゃないでしょ。だから、かわいくて、真っ白で、純潔の私たちをねたむと思うの。怖くなってきた。きっと、白いハトは、腹黒い人間に皆殺しにされるわ。そして、ブサイクな白いカラスを平和のシンボルにすり替えるに違いないわ」

 

ミーは、子供たちに聞こえるほど大きな声で諭すように話し始めた。「ケイ、そんなに怖気つくことはないわよ。カワイ~私たちは、子供たちという強い見方がいるじゃない。子供たちは、ちゃんと分かっているのよ。白いハトが平和のシンボルだってことを。でも、あんな、ブサイクな白いカラスが、これから増えると思うと、気味が悪いわね。いやだわ~、寒気がしてきた」

 

ケイも、ブルブルと身震いした。おなかがすいたミーとケイが我が家に帰ろうと翼を少し持ち上げたとき、ゴホン、ゴホン、と大きな咳払いが頭上に響き渡った。二羽が、右上に目をやると、祈念像の頭上で、今うわさしていた白いカラスが腕組みをして二羽をにらみつけていた。キャ~~、ケイが悲鳴を上げた。そのとき、白いカラスは、やさしく声をかけた。「ちょっと、君たち。自分勝手な解釈は、いかんな~。俺は、君たちに危害を加えるつもりもないし、ねたみもまったくない。そんなに、怖がることはない」

ミーは、さっきは言い過ぎたと思い、即座にペコペコ頭を下げた。「ごめんなさい。悪気はなかったんです。ごめんなさい、許してください」ミーとケイは、何度も、ペコペコと頭を下げた。ブサイクな白いカラスは、とにかく誤解をとくことにした。「ま~ま~、そんなに、頭を下げられても困る。君たちが誤解するのも、もっともだ。こんな白いハトのような白いカラスは、この世の中で、俺一羽だからな」白いカラスは、ワハハハと大声で笑った。

 

ミーは、ほんの少しほっとしたが、ケイは、まだ、ブルブルと震えていた。ミーは、とにかく謝ることにした。「ブサイクだなんて、取り消します。優しい方なんですね」誤解された白いカラスは、自己紹介をすることにした。「まあ、俺を見て、びっくりしないハトは、いないさ。俺は、江戸からやってきた白いカラスさ。両親は、黒いんだが、なぜか、俺だけは、白いんだ。まあ、突然変異というか、奇形というか、俺にはよくわからん。つまり、俺は、ハトじゃない。正真正銘のカラスだ。だからといって、人間のように、ハトを食うほど下品じゃない」

 

ケイには、奇妙な白いカラスは、なんとなくやさしそうに思え、食われることはなさそうで、ほっとした。ケイが、勇気を出して話しかけた。「こちらはミー、私はケイ。カラスさんのお名前はなんとおっしゃるのですか?」問いかけられた白いカラスは、ほんの少し笑顔を作り答えた。「名前というほどではないが、友達の猫は、俺のことを風来坊と呼んでいる。江戸からやってきた旅ガラスだから、そんなところじゃないか」

ミーとケイは、まだ、賢そうな白いカラスが信用できなかったが、話せば分かり合えるように思えた。カラスは、雑食だから、ハトを食べないとも限らなかったが、万が一襲いかかってきたならば、一目散に逃げる心積りはしていた。ハトたちは、カラスが鳥類の中では、もっとも賢く、残虐であることを知っていた。人類をアホ~、アホ~、とののしり、鬱憤晴らしに、原発めがけてフンの爆弾を投下していた。

 

ミーは、口調の優しい風来坊に少し関心がわいた。いつでも食ってやるぞと言わんばかりの目つきをしている黒いカラスと違って、もしかして、白いハトに好感を持っているんではないかと思えた。また、猫の友達がいるということからすれば、この風来坊には、不思議な友好能力があるように思えた。ミーも猫や犬と友達になりたいと思ったことがあったが、なぜか、話し合う前に襲われるのだった。この際、風来坊にいろんなことを質問することにした。

 

「さっき、猫のお友達がいるといわれたけど、びっくりしちゃった。どうやって、お友達になったの?」風来坊は、二羽の白いハトがなんとなくかわいく思えてきた。ほとんどのハトは、怖気づいてさっさと逃げていくのが落ちだった。やはり、共通する白が、白いハトの気持を変えていると思えた。風来坊は、子供のころから白い自分にコンプレックスを持っていたが、それは、黒を常識とするカラスの世界のことであって、世間一般では、白は好感を持たれる色であることを、今、身にしみて分かった。風来坊は、なんとなく、愉快になってきた。

「ああ、上品な猫ややんちゃな犬の友達がいる。俺は、ほかの黒いカラスと違って、好かれるみたいだ。きっと、俺が白いからだろう。それと、俺は、おしゃべりが好きなんだ。思うんだが、動物は、お互い仲良くすべきだと思う。むやみやたらと殺しあうのは、愚の骨頂じゃないかな。人間の殺し合いを見ていると、つくづくそう思うんだ。人間は、カラスと同じぐらい賢いと思うんだが、心根がどうもよろしくない。殺し合いを娯楽にしちゃいかんよ」

 

ミーとケイは、何度もうなずきながら風来坊の話に耳を傾けていた。気の弱いケイは、小さな声で風来坊に話しかけた。「風来坊さんは、すごく賢いんですね。ハトは、難しいことは分からないけど、風来坊さんは、頭がいいだけでなく、とっても優しい方だと思います。ぜひ、この機会に、私たちとお友達になってください」風来坊は、大きくうなずき、返事した。「いいとも、今度、糸島に遊びに来るといい。猫のピース、犬のスパイダー、子供の亜紀ちゃんを紹介するから」

 

最も怖いと思っていた犬ともお友達と聞いたケイは、小さな目をパチクリさせて尋ねた。「あの、よだれをたらして追いかけてくる野蛮な犬とお友達なの。風来坊さんって、人間みたいだわ。ハトには、そんな勇気はないわ。ハトって、とっても臆病なのよ。ツメを立てて襲い掛かってくる猫やワンワン吠えて追いかけてくる犬とお友達になるなんて、奇跡みたいだわ。今度、遊びに行こうかしら、ね、ミー」ミーも笑顔でうなずいた。「ワクワクするわね。どんなお友達かしら」

春日信彦
作家:春日信彦
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